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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

2016-01-14 01:00:00 | 雪3年4部(賭け~温かな痕跡)
「‥‥‥‥」



同期の話が一区切りつくと、雪は適当な言い訳を口にして一旦廊下へと出た。

胸中は絶賛モヤモヤ中である。

私の物をビリビリに破いて捨てたっていうんだから、

ムカツクのは間違いない。とことんバラしてしまいたいけど‥でも‥




糸井直美へ感じる憤り。

しかしそれと同じくらい、それを躊躇する気持ちが胸を占める。

いざ怒りを露わにしようとすると‥

どうしてもちょっと‥




その正体は、頭の端では思い至る。

思い至るが、それに達する為の確信が‥。

「おい」



下を向いていた雪の視線の先に、見覚えのある靴があった。

「あ、遠藤さん」



雪が挨拶をしようと口を開こうとすると、遠藤は周囲を気にしながら彼女の手を引いた。

「ちょっとこっち来い」



二人は壁際に移動すると、遠藤は小さな声で口を開く。

「お前がこの前言ってた頼み事だがな‥」



「ビンゴだったぞ」



遠藤の目は確信に満ちた眼差しをしていた。

その目を見ながら、雪は以前自分が遠藤に頼み事をしていたことを思い出す。

「あ」



遠藤は話を続けた。

「まさか学科長をマジで訪ねて来る人間が居るとは思わなかったよ」

「えっ?!」

「一目で分かったぞ。後ろめたいことがあるんだろうってな」



心の中にある靄の中から、確信が段々と顔を出す。

雪は続きを促した。

「それじゃ‥」

「ああ」



「柳瀬健太だ。

ヤツが学科長に「過去問泥棒の話はお耳に入っておられるでしょ?

学科のことが心配だから、どうか泥棒を捕まえて下さい」

って言いに来たんだ。ビックリする程のオーバーアクションでな」




確信は、核心を連れてやって来る。

雪はだんだんとハッキリしていく事態の真相を今、目の当たりにしていた。

「まぁ学科長は「こちらとしては把握して無い、学生達でわきまえながら‥」

とかなんとか言ってだな‥てか柳瀬はそもそもあの話をー‥」




それから遠藤が続ける言葉の続きを、雪はよく覚えていない。

彼が去り際、「とにかく、アイツ俺と年近いくせに何でああなのか分からんなと言っていたくらいーー‥。









雪の心は表情と共にフリーズしてしまったかのようだった。

その後授業を受けたものの、その内容は恐ろしい程サッパリ忘れてしまった。

「雪ねぇ~」



気がつけば、腕の中に小西恵が居た。

恵は雪に抱きつきながら、彼女のお姉さん的存在に甘える。

「あたし一睡も出来なかったよぉ~課題したり勉強したりでぇ~~」



「大学は大変だぁ~」



恵は雪の腕の中で、すりすりと頬や頭を摺り寄せた。

雪はそんな恵の頭を撫でながら、彼女が抱える重荷を痛いほど共感する。
(雪の目の下もクマで真っ黒だ)

「そうでしょそうでしょ‥」



けれど辛い状況ながら、どこか満足そうに見える恵。

彼女は腕の中で、束の間の安息に身を委ねている。



そんな恵の姿を見ている内に、抱えていたモヤモヤが、

雪も束の間吹き飛んでいく気がした。



雪は温かな気持ちで、ギュッと恵を抱き締める。

 



恵は嬉しそうに「へへ~」と声を出した。

雪の脳裏には、こちらを見てニコニコ笑っている幼き恵の姿が浮かぶ。

この子があんな子供だったのが、昨日のことみたいに感じる



けどこんなにも早く大学に馴染んでるなんて



雪は恵の頭を撫でながら、誇らしい気持ちが湧き上がるのを感じた。

いつだってハッキリして、芯の強い子



そしてそれと同時に思うのは、今の自分はどうなのかということだ。

私は‥



すると突然、恵がバッと身体を離した。

「あ、そうだ雪ねぇ!」



「蓮が大学に来たみたいなんだけど、会わずに帰っちゃったみたいなの」

 

恵の口から出た蓮の名を聞いて、雪は心の中にある気掛かりだったことを思い出す。

しかし恵は蓮の行動の真意が気になって、それどころではないようだ。

「どーしたのかなぁ?もしかして店で何かあったとかじゃないよね?!おじちゃんが病気だとか‥

「ううん、何も無いよ」






心に引っ掛かっていたそれを、口に出す時が来たのかもしれない。

雪は暫しの時を置いた後、とうとうそれを切り出した。

「恵」



「ん?」「うん‥」



それでもちょっと、自分を見つめるその無垢な瞳を前にすると、気持ちが若干怯んだ。

雪は苦い気持ちを押しながら、ポツリとこう口に出す。



「もう蓮とあんまり会うなって言うのは、

恵にとって失礼なことだっていうのはよく分かってるけど‥」




「蓮とアンタのためにも‥

私は、蓮がアメリカに戻って無事卒業出来れば一番良いって思うんだけど」




「恵はどう思う‥?」







恵はその大きな瞳を、雪の切れ長の瞳に向けながらその話を聞いた。

恵の心の中にも引っ掛かっていたその問題が、だんだんとあるべき方向へ転がり出していく‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<芯>でした。

雪ちゃん、遠藤さんに「学科長の元へ訪ねて行く人がいるかもしれない。その時は教えて下さい」と頼みごとをしていたんですね~。

ただその描写が無かったので、若干戸惑った私です‥。そこまで手を回していたとは‥恐ろしい子‥!


そして恵にとうとう切り出しましたね、雪ちゃん。

蓮はアメリカ戻るべきだと恵が言うのが一番効果ありますからね~。さぁどうなるか‥。


次回は<涙の理由>です。


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晴れない心

2016-01-12 01:00:00 | 雪3年4部(賭け~温かな痕跡)


鬼気迫る表情で雪が相対しているのは、終わらせなければならない課題達である。

集中! 集中! 集中!



燃え上がるゴォォという音が聞こえそうなくらい、雪の気迫は凄まじかった。

けれど心の中にある靄が、その炎を小さくする。

直美さんが‥うう‥気になるけど‥とりあえずPass



過去問盗難事件の容疑者が、雪の頭を悩ませる。

しかしそれとは関係なしに、目の前に積まれたタスクが彼女を追い詰めるのだ。

まだこんなに残ってる。終わらせにゃ‥



うああー



そしていつしか空が明るくなるまで、雪は勉強に励んだ。

鳥の囀りが朝の空に響く。



雪の父はむっつりと黙りこんだまま、いつまでも椅子に腰掛けていた。

持病の腰痛がこのところ特にヒドイのだ。



そんな父とは対照的に、母は出掛けるための準備に着々と取り掛かっていた。

家のことと自分のことを要領良くこなしていく。



そして母は、心配そうな顔で夫に声を掛けた。

「あなた、腰はどう?今日は家で休んで‥」

「!!」

 

すると夫は、クワッと目を見開きながら妻に対してこう言ったのだった。

「お前一人で店に立たせられるか!」



お前一人で行かせはしない、共に店に立とう‥!

そんな夫の言葉に、妻は目を潤ませる。

「あなた‥」



ジーンと感動する妻と、気まずくて咳払いをする夫。

そんな仲睦まじい夫婦の隣を、寝不足の娘が通り抜けて行く。

「学校行ってきまーす‥」



クマで目の下は真っ黒だ。店のことや父の腰のことは気になるが、

やるべきことが山積している今は、そうも言っていられない‥。

気掛かりだけど‥さ‥



雪は後ろ髪を引かれながら、大学へ登校した。

そして一限が始まる前の時間、この二人が肩を並べて座っている。



佐藤広隆と小西恵だ。

本来もう一人隣に座るはずなのだが、佐藤の右隣にはまだ誰も居ない。

 

チラチラと空席を見る佐藤に、小西恵が声を掛けた。

「静香さん来ないみたいですね」



思わず佐藤の口から、「はは‥」と乾いた笑いが漏れる。

するとそのタイミングで、携帯がメールを一通受信した。



急いで文面を確認する佐藤。

しかしそれは願っていた相手からではなかった。

先輩、静香さんどこに居るか知りませんか?



赤山雪からの、静香の所在を尋ねるメール。

佐藤はメールを見ながら、心の中がモヤモヤと煙っていくのを感じる。



彼女がどこに居るのか、もう授業には出てこないつもりなのか、それともこのままフェードアウトしてしまうのか。

尋ねたいことは佐藤の方こそ沢山あった。

佐藤は誰にも聞こえない声で、不貞腐れたようにこう呟く。

「‥知らないよ」



そして佐藤は携帯をポケットに仕舞った。

一方雪は、鳴らない携帯を持って首を傾げている。

「どうして返信が無いんだ?本渡さなきゃなのに‥

「雪ちゃん!」



すると同期の子が、後ろから声を掛けて来た。

「おはよ」「うん、おはよう」



「アンタ今日も朝ごはん抜いて‥?」



そう問う雪の質問には答えずに、同期は険しい表情をしながら身を屈めるようにして隣の席に座った。

そんな同期の様子に眉を潜める雪に向かって、その子は突然話を切り出した。

「直美さんだったらしいじゃん?」



雪の肝がヒヤリと冷える。

「‥へ?」



しかし同期は雪の様子には頓着せず、耳にした最新の情報を口にし始めた。

「直美さんだったんでしょ。そんな人だと思わなかったわ~。マジで極悪じゃない?

アンタにあんなこと出来るなんてさぁ」




「あたしたちが直美さんとトラブったのにも、ちゃんと理由があるんだからねー?」



雪は固まりながら、その同期の子が話す言葉の一部始終を聞いていた。

そういえば、以前彼女達を見て自分が思ったことは‥。

三年生になってから直美さんと離れた子達。

変なゴタゴタがあったって聞いたような‥




元々彼女らが持っていた直美への不信感が、今回の事件で火が付いたようだった。

仕掛けたのは自分だが、事態はいつだって予測不能な方向へと転がって行く。



雪は苦々しい、晴れない気持ちで同期の話を聞いていた。

事が運んで行く程に、心の中が靄で煙って行くようだ‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<晴れない心>でした。

いたわり合う赤山夫婦でほっこりした回でしたね~



けれど物語全体としては、モヤモヤ~っとしたものが漂う回でした。

早くキッパリスッパリした話が読みたい‥!


次回は<芯>です。


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白い靄

2016-01-10 01:00:00 | 雪3年4部(賭け~温かな痕跡)


空が夕焼けに染まる頃、美大の一室。

「めーぐみ」「ん?」

「あたしさっきアンタの彼氏見たよー?」



同期はそう言って、毎日のようにデートする恋人達に言葉を贈った。

「今日も学校前でデート?ラブラブだね~」「へ?」



しかし恵はその言葉を聞いてもピンと来ない様子だ。

「え、蓮が?今日は会う予定ないよ?」「え?」



そんな恵の返答に、同期の子は目を丸くした。

「え?さっきこの近くで見かけたけど‥」「あ‥」



二人の会話はすれ違う。

そしてそれ以上に、恵は蓮の行動の意味が分からなかった。

「そんなこと言ってなかったけど‥どうしたんだろ‥?」



くりくりとした大きな目が、その真実の在処を探す。

小さな頃から知っている、幼なじみであり今は恋人のその人の。

そしてその頃当の本人は、路地裏で頭を抱えていた。

「クッソーー!俺の足踏みまくって、キンカンにもちょっかい出しまくってるヤツなのに!!

てか何で隠れた俺?!何でビビった俺?!元々ンなことなかったハズなのに!!」




蓮が悔いているのは、昼間大学で出くわした柳瀬健太に取った自身の態度のことだった。

あの巨体を見かけた途端、考えるより先に物陰に隠れた自分‥。







蓮は声を上げながら、頭を更に深く抱えた。

そしてその隣には、寒さに震える河村亮が蓮の嘆きを聞いている。

「ううう‥!」



「柳瀬健太とかいうヤツ‥

名門A大生だし、姉ちゃんの話だと良いトコに書類パスして面接まで進んでるって‥」




蓮は涙目になって深く息を吐き出した。

寒さが身に沁みるのは、低い気温のせいだけではないようだ。

「‥アイツだけの話じゃないよ。

この世には立派なヤツが山程居るんだ‥俺の恵が‥俺のキンカンが‥




話せば話すほど覚える焦燥。

蓮は涙で目を潤ませながら、亮に向かって問い掛けた。

「俺よりイケメンにかっさらわれたらどーしよう?!どーすればいいの?!」

「んだそりゃ」



「俺だって‥」



声を震わせながら、蓮は自分の気持ちを口に出す。

亮はそんな蓮に呆れながらも、黙ってそれを聞いている。

「俺だって変わりたいのに‥。

家のこと一生懸命手伝って遊ぶの止めたら、「蓮は変わった」って皆喜ぶと思ったのに‥。

なんかそれ、間違ってたみたいで‥」




そう言って両膝の間に顔を埋める蓮を、亮は彼が本格的に泣き出したのかと思ってじっと見つめた。

しかし次の瞬間、彼は歯と白目を剥きながら強く主張する。

「あー!だけどさ!マジでマジでさ!アメリカには戻りたくないんだよ~~!!」



蓮の脳裏に、思い出したくもない場面が次々と浮かんで来た。

あれはアメリカに居た頃の、コンプレックスに押し潰されそうだった頃のこと。

「あの場所では俺、何も手に入れられなかった。俺、何者にもなれなかった」



「ここには何もかもがあるのに‥」



そう言って見上げた夜空は、建物の間から僅かに見える切れ端ほどのものだ。

アメリカの方がこの何倍も、何十倍も広かったけれど‥。

「友達も‥家族も‥キンカンも‥」



蓮の言葉が、気温の低い空気の中で白い靄となって消える。

その靄は亮の心にも、どこか当てはまるものだった。

「亮さん」



「亮さんも、ここにずっとずっと居てよね」



縋るような目付きでそう訴える蓮と、亮は目を合わせることが出来なかった。

前を見つめながら、居心地悪そうに舌打ちする。

「‥チッ」



そして亮は、蓮の頭を軽く小突いた。

「知るかよ」「ええ?」「甘えんじゃねーこの野郎

「イテッ!亮さんが俺にそんなこと言うなんてぇ~!」「離せっての」



「ぐわっ!冷てーの!」



じゃれ合うように言い合いを始める二人。

するとそんな二人を、物陰からじっと見ている男が居た。



亮が地方で働いて居た時の、あの同期の男だった。

思わず目を丸くする亮と、訝しげな目付きで男を見る蓮。




「‥‥‥‥」



やがて男は、プイと彼らに背を向けて駆けて行った。

どこにでもある監視の目。ここにずっと居ることが出来ないことを、改めて思い知らされる。



「知ってる人?」

「中入って仕事手伝え」



蓮のその問いには答えずに、亮はそっけなくそう言ってその場から去って行った。

何かを抱えるその背中を、蓮はポカンと口を開けてただ眺めている。



「???何だろ?」



赤山家特有の鋭敏さで、蓮はその異変を感じ取る。

けれど既に亮の背中は夜の闇に溶け、蓮の心の中には白い靄がいつまでも揺蕩っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<白い靄>でした。

「ここには何もかもがあるのに」という蓮の吐露。

それが亮の心情にも重なるものがありますよね。

何もかもがある場所から、踏み出さなければならない時がいつか来ることを、どこか感じさせてくれる回でした。


次回は<晴れない心>です。


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外れて行く筋書き

2016-01-08 01:00:00 | 雪3年4部(賭け~温かな痕跡)
黒木典は赤山雪を教室から連れ出すと、開口一番こう言った。

「うちらも直美さんが盗むなんて考えもしなかったわよ!マジでビックリなんだけど!!」



思わず雪の顔が曇る。

「直美さんが‥?」



典は先程の直美のリアクションを思い出しながら、頭を抱えて息を吐いた。

「はー‥あんな人だったなんて‥!もーマジでどうすればいいのか‥」



雪は大きな声を出しはしなかったが、典と同様、動揺しているのは確かだ。

いや‥直美さんのこと疑ってたけど‥でも私の考えでは‥



考えれば考える程、違和感は募って行く。

「あーもう‥マジかよー‥」



隣で嘆く典の声を聞きながら、雪は直美の姿を思い浮かべた。

本当に?直美さんが?まさか海ちゃんの問題一つで‥



自分が思っていた筋書きから、外れて行く現実。

けれど雪は、どうしても納得出来なかった。

動機が‥何か不十分だ‥



改めて、今回の件と糸井直美を絡めて考えてみる。

確かに‥海ちゃんと私が過去問を共有したのは事実だけど‥

直美さんが、本当に盗むだろうか?自分だって同じ物を持ってるのに?




あの時直美は、「あの子コレ欲しがってそう?」と過去問を抱え込みながら典に聞いていた。

動機はその意地からだろうか?そう考えてみても、やはり辻褄は合わない。

勿論衝動的にやらかしたのかもしれないけど、あまりにおかしい。

もしバレたら皆から完全無視される。そんなリスクを侵すような人じゃない。




糸井直美、という人間像。

それは以前絡んでいた、横山翔とのゴタゴタからも見えてくる。

横山のことだって、結局横山本人にその怒りの矛先が向けられて片が付いたし、

私とは皮肉を嘲い合うくらいで、諍いになるレベルにはならなかった。

そして仮に、先輩の過去問を狙って盗んだとしても、直美さんはまだ三年生。特にメリットは無い‥




動機もメリットも何もかもが、直美には不足している。

筋書きはどう考えても、自分が信じる方向にありそうなのに‥。

「‥‥‥‥」



暫く押し黙っていた雪だが、とりあえず典に向かって釘を指すことにした。

まだ状況がハッキリしたわけじゃないし、それをきちんと理解しているわけでもないからだ。

「典ちゃん、あのさ」



「とりあえず他の人には話さない方が良いよ。直美さんとももう一度話を‥」

「は?あの人と何を話せっての?あたしこの目で見たんだから!」



典は強い口調でそう言うと、雪のその提案を突っぱねた。

「それにあたし、泥棒とツルむ気なんて無いから!」



キッパリとそう言って、典はそのまま雪に背を向けて歩いて行った。

直美さん直美さんと、彼女にくっついていたのが嘘のようなそんな態度で。



嫌な予感が、雪の体中を駆け巡る。

「オフレコ‥なワケ‥ないヨネ‥



事態が、転がるように展開して行く予感だ。

ポケットの中で携帯が震えた。

授業頑張ってる?週末、何観に行こうか?



取り出してみると、先輩からメールが入っていた。

そしてその文面を読んで、今自分が抱えている仕事と予定を思い出す。



転がり出す展開と、自分がやらなければならない現実と。

雪はその狭間で動けなかった。思わず頭を掻く。



結末がうっすら見えていても、そこに至るまでの過程はなかなか見通せない。

だからこそ一歩踏み出すことが出来ないのだ。

どの方向が、その結末に繋がっているかは分からないから。




そしてそんな雪と同じように、この人もまた現実から動けなかった。

「聡美!」



友人から名を呼ばれた聡美は、ゆっくりと振り返った。

その表情は相変わらず冴えない。



友人は不思議そうな顔をしながら聡美に近付いた。

「どーして最近顔見せないのよ!返信も無いしさぁ」

「ちょっと疲れてて‥」



力なくそう言う聡美に、友人は笑ってこう返す。

「な~にが疲れてて~よ!合コンの話があんの。アンタ行きなよ!写真見せたげる」

「へ?」



突然の合コンの誘いに、目を丸くする聡美。

友人はそんな聡美を見透かすかのように、携帯を掲げて彼女を誘った。

「最近彼氏居なくて落ちてたでしょ?アンタのいつものパターンじゃん」



「ほら、聡美のタイプの年上のイケメン!行ってみ?ね?」



画面の中で微笑む合コン相手。

聡美は首を横に振った。

「いや‥あたしは‥」



外れて行く筋書き。見えないその先。

誰しもが、その中でもがいて足掻いている‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<外れて行く筋書き>でした。

探偵雪ちゃんが、今回の件の違和感を感じてますね~。

そして典ちゃん‥手の平を返す態度とはまさにこのことですね‥。


次回は<白い靄>です。

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揺れる容疑者

2016-01-06 01:00:00 | 雪3年4部(賭け~温かな痕跡)
「‥‥‥‥」



黒木典の胸の中には、黒い靄のようなものが漂っていた。

そしてその原因となっている人物の方へと、彼女はチラリと視線を流す。



糸井直美。

同級生だが年上のその人とは、気も合うし話をするのも楽しく、信頼もしていた。



‥あの現場を見るまでは。



コソコソと人目の付かない場所まで行って、過去問を破って捨てていた。

書き込まれた文字は明らかに、直美自身のものとは違っていたー‥。





「‥‥‥‥」



考えれば考える程、その疑いは色濃くなっていく。

そんな眉間にシワを寄せた典のことを、直美は不思議そうな顔で見つめていた。


「ははは!」



同じ教室の片隅で、柳瀬健太が大きな笑い声を上げながら雪の肩を小突く。

「おお!赤山やるなぁ!学科長に話すたぁよくやった!」



「あんなことがあったんだから、このくらいはしなくちゃな!」



健太はそう言いながら、雪の背中をバンバンと叩いた。

雪は何も言い返すことなく、ノーリアクションで黙り込む。



隣に座る同期達も、コロコロ手の平を変える健太に呆れ気味だ。

そんな雰囲気を察した健太は、乾いた笑いを立てながらそっと雪から離れていった。



ふぅ‥



真実の在処がどこであれ、そのことに神経を削られては本末転倒だ。

雪は今自身が抱えるタスクのことを、冷静に頭の中で確認する。

あと二日‥。一つは終わった。週末は映画‥



既に餌は撒き終えた。

後はその後の展開を、じっとこの場で待つだけだ。




「ていうか、フツー学科長にまで話すかぁ? ムカツクわマジで



直美はウンザリした表情を浮かべながら、噂に聞いた雪のことを口に出した。

「あの子被害者意識ハンパない‥」「あの、直美さん‥」「ん?」

 

すると典は直美の言葉には返答せずに、とうとうあの件について切り出した。

「あたし朝、変なもの見たんです」「何?」



「朝、直美さんが図書館の裏のゴミ箱に、プリント破って捨てるとこ」



「あれ、何ですか?」








ピクッ、と直美の手が動いた。

典が今口にした言葉の意味を、頭が完全に理解するよりも先に。

「‥‥‥‥」



あ‥と言葉にならない声を出しながら、直美は硬直した。

じわりじわりと、現実が彼女を追い詰める。

「確かめましたけどアレ、うちらの過去問ですよね」

「な‥」

「クセのある読みにくい字で。あれは海の字です」



「どういうことですか?」



典は先日の過去問盗難事件の犯人に向かって、睨むような目付きで真実を問い質した。

直美は典から目を逸らしながら、消え入りそうな声でそれを否定する。

「アンタ何言って‥見間違い‥」

「あたし直美さんがプリント破ってるとこ、この目で見てますから」



けれどそれには無理があることを、言い逃れなど出来ないことを、ジワジワと直美も理解して行った。

頬に汗が一筋伝う。



顔が、みるみる青ざめて行った。

言葉にならない声が、続かない言い訳の後を追って漏れる。

「‥‥‥‥」



赤山雪は今回の盗難事件の犯人のことを、学科長に直訴すると言っていた。

それがどういう意味を持つのか、考えずとも明白だ。



気がつけば、身体が震えていた。

直美は自分の方を見つめる典の目を見返すことも出来なかったが、それでも首を横に振る。

「ち‥違うの‥典‥あれは‥」



「は!」



あからさまに動揺している直美を目にして、典は思わず呆れた声を出した。

身を屈めながら、声を潜めて追及する。

「ねぇ直美さん、嘘でしょ?もし本当なら、あたしマジで失望しますよ‥?」



「何か言ってよ!」

「違うの!ホントは‥」



直美が声を上げようとしたその瞬間、後方から視線を感じた。

バッと後ろを振り返る。



そこに居たのは、柳瀬健太だった。

健太は何とも言えない顔をしながら、直美のことをじっと見つめる。



「ゴホン!ゴホン!」



わざとらしく咳払いをしながら、健太はその場から去って行った。

直美はポカンと口を開けながら、ただその場で息を飲む。






隣に座る典の方へと顔を向ける直美。

典は口元を押さえながら、軽蔑するかのような目付きで、直美のことを凝視する。



やがて典は、直美から目を逸らした。

直美さん直美さんと、いつも親しげにまとわり付いてきた彼女は、もうどこにも居ない。







苦い唾液が、じわじわと口の中に広がって行くようだった。

直美は血の気の引いた身体を持て余しながら、ただ無言で俯いた。







そんな直美と典、そしてそんな二人に近寄っては去って行った健太のことを、

雪は離れた席にてじっと窺っていた。

何かがあったのだろうが、それが何なのかはまだ分からない。

「?」



事態はだんだんと進展して行き、そしてそれは、雪の思いも寄らない場所へと転がって行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<揺れる容疑者>でした。

直美‥学校でプリントなんて捨てるから‥

でも単純に「直美が犯人!」と言い切れるワケではなさそうですね。

物語はどんどん推理モノに‥

次回は<外れて行く筋書き>です。


ドラマ、遂に放映されましたね~!

私も某所で早速観ました!(字幕は無いので脳内補完ですが‥)キャストも大学も良い感じですね!

太一がイケメンすぎて&遠藤さんがオッサンすぎてドギマギしました

あの履修を決めるPCの前での雰囲気とか、大学生って感じで微笑ましかった‥。

第二話も楽しみです


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