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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

笑顔の向こう側

2014-04-07 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)
キ~ス!キ~ス!



雪と淳は、四年男子達による「キスコール」を受けて固まっていた。

いつか止むかと思って雪はその時を待っていたが、一向におさまらない。彼女は遂に声を上げた。

「あ~もう!何でそうなるんですか!やめて下さいっ!!」



しかし彼らは止まらない。健太においてはサムズアップをしながら、尚も絡んでくるのだ。

「な~んだよぉ!経営学科最強カップルの情事を見せてくれよ~!」



雪はドン引きしながら、なぜ敢えてこんなところでしなくてはならないんだと言い続けた。

しかし彼らもしつこく、雪の抗議などまるで気にせず絡んでくる。

「おいおいこのまま逃げ出すのか~?」「空気読め~!」

「いや、だから何でこんな人前で‥



雪がそう言って再び拒絶しようとした矢先、隣に座っていた淳が言ってのけた。

「良いですよ?」



何でもないことのようにサラリと口にする彼に、雪は思わず耳を疑った。

「はいぃ?!」



突然の彼の了承に、雪は動揺しまくった。

しかし淳は笑顔を浮かべると、まずは柳を指差し、そして健太を指差した。



「こちらと、そしてこちら」

 

柳と健太がキョトンとした表情を浮かべる。

淳は二人を見てニッコリと笑うと、こう言ってのけた。

「二人がするんなら俺らもします」



ハハハハ、と淳は大きな口を開けて笑った。

柳と健太は顔を引き攣らせ、おまけに淳が「他のお二方も構いませんね?」と更に言うので、

彼らのテンションは大幅にダウンした‥。



そして改めて淳は微笑みを浮かべると、皆の気持ちを代弁するかのように、

「嫌でしょう?」と口にした。



淳は彼らからの理不尽な要求に対して、正攻法で突破する。

「今はすごく酒臭いでしょうし、雪ちゃんもこのようにすごく嫌がっているのでやめましょうよ。

男の先輩達が寄ってたかって女の子の後輩をからかうのは、ちょっといただけないですしね」




柔らかな拒絶。それは淳が最も得意とするところだった。

案の定淳の言葉は彼らの中に入り込み、健太も唇を尖らせながらも頷いた。

「まぁ‥俺だって別に赤山を困らせようとしてるわけじゃ‥」



「はいオシマイオシマイ~。メシ食お!」



柳が軽い調子で、少し固くなった空気を盛り上げる。そして彼らの、いつもの飲み会風景が繰り広げられた。

先ほどのキスの言い出しっぺが、身体をさすりながら淳に向かって口を開く。

「うおぉ~!なんかオレ鳥肌立っちゃった!

すげー鉄壁のガード!彼女出来たらこうなるのか?!」




そう言った彼に淳はニッコリと微笑みを浮かべ、鉄壁のガードを再び見せる。

四年間かぶり続けた、鉄壁の笑顔の仮面。



そして一同は、その笑みを向けられた彼を始め、皆一様に笑い出した。

「うわ~見てらんねー!」「おまいらもう結婚しちまえw!」



彼らは雪と淳を理想的なカップルだとはやし立て、ワイワイと二人を囲んで盛り上がった。

酒がすすみ、ご飯がすすみ、話も弾んでいった。



しかし健太は、皆と同じようには笑えないでいた。

どこか未消化でモヤモヤとしたものが、胸の中を揺蕩っているのだ。



ふと淳と目が合った。

健太はそのまま見つめ続けたが、淳はその視線をフッと逸らす。



健太の脳裏に、先ほどの淳の台詞が浮かんで来た。

本気でそう思ってますか?



どこか胡散臭い不信なものを、健太はその野生の勘で感じ取っていた。

淳の浮かべる笑顔の向こう側に隠された、その本性をほのかに感じて‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<笑顔の向こう側>でした。

「二人がするんなら僕らもします」ナハハハ‥



理不尽な要求に対して、理不尽な要求で返す‥(倍返しだ!)

さすがの青田先輩でした。


そして言わせていただきたい、柳ファンからの一言を!

前回の細かい萌えコマ↓



ここの柳にご注目下さい。同席せざるを得ない状況になって、柳が淳に「大丈夫?」と聞いてます。

ここの気遣い!萌ポイント1

*追記*

CitTさんのコメより、ここは「大丈夫?(気遣い)」ではなく「大丈夫だよね?(強制)」ということが発覚致しました‥。

柳‥!厚かましい‥!涙



そして今回のこの萌えコマ↓

「はいオシマイオシマイ!メシ食お!」



淳が作り出した少し固くなった空気を、おちゃらけて軽くするこの気遣い!萌ポイント2


ということで、柳と淳のコンビってバランスいいんですよね。

いつもちゃらけてるけど大事なとこで気が使える柳のことは、淳もそれなりに信頼してるんじゃないかと思います。

以前淳のモノローグで「おかしいのは自分たちの方じゃないのか」というコマで、柳出てきてないですし。。




‥久々に柳に萌えたので熱くなってしまいました(笑)すいません^^;


次回は<静かなところへ>です。




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騒がしい宴会

2014-04-06 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)
「うぉ~!これはこれは、我が経営学科の首席次席カップルではないか~!」



柳瀬健太は、そう言って雪と淳の座っているテーブルへと近寄ってきた。

彼の後ろには、ゾロゾロと見慣れた顔が並んでいる。

「よぉ淳!」「赤山ちゃ~ん!」



突然の彼らの乱入に、雪は驚き淳は目を丸くする。

しかしそんな二人の様子など気にすることなく、

健太を始めとする経営学科の四年男達はワイワイと二人を取り囲んだ。

「こんばんは」「おお!俺らもここ座んぞ?」

「四年男子会ってか~」



結局彼らは雪と淳と同席することにして、席を作り始めた。

健太は「淳の送別会も兼ねてな!」と言うが、

雪は「青田先輩だけがインターンに行くわけでもないのに‥」と不服そうだ。



そんな中、淳はテキパキと動き既に健太達の席を作って用意していた。

そのスマートな振る舞いに、健太は終始ゴキゲンである。

「どうぞこちらへ」「オッケ~オッケ~!さすが青田だな!」



そして何が何やら分からぬ内に、テーブルでは騒がしい宴会がスタートしていた。

雪と淳が頼んでいた酒に、遠慮なく健太や他の男達が手を伸ばす。

雪は彼らのその厚かましさに、言葉も出なかった。



ワナワナしている雪だったが、健太はまるで構わずに彼女に向かって焼酎を差し出した。

「そういえば、赤山に祝杯の一杯もあげてなかったよな!ひとまず駆け付け一杯!」



カップル記念にかこつけて、健太は雪に酒をすすめた。突然差し出されたグラスに雪は戸惑ったが、

健太は先輩の権限を使って強要してくる。

「先輩の言うことがきけないか~?」



雪は遂にグラスを受け取ると、そのなみなみと注がれた焼酎を見て様々な心配事が浮かんでくるのを感じた。

このお酒強いんだよなぁ‥。先輩も飲んだら運転出来ないし、家も遠いし‥。

とにかくこの人達の前で醜態を晒すことだけは避けたい‥けど、ここで断ったら場がしらけちゃうし‥うう‥




モヤモヤ考えていた雪だったが、次の瞬間その心配事も終わりとなった。

隣に座る淳が、雪の持っているグラスを取り上げたのだ。

「ちょうだい。雪は酒に弱いんです。俺が代わりに飲みますから」



淳はそう言って、グラスに入った焼酎を勢い良く飲み干した。

おおっ、と周りからはどよめきが起こる。



雪は何も言えないまま、唇を拭う彼を見ていた。

心の中に、こそばゆい感情が芽生えていく。





皆は彼女の代わりに酒を飲んだ淳をはやし立て、ワイワイと騒いでいた。

彼は皆から見えない角度に顔を向けると、深く一つ息を吐く。

雪が座っている位置からはそれが見えた。

 

それから皆が雪に酒をすすめる度、それを取り上げて淳が飲む、ということを繰り返した。

彼らが騒がしく笑う傍らで溜息を吐く淳を見て、雪は申し訳ない気持ちでいっぱいだ‥。








そして雪と淳を囲む彼らは、賑やかに食べて飲んでと楽しんだ。

四年生の彼らが口にする話題は、決まって就職の話や卒業の話だった。

彼らの内の一人は卒業試験の追試が決まったと言って嘆き、続けて淳に話題を振った。

「淳は追試なんて無いんだろ?」



その質問に、淳の代わりに健太が答える。

「ウハハ!コイツが追試なわけねーじゃねーか!

お前大学四年間楽しかっただろー?なーんも問題無くて~優秀でよぉ~!」




健太は酒が入って良い気分なのか上機嫌だった。

大口を開けて笑う彼だが、淳はその問いに対して冷静に口を開く。

「まさか。俺は疲れましたよ。大学生活の間中、ずっと疲れていました」



彼は酔いが顔に出ないが、確実に酒が回っていた。

そのため普段ならピタリと閉じた心の扉の蝶番が緩み、そこから本音が漏れ出していた。

「そろそろ限界が来ていたので、インターンに行くことになってラッキーです。

卒業まではなんとか我慢できると思います」




雪は淡々と語る彼の指先が、小さく動いているのに目に留めた。

トントントンと聞こえる、規則的なそのリズム。



それは雪の他は誰も気が付かなかったのだが、

彼女の耳だけはそこから生まれる小さな音を拾っていた‥。




そして期せずして淳の本音を聞くことになった健太は、

今日噂になった横山との一悶着が原因だと踏んで己の意見を述べた。

「アイツはまだ未熟者だからよぉ、お前のその大きな器で許してやってくれよ。

去年も何かと分かってやったじゃねーか」




淳は健太の横山への憐憫を誘うような発言に、「別に気にしていません」と淡々と答えた。

それを聞いた健太は腕組みをして肩を竦めると、呆れたような表情を浮かべこう言った。

「とにかくあのマヌケ野郎、何であんなことしたのかさっぱりだぜ。

罪の無い淳を困らせて‥」




しかし健太が最後まで言い終わる前に、淳は真っ直ぐ彼を見つめて口を開いた。

「本気でそう思ってますか?」



「へっ?」



突如淳の問いを受けた健太は、油断していた喉元にナイフを突きつけられた気持ちがした。背筋がヒヤッとする。

しかし次の瞬間、淳はニコッといつもの微笑みを浮かべると、

「ありがたいです」と言って鋭利な雰囲気を捨てた。



健太はどこか釈然としない気持ちのまま沈黙した。

先ほど淳が口にした本音といい、不意に見せた鋭い雰囲気といい、何かおかしい気がするが、

それをはっきりとした言葉には出来なかった‥。







そして雪は、再び小さく動いている淳の指先に目を留め、一人思案していた。

先ほど彼と大学構内で待ち合わせをしていた時も、淳は足先を同じように規則的に動かしていた‥。



雪は俯いた彼の横顔を見つめながら、その行動の意味を推し量っていた。

何か不満や不安のようなものがあるのかな‥



自身の心の内を、淳が語ることは少なかった。彼の本音はなかなか引き出せない。

雪自身も、自分の気持ちを打ち明けることは得意じゃない。

だからこそ、今心の扉の鍵が緩くなった彼が出す小さなSOSを、雪はその鋭敏な精神で汲み取っているのだ‥。


「おいおい~彼氏に釘付けかよ!イケメンだもんなぁ~!」

「赤山ってば今まで誰にも見向きもしなかったのに、実は面食いだったんだなー」

「えぇ?違‥」



気がついたら、淳のことを見つめて随分と時間が経っていた。

雪の視線を辿った彼らは、その熱い眼差しをからかって笑い始める。



そしていつしか話題は、雪と淳がどうやって付き合い始めたかという方向へと転がり出した。

夏休みのバイトで‥と雪は答えるが、そんなつまらない始まりのわけないと言って先輩達は聞く耳も持たない。

「ちょっとくらいなら大丈夫だろ?」



そう言って柳はカップル記念の祝杯を雪に渡そうとするが、やはり淳がそれを取り上げ、一気した。

これには柳も開いた口が塞がらない。

「んだよ~赤山は淳の管理下だな!淳タンかわいいよ淳タン!」

「やってらんね~!青田キモい~w!」



はやし立てる彼らの真ん中で、雪は照れくさい気持ちで首を掻いた。

何だかんだ言って、まだ一杯もお酒を口にしていない。淳が全部飲んでくれているのだ。

「なぁ!カップルなら皆の前でキスくらい見せてくれてもいんじゃないの?!」



そんな中、彼らの内の一人がとんでもないことを言い出した。

目を剥いた雪とキョトンとした淳の元に、ドドッと皆が押し寄せる。

「おお!そうだそうだ!やれやれー!」「カップル承認式しなくちゃなー!」



そう口々に言う一同は、興奮しながら目をランランと輝かしている。雪は動揺の最中、赤面しながら必死で抵抗した。

「はぁ?!いきなり何を言い出すんですか!止めて下さい‥!」



しかしそんな二人に柳からコールがかかる。

「キ~ス」



タン、タン、と柳がコールに合わせて手を叩くと、皆もそれに合わせてコールを始めた。

キ~ス!キ~ス!



雪と淳の周りに野太い声が響いた。

名づけて「キスコール」。二人は目を見開いた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<騒がしい宴会>でした。

健太先輩、それパワハラです‥orz

韓国の飲み会は未だイッキが主流なのでしょうか?お酒が弱い人には辛いですよね‥。

こんな飲み会を何度も経験し、酔っ払った健太を介抱し、その上食事代を払ってきた淳に同情します‥。


しかし今回萌えました‥あぁ、淳先輩!!イケメン!!




次回は<笑顔の向こう側>です。


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彼の気付かぬ彼女の悩み

2014-04-05 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)
雪は清水香織が気になる理由を、少し気まずそうに話し始めた。

「その‥あの子が‥私が失くしたライオン人形を持ってて‥」



それを聞いた淳は一旦キョトンとした表情を浮かべたが、

「ただ単に同じもの持ってたんじゃない?」と単純に思うところをコメントした。



この男は‥

雪は首を横に振りながら、今度は彼女が思うところを口にする。

「香織ちゃんに聞いてみたら、あの子も先輩が買ったあの店で買ったと言うんです。

でもお店で聞いたら、もうあの人形は生産中止になったって‥」




雪は話す内に、「ライオン人形盗難事件」を推理する探偵のような気分になった。

「なぜならあの子が初めてライオン人形を見た時‥」



鷹の目のお雪は鋭い眼光で事件を論じるが、ふと気がついてその口を噤んだ。

証拠も無いのにこれ以上は‥と口ごもると、淳は首を横に振って続きを促す。

「いや、俺達で話す分には構わないよ。

それに状況から見たら雪ちゃんがそう思うのも当然だと思う」




淳がそう言うので、雪はここ最近清水香織に関して感じていたことを彼に全部話した。

服、靴、鞄、髪型や雰囲気に至るまで、執拗に真似されている気がするということを。



そして香織が自身を真似しているということは聡美も認めている事実であり、

自身の癖である”考え過ぎ”ではないと思っている雪だが、やはり自分の口からこういったことを語ると、

きまり悪くて堪らない。

「え? あの子が雪ちゃんの真似を?」



おまけに彼が改めてそのことを口に出すものだから、雪は思わず赤面してしまう。

しかし顔を上げて淳を見てみると、その表情は本気で驚いているように思えた。

「あの‥もしかして先輩、全く気づいてなかったですか‥?」



雪がそう問うと、淳は記憶を巡らすように天を仰いだ後、首を傾げてこう言った。

「さぁ‥? 全然気づかなかったけど‥?」



キョトンとしたその顔を前にして、雪は拍子抜けした。

「ちょっとは似てると思うでしょ?」と続けて聞いてみても、淳は首を傾げるだけだった。



「君ら二人、全然似てないけどなぁ‥。ごめん、何を真似てるのか全く分からない」



雪は本当に何も気づいてなかった淳に、野暮だとは思ったが詳しく説明した。

「あ‥ホラ、服とか‥」「同じ服を着てることは無かったと思うけど‥それなら覚えてるはずだし」



「同じ服じゃなくて、似た服です‥」「あ、そうなの?」

二人の会話は思うように噛み合わない。淳は申し訳無さそうに頭を掻きながら、あくまで前向きな言葉を口にする。

「あ‥今度一度詳しく見てみるよ。実は女の子の服ってみんな同じに見えちゃって‥」



そう口にする淳に、雪は手の平と首を横に振って見せた。

わざわざそんなことする必要は無いです、と言って。

 

二人の間には微妙な空気が流れた。気まずそうに笑う淳と、彼をジットリとした視線で見つめる雪‥。

実のところ雪は、先輩が香織のことを褒めたことも気に食わなかった。

あの子の課題がよく出来ていて良かったですねと、皮肉を込めて彼を責める。



淳は自分の不用意な一言で雪を怒らせてしまったと思い、平謝りだった。

「そうだよね、嫌なこともあるよね、ウン‥」



苦笑いでフォローを続ける淳だが、雪は気に入らず言葉を返す。

「別にただ闇雲に嫌っているわけじゃないです!あの子が私のそれを~!

その何かをやたらめったら~!」




モヤモヤとした感情を発散するように、雪は大仰なジェスチャーで気持ちを吐露した。

そのどこかコミカルな動きに、淳は「分かったから」と言って少し笑う。

彼女が少し落ち着いた後、淳は改めて雪に言葉を掛けた。

「とにかく本当にもうライオンの人形のことは気にしないで。

俺が今度もっと良いものを買ってあげるから」




そう言って微笑んだ淳であったが、雪はそんな彼を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。

「え?でも‥そういうのって、金額が問題じゃないでしょう?」



雪はライオン人形そのものを惜しんで、ここまでこだわっているのではなかった。

プレゼントというものは、くれた人の気持ちがこもった大事なものだ。

雪はその気持ちを、大切にしているのだった。




淳は目を丸くして、今彼女が口にした言葉を聞いていた。

脳裏には、必死にあの人形を探していた彼女の姿が蘇る。



そして幼い頃、大事にしていた母親の額縁を譲れと言った時の父親の顔も、その言葉も。

お前が欲しいものならこの家に全部あるだろう?

なのにあんな取るに足らないものにいらぬ我を張って、一体何になる?








そんなことを、淳はぼんやりと思い出していた。

淳は目を閉じ、ゆっくりと頷きながら、彼女に心から同意した。

「‥そうだね。雪ちゃんの言う通りだ」



彼女はいつだって彼に、”それでいいんだ”と思わせてくれる。

彼が抱え込んできたものや、飲み込んで報われなかった素直な気持ちをすくって、癒してくれる。

彼女は彼の思う唯一の理解者であり、魂の共有者なのだ‥。







雪は目の前の彼を見つめながら、その心の奥底に揺蕩う思いをほのかに感じたような気がした。

それが何なのか、どういう意味を持つのかは分からなかったけれど。


すると静かにテーブルを囲む二人の背後から、彼らを呼ぶ声がした。

二人が振り返ると、そこにはあの人が立っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女の悩み>でした。

前回に引き続き今回も出ました、ぽんやりした淳さん‥。



なんだか癒されます^^


そして淳が「雪と香織、どこが似ているのか分からない」というのは妙に納得でした。

きっと先輩が”他人に全く関心がない”ということを表しているんでしょう。

(「先輩ったら雪ちゃんしか見えてないのね」というノロケテロだったら良かったですが)

雪ちゃんに気づくまで、周りは顔のない人ばかりだったですもんね。無理もないのかもしれません。




次回は<騒がしい宴会>です。


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厄介な不安要素

2014-04-04 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)


二人が店に入る頃には既に日も暮れていたが、まだ夜には早い時刻だった。

開店早々の居酒屋の席についた二人は、焼酎と焼肉で乾杯する。



酒の入ったグラスを手に、雪は酔っぱらい過ぎないようにと己を戒めた。

以前彼の前で犯した失態を思い出しながら‥。




淳はネクタイを緩め首を回すと、深く息を吐いた。

今日一日の疲れが、どっと押し寄せてくるような気持ちがする。



周りを見回すと、開店して間もないせいか自分達以外には客も少なかった。

淳はそのことを喜び、雪に向かってポツリと呟くように言った。

「静かだね」



雪は言葉通りにその意味を受け取り、

「そうですね!私達が早く来たから‥」と続ける。



淳は雪の言葉に頷き、疲れの見える表情で呟いた。

「騒がしくなくて良いね‥」



雪はそんな彼を見つめながら、その言葉に含まれた彼の疲弊を推し量る。

沈黙が二人を包み込み、彼女の眼差しが彼に注がれる。



何考えてるんだろう、と雪は目の前の彼を眺めながら思う。

ふと彼の手に目を留めると、それは一定のリズムを刻みながら動いていた。

トン、トン、トンと、指先から小さな音がする。



雪は頬杖をつくと、彼を見つめて息を吐いた。

付き合い始めて二ヶ月ちょっとか‥。まだ先輩の本音はよく分からないな‥。



いつも目にする彼の顔とは、たまに違った一面が見える時がある。

今の彼もそうであり、そしてそんな時の彼は決まって黙り込んでしまっている。



いつも人から”考え過ぎ”と言われる雪だが、雪本人は先輩の方こそ、その傾向が強いと感じていた。良い意味でも悪い意味でも。

そんな性質の人間がふと見せる疲弊の表情を、雪はどこか見知ったものに感じて複雑な気持ちがする‥。



暫し沈黙していた二人であったが、不意に雪が昼間耳にした噂の事を思い出し、彼に話しかけた。

「あ、そうだ!今日横山の奴が変なことしでかしたんですって?

先輩大丈夫でした? もう皆大騒ぎでしたよ!」




横山の事を口に出した雪を前にして、淳はハッと息を呑んだ。

手に余った不安要素に、彼女が近づいていく。

「ったくアイツは‥。ただでさえ最近先輩お疲れに見えるのにー‥」

「雪ちゃん」



淳は雪の言葉を遮るようにして、その名を呼んだ。それ以上この話題に近づくのを拒む為だ。

雪は自分の話を切られたことを感じて少しイラッとしたのだが、彼は気に留めず自分から話を始めた。

「俺、インターンに行くだろう?」

「ですね!先輩なら上手くいきますって!」



今度は雪が淳の言葉に被るようにして口を開く。

しかし淳は気にせず、尚も話を続けた。

「だから、気を引き締めて学生生活を送らなくちゃいけないよ?」



「俺はいないんだから、皆にもより一層気をつけて‥」

そう淳は言葉を続けるが、雪には何のことかまるで分からなかった。

サムズアップのポーズのまま、疑問符を飛ばして固まっている。



どうしたんですか、と聞きながら雪は酒の入ったグラスを持ち上げ、首を傾げた。

思ったより焼酎のアルコール度数が高く、彼が早くも酔っ払ってしまったのかと。



しかし淳はしっかりとした手つきで、雪の持ったグラスに手を伸ばした。

そしてそれを引き取ると、雪の目を見て尚も言葉を続ける。

「横山のことにしてもそうだ。雪ちゃんが気になってることって、意外に多いんじゃないの?」



そう言われて、雪はハタと気がついた。

脳裏に浮かぶのは、横山と同率一位で気になる存在、清水香織だ。



そして雪は彼女の名を口に出した。

「そうだ‥!清水香織‥!」



淳は思いもよらない人物の名前が飛び出したので、不思議そうな顔をしている。

「‥清水香織?それって俺らのグループに居るあの子?」



しかも淳は清水香織と聞いて、すぐにはそれが誰なのか分からない様子だった。

雪は言いづらそうにしながらも、なぜ香織が気になるかを話し出そうとする。

「はい‥最近ちょっとあの子に関して気になることがあって‥」



そうなんだ、と言いながら淳は雪と香織の接点について思いを巡らし、記憶を辿ってみた。

そして先学期のグループワークで二人が同じ班だったことを思い出し、合点がいったという顔をする。

「‥ああ、あの子が先学期君と同じグループだった時、上手く発表出来なかったこともあったね。

けど今回はよく出来ていたのになぁ」




淳は先日香織から送られてきたグループ課題の彼女のパートが、割りとよく出来ていたことを口に出した。

雪はそんな要らぬ情報を受け取って、ギリギリと歯噛みしながら悔しがる。

「なんで私の時はあんなことに‥!ぐぬぬ‥!」



露骨に顔を顰めた雪に、淳は思わず苦笑いだ。

「今回の科目が清水に合っていたのかもよ」と言ってフォローする。

雪は溜息を吐きながら、両手を重ね合わせて口を開く。

「いえ‥あの子の課題がよく出来てるか出来てないかは問題じゃないんですよ‥」



どうせ過ぎたことだし、と付け加える雪に、淳が「じゃあなんで?」と言って続きを促す。

雪はきまりの悪い気持ちを押して、彼に誤解を与えぬように慎重に言葉を選び、口を開いた‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<厄介な不安要素>でした。

淳さん、おつかれデスネ‥。でも疲れを押して彼女に肉を焼いてあげる姿は萌えです。



というか、さっき柳達と焼肉行って無かったっけ‥??


次回は<彼の気付かぬ彼女の悩み>です。


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疲弊の中で

2014-04-03 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)


秋の日は時刻と共に傾き、黄や茶に染まる葉に黄金色の光を浴びせゆく。

青田淳は同期や後輩に囲まれながら、食事を済ませた店を後にするところだった。



全員分の食事代は彼が持った。

チヤホヤと彼を褒めそやす顔の無い人々の間で、淳は笑っていた。



皆はその足で、もう一度大学へと戻った。

夕方の講義に出るためだ。



傾いていく日に照らされながら、行列のようにぞろぞろと歩く。

つまらない、何も実のない話をしながら。



大学に戻り講義が始まると、満腹のせいか皆気怠げに授業を受けた。

しかし淳はいつも通りの集中力で、真面目に教授の話を聞き、ノートを取った。

大学生活が、徐々に幕を閉じていく。



講義が終わると、皆一様に淳を激励して行った。

インターン頑張れよと肩を叩かれ、淳は微笑んでそれに応える。

そして淳は一人、雪との待ち合わせ場所へと向かった。



外はすっかり夕焼けで、キャンパスは橙の陽射しをまとって長い影を作っていた。

通い慣れたキャンパスのこんな姿も、もう見納めであろう。



淳は待ち合わせ場所にて、腕を組み木に凭れて佇んでいた。

外に居ると色々な音が聴こえてくる。

学生達の話し声、カラスの鳴き声、車の行き交う音‥。



しかし次第に淳の周りには、静寂が広がっていく。

日が傾くにつれ冷えていく空気の中で、淳の耳には己が出す音しか届かなくなる。



無意識の内に淳は、一定のリズムで足をトントンと鳴らしていた。

それは疲弊や孤独を感じた時の、独特の彼の癖。

心の音に似ているもの。



その音を聞いている内に、彼の周りは住み慣れた暗闇になった。

馴染みあるその空間は、彼が彼らしく居られる場所。



今日一日はまさに、彼の学生生活の縮図のような一日だった。





通常通り大学に通う最後の日。

自分の唯一の理解者に慰められ、癒され、彼女の中に自分を埋めた。

ただ平和に、ただ静かに、淳は過ごしていたかった。

それが唯一の願いなのに。



周りにはいつだって、彼を貶めようと機会を狙う輩がひしめいている。

しかし常に彼らの考え方は凡庸で、その手口は粗末で、彼の想定内を出ることなく終わる。

馬鹿みたいに自分で自分の首を締めて。



恒常的で退屈な日々、募っていく倦怠感‥。

顔のない人々の中で、見せかけの笑顔を浮かべるだけの毎日。



それが彼の学生生活の全てだった。

キャンパスライフが終わるその日、四年間に渡って繰り返し積み上げてきた疲弊をなぞって、

彼はその虚しさを知る。



トン、トン、トン。

規則的で孤独な音がする。

彼はその一定のリズムに身を任せ、疲弊の中へと沈み込んでいく‥。






「先輩!」



不意に声を掛けられた淳は、ハッとして顔を上げた。

自己の奥深くまで入り込んでいた意識を引き戻し、声のする方を向く。



彼女は手を上げ微笑みながら、こちらへ駆け寄ってくるところだった。

息を切らせて淳の前に立った雪は、携帯の時刻を見て幾分慌てた。



終わってすぐ駆けつけたのに、と言って息を乱す。

そして雪は、彼の顔を見上げた。

「結構待ちました?」



息を切らせて、汗をかいて、彼女は今淳の目の前に居た。

その瞳は澄んでいた。いつも淳の周りを取り囲む連中が宿す打算のようなものは、一つも見えなかった。





先ほどの横山翔の脅し文句が、鼓膜の裏側に響く。

俺が貴様の本当の姿を、あいつに全部バラしてやる‥!



横山への対処はかねてからの想定通り完璧なものだったが、そこに雪が絡むと淳の目論みも綻んだ。

それは予測不可能の感情から派生した、自分の手には負えない未来だった。

漠然と広がっていく不安が、胸の中で膨らんでいた。

自分に背を向ける彼女の姿が、想像の中で何度も浮かんで消えた‥。






「いや、行こう」



だからこそ、今雪の目に不信が見えなかったことが、淳には嬉しかった。

彼女の笑顔を目にして、孤独に沈み疲弊に埋もれた、今までの自分が救われるような気持ちがした。


そして二人は連れ立って歩き出した。

通い慣れた大学の構内を、手をつないで。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<疲弊の中で>でした。

淳の(通常どおり通う)キャンパスライフが終る日という感じですね。

先輩、おつかれさまでした!でも雪との問題はまだまだ残ってると思いますが‥^^;


そしてそんな日なのにぼんやり淳さん‥




次回は<厄介な不安要素>です。

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