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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

一人暮らしと幼馴染み

2013-07-18 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
まだ段ボールの片付かない混沌とした部屋の中で、雪は母親と電話していた。

「部屋の片付け?そんなのとっくに終わってるよ~」



「掃除もしたし、ゴミの分別だって完璧だから!」



口から出る言葉と反比例したこの部屋を見回しながら、雪は冷や汗をかいていた。

おまけに母親がテレビ電話で本当かどうかを知りたがったので、ますます雪は声を大にして嘘をついた。

「いやいや本当にちゃんとやったってば!!」



すると、隣の部屋の人が壁をガンガンと叩いてきた。雪の心臓は跳ね跳びそうになる。



ここは安アパートなので壁も薄く声が響くらしく、少しでも大きな声を出すと隣人は壁を叩いてくるのだ。

雪は電話を切ると、天を仰いで溜息を吐いた。



思い描いていた一人暮らしとどこか違っている。

あれほど大きな決意で臨んだ休学も出来なかったし、

あの男は急に態度を変えるし‥。



雪の脳内で、ヘラヘラと自分に声を掛けてくる青田淳の姿が思い浮かんだ。

もうわけが分からない‥。

考えようにも理解が出来なすぎるまま、夜は更けて行った。



翌朝、雪は大あくびをしながら部屋を出た。



今日取る予定の授業は知り合いも居ないし、様子を見てオンデマンドに切り替えようか‥と考えていると、

突然隣のドアが開き、隣人が出てきた。

「ちょっとアンタ!大家さんに浪人生が隣りに住んでるって言われなかった?」



「常識ってもんを知らないのかしら?電話の声も丸聞こえだっつーの!」

初めて見る隣人は雪の姿を見るや否や、その不満をつらつら並べ始めた。

言うだけ言うと、今度から気をつけるようにと最後に言い残して、バンッとドアを閉めて隣人は部屋へ帰っていった。



雪は呆気にとられた。

オネェ言葉といい、その爪にされたマニキュアといい、あらゆる面で衝撃的な隣人だった‥。

ぽかんと口を開けたままでいると、ふいに携帯が鳴った。



もうすぐ授業終わるんだけど、時間大丈夫? 小西恵

幼馴染みの恵からのメールだった。

雪はとりあえず大学へ向かった。




「よぉ~!赤山!ここで何してんだ?」



恵を待っていると、健太先輩から声を掛けられた。

「知り合いを待ってるところです。小さい頃からの幼馴染みで、今年うちの美術科に入学して来たんですよ」



健太先輩が「それは女か?可愛いのか?」と食いついて来た。雪が苦笑いをしていると、向こうから恵がやって来た。

「おーい!雪ねぇ!!」



久しぶりの再会に、雪と恵はキャアキャアと手を取り合って喜んだ。



雪にとって恵は、昔からご近所に住む幼馴染みだが、可愛い妹のような大事な存在だった。

また恵も、一人っ子の彼女にとって雪は頼りになる姉のような存在だった。

小さい頃は雪をめぐって恵と雪の弟の蓮がよく喧嘩をしたものだった‥。


盛り上がる二人に、健太先輩が声を掛けてきた。まだ居たんかい



雪は健太先輩をうちの学科の先輩だと恵に紹介すると、恵は丁寧な笑顔を浮かべて自己紹介した。

健太先輩が二の句を継げないでいると、恵は今からミーティングだったと慌て出した。



恵は笑顔で別れの挨拶を雪と健太先輩にすると、その小さな身体で一生懸命走って行った。

雪も笑顔で見送った後、隣で健太先輩が微動だにしてないことに気がついた。



やばい、逃げようと思ったが遅かった。

「赤山っ!」



健太先輩はお前とあの子本当に仲良いんだよなと猛烈な勢いで詰め寄って来た。

「それなら俺に紹介してくれ!」



健太先輩がそう言い終わらない内に、雪は「あの子彼氏居ますよ」と咄嗟の嘘を吐いていた。

しかし健太先輩には全く効かなかった。

「そうなのか?でも大学に入ったんだし気が変わるかも!」



それは無いと思うと言う雪に、とりあえず一回聞いてみてくれよと健太先輩は強い眼力で言った。

雪はそれでもなんとか流そうとしてみたが、健太先輩の必死の頼みに根負けし、ついにしぶしぶ了承した。

「‥聞いてみるだけですからね?期待しないで下さいね」



そんな弱々しい言葉にも、健太先輩は絶大な期待を寄せた。

雪は困ったことになったと教室へ走りながら思った。



あの人相当しつこいのに!何されるか分からない‥彼氏の件が嘘だとバレたらなおさらだ!

恵にあんな人を紹介するなんてありえない。

雪の脳裏には幼い頃の恵の姿が思い浮かんだ。



パジャマ姿で追い出された幼少の時、雪の母に恵は必死に許してくれるように懇願してくれた。



給食代を無くして1ヶ月昼飯抜きだった高校時代、恵は中学生だったのに雪の為にお弁当を作ってくれた。



その他もろもろ、雨が降ったら傘を持ってきてくれた、手作りのクッキーを差し入れしてくれた‥。

脳裏に浮かぶ数々の思い出のBGMに、賛美歌が流れ続けた。


小さい頃から傍に居た。

思い出せばキリがない程、恵はいつも雪を助けてくれた。



あの天使のような恵を、あの健太先輩に紹介するなんて‥。




ダメ!絶対!



同じ大学といえど、幸い恵は美術科。

経営学科とは校舎も離れているし、どうにか避けて行動すれば問題ないだろう‥。


不安な気持ちを納得させるかのように、雪は自分にそう言い聞かせた。

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<一人暮らしと幼馴染み>でした!

恵ちゃんがようやくちゃんと出て来ましたね。

小さい頃から無償のような愛情をくれた恵ちゃんは、雪にとっては特別可愛い存在なんでしょうね。

そんな恵ちゃんのBGMは、賛美歌です。

(Libera - Sanctus)



分かる限り、本編に出てくる音楽を紹介したいと思っています。

まぁ一番の衝撃はやはり「テンボル」でしょうけどね!(しつこい)

次回は<一緒の授業>です!

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彼の変化

2013-07-17 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
雪は整理できない頭を抱えて疲れたので、家に着くと布団に倒れこんだ。



そのままウトウトしかけた雪だが、その頬に足が押し付けられた。



そう、ここは雪の家ではなく聡美の家なのだ。



この春から一人暮らしを始めた雪は、まだ荷物整理が終わっていなくて、ついつい居心地の良いここに居ることが多かった。

聡美は文句を言いながらも、雪に晩御飯食べる?と気遣いの言葉を掛けた。

「ご心配なく~。タダ飯食べてきたもんね~」



人んちの布団に寝転びながらそう言った雪に、聡美はまた太一にセビッたのかと呆れ顔をした。

そんなことしないもんと言う雪に、聡美はじゃあ誰に奢ってもらったのと追及してきた。



「あんたもしかして‥!ついに男出来たな?!」



そう言って目を輝かせる聡美に、雪はため息混じりに否定した。

それでもまだ聡美が追及してくるので、雪は青田先輩に奢ってもらったと白状した。

「ええ?!青田先輩が~~??」



そんなに仲良かったっけ?と目を丸くした聡美に、雪はそんなわけないじゃんと返した。

「なのに奢ってくれたの?あの先輩が特定の人にご飯奢るとか聞いたことないけど」



その理由が分かれば苦労はしない。雪は溜息を吐いた。

「私もよく分かんない。なんか変な気分だよ」

聡美は目を丸くしながらも、とある結論を導き出した。



「ってことは‥」

「あんたに気があるんだって」



大学に着いてからも、聡美は何度も雪にそう言った。

雪も何度も否定したが、浮き足立った聡美はくすくすと笑うばかりであった。

しかし太一は、そんな聡美の意見には懐疑的であった。

「青田先輩、頭でもぶつけたんすかね?校内一の美人とか芸能人とかならまだしも、雪さんを?」



悪気なく言う太一に、雪はげんこつを固めながら青筋を立てた。

そんな太一の意見に聡美は、雪も意外とあなどれないわよと彼女を弄り始めた。



コンシーラーで誤魔化しているがそばかすだってなかなか魅力的だし、目元もキリッとしてるしねと言われながら、雪はされるがままだった。

そんな雪を見て同じ学科の学生らが笑う。



しかし彼らは、次の瞬間珍しいものを目にすることになる。

「雪ちゃん」



「おはよ」



雪は勿論、聡美と太一も目を丸くした。

「お‥はようございます‥」



青田先輩はそんな雪を見て微笑むと、学友のいる席まで歩いて行った。



次の瞬間、ものすごい勢いで聡美と太一はコソコソと雪に耳打ちをし始めた。

「ええ~?!何今の?!」「ね!何が起きたんですかね?!」



二人は異常事態に対して見解を述べたが、その結論は聡美の意見に帰結した。

「雪!やっぱりそうだって!ご飯は奢ってくるわ挨拶はしてくるわ、絶対気があるんだってば!」

「しかもさっき雪さんを見て愛しそうに笑ってましたよ。青田先輩がイッちゃってる間にモノにするんですよ、今がチャンス!」



面白がる二人の間で雪は困惑した。



ついに雪にも春が来たと、太一と聡美は親目線での感慨深さを見せた‥。





それにしてもご飯の次はあからさまに挨拶まで‥。


今まで彼に挨拶しても、そっけない素振りをされるか無視されるかのどちらかだったのに、

これは一体どういうことなのか。

雪は前方の席に座る彼の後ろ姿をじっとりと睨んだ。



すると、



彼はゆっくりと振り向いた。スローモーションのように。

そして雪を見て、ふっと笑った。




雪は思わず目を逸らした。



否が応にも思い出してしまう記憶があった。

あの時もこうやって、振り返られて嗤われた‥。



雪は乾いたかさぶたがまた剥がれてしまうような感覚を覚えた。

違うことを考えなければ。また囚われていれば、去年の二の舞になってしまう。



雪は彼を出来るだけ避けることに決めた。



授業が終わり、三人は新しく出来たカフェに行こうかと話していた。



しかし途中で太一は友人からバスケに誘われそっちに行ってしまったため、

他のメンバーを誰か誘おうと話していた時だった。


あのキノコ頭の子が、青田先輩に話しかけているのが目に入った。



健太先輩が「またこいつか」と言っている所を見ると、割りと頻繁に付きまとっているらしい。

彼女はご飯一緒に食べませんかと彼を誘った。



健太先輩達と食べに行くんだと彼が答えると、それじゃあ一緒に行ってもいいですかとなかなかしぶとい。

そんな積極的なキノコ頭を見て、聡美は「虎の留守を狙う狐」と言った。



虎とは、平井和美のことだった。

彼女が今学期から休学したことを、雪は今知った。

結局断られたキノコ頭の後ろで、他の女子が目を光らせている。



平井和美が居なくなったことで、青田先輩を狙う女子たちは結構居るみたいだ。

雪がその様子を訝しげな目で見ていると、ふいに彼と目が合った。



先輩は微笑むと雪の名前を呼びかけたが、雪はそれを豪快な方法で遮った。

「あ~っはっはっはっ!行くよ聡美!カフェ行くんでしょ!私奢るし!」



そう大声で言ったので、周りの女子たちは皆喜んで雪に付いて行った。



砂埃舞う勢いでカフェへと急いでいく女子たちに、男性陣は若干引いた‥。



淳に至っては、目を丸くしていた。





雪は空っぽの財布の中を憂いながら帰路に着いていた。



去年貯めたアルバイトのお金も底を尽きそうだし、通帳にもお金無いし‥。

いつも自制している雪がこんなことになったのは、いきなり話しかけようとした青田淳のせいに違いなかった。

やたら声を掛けられると皆の視線が痛いのに‥と考えながら、

実はそれが作戦で雪を困らせようとしているのかと思いついた。



雪は頭を抱えた。彼から逃げたくて休学を決意したのに、これじゃ本末転倒だと嘆きながら。



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<彼の変化>でした!

聡美と太一が面白すぎますね~!雪3年時の話はこの3人の友情も見どころの一つです。

しかし先輩のキノコ頭の子に対する態度、興味ナッシング過ぎて苦笑です。

結構面食いなんですかねw

次回は<一人暮らしと幼馴染み>です!


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突然の誘い

2013-07-16 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
青田淳の突然の誘いで、二人は夕食を共にすることになった。

にこやかに微笑む彼を前に、赤山雪はお礼を言った。

「ありがとうございます先輩。普段食べれないものばかり‥」



目の前に並んだのは高級なフレンチの数々‥



‥ではなく、いくつものコンビニおにぎりであった。



中でも雪のお気に入りは、飛び抜けて大きな丸い物体であった。

「特にこの爆弾!爆弾です!」



「爆弾?」



雪の持っている”爆弾”は、淳が初めて見る物体だった。

コンビニで買い食いをしたことの無い淳には、全てが新鮮且つ衝撃的だ。

「全部買っても千円ちょっとしかしないのな」



雪は笑っていたが、心の中では淳のボンボン丸出し発言にムカついていた。

「何言ってるんですか!普段こんな量一度に買えないんですよ~?!」



青田淳が「千円」と言うと、なんだか変な犬の名前みたいに聞こえる。

雪は、心の中では毒づきつつ、頭の中では必死に、”親切な先輩に奢られている後輩”を演じていた。

必要なのは笑顔、飾り気、そしてやっぱり笑顔。

仮面を被るのよマヤ!

「せっかくなのにこんなので良かったの?」



先輩は笑顔でそう雪に聞いた。

雪もまた笑顔を浮かべ、それに応える。

「いいんですこれで!てかこれさえも申し訳ないくらいですし!

でも丁度お腹空いてたんです、ありがとうございます~」




青田先輩はそんな雪を見て微笑んだ。

「いい子だね」



雪の演技プランではこの後飾り気を出さなければいけなかったのだが、

思いもよらない彼の一言によってそのシナリオは崩壊する。

思わずボッと顔を赤らめる雪。

うぉぉっ!!なんなのいきなり?!



人が思いっきり緊張してるってのに!!

コイツめ、夏でも無いのにこんなにも汗だくにさせやがって‥!なんなのこの醜態は?!




青田淳はまだ不思議そうな顔で、大きなおにぎりを手に取り「爆弾‥」と呟いていた。

雪がふと我に返って辺りを窺うと、周りの女子達はほとんど皆チラチラと彼を見て頬を染めている。



そうだった。彼との間には色々ありすぎて忘れていたが、この男はどこに行っても注目の的なのだった。

雪はその飄々とした横顔に、心の中で舌打ちをした。



今のにこやかな彼に騙されてはいけない。

今までの諍いを思い返してみれば自ずと結論は出るじゃないか。

100%何か企んでるんだ!!

気をつけろ雪!この男は蛇のように抜け目なく‥




雪が警戒心をMAXにしていると、突然隣で彼は笑い出した。

「プハハハハ!」



驚きのあまりジュースを吹き出した雪に向かって、先輩は無邪気な笑顔を浮かべる。

「これ爆弾みたいな形だから爆弾って言うんだな!やっと分かったよ!」



この人のこんな笑顔を、雪は初めて見た。

いつも目にした冷淡な視線や、見せかけの笑顔とはまるで違っていた。



目を丸くしている雪に、彼は普段コンビニに行かない自分に引いてるのかといった心配までした。

理解の付いていかない雪が固まっていると、先輩はジュースを吹き出した彼女にティッシュを差し出した。

「要らないの?」



雪はティッシュを受け取ると、お礼を言ったきり黙り込んだ。

実際、未だにこの先輩がどんな人間なのか、よく分からない



下を向く雪に先輩は気遣う言葉を掛けてくれるが、雪は不快感さえ感じていた。

雪はしばし、去年の新歓飲みのことを思い出していた。

丁度一年前の今頃だったのだ、彼と出会ったのは‥。








「雪ちゃん?」



追憶の中を旅していた雪は、先輩の声で呼び戻された。

肩に手を置かれると、嫌な記憶が蘇って身体が強張る。



しかし彼の方を向いてみると、手のひらにおにぎりを乗っけて困っている所だった。

「これうまく剥がせないんだけど、どうすればいいの?」



?!



彼はそのまま全部剥こうとビニールを剥がしかけたが、雪の手によって無残なおにぎりは救出された。

コンビニに行かないことが実証されたおにぎりを手に、雪はそのことにもまたムカついた。

しかし必要なのは笑顔と飾り気‥。

「私のと味一緒なんでこっち食べて下さい。はい、これ」



彼の手のひらに、雪が正しく剥いたおにぎりが置かれた。

「ごめん。何だかすごくかっこ悪いな」



そんな彼に対し、雪は笑顔でフォローする。

「はは、そういうこともありますって」



先ほどからやたら謝ってばかりの彼に、イライラする。

しかし淳は、そんな雪の横顔を見ながら微笑んでいた。



雪は気が付かなかったけれど。





「今日は本当に本当にありがとうございました!おかげで夜ご飯困らずに済みました!」



帰り際、雪は何度もお礼を言った。

その笑顔と飾り気総動員の演技は、多少仰々しい。

「なんか大げさだなー」「え?!ちがっ‥ホントにホントですってば!!」



雪は演技が見破られたかと思って、思わずビクついた。

心の中ではあんたと向い合って夕食を取るなんて胃がもたれるだろ!と思っているからだ。



「そう?」



一応納得したような彼に、雪は笑顔で接し続けた。

「そりゃもう~~」



しかし気まぐれだかなんだか知らないが、こんな行動はこれっきりにして欲しい‥。



が、次の瞬間、青田淳は雪の想定外の発言をした。

「じゃあ今度はもっといいものご馳走するよ」



今日のはノーカウントな、と彼は言った。

つまり、それはまた後日誘うということで‥。

またしても演技を忘れ固まった雪に、それじゃあお先と先輩は挨拶をして踵を返した。




どういうこと?




雪は去って行く彼の後ろ姿を目で追った。

先ほどのにこやかな彼より、よっぽど背中の方が見慣れていた。

厭わしく感じていた、あの人の後ろ姿‥





汚らわしいと言っていたあの飲み会から一年。

積み重なった不信感は拭い去れるはずもなく、却って不快感の方が強く残る。

雪はその疎ましい後ろ姿を、猜疑心に充ちた目で見つめ続けた。





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<突然の誘い>でした!

爆弾おにぎり、画像拝借しました。アルミホイルに包まれてるんですね!



しかし過去のゴタゴタを忘れるくらい先輩が楽しそうでいいですね!

次回からも先輩の猛烈アタックが続きます!w

次回は<彼の変化>です!

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覆された決意

2013-07-15 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
赤山雪は秋学期最後の日の飲み会で、聡美と太一に宣言した。

「私、休学する」







それを聞いた太一の第一声は、「ロッカーもらう」だった‥

それに乗っかる聡美ら二人に、雪はガックリである。しかし二人は腑に落ちない顔をする。

「最近学費のせいで休学する人多いッスけど、もしかして雪さんも?」

「え?」



雪は言葉を濁しながら、重々しくその理由を説明する。

「まぁね‥奨学金、ちょっとは貰えたけど、あれじゃ焼け石に水だし‥」

「うんうん、確かに学費高すぎ!」



そこから話は大学の学費が高すぎるわりに無駄な設備に費やしすぎるとか、

学食のメニューがいまいちだとか変な方向に向かっていった。



この二人は楽観的なところが魅力だが、今の雪には若干脳天気に感じられる。

雪は溜息を吐きながら、その胸中を憂いた。

「あんたたちに私の気持ちが分かる?もうマジ疲れた‥」



例えようの無いこの疲労感、脱力感、そして虚無。

視線を上げると、その先には彼の姿がある。

その理由は



あの男だ



胸中がモヤモヤと煙っていく。

雪は酒をガンガン飲んだ。



普段飲み慣れないお酒に酔っ払い、大声で「休学する」と騒いだ。

それを遠くの席から、青田淳が見ていた。







一次会が終わり、飲み過ぎた雪は既にグロッキーだった‥。

「飲めないくせになんであんなに飲んだのよ!」



気分の悪い雪を介抱する中、聡美が口を開いた。

彼女がこんなにも荒くれるのには、必ず理由があるはずだ。

「アンタ、また何か抱えて悩んでるんじゃないの?

全く気付いてやれなかったけど‥もしそうならホントにごめん」




何でも聞くから言ってごらん、と聡美は言った。

反射的に雪の顔が上がる。

胸に溜め込んだものを、今なら言えそうな気がする。

「私‥実はね‥!」



言いかけたその時、遠くから声が掛かった。

柳瀬健太が、手招きをしながらこちらに向かって叫ぶ。

「おーい!お前ら何やってんだ?!淳が二次会奢ってくれるってよ!」



二次会には高いバーの名前が上がり、そこを全部青田先輩がおごると言ったらしい。

太一も聡美も、そして学科の皆も喜んだが、雪はその場から動けなかった。



健太先輩は、気分が悪かったらちょっと休んで後から来いと言ったが、

雪はそのまま立ち上がると、二次会はパスすると言って走り出した。

聡美がその背中に声を掛けたが、雪は振り返りもせず行ってしまった。



雪は聡美と太一に何も打ち明けることが出来なかった。

あの青田淳から逃げるために、休学するということを。







家に帰ってから、母親に休学する意を伝えたが、その反応は良いものではなかった。



何で休学するのかという問に、雪は本当の理由を言うことが出来なかった。

休学してる間に仕事したり旅行したり、色々な社会経験を積みたいということを言ったが、

母親はやはり理解出来ないようだ。



以前母が雪に全額奨学金を受けれないなら大学を辞めろと冗談で言ったことがあったが、

それを真に受けていたのかと聞かれた。

それが直接的な原因ではない。でも結局奨学金の件でも青田淳が絡んでいる。

先日貼り出された全額奨学金の獲得者は、全体首席は、やはり彼だったからだ。



雪が部屋で項垂れていると、聡美から電話がかかってきた。

憂鬱な気持ちのまま電話を取ると、凄まじく大きな声が電話口から飛び出した。

「雪ーッ!超超超ビッグニュース!!」



聡美は興奮状態だったが、それも納得出来るくらいの大事件が起こったのだ。

「青田先輩、奨学金貰えないらしいよ!」



雪は耳を疑った。

「レポート提出したのに、点数つける前に急に消えちゃったとかなんとか?!」

そして聡美は一層大きな声で言った。

「だから全額奨学金は、あんたが貰えることになったんだって!!」

「何だってーー?!!」



聡美の声を聞いた母親が、隣の部屋から飛び込んで来た。

全額学費が出るのに、休学が許されるはずがない。

雪は休学を諦めざるを得なくなった。







果たして雪の決意は、思わぬ形で覆された。

すでに太一に譲っていたロッカーの鍵を、もう一度返してもらう。

「休学するんじゃなかったんスか?」「よ‥予想外のことが起きてしまってね‥」



しぶしぶ鍵を返してくれた太一が、レポート紛失事件のその後を教えてくれた。

「つーか青田先輩のレポートが無くなってから、学校中大騒ぎだったんすよ。

先生が見る前に無くなったみたいだし、どうしようも無かったみたいスね」




最上級の成績であるA+取れる傑作だったろうに、と太一は唸った。

しかしその内情を聞いていく内に、雪の心の中にだんだんと靄が掛かって行く。

「でも変っすよね。先生がレポート集めるのは皆しっかり見てたし、

青田先輩が出さなかったわけないのに、でも消えちゃったなんて‥」




青田先輩本人は、そのことに関しては寛容な態度を取ってるらしかった。

その余裕に女学生たちはかっこいいと騒いで、全体首席を逃したものの、逆に彼の株は上がったようだ。





雪は中庭で一人音楽を聞きながら、この事件の顛末に思いを馳せていた。



何か胸騒ぎがして、ソワソワと落ち着かない。

彼女の鋭敏さが、その事件にどこか不自然さを感じていた。

するとイヤホンから聞こえる音楽に混じって、誰かの声が聞こえる。

「‥雪ちゃん」

「雪ちゃん!」



「一人で何してるの?音楽聞いてたの?授業は?」



雪は声の主を見て、目を丸くした。

矢継ぎ早にされる質問にもついていけない。

かろうじて「授業は全部終わりました」ということだけ答えられた。

「そっか。それならメシでも食いに行こうよ」



雪は何が起こったのかまるで理解出来なかったが、頭より先に口が動いていた。

「え?‥あ、ハイ!」




雪にとっては、それはあまりにも突然な出来事だった。

目の前でにこやかに笑う彼は、いつも雪を無視したり傲慢な態度を取ってきた彼とは、まるで別人のようだった。


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新学年での物語のスタートです。絵もカラーになって華やかになりました!

ついに青田先輩が動き出しましたね。
先輩の雪に近づきたい意気込みが感じられます!

次回は<突然の誘い>です。

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