「まだ受け取ってない人は取りに来て」

級長の淳がそう言ってプリントを手渡すのを、亮は頬杖を付きながら自席でじっと眺めていた。
胸中はモヤモヤと煙る。
全部いつも通りだ‥。オレと静香に対して以外は

淳はクラスメートと普通に談笑していた。
先日淳から言われたあの言葉も、あの凄まじい怒りも、まるで嘘であったかのように。

それでも自分と淳との間に軋轢が出来てしまったことは、紛れも無い事実だった。
その証拠に、彼は一度たりとも亮と目を合わせては来ない。

亮は今の状況を引き起こした原因と言える出来事に思いを馳せていた。
あの時自分が口にしたあの言葉は、間違いなく過ちだったー‥。

ピアノコンクールが終わり、受賞祝いの花束を抱えた亮は、気が大きくなっていた。
そんな折に投げ掛けられたその質問が、運命の歯車を狂わせることになるとは、まるで想像出来なかったのだ。
「Z社の会長さん、河村君を見に来たんでしょ?」「当然!さっき見ただろ?」
「本当?あの会長さん、すごく河村君を可愛がってるように見えたけど‥
どういった縁でそうなったの?」

話し掛けて来た他校の学生は、亮と青田会長がどんな関係なのかを聞きたがった。
ただの知り合いには見えないただならぬものを、彼を始め皆が感じ取っていたのである。
「単にお祖父さんの知り合いって感じには見えなかったよ。本当に不思議でさ」

その時亮の心の中に、むくむくととある感情が膨らんだ。
有名人と特別な仲であるという優越感や、光を浴びる自身への驕りが生んだ、虚栄心が。
「それは‥」

そして運命の歯車は、音を立てて回り出す。
「ははは!見りゃ分かんだろ!親父みてぇなもんなんだって。
もしかしたら実の息子より可愛がられてるかもしんねーな!なーんて冗談冗談ww」

亮は今自身が口にした”親父”という言葉に、どこか温かい響きと、反対に皮肉の意味合いを感じた。
とうに両親を失くした自分が今更父親を得たような口ぶりは、亮の心に微かな陰を落とす。
亮はどこか淋しげな表情で、その単語をもう一度口に出した。
「親父‥みてぇな‥」


亮のその表情とその言葉は、その男子学生にどこか違和感を残す結果になった。
そして彼の憶測がいつしかおかしな噂となって、嵐のように吹き荒れることになる。
有名人を相手に、バカな過ちだった。
その言葉が誤って広まって行った過程自体は、オレは知らない。
そんなことはどうでもいい。

重要なのは、「河村亮と青田淳は腹違いの兄弟」という
とんでもない噂が学校全体に広まったことと、

その噂が、淳に相当な衝撃を与えたってことだ。

その噂を耳にした時の淳は、恐ろしい程憤っていた。
「欺瞞という言葉を知ってるか」と問われたあの時、二人の間にあったその全てが、

壊れた。

とんでもない噂は学校全体を巻き込んで嵐のように吹き荒れ、
飛び交う憶測が、変な方向へどんどん肥大して行った。
状況はもはや収拾不可能かと思われたが、とある人物の鶴の一声で、事態は終息へと向かう。
結局会長が丸く収めてくれたおかげで、噂はデマということで落ち着いたけど

なんと会長が直々に学校まで出向いて、事実関係を教師達に説明したのだ。
「流れているという噂は、ご存知の通り全て根も葉もない嘘ですので。
静香と亮に被害が及ばぬよう、きっちりと取り締まって頂くようお願いします」

担任も校長も、突然現れたその大物人物に目を剥いていたが、
青田会長は柔和な態度で、至極寛容に事態を収めた。
「子供達というのは気短で想像力も長けていますからね、
話が捻じ曲がって伝わってしまったんでしょう」

にこやかに、柔らかに、その残酷な真実をつまびらかにする。
「無論亮は、私の子供ではありません」

確かにな‥

会長が口にしたその真実は、亮の心にどこか暗い陰を落とした。
そして”河村亮は青田会長の息子ではない”というその事実は、再び変な方向へと枝葉を伸ばして行く。
失言一つの対価はあまりにも大きい。
援助されているという事実が明らかになった途端、手の平を返すようなあの態度、

見下すようなあの目付き、

あの眼差し‥

幼い頃嫌というほど目にして来たあの眼差しを、亮は今再び皆から向けられていた。
そしてそれは亮と同じく、静香にも向けられることとなる。
関係の無い静香まで巻き込んでしまったことに亮の良心は痛んだが、それでも少しの救いがあった。
不幸中の幸いは‥静香はあの性格だから大していじめらんなくて済むってこと‥。
まぁ‥淳に無視されんのがキツイみてーだけど‥

そんで‥

頬杖を付きながら、亮はクラスメートと談笑する彼の方を見た。
淳‥

事態は収拾したが、未だ問題は間違いなく残っている。
事件はちょっとしたハプニングとして幕を閉じたけど、

あの出来事は、凄まじい程淳の怒りに触れた。

あの時、ヒソヒソと「青田の親父の‥隠し子‥」とどこからともなく聞こえていた。
淳は押し黙って皆にその怒りを向けることはしなかったが、亮に対してはその憤りを剥き出しにしたのだ。
あんな淳を、亮はかつて一度も目にしたことが無かった。
「本当に俺があの噂一つで怒ってると思ってるのか。
お前は自分の過ちに何一つ気付いていない」

”何一つ気付いていない”
淳のその言葉は、確かに事実だった。
その証拠に亮は、自分が何をどうすべきかが一向に分からないのだ。
このままじゃいつまでたっても許してもらえねぇかもしんねぇ‥

けどよ‥!

自身が犯したというその見えない過ちが、自身を縛り付ける。
亮は拳を握り締めながら、前にも後ろにも進めない今の状況に苛立った。
アイツ‥オレが何度謝ったと思ってんだ?これ以上何して欲しいんだよ?
どうしてあんな態度‥一体何考えてんだよ?!

苛立ちはいつしか怒りに変わり、亮は淳の行動の真意にその意識を向ける。
「まさかそれ、本当なの?」「調べてみなよ」


その淳の言葉は、かつて西条和夫に対して言った言葉と同じ様な匂いがした。
その結末を見越した上で発せられる、毒の入ったその言葉‥。
マジで‥

沸々と湧き出る感情が、亮の拳を固く握らせる。
マジでオレに復讐するためにアイツにんなこと言ったってのか‥?!
身分をわきまえろってことか?じゃなきゃ、庇う義理さえ残ってないってのか?!

そして握り締めたその拳が、淳への怒りで強く震えていた。
しかしその怒りの行き場はなく、亮はその感情をただ持て余すしかない。
それでも‥頼むから教えてくれよ‥。
それに静香に何一つ落ち度はねぇ。アイツには良くしてやってくれたら‥

顔を上げた先に、淳が居た。
こちらの方をチラとも見ず、ただ背を向けて去って行く。

ダメかよ‥

いくら待っても、級長が亮の元にプリントを持ってくることは無かった。
亮は机に突っ伏したまま、未だ吹き荒れる嵐の中でただじっと目を瞑っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(27)ー嵐ー でした。
亮が犯した”過ち”が、遂に明らかになりました。
しかし「親父みたいな」の言葉を聞いたのは他校(D高)の生徒なのに、よくこんなにB高内で広まりましたよね‥。
しかも亮と淳が腹違いの兄弟て‥裏目が外国人の女性の愛人を作ったってことになり、
正妻と愛人が同い年の子供生むってことになりますよね‥(しかも静香も居るから愛人年子ペースで出産)
う~ん‥噂って怖い‥(白目)
さて次回は<亮と静香>高校時代(28)ー自信とプライドー です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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級長の淳がそう言ってプリントを手渡すのを、亮は頬杖を付きながら自席でじっと眺めていた。
胸中はモヤモヤと煙る。
全部いつも通りだ‥。オレと静香に対して以外は

淳はクラスメートと普通に談笑していた。
先日淳から言われたあの言葉も、あの凄まじい怒りも、まるで嘘であったかのように。


それでも自分と淳との間に軋轢が出来てしまったことは、紛れも無い事実だった。
その証拠に、彼は一度たりとも亮と目を合わせては来ない。

亮は今の状況を引き起こした原因と言える出来事に思いを馳せていた。
あの時自分が口にしたあの言葉は、間違いなく過ちだったー‥。

ピアノコンクールが終わり、受賞祝いの花束を抱えた亮は、気が大きくなっていた。
そんな折に投げ掛けられたその質問が、運命の歯車を狂わせることになるとは、まるで想像出来なかったのだ。
「Z社の会長さん、河村君を見に来たんでしょ?」「当然!さっき見ただろ?」
「本当?あの会長さん、すごく河村君を可愛がってるように見えたけど‥
どういった縁でそうなったの?」

話し掛けて来た他校の学生は、亮と青田会長がどんな関係なのかを聞きたがった。
ただの知り合いには見えないただならぬものを、彼を始め皆が感じ取っていたのである。
「単にお祖父さんの知り合いって感じには見えなかったよ。本当に不思議でさ」

その時亮の心の中に、むくむくととある感情が膨らんだ。
有名人と特別な仲であるという優越感や、光を浴びる自身への驕りが生んだ、虚栄心が。
「それは‥」

そして運命の歯車は、音を立てて回り出す。
「ははは!見りゃ分かんだろ!親父みてぇなもんなんだって。
もしかしたら実の息子より可愛がられてるかもしんねーな!なーんて冗談冗談ww」

亮は今自身が口にした”親父”という言葉に、どこか温かい響きと、反対に皮肉の意味合いを感じた。
とうに両親を失くした自分が今更父親を得たような口ぶりは、亮の心に微かな陰を落とす。
亮はどこか淋しげな表情で、その単語をもう一度口に出した。
「親父‥みてぇな‥」


亮のその表情とその言葉は、その男子学生にどこか違和感を残す結果になった。
そして彼の憶測がいつしかおかしな噂となって、嵐のように吹き荒れることになる。
有名人を相手に、バカな過ちだった。
その言葉が誤って広まって行った過程自体は、オレは知らない。
そんなことはどうでもいい。

重要なのは、「河村亮と青田淳は腹違いの兄弟」という
とんでもない噂が学校全体に広まったことと、

その噂が、淳に相当な衝撃を与えたってことだ。

その噂を耳にした時の淳は、恐ろしい程憤っていた。
「欺瞞という言葉を知ってるか」と問われたあの時、二人の間にあったその全てが、

壊れた。

とんでもない噂は学校全体を巻き込んで嵐のように吹き荒れ、
飛び交う憶測が、変な方向へどんどん肥大して行った。
状況はもはや収拾不可能かと思われたが、とある人物の鶴の一声で、事態は終息へと向かう。
結局会長が丸く収めてくれたおかげで、噂はデマということで落ち着いたけど

なんと会長が直々に学校まで出向いて、事実関係を教師達に説明したのだ。
「流れているという噂は、ご存知の通り全て根も葉もない嘘ですので。
静香と亮に被害が及ばぬよう、きっちりと取り締まって頂くようお願いします」

担任も校長も、突然現れたその大物人物に目を剥いていたが、
青田会長は柔和な態度で、至極寛容に事態を収めた。
「子供達というのは気短で想像力も長けていますからね、
話が捻じ曲がって伝わってしまったんでしょう」

にこやかに、柔らかに、その残酷な真実をつまびらかにする。
「無論亮は、私の子供ではありません」

確かにな‥

会長が口にしたその真実は、亮の心にどこか暗い陰を落とした。
そして”河村亮は青田会長の息子ではない”というその事実は、再び変な方向へと枝葉を伸ばして行く。
失言一つの対価はあまりにも大きい。
援助されているという事実が明らかになった途端、手の平を返すようなあの態度、

見下すようなあの目付き、

あの眼差し‥

幼い頃嫌というほど目にして来たあの眼差しを、亮は今再び皆から向けられていた。
そしてそれは亮と同じく、静香にも向けられることとなる。
関係の無い静香まで巻き込んでしまったことに亮の良心は痛んだが、それでも少しの救いがあった。
不幸中の幸いは‥静香はあの性格だから大していじめらんなくて済むってこと‥。
まぁ‥淳に無視されんのがキツイみてーだけど‥

そんで‥

頬杖を付きながら、亮はクラスメートと談笑する彼の方を見た。
淳‥

事態は収拾したが、未だ問題は間違いなく残っている。
事件はちょっとしたハプニングとして幕を閉じたけど、

あの出来事は、凄まじい程淳の怒りに触れた。

あの時、ヒソヒソと「青田の親父の‥隠し子‥」とどこからともなく聞こえていた。
淳は押し黙って皆にその怒りを向けることはしなかったが、亮に対してはその憤りを剥き出しにしたのだ。
あんな淳を、亮はかつて一度も目にしたことが無かった。
「本当に俺があの噂一つで怒ってると思ってるのか。
お前は自分の過ちに何一つ気付いていない」

”何一つ気付いていない”
淳のその言葉は、確かに事実だった。
その証拠に亮は、自分が何をどうすべきかが一向に分からないのだ。
このままじゃいつまでたっても許してもらえねぇかもしんねぇ‥

けどよ‥!

自身が犯したというその見えない過ちが、自身を縛り付ける。
亮は拳を握り締めながら、前にも後ろにも進めない今の状況に苛立った。
アイツ‥オレが何度謝ったと思ってんだ?これ以上何して欲しいんだよ?
どうしてあんな態度‥一体何考えてんだよ?!

苛立ちはいつしか怒りに変わり、亮は淳の行動の真意にその意識を向ける。
「まさかそれ、本当なの?」「調べてみなよ」


その淳の言葉は、かつて西条和夫に対して言った言葉と同じ様な匂いがした。
その結末を見越した上で発せられる、毒の入ったその言葉‥。
マジで‥

沸々と湧き出る感情が、亮の拳を固く握らせる。
マジでオレに復讐するためにアイツにんなこと言ったってのか‥?!
身分をわきまえろってことか?じゃなきゃ、庇う義理さえ残ってないってのか?!

そして握り締めたその拳が、淳への怒りで強く震えていた。
しかしその怒りの行き場はなく、亮はその感情をただ持て余すしかない。
それでも‥頼むから教えてくれよ‥。
それに静香に何一つ落ち度はねぇ。アイツには良くしてやってくれたら‥

顔を上げた先に、淳が居た。
こちらの方をチラとも見ず、ただ背を向けて去って行く。

ダメかよ‥

いくら待っても、級長が亮の元にプリントを持ってくることは無かった。
亮は机に突っ伏したまま、未だ吹き荒れる嵐の中でただじっと目を瞑っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(27)ー嵐ー でした。
亮が犯した”過ち”が、遂に明らかになりました。
しかし「親父みたいな」の言葉を聞いたのは他校(D高)の生徒なのに、よくこんなにB高内で広まりましたよね‥。
しかも亮と淳が腹違いの兄弟て‥裏目が外国人の女性の愛人を作ったってことになり、
正妻と愛人が同い年の子供生むってことになりますよね‥(しかも静香も居るから愛人年子ペースで出産)
う~ん‥噂って怖い‥(白目)
さて次回は<亮と静香>高校時代(28)ー自信とプライドー です。
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