ダメージ、と呼ばれて振り返ると、すぐ傍に河村亮が佇んでいた。
石のように固まった雪だったが、次の瞬間何事もないような顔をすると、くるりとUターンをする。
「あ~~~~~~~っとさり気なく去るぅ‥」「何してんだ?」
冷静に入る亮のツッコミ。ダラダラと汗を流しながら、雪は思った。
そうだった‥大学で出くわす可能性もあるんじゃん!
えーっと、と尚も曖昧な言葉を口にしながら固まる雪。亮の方を向くことが出来ない。
そんな彼女の後ろ姿を見ながら、亮は気まずそうに頭を掻いた。
「ん‥」
背中に感じる亮の気配。
ジャリ、と雪に向かって一歩踏み出す音を、耳が拾う。
二人きりで会うのはまずいと、頭が言っている。
けれど急に態度を変えるのもおかしい、とも考える。理性と理性が、せめぎ合っていた。
雪は覚悟を決めると、ヘラッと笑いながら亮に向き直る。
「あの‥傷の方は‥」「なんだぁその顔?!マジでクソ色だぞ?!」「はぁ?」
クソ色って‥。雪は青筋を立てながら、亮に向かって口を開く。
「今の河村氏に言われる筋合いないですけど?!鏡見ます?」「は~?オレはこんなん一瞬で治るっつの」
「薬も塗ったしよ」
亮はそう言って、ポリポリと頬を掻いた。どうやら薬は無事亮の手に渡ったらしい。
ふ、と息をついた雪は、いつもの口調で彼を責め立てる。
「てか二人ともマジで何なんですか?!ガキなの?!アホなの?!」
「お‥男なら喧嘩の一つや二つ‥。
じゃあお前は喧嘩しねーってのか?!今回は見逃してくれって!」
そして亮はニヤリと笑うと、得意気になってこう言った。
「つーかよぉ、どっちが勝ったでしょ~か?!」「もう一回殴られたいですか?」
今にもパンチを繰り出しそうな表情の雪。
亮は「ちぇ。つまんね」と言いながらキャップを被り直す。
雪はそんな亮をじっと見ていた。
この人とどう接すべきかを考える理性と、自分はどうしたいかの感情の狭間で。
亮はいつもどおりだ。いつもどおり、飾らない態度で雪の前に居る。
つーか聞いて怒んなよ。オレの勝ち。マジでw
ふと、河村静香の声が甦った。
あたしの弟もゾッコンだしー
ぐっ、と思わず息が詰まる。
今日は、亮が自分を好いていると気づいてから、はじめての二人きりシチュエーションなのだ。
理性が自分に言い聞かせる。
距離を置くべきなのかもしれない。 おそらくそれが正しい。
だけど‥
脳裏に、思い出の数々が浮かんで来た。
塾でも、
下着泥棒の時も、
うちの家族が和解する時も手助けしてくれたこの人を、
そして、私以外に親しい友人も残っていなさそうなこの人を‥
私のこと好きらしいって‥仮定だけで見放すのはー‥
考えれば考える程、理性を働かせれば働かせる程、感情がそれにブレーキを掛ける。
浮かんで来るのは、忘れられない彼の泣き顔ー‥。
雪はその場に佇みながら、黙って下を向いていた。
一歩踏み出すことも、後退することも出来ないまま‥。
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<理性と感情>でした。
亮さんのイケメンっぷり‥!傷だらけでもかっこいいな‥。
そして雪ちゃんの律儀さが際立つ回でした。
亮の気持ちに気づいた以上、知らないふりは出来ないんですよねぇ。
ていうか、淳は亮の気持ちに気づいてるのか?私は実は気づいてないんじゃないかと思うんですが‥。
(淳を困らせるために雪に近付いてると未だに思ってるっぽい‥)
皆さんはどう思いますか~?
次回は<君だけは>です。
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