「‥‥‥‥」

同期の話が一区切りつくと、雪は適当な言い訳を口にして一旦廊下へと出た。
胸中は絶賛モヤモヤ中である。
私の物をビリビリに破いて捨てたっていうんだから、
ムカツクのは間違いない。とことんバラしてしまいたいけど‥でも‥

糸井直美へ感じる憤り。
しかしそれと同じくらい、それを躊躇する気持ちが胸を占める。
いざ怒りを露わにしようとすると‥
どうしてもちょっと‥

その正体は、頭の端では思い至る。
思い至るが、それに達する為の確信が‥。
「おい」

下を向いていた雪の視線の先に、見覚えのある靴があった。
「あ、遠藤さん」

雪が挨拶をしようと口を開こうとすると、遠藤は周囲を気にしながら彼女の手を引いた。
「ちょっとこっち来い」

二人は壁際に移動すると、遠藤は小さな声で口を開く。
「お前がこの前言ってた頼み事だがな‥」

「ビンゴだったぞ」

遠藤の目は確信に満ちた眼差しをしていた。
その目を見ながら、雪は以前自分が遠藤に頼み事をしていたことを思い出す。
「あ」

遠藤は話を続けた。
「まさか学科長をマジで訪ねて来る人間が居るとは思わなかったよ」
「えっ?!」
「一目で分かったぞ。後ろめたいことがあるんだろうってな」

心の中にある靄の中から、確信が段々と顔を出す。
雪は続きを促した。
「それじゃ‥」
「ああ」

「柳瀬健太だ。
ヤツが学科長に「過去問泥棒の話はお耳に入っておられるでしょ?
学科のことが心配だから、どうか泥棒を捕まえて下さい」
って言いに来たんだ。ビックリする程のオーバーアクションでな」

確信は、核心を連れてやって来る。
雪はだんだんとハッキリしていく事態の真相を今、目の当たりにしていた。
「まぁ学科長は「こちらとしては把握して無い、学生達でわきまえながら‥」
とかなんとか言ってだな‥てか柳瀬はそもそもあの話をー‥」

それから遠藤が続ける言葉の続きを、雪はよく覚えていない。
彼が去り際、「とにかく、アイツ俺と年近いくせに何でああなのか分からんな」と言っていたくらいーー‥。


雪の心は表情と共にフリーズしてしまったかのようだった。
その後授業を受けたものの、その内容は恐ろしい程サッパリ忘れてしまった。
「雪ねぇ~」

気がつけば、腕の中に小西恵が居た。
恵は雪に抱きつきながら、彼女のお姉さん的存在に甘える。
「あたし一睡も出来なかったよぉ~課題したり勉強したりでぇ~~」

「大学は大変だぁ~」

恵は雪の腕の中で、すりすりと頬や頭を摺り寄せた。
雪はそんな恵の頭を撫でながら、彼女が抱える重荷を痛いほど共感する。
(雪の目の下もクマで真っ黒だ)
「そうでしょそうでしょ‥」

けれど辛い状況ながら、どこか満足そうに見える恵。
彼女は腕の中で、束の間の安息に身を委ねている。

そんな恵の姿を見ている内に、抱えていたモヤモヤが、
雪も束の間吹き飛んでいく気がした。

雪は温かな気持ちで、ギュッと恵を抱き締める。
恵

恵は嬉しそうに「へへ~」と声を出した。
雪の脳裏には、こちらを見てニコニコ笑っている幼き恵の姿が浮かぶ。
この子があんな子供だったのが、昨日のことみたいに感じる

けどこんなにも早く大学に馴染んでるなんて

雪は恵の頭を撫でながら、誇らしい気持ちが湧き上がるのを感じた。
いつだってハッキリして、芯の強い子

そしてそれと同時に思うのは、今の自分はどうなのかということだ。
私は‥

すると突然、恵がバッと身体を離した。
「あ、そうだ雪ねぇ!」

「蓮が大学に来たみたいなんだけど、会わずに帰っちゃったみたいなの」

恵の口から出た蓮の名を聞いて、雪は心の中にある気掛かりだったことを思い出す。
しかし恵は蓮の行動の真意が気になって、それどころではないようだ。
「どーしたのかなぁ?もしかして店で何かあったとかじゃないよね?!おじちゃんが病気だとか‥」
「ううん、何も無いよ」


心に引っ掛かっていたそれを、口に出す時が来たのかもしれない。
雪は暫しの時を置いた後、とうとうそれを切り出した。
「恵」

「ん?」「うん‥」

それでもちょっと、自分を見つめるその無垢な瞳を前にすると、気持ちが若干怯んだ。
雪は苦い気持ちを押しながら、ポツリとこう口に出す。

「もう蓮とあんまり会うなって言うのは、
恵にとって失礼なことだっていうのはよく分かってるけど‥」

「蓮とアンタのためにも‥
私は、蓮がアメリカに戻って無事卒業出来れば一番良いって思うんだけど」

「恵はどう思う‥?」


恵はその大きな瞳を、雪の切れ長の瞳に向けながらその話を聞いた。
恵の心の中にも引っ掛かっていたその問題が、だんだんとあるべき方向へ転がり出していく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<芯>でした。
雪ちゃん、遠藤さんに「学科長の元へ訪ねて行く人がいるかもしれない。その時は教えて下さい」と頼みごとをしていたんですね~。
ただその描写が無かったので、若干戸惑った私です‥。そこまで手を回していたとは‥
恐ろしい子‥!
そして恵にとうとう切り出しましたね、雪ちゃん。
蓮はアメリカ戻るべきだと恵が言うのが一番効果ありますからね~。さぁどうなるか‥。
次回は<涙の理由>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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同期の話が一区切りつくと、雪は適当な言い訳を口にして一旦廊下へと出た。
胸中は絶賛モヤモヤ中である。
私の物をビリビリに破いて捨てたっていうんだから、
ムカツクのは間違いない。とことんバラしてしまいたいけど‥でも‥

糸井直美へ感じる憤り。
しかしそれと同じくらい、それを躊躇する気持ちが胸を占める。
いざ怒りを露わにしようとすると‥
どうしてもちょっと‥

その正体は、頭の端では思い至る。
思い至るが、それに達する為の確信が‥。
「おい」

下を向いていた雪の視線の先に、見覚えのある靴があった。
「あ、遠藤さん」

雪が挨拶をしようと口を開こうとすると、遠藤は周囲を気にしながら彼女の手を引いた。
「ちょっとこっち来い」

二人は壁際に移動すると、遠藤は小さな声で口を開く。
「お前がこの前言ってた頼み事だがな‥」

「ビンゴだったぞ」

遠藤の目は確信に満ちた眼差しをしていた。
その目を見ながら、雪は以前自分が遠藤に頼み事をしていたことを思い出す。
「あ」

遠藤は話を続けた。
「まさか学科長をマジで訪ねて来る人間が居るとは思わなかったよ」
「えっ?!」
「一目で分かったぞ。後ろめたいことがあるんだろうってな」

心の中にある靄の中から、確信が段々と顔を出す。
雪は続きを促した。
「それじゃ‥」
「ああ」

「柳瀬健太だ。
ヤツが学科長に「過去問泥棒の話はお耳に入っておられるでしょ?
学科のことが心配だから、どうか泥棒を捕まえて下さい」
って言いに来たんだ。ビックリする程のオーバーアクションでな」

確信は、核心を連れてやって来る。
雪はだんだんとハッキリしていく事態の真相を今、目の当たりにしていた。
「まぁ学科長は「こちらとしては把握して無い、学生達でわきまえながら‥」
とかなんとか言ってだな‥てか柳瀬はそもそもあの話をー‥」

それから遠藤が続ける言葉の続きを、雪はよく覚えていない。
彼が去り際、「とにかく、アイツ俺と年近いくせに何でああなのか分からんな」と言っていたくらいーー‥。


雪の心は表情と共にフリーズしてしまったかのようだった。
その後授業を受けたものの、その内容は恐ろしい程サッパリ忘れてしまった。
「雪ねぇ~」

気がつけば、腕の中に小西恵が居た。
恵は雪に抱きつきながら、彼女のお姉さん的存在に甘える。
「あたし一睡も出来なかったよぉ~課題したり勉強したりでぇ~~」

「大学は大変だぁ~」

恵は雪の腕の中で、すりすりと頬や頭を摺り寄せた。
雪はそんな恵の頭を撫でながら、彼女が抱える重荷を痛いほど共感する。
(雪の目の下もクマで真っ黒だ)
「そうでしょそうでしょ‥」

けれど辛い状況ながら、どこか満足そうに見える恵。
彼女は腕の中で、束の間の安息に身を委ねている。

そんな恵の姿を見ている内に、抱えていたモヤモヤが、
雪も束の間吹き飛んでいく気がした。

雪は温かな気持ちで、ギュッと恵を抱き締める。
恵

恵は嬉しそうに「へへ~」と声を出した。
雪の脳裏には、こちらを見てニコニコ笑っている幼き恵の姿が浮かぶ。
この子があんな子供だったのが、昨日のことみたいに感じる

けどこんなにも早く大学に馴染んでるなんて

雪は恵の頭を撫でながら、誇らしい気持ちが湧き上がるのを感じた。
いつだってハッキリして、芯の強い子

そしてそれと同時に思うのは、今の自分はどうなのかということだ。
私は‥

すると突然、恵がバッと身体を離した。
「あ、そうだ雪ねぇ!」

「蓮が大学に来たみたいなんだけど、会わずに帰っちゃったみたいなの」


恵の口から出た蓮の名を聞いて、雪は心の中にある気掛かりだったことを思い出す。
しかし恵は蓮の行動の真意が気になって、それどころではないようだ。
「どーしたのかなぁ?もしかして店で何かあったとかじゃないよね?!おじちゃんが病気だとか‥」
「ううん、何も無いよ」


心に引っ掛かっていたそれを、口に出す時が来たのかもしれない。
雪は暫しの時を置いた後、とうとうそれを切り出した。
「恵」

「ん?」「うん‥」

それでもちょっと、自分を見つめるその無垢な瞳を前にすると、気持ちが若干怯んだ。
雪は苦い気持ちを押しながら、ポツリとこう口に出す。

「もう蓮とあんまり会うなって言うのは、
恵にとって失礼なことだっていうのはよく分かってるけど‥」

「蓮とアンタのためにも‥
私は、蓮がアメリカに戻って無事卒業出来れば一番良いって思うんだけど」

「恵はどう思う‥?」


恵はその大きな瞳を、雪の切れ長の瞳に向けながらその話を聞いた。
恵の心の中にも引っ掛かっていたその問題が、だんだんとあるべき方向へ転がり出していく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<芯>でした。
雪ちゃん、遠藤さんに「学科長の元へ訪ねて行く人がいるかもしれない。その時は教えて下さい」と頼みごとをしていたんですね~。
ただその描写が無かったので、若干戸惑った私です‥。そこまで手を回していたとは‥

そして恵にとうとう切り出しましたね、雪ちゃん。
蓮はアメリカ戻るべきだと恵が言うのが一番効果ありますからね~。さぁどうなるか‥。
次回は<涙の理由>です。
☆ご注意☆
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