終わった‥

雪はがっくりと項垂れていた。それもそのはず。
先程皆のアイドル青田先輩に、公衆の面前でとんでもないことを言ってのけたのである。
「ていうか常識ってもんがあるならさぁ、自分の行動を省みてからそれ尋ねましょうよ!
火を見るより明らかってくらいマ・ジ・で怖いから!
もうお互い気にするの止めて、別々の道を行きましょう!」

終わった‥私の大学生活はもう完全にオワタ‥

完全orz状態の雪のことを皆が振り返りつつ通り過ぎて行く中で、「どうした?」と誰かが声を掛けて来た。
雪は血のマスカラの涙を流しながら、それに力無く答える。
「なんでそんなにないてんだよ、ダメージ」
「だって‥これから私うちの学科公認の要注意人物に‥皆の青田先輩に対して‥」

しかし彼は雪に声を掛けているわけではなかった。
スーツ姿のその男は、子犬を撫でながら嬉しそうに笑っている。
「笑え、笑うんだよ。コイツ毛がモフモフしてやがる。可愛い奴め〜」

犬の飼い主が「なに人の犬勝手に撫でてんのよ」と半ばキレているが、その男は犬と戯れ遊んでいた。
繰り返される”ダメージ”に、雪は怒りのあまりプルプルと震える。
「ははは!ダメージ!」

「じゃあな!ダメージヘア〜!」

去り際、犬の飼い主が振り返って雪に言う。
「何見てんのよ?」

雪をドキリとさせたその女は明らかに静香なのだが、彼女はこの世界では少し違う立ち位置のようだ。
去って行く犬に向かって、男は手を振り声を掛ける。
「達者でな〜!幸せに暮すんだぞ!」

「分かったな?」

タキシードを着てボウタイを締めた河村亮が、そこに立っていた。
現実世界では見ることが叶わなかったその姿を目にして、雪の記憶の芯が震える。


亮は雪の方を見て微笑むと、そのまま何も言わずに去って行った。

そして目の前から、さらりと消える。


まるでどこかに穴が開いてしまったかのような寂しさが胸を過ぎり、その後に違和感が残った。
その場に一人取り残された雪の髪を、春風がさらって行く。

「‥‥‥‥」

雪は下を向きながら、残った違和感を確かめるように心の中で声を出した。
誰だっけあの人‥あ‥河村氏?
そういえば河村氏、元気にしてるかな‥

私は彼のことを知っている。
「ダメージ!」

ううん、やっぱり知らない。
「お前オレのこと知ってんの?」

頭の中に両極の記憶が混在していた。
それは彼においても言えることだ。
「雪ちゃん!」

「何が危険なの?」

私は彼らを、知っているのか、知らないのか。
数々の場面が脳裏に現れては途切れ、消えたかと思えばまた再生される。

雪はぼんやりとした眼差しで、花弁が舞う春の風に吹かれ続けていた。
何だろ‥今日は‥

変なの。記憶がゴチャゴチャ‥

あ

春の霞が雪をさらう。
無数の花弁が重なるかのように、目の前が白くぼやけて行く。
今日は本当におかしな日だ‥


ゆっくりと、まるでスローモーションのように景色が消えて行く。
すると記憶が途切れる最後の瞬間に、手首に温かな体温を感じた。

目を閉じると、まるで世界が暗転するかのような暗闇が訪れた。
けれど不思議と怖くはない。
何かに包み込まれるような温かさの中で、徐々に意識が覚醒して行くー‥。


パチッと目を開けた時、雪はどこかに横たわっていた。
目の前には大学内の風景が広がっている。

頬は冷たいけれど、手の平は温かだった。
なぜかというと誰かの大きな手の上に、自身の手を重ねていたから‥。


ベンチに横たわる雪の隣に、青田淳が座っていた。
理解不能な状態のまま身体を起こした雪に向かって、彼は口を開く。
「目が覚めた?ちょっと話があるんだけど」

淳は飄々とそう切り出したが、雪にとっては青天の霹靂である。
我に返った雪はベンチから転がり落ちると、白目を剥いて取り乱した。
「ちょっ‥アナタ!冗談じゃなくマジで恐ろしいっつーの!
ていうかどうして私はここに?!ていうかこれ現実?!」

はっ!

そして雪は思い至った。
この人、実は存在していないんじゃないかと‥
「いやいやその前にこの人実在してる?!幽霊なんじゃないの?!」
「俺、今まで君に対して酷いことしてたなと思って」

淳はバリアを繰り出す雪に全く怯まず、素直にこう告げる。
「これからは気をつけるよ」

「えっ?」
「仲良くしよ」

淳はそう言うと、ベンチから下りて雪と同じ目線にしゃがみ込んだ。
「俺本当に、君に良くしてあげたいと思ってるんだ」

「ね?」

淳はそう言ってニッと笑った。
突如語られた彼の胸の内を耳にして、雪は開いた口が塞がらない。
咄嗟とはいえ、ようやく彼とは別々の道を歩むことを決意していたのにー‥。

雪は彼に疑いの眼差しを向けつつ、こう尋ねるのがせいぜいだ。
「あ‥頭イッちゃってます?」
「イッちゃってないね。素直になりたくてさ」

淳は「君も良く考えてみてよ」と前置きしてから、雪にこう問うた。
「俺って本当に怖いってだけ?」



目を丸くする雪を見て、淳は微かにふっと笑う。
へたりこんだままの雪を置いて、淳は去り際にこう言い残した。
「嫌なら断ってくれていいから」

示された選択の余地が、雪の記憶の断片を掠める。

その背中が見えなくなるまで、雪はじっとその場から動けなかった。
彼の口から語られたその言葉が、雪の記憶と感情をゆらゆらと揺らすー‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>If(4)ー終わりと始まりー でした。
今回も色々盛り沢山ですね〜。ちょっと気になった所箇条書きにしてみます
なぜか突然亮さんタキシード(&M字)‥。静香も犬飼ってる‥。
犬に向かって「笑え、笑うんだよ」と言っている亮さんに胸アツ。
亮さんが一番大切にしてたのは雪の笑顔でしたもんね‥
倒れた雪の手と淳の手が重なってるのは、手のエピの象徴ですね〜。ていうかまたこのベンチかいな!
淳に対しての「幽霊?!」は度々出てきますよね。神出鬼没淳‥。
「これからは気を付けろよ」が「これからは気を付けるよ」になっているとこがニクイ!
そしていつしか雪の鞄は消えた‥笑
次回、この仮想世界も最後になります。
<雪>If(5)ー回帰ー です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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雪はがっくりと項垂れていた。それもそのはず。
先程皆のアイドル青田先輩に、公衆の面前でとんでもないことを言ってのけたのである。
「ていうか常識ってもんがあるならさぁ、自分の行動を省みてからそれ尋ねましょうよ!
火を見るより明らかってくらいマ・ジ・で怖いから!
もうお互い気にするの止めて、別々の道を行きましょう!」

終わった‥私の大学生活はもう完全にオワタ‥

完全orz状態の雪のことを皆が振り返りつつ通り過ぎて行く中で、「どうした?」と誰かが声を掛けて来た。
雪は
「なんでそんなにないてんだよ、ダメージ」
「だって‥これから私うちの学科公認の要注意人物に‥皆の青田先輩に対して‥」

しかし彼は雪に声を掛けているわけではなかった。
スーツ姿のその男は、子犬を撫でながら嬉しそうに笑っている。
「笑え、笑うんだよ。コイツ毛がモフモフしてやがる。可愛い奴め〜」

犬の飼い主が「なに人の犬勝手に撫でてんのよ」と半ばキレているが、その男は犬と戯れ遊んでいた。
繰り返される”ダメージ”に、雪は怒りのあまりプルプルと震える。
「ははは!ダメージ!」

「じゃあな!ダメージヘア〜!」

去り際、犬の飼い主が振り返って雪に言う。
「何見てんのよ?」

雪をドキリとさせたその女は明らかに静香なのだが、彼女はこの世界では少し違う立ち位置のようだ。
去って行く犬に向かって、男は手を振り声を掛ける。
「達者でな〜!幸せに暮すんだぞ!」

「分かったな?」

タキシードを着てボウタイを締めた河村亮が、そこに立っていた。
現実世界では見ることが叶わなかったその姿を目にして、雪の記憶の芯が震える。


亮は雪の方を見て微笑むと、そのまま何も言わずに去って行った。

そして目の前から、さらりと消える。


まるでどこかに穴が開いてしまったかのような寂しさが胸を過ぎり、その後に違和感が残った。
その場に一人取り残された雪の髪を、春風がさらって行く。

「‥‥‥‥」

雪は下を向きながら、残った違和感を確かめるように心の中で声を出した。
誰だっけあの人‥あ‥河村氏?
そういえば河村氏、元気にしてるかな‥

私は彼のことを知っている。
「ダメージ!」

ううん、やっぱり知らない。
「お前オレのこと知ってんの?」

頭の中に両極の記憶が混在していた。
それは彼においても言えることだ。
「雪ちゃん!」

「何が危険なの?」

私は彼らを、知っているのか、知らないのか。
数々の場面が脳裏に現れては途切れ、消えたかと思えばまた再生される。

雪はぼんやりとした眼差しで、花弁が舞う春の風に吹かれ続けていた。
何だろ‥今日は‥

変なの。記憶がゴチャゴチャ‥

あ

春の霞が雪をさらう。
無数の花弁が重なるかのように、目の前が白くぼやけて行く。
今日は本当におかしな日だ‥


ゆっくりと、まるでスローモーションのように景色が消えて行く。
すると記憶が途切れる最後の瞬間に、手首に温かな体温を感じた。

目を閉じると、まるで世界が暗転するかのような暗闇が訪れた。
けれど不思議と怖くはない。
何かに包み込まれるような温かさの中で、徐々に意識が覚醒して行くー‥。


パチッと目を開けた時、雪はどこかに横たわっていた。
目の前には大学内の風景が広がっている。

頬は冷たいけれど、手の平は温かだった。
なぜかというと誰かの大きな手の上に、自身の手を重ねていたから‥。


ベンチに横たわる雪の隣に、青田淳が座っていた。
理解不能な状態のまま身体を起こした雪に向かって、彼は口を開く。
「目が覚めた?ちょっと話があるんだけど」

淳は飄々とそう切り出したが、雪にとっては青天の霹靂である。
我に返った雪はベンチから転がり落ちると、白目を剥いて取り乱した。
「ちょっ‥アナタ!冗談じゃなくマジで恐ろしいっつーの!
ていうかどうして私はここに?!ていうかこれ現実?!」

はっ!

そして雪は思い至った。
この人、実は存在していないんじゃないかと‥

「いやいやその前にこの人実在してる?!幽霊なんじゃないの?!」
「俺、今まで君に対して酷いことしてたなと思って」

淳はバリアを繰り出す雪に全く怯まず、素直にこう告げる。
「これからは気をつけるよ」

「えっ?」
「仲良くしよ」

淳はそう言うと、ベンチから下りて雪と同じ目線にしゃがみ込んだ。
「俺本当に、君に良くしてあげたいと思ってるんだ」

「ね?」

淳はそう言ってニッと笑った。
突如語られた彼の胸の内を耳にして、雪は開いた口が塞がらない。
咄嗟とはいえ、ようやく彼とは別々の道を歩むことを決意していたのにー‥。

雪は彼に疑いの眼差しを向けつつ、こう尋ねるのがせいぜいだ。
「あ‥頭イッちゃってます?」
「イッちゃってないね。素直になりたくてさ」

淳は「君も良く考えてみてよ」と前置きしてから、雪にこう問うた。
「俺って本当に怖いってだけ?」



目を丸くする雪を見て、淳は微かにふっと笑う。
へたりこんだままの雪を置いて、淳は去り際にこう言い残した。
「嫌なら断ってくれていいから」

示された選択の余地が、雪の記憶の断片を掠める。

その背中が見えなくなるまで、雪はじっとその場から動けなかった。
彼の口から語られたその言葉が、雪の記憶と感情をゆらゆらと揺らすー‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>If(4)ー終わりと始まりー でした。
今回も色々盛り沢山ですね〜。ちょっと気になった所箇条書きにしてみます



亮さんが一番大切にしてたのは雪の笑顔でしたもんね‥





次回、この仮想世界も最後になります。
<雪>If(5)ー回帰ー です。
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