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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(11)ー三人の関係ー

2014-09-29 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>
「河村教授のお孫さん達は、あたし達の子供じゃないじゃない」



マグカップを持った淳は、ふと通りがかった部屋から漏れる、母親の声を聞いた。

父と母が言い争う声が、小さく開いたドアの隙間から聞こえてくる。

「いや、それでもあの子たちを放ってはおけないよ」

「‥あなたが考えてることはあたしには分からないけど、

これだけは覚えておいて頂戴」




母はそう前置きをしてから、一つ息を吸ってその言葉を口に出した。

「あの子達は、あたし達の家族じゃないわ」



淳はその場に佇みながら、二人の話を聞いていた。

まだ彼らは会話を続ける。

「淳はまだ子供なのに、もし混乱でもしたら‥」「何を言ってるんだ。もう18だぞ」



「それに淳は、私が思っていたより遥かにあの子達と上手くやっている。それには私も驚いているんだ‥」



まだ話し合いは続きそうな気配を見せていたが、淳はそれ以上聞く気にならなかった。

スタスタと廊下を歩きながら、乾いた気持ちでこう思う。

どっちの言い分を聞けっていうんだよ‥



親の庇護の元にいる以上、どちらかの意見に従わなければいけないのは分かっていた。

そして最終的に自分がどちらの言うことを聞かなければならぬのかの結論も、淳にはもう分かっている‥。






ここは良家子女が多く通うB高等学校。

そのピアノ室から、滑らかなピアノの音が漏れている。



淳は微かに微笑みながら、その鮮やかな音色を聴いていた。

視線の先には、気持ち良さそうに演奏をする河村亮の姿がある。



亮の好きな、そして淳も好きだと言ったシューベルトのピアノ曲。

微笑みながら聴く淳の隣では、静香が面白くなさそうな顔をして座っている。



幼い頃から共に育って来た三人が、今同じ空間で同じ音を聴いていた。

滑らかに流れるピアノの旋律が、その親しんだ空気の中に溶けている。



少し手持ち無沙汰な静香は、チラッと隣に座る彼の横顔に視線を流した。

淳は大人しく亮の演奏を聴いている。






開け放した窓から風が入って、ふわりとカーテンを柔らかく揺らしていた。

風は、微笑みながら聴く淳の前髪もサラサラと揺らす。



窓から零れる午後の木漏れ日を背景にする彼は、とても美しかった。

その横顔を見ている静香の胸を、切なく締め付ける程に。



やがて最後の小節を弾き終えた亮は、幾分ふざけながら二人の方を向いた。

「タラン、タン、ターン!」

 

そして自信満々な面持ちで、淳に対してこう発言した。

「どーよ?お前ん家にあるCDよりイケてんだろ?」



そして亮は得意気に、以前淳がシューベルトの曲の中でもこの「即興の瞬間」は好きだと言っていたから演奏したのだと言った。

「耳が浄化されるだろ?」と冗談を言う亮に、淳は素直に頷いて、静香は不満げに「フン」と息を吐き捨てる。



静香は意地悪い表情をしながら、亮に向かって皮肉を吐いた。

「”蝉の幼虫もクルクル回ることは得意”ってね。どんな人間にも一つくらい取り柄があるもんよ」

「お前も暴れまくってぶち壊す才能だけはあるもんな‥」



亮と静香にとって、こんな皮肉の言い合いは日常茶飯事だ。それを淳が笑って聞いている。

この三人の、日常の風景だ。

「あっ!そーだ!」



不意に亮が声を上げた。

亮は新聞を引っ掴むと、バタバタと淳の方へと駆けて来る。

「てかお前これ見た?」「何?」「◯◯!このピアニストが来日するっつー記事があったんだよ!」



亮は興奮しながら、新聞に載っているとあるピアニストのことについて話し出した。

「オレが生きてる間はこの人日本に来るわけねーって思ってたのによぉ!

ヨーロッパ以外のツアー回ったこともねぇしさぁ!マジすっげーだろ?!」




キャッキャッと亮ははしゃぎながら、とにかく嬉しそうな顔をする。淳はそんな亮を見て、フッと息をついた。

「なんだ、それで今日はそんなに機嫌が良いのか。頼んでないのにピアノも弾き出すし」

「ウケケケ~!あったりきよぉ!オレぜってー行くんだこれ!これから嵐のようにバイトするぜ」



ゴキゲンの亮はそう言いながら、淳と肩を組んだ。

「お前も一緒に行く?まぁお前が行かねーっつっても連れてくけど!」



そんな亮の姿を見て、静香が淳の腕を取る。

「ハン!笑わせんなっつーの。

淳ちゃん知ってる?そのコンサートがある日ってアイツコンクールがあんのよ」




静香の言葉に、淳は目を丸くして「えっ?本当?」と聞き返した。

亮が顔を顰めながら、静香に文句を言う。

「あーもう!ったくよぉ!まーたお前はムードぶち壊すなよな!

別にデカイ大会なわけじゃねーし、◯◯が来日するなんて二度とねーかもしんねー。

オレはぜってーそっち行くかんな!」


「あー!じゃあそれ会長に言いつけてやろ!」



ギャアギャアと騒ぐ姉弟の隣で、淳は一人その新聞記事を眺めている。

ふぅん、と息を吐きながら。

「てかさぁ淳ちゃん~」



すると不意に静香が淳の方を向き、甘い声を出しながら彼に腕を絡めた。

「学校終わったら一緒に‥」

「淳君!」



静香が言い終える前に、彼らの背後から高い声が掛かった。

三人が振り向くと、そこに一人の女の子が立っている。

「ここに居たのね」 



「あ、来たんだ」と淳が言うと、彼女はニコッと微笑んだ。

そして淳にこう声を掛ける。

「一緒にカフェテリア行こ!」



黒い髪と大きな瞳が美しい、淳の今の彼女だった。

淳はその提案に、微笑みながら頷く。そして彼女は亮の方へと向き直り、彼にも声を掛けた。

「亮君もこんにちは。やっぱりピアノ上手だね。廊下に居る時ちょっと聞こえたの」



亮は「おぉ」と返事をしながら、彼女に対して笑顔を見せる。

そして最後に彼女は、仏頂面の静香にも挨拶をした。

「あ‥こんにちは」



しかし静香はそれを無視した。そしてこの場の空気が凍り付かない前に、

淳が「お先に」と言って彼女と共にピアノ室を出る。



学校の後映画見に行かない? 

いいよ



カップルの会話を聞きながら、亮と静香はその後姿を見送った。

二人の声が聞こえなくなると、静香が息を吐きながらこう言う。

「リアルにムードぶち壊したのは誰だっつーの‥」

「今までアイツが付き合った子の中で、あの子がいっちばーん♪かわええ



彼女から挨拶された亮はゴキゲンだった。そんな弟を見て、静香は苛つきに顔を歪める。

「なーにがいっちばーんよ。デレデレしちゃって。「りょおくんもこんにちはぁ~」ってか?」

「もしかしてお前、また変なことやらかすんじゃ‥止めろよな」



亮は静香のそのイライラを目にして、一応忠告した。

また問題を起こすんじゃないかと推測して。

「はぁ?変なことぉ?」



静香は亮からの忠告に対して、キョトンとした顔をしてそう言った。

しかし静香はこのわずか数時間後に、”変なこと”をしでかしに先程の彼女の元へと向かう‥。



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<亮と静香>高校時代(11)ー三人の関係ーでした。

とうとう今週更新分の本家に手が掛かりました‥!

毎日更新もあと一日!どうぞお付き合い下さいませ。


さて‥前回淳の部屋に残されていたサイン入り楽譜。

そのピアニストがコンサートを行うという日は、亮のコンクールと同じ日‥。

何かきな臭いにおいがしてきましたね。

遂に亮の指事件に向かって物語が動き出すのでしょうか‥。


次回は<亮と静香>高校時代(12)ー二人の関係ーです。


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<亮と静香>高校時代(10)ー花火ー

2014-07-20 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>


夜の公園に、打ち上げ花火が上がる音が響いていた。

ヒュルルル‥と高い音が鳴ったかと思うと、花火はパッとその光の花を咲かせる。



公園の片隅で、亮と静香は花火に興じていた。淳は少し離れた場所に座って、そんな二人を眺めている。

喧嘩の後の高揚した気持ちが、彼等をいつもより少し陽気にさせていた。



しこたま買い込んだ花火が入った袋を見ながら、亮が「他のもやってみよーぜ」と違う種類の物を手に取る。

静香はクスクスと笑いながら、心からその時を楽しんでいるようだった。



淳はその中に入りはしなかったが、微かな笑みを浮かべてそんな二人の様子を見ていた。

殴られた頬はまだヒリヒリと痛んだが、どこか心地良い気怠さがあった。



亮はそんな淳の表情を見て、いつもの見せかけの笑顔ではないそれを認め、ふと笑顔になる。

互いに言葉は交わさなかったが、ある種の連帯感のようなものが、その時の三人にはあったのだった。




そのまま暫し亮と静香は花火を楽しんでいたが、とうとう淳が注意を口にした。

「こんなことしてたら警察来るぞ?音が小さいのにしろよ‥。

喧嘩までして、これが父さんの耳に入れば‥」




淳が口にしたのは、彼等のお守り役としての、いつもの小言だった。

言葉を続けようとした淳だったが、不意に亮が彼に向かって花火とライターを投げて寄越す。



目を丸くして淳はそれを受け取った。そしてそんな淳に対し、亮はこう言ったのだった。

「今まで沢山溜まってたんだろ?お前」



「全部スッキリ燃やしちまえよ」



そう言って、悪戯小僧のような表情で、亮は笑った。

淳はキョトンと目を丸くし、暫し亮の顔を見つめていた。



何も言えない淳の前で、亮と静香は花火を続ける。

三ついっぺんに火をつけようとする静香に、亮が笑いながら舌を出す。



淳は、亮から寄越されたその花火を、目を丸くしたままじっと見つめていた。

心に着込んでいた重い鎧が、カランと音を立てて不意に外れる。




「ぷはは!」



突然聞こえたその笑い声に、亮は目を剥いて振り返った。静香も目を丸くしている。

そこには、少年のように大きな口を開けて笑う、淳の姿があった。

「ははは!」



「はははは!」



淳の笑いは止まらなかった。

その笑顔は、心から愉しんで笑っているように見えた。

そんな淳を見て静香は、心の中に花が咲くような気持ちになる‥。




そして淳は、ライターで花火に火を点けた。

小さな心の声を漏らしながら。

「お前達が、本当に羨ましい」



「本当に‥」



淳が火を点けた花火は、チリチリと音を立てて小さく燃え始めた。

淳の吐露が、一筋上がる煙に混じり、空気に溶けて行く。

後ろでは静香が、騒がしい花火をやっていた。けれど亮は、小さなその淳の呟きの方が、心に強く響く気がした。

「そう‥どうだっていいんだよな」



「俺はなぜ足掻いて、肩肘張って‥。一体何のために‥」



パチパチと花火は燃えた。その一瞬の生命を全うするかのように、刹那の光の花を咲かせて。

淳はそんな眩い光を見つめながら、一人虚しそうに、笑った。

「はは‥」



花火の光に照らされた淳の横顔は、今にも消えてしまいそうに儚く、そしてどこか哀しかった。

亮は幼馴染みのそんな表情を、初めて目にした気がしていた。



それきり淳は何も言わず、ただ花火が燃えて光を撒き散らすのを眺めていた。

そして美しかったその光の花はいつしか燃え尽きて無くなり、

亮の記憶に残っていたその淡い記憶も、フィルムが途切れるように、プツンと切れて暗転した。





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<亮と静香>高校時代(10)ー花火ーでした。

切ない回でした‥(T T)

思い切り笑う淳の笑顔、花火に照らされる儚げなその横顔。

淳が抱えた闇と重荷を感じますね。

そして淳に対して以前は「ヘラヘラ笑ってばっか」という印象しか持っていなかった亮も、

この時からまた違う印象を持ったんじゃないでしょうか。

なかなか明かされない彼等の過去の中で、眩くも刹那的なエピソードでしたね‥。


さて次回からまた現代に話は戻ります。

<守りたいものは>です。

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<亮と静香>高校時代(9)ーAcross the lineー

2014-07-19 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>
「もう終わりか? あぁ?!」



暫し喧嘩に興じていた河村亮と岡村泰士+二人であったが、いつしか亮に軍配が上がっていた。

痛みに喘ぎ地面に転がる三人を、亮は傷だらけながらも見下ろしてそう口にしたのだった。

すると息を吹き返した一人が、「この野良犬野郎‥!」と再び亮に拳を振るおうとした。



しかし亮は彼を返り討ちにすると、地面に這いつくばるその男にニヤリと笑って言葉を返した。

「その野良犬に今日はやられちまえよ」



「オレはお前らみたいな奴らを、ガキの頃から飽きるほど殴ってきたんだよ」



そう口にする亮の眼の中に、憎しみの炎が燃えていた。

親が居ないと馬鹿にされる度に、異国の血が混じっていると中傷される度に、亮はこんな瞳をして攻撃して来たに違いない。

亮は転がる男を足で蹴りながら、ウサを晴らすように言葉を続けた。

「もう生きてる価値なくね?野良犬に殴られてよぉ。気分ワリィだろ?さっさとくたばっちまえよ」



するとそんな亮の後方で、泰士は地面に転がっている石に手を伸ばした。

左手でそれを掴むと、泰士は声を上げて後ろから亮に殴りかかる。

「このクソ‥!」



あわや流血事件、と思われた矢先、ストップが掛かった。

石を持った泰士の攻撃を、すんでのところで淳が止めたのだ。

「岡村、止めろ!」



淳によって泰士は石をその場に取り落とし、彼の苛立ちはMAXとなった。

泰士は恨みの篭った瞳で淳の方を振り返り、心のままに彼を攻撃する。

「クソッ‥!邪魔すんじゃねぇ!!」



泰士は仲裁に入った淳の頬を殴った。

するとそれを目にした亮はブチ切れ、思い切り彼に頭突きを食らわす。

「このクソがぁっ!!」



力の限りの亮の攻撃に、泰士はそのまま地面に倒れ込んだ。

殴られた箇所を擦る淳の瞳の奥に、蒼い炎が灯る。



亮は淳の方へと振り返ると、感情のままに怒鳴った。

「おい!お前戦う気ねーんなら入ってくんな!お前が殴られてどーすんだよ!」



淳は冷静な態度で地面に転がる三人を見下ろすと、諭すようにこう口にする。

「限度ってもんがあるだろ。皆いい加減にしろよ」



泰士が今しようとしていたことは、明らかに彼の思う限度を越していた。

だから今まで暫し静観していた淳も、これには黙っていられず飛び出して来たのだった。

すると泰士は、座ったままゲラゲラと馬鹿にしたように笑い出した。

「ったく泣かせるねぇ~!仲睦まじいですなぁ!

お前ら二人手と手を取り合って、アイドルオーディションでも受けに行ったらどうだ?どっちもカマみてーな顔しやがって」




その泰士の暴言に、再び亮は青筋を立てた。しかし言い返そうとするより早く、更に泰士は言葉を続ける。

「爺さんが教授だか何だか知らねーが、青田のヒモだからちょっと認められてるってだけで、

ピアノが無かったらお前なんてただのチンピラじゃねーか。ピアノがうめぇみてーだが、それがどうかしたか?

プロのピアニストじゃあるまいし、俺が生涯弾けないようにしてやろうか?!」




好き勝手口にする泰士に、亮は再び飛びかかろうとした。

しかしそんな亮の腕を淳は後ろからガッチリ掴み、「止めろって!」と制止する。



すると泰士は面白くなさそうに舌打ちし、今度は淳に向かって口を開いた。

「おい、一体理由は何だよ?お前は何の見返りがあってコイツのお守り役してんだ?

お前の家族は、お前がコイツのケツ拭いて回ってんの知ってんのか?

あんなご立派な家なのによぉ。親が泣くんじゃねー?」


 

その泰士の汚い言葉は、淳の心を正面から突き刺して来た。

扉の向こうに押し込めていたその醜い本心が、その言葉に呼応してぐらりと揺れる。



淳はまだ自覚してはいないが、おそらく泰士の口にした言葉と同じ様な感情を、心の奥に持っていた。

けれど泰士が思っているよりも、真実は更に芳しくなかった。なぜならば、今淳の置かれている状況は、

他でも無い父親が用意して来たものだからだ‥。


「おいっ!ほざくのもいい加減にー‥!」

亮は淳にまで口を出して来たことに腹を立て、再び攻撃しようと声を荒げた。

しかし次の瞬間、亮は目を見開いて固まった。泰士の後方に、世にも恐ろしい光景が見えたのだ。




バキッ!



なんとこの場に現れた河村静香が、鞄で泰士の後頭部を思い切り殴ったのだ。

「ぐあっ!何だ?!クッソ!なんで鞄がこんなにかてーんだよ!!」



静香は二回三回と攻撃を続け、頭を庇いながら泰士はそれに耐えた。

急展開する事態に、彼の仲間は呆然とし、亮は胸のすく思いでニヤリと笑った。

静香は狂気を孕んだ目をしながら、攻撃の手は緩めず冷笑を浮かべ、泰士に警告する。

「あんたら、一体誰に向かって吠えてんの?

あたしの弟と淳ちゃんに手ぇ出したら、殺すわよ?」




そう口にして泰士を殴り続ける静香の前に、見かねた亮が躍り出た。

「オ、オイ!もうこの辺にしとけ!一体鞄には何入ってんだよ‥!

んなことしたらマジで捕まるっつーの!」




そう言って静香を懐柔しようとした亮だが、次の瞬間背中に衝撃が走った。

泰士が思い切り亮の背中を蹴ったのだ。

「このキ◯ガイ野郎供ぉ!!」



そのまま亮は、静香もろとも地面に倒れ込んだ。

泰士は殴られた頬を擦りながら、「殺す気かっ!」と二人に向かって吠える。



倒れこんだまま、亮は泰士を睨んだ。

「この‥」



すると、突然泰士がその場から崩れ落ちた。

なんと淳が、後方から泰士の膝の裏に蹴りを入れたのだ。

ガッ!



そのまま地面へと倒れ込む泰士。

しかし淳は倒れることを許さなかった。泰士の首根っこを掴み、彼の自由を奪う。



淳が手を出す姿など、幼い頃から傍に居た二人ですら見たことが無かった。

亮と静香は目を丸くして、淳の行動に驚愕する。



淳は泰士の首根っこを掴みながら、一度ぐいっと彼を手元に引きつけた。

泰士がその恐ろしさに声を漏らしても、淳の表情は変わらない。



泰士の目の前には、先ほど彼が手にしていた大きな石があった。

淳はそこに向かって、首根っこを持った手を勢い良く振り上げるー‥。

「うわあああああああ!!!」










淳は、泰士の鼻先数センチのところでその手を止めた。

泰士の頬を伝う汗が、ぽたりと垂れるのがスローモーションのように見える。



そして淳は泰士に一言声を掛けた。

その表情は、氷の面のように冷たかった。

「止めろ」



線を越えた者には、それなりの報復が必要だった。

そして淳は境界ギリギリの所での報復を、見事やり遂げて見せたのだった。


淳はゆっくりと首根っこを掴んでいた手を離すと、その場で固まっている泰士を見下ろしながら立ち上がった。

泰士の仲間達は彼に駆け寄り、亮と静香は信じられないものでも見たかのような表情で淳を見つめる。



淳は亮に向かって彼の鞄を投げ渡すと、困ったような顔をしてこう言った。

「頼むからお前も止めてくれ」



手をはたきながらそう口にする淳は、いつもの青田淳だった。

その顔を見た亮は幾分心がほぐれたが、やはり先ほど目にした恐ろしい幼馴染みの表情が、脳裏を離れなかった‥。



そのまま淳達三人は、泰士達に背を向けて歩いて行った。

静香が嬉しそうに淳の腕に自分の腕を絡ませ、亮は少しぎこちないながらも、そんな二人の後を歩く。



泰士はギリギリと歯噛みしながら、亮に向かって「覚えてろ!」と声を上げた。

亮は「へいへい」と言いながら、後ろ手に手を振ってその場を後にしたのだった。





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<亮と静香>高校時代(9)ーAcross the lineー でした。

淳の報復、恐ろしい程でした。

泰士に向かってケリをいれる姿は、数年後の亮のスネを蹴った姿と重なります。

 

足長いな‥。


そして細かいクラブ~。誤植?



静香の膝のあたりに「??」が‥。これは泰士の台詞でしょうね。フキダシを忘れてしまったのかな‥^^;


さて過去編も次回がとりあえずの最後。

<亮と静香>高校時代(10)ー花火ー です。




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<亮と静香>高校時代(8)ー二匹の狂犬ー

2014-07-18 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>
「クッソ~!あのアマァーーーー!」



岡村泰士は激怒し、「あのクソビッチめ」と言ってゴミ箱を蹴っ飛ばした。

彼は河村静香に対して激怒しているのだった。

「あのアマ!俺の名前すらちゃんと覚えてねーじゃん!」



泰士の隣で友人達はヒソヒソと囁いた。どうやら河村静香から、ウザいからもう連絡するなと言われたらしいと。

「あの腐れビッチが‥。人を弄んで、結局俺を捨てやがって‥!どんだけ貢いだと思ってんだよ!」

 

泰士は涙まで流して悔しがっていたが、「分かっていたくせにどうして騙されるんだ」と友人達の反応は冷ややかだった。

静香が複数の男に良い顔をしては次々と捨てて行くのは、今や周知の事実だったからである。

しかし泰士の腹の虫はおさまらず、静香に対するあらん限りの罵詈雑言を口にし続けていた。

「マジ生まれながらのクズだよ、クズ。クソビッチ。もうあの顔で人を弄ばないように傷つけてやろーか」



するとその場に、河村亮と青田淳が偶然居合わせた。

目の前で繰り広げられる姉の悪口大会に、思わず亮は手が出そうになる。

「は? 何ビッチだって? あぁ?」



今にも泰士に飛び掛かりそうな亮を、後ろから淳が制止する。

泰士は先ほどの悪口を亮に聞かれたことに気がついたが、構わず言葉を続けた。

「んだよ、居たのかよ。お前、姉貴のことちゃんと監視してろよ。

教授の孫娘だってのに、あれじゃお先真っ暗じゃね?あんな乞食みてーなことしくさって‥」




その泰士の口の悪さに、亮はブチンと頭の後ろで何かがキレるのを感じた。声を荒げて言い返す。

「この負け犬野郎が!お前の方が縋り付いてたくせによぉ!

相手にされなかったからって、キャンキャン吠えてんじゃねーぞ!

ついて来いよ!今日オレがお前を棺桶に沈めてやんよ!」




そう言って駆け出そうとする亮を、淳はガッチリと掴んで離さない。

彼の名前を呼んで、厳しい口調で注意した。

「おい亮!噛み付くのは止めろ。毎回毎回何してんだ」



淳の目を見た亮は、思いとどまって動きを止めた。

泰士は亮に向かって中指を立てると、鋭い目つきで口を開く。

「お前も俺の弟いじめんじゃねーぞ、殺すかんなー」



亮が「黙れ」と返すと、泰士達一行は息を吐き捨ててそのまま行ってしまった。

亮は大きく息を吐いて、その後姿を苛立ちとともに見つめている‥。












その後、岡村泰士御一行は談笑しながら構内を歩いていた。

楽しそうに会話に興じる彼等は、遠くから自分達の方へ向かってくる足音に気がつかない。



先ほど歩いて来た方向から、河村亮が全速力で向かって来ていた。

それを追いかける淳は「ダメだって!」と声を上げるが、亮は止まらない。



そして淳が一層大きく「亮!」とその名を呼ぶ声に、

ようやく泰士は振り返った。



しかしその眼に亮の姿を映す前に、衝撃と共に世界が歪んだ。

バキッ!!



亮の飛び蹴りがクリティカルヒットした泰士は、その場から数メートル吹っ飛んだ。

「おいっ‥!」



泰士はそのまま地面に倒れ、攻撃を与えた亮もその場に尻餅をついた。

淳が亮に声を掛けるも、もう遅かった。



泰士は背中を押さえながら、痛みのあまり暫しその場から動けなかった。

仲間が彼の名を呼んでも、反応も出来ない。



すると亮は、泰士の方へツカツカと歩いて行ったと思うと、転がっているその男を足で踏んだ。

泰士の顔が痛みで歪む。



亮は泰士を見下ろしながら、恐ろしいまでの静かな口調でこう言った。

「おい、もう一度言ってみろクソ野郎」



「あ? 何ビッチだって?」



そう口にする亮は、世にも恐ろしい形相をしていた。

しかし足蹴にされながらそれを見上げる泰士は、怯えよりも怒りの方が勝ったようだ。



泰士は「この野郎!」と声を上げながら、

自分を踏んでいる亮の足を振り払う。



しかし亮はその場に倒れながらも、もう一度泰士の頬を蹴り上げた。

泰士は頬を擦りながら、ギリギリと歯噛みして亮の方を睨む。



そして泰士は亮の方へツカツカと歩いて行き、力任せに胸ぐらを掴んだ。

二匹の血の気の多い狂犬が、低い唸り声と共に相対する。

「殺すぞ!よくも不意打ちしやがって‥!」

「テメーは何様のつもりで、うちの姉ちゃんにクソビッチだの顔をどうにかするだの吠えやがんだ?」



「あっちこっちに尻尾振ってんのはテメーの姉貴だろーが!

あれが安売りじゃなきゃなんだってんだ?」


「は?お前もあっちこっちに手ぇ出しまくってんじゃねーか」



二人は会話を重ねながら、互いに手も出し合い始める。

「うちのねーちゃんはまだまだ若いから!血湧く青春みてーに色々楽しみたいっていうのによ!」



亮は泰士の攻撃を交わし、代わりにもう一発パンチをお見舞いした。

先ほど蹴られた箇所を再び殴られた泰士は、頬を押さえて痛みに顔を歪める。

しかし亮は止まらなかった。オレも血が騒いでおさまらないと言って。

「うちのねーちゃんをボコりたいか?ならその前にお前がボコられろッつーんだよ!」



「オレにな!」



亮はそう言いながら、その長い足で泰士に蹴りを食らわそうとしたが、彼は間一髪、ダッキングでそれを避けた。

すると泰士の仲間が、後ろから亮をガッチリと捕まえる。



泰士は仲間達に、「そいつしっかり捕まえとけよ」と言うと、渾身の一発をお見舞いした。

「歯ぁ食いしばれっ!」



バキッと大きな炸裂音が響き、亮は頬を張られた。

しかし亮はすぐさま身を翻し足を高く上げると、再び泰士の頬を強く蹴り上げる。



泰士は頬と鼻を押さえてうずくまった。

「くっそ!殴ったとこ何度も‥!」



痛みに顔を歪める泰士の後ろで、亮は彼の仲間にも攻撃を加えている。

泰士はブチ切れ、再び亮の元へと拳を固めて向かって行った。亮は吠えながらそれを迎え撃つ。

うおおおおおお!!



そして彼等は再び喧嘩に興じた。

死ね、お前が死ね、と互いに声を上げながら、ガチンコファイトを続行する。



そしてそんな彼等の熱い拳のやり取りを、少し離れた場所で淳は静観していた。

溜息を吐きながら、誰に聞こえるでもなく一人呟く。

「いいさ。ほどほどにしてくれよ」



そう言って淳は、一人冷めた眼で彼等を見ていた。

線を越えない範囲でならば好きなだけやってくれと、そう呟く淳の前で彼等は、パンチの応酬を繰り返す‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(8)ー二匹の狂犬ー でした。

THE・喧嘩ですね‥!

まるでヤンキー漫画を読んでいるかのような場面‥。描写も難しいです‥^^;


次回も過去編。

<亮と静香>高校時代(9)ーAcross the lineーです。


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<亮と静香>高校時代(7)ー見えない壁ー

2014-07-17 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>
その日、河村姉弟と青田淳とその父は、青田家にて夕食を共にしていた。

テーブルの上には料理が何皿も並べられ、四人は賑やかに食卓を囲む。



積もる話は沢山あった。ふざけ合う亮と静香につられて淳もどこか饒舌になり、

淳の父親‥青田会長は彼等と共に過ごす時間を、心から楽しんだ。

  

食後、彼等はデザートのフルーツを摘みながら、何気ない会話を重ねた。青田会長が口を開く。

「家での夕食は久しぶりだな。明日淳の母親が戻ったら、皆で一緒に外食でもしようか」



青田会長の提案に、静香が両手を上げて賛成する。

「連絡しておいてくれ」と父は息子に頼むと、淳は笑顔で了承した。



亮は果物を口に頬張りながら、淳のその表情をじっと見つめていた。するとそんな亮に、会長が声を掛ける。

「亮、お前も変わりないか?」

「あったりまえっすよ~!むしろ何かあってほしいくらいッス!」



亮はカラカラと笑ってそう返し、会長は「それは駄目だろう」と苦笑いしながらそれに応える。

そして心からの信頼が宿った目で亮を見つめ、口を開いた。

「次も賞が取れればいいな。

河村教授が生きていらっしゃれば、さぞお喜びになったことだろう」




会長のその言葉に、亮はやる気が心から湧いてくるのを感じた。大きな仕草で、宣誓するように声を上げる。

「心配ご無用~!今度も賞取るんで、絶対見に来て下さいね? 淳、お前も。な?!」



しかし淳は浮かない顔で、「あれ退屈なんだよなぁ」と言った。亮は淳を肘で小突きながら、彼のその発言に以前の恩を着せる。

「おい、オレとお前の仲だろーが!委員長選挙の時、オレの一票を惜しみなくお前に使ったっていうのによぉ!」

「なーに言ってんだ」「あーっ返せ!じゃあオレの票返しやがれっ!」



亮と淳は互いを小突き合いながら、まるで子供同士のようにふざけ合った。

そんな二人を見て静香はいい加減にしなさいと二人を諌め、やがて水が飲みたいと言って台所へと歩いて行った。



亮も静香の後にくっついて、まるで自分の家のように台所へと向かった(亮は珈琲が飲めないので、コーラを取りに行った)。

勝手知ったる他人の勝手‥。歩いて行く二人の後ろ姿を、会長はまるで実の子供を見るような優しい目つきで見つめている。



そして彼は本当の息子の方へと向き直ると、淳にこう声を掛けた。

「静かな家が、賑やかになっていいな」



父親のその言葉に、淳は静かな笑みを浮かべて言った。

「はい。退屈よりはマシですから。俺も一人で食べるとちょっと寂しい時もあるし‥」



すると台所から亮が、「おい、お前もいるか?」と声を掛けた。

淳はニッコリと微笑んで、「いや、大丈夫」と亮に返す。

 

亮もそんな淳に対してニッコリと微笑んだ。

今彼が浮かべたその表情を真似た、見せかけの笑顔で。




亮は顔からその笑顔の仮面を外すと、静香にその本音を漏らした。

「アイツは今でもオレらに反射的に笑顔返すのな。どっか壁作ってんぜ」



淳は時々、自分達に対してすらも”判で押したような笑顔”を浮かべる。そう亮は口にして、息を吐いた。

亮は棚からコーラを取りつつ、どこかもどかしい気持ちで言葉を続ける。

「オレが媚びんのはヤダっつってるくせに、結局ああいう奴らへの接し方と変わんねーじゃん」



弟の意見に、静香は自分の見解を述べた。「心を開くのに時間が掛かるのよ」と。

そして静香は言葉を続けた。

「それでもあたし達は特別なのよ。他に援助してる子達が、この家に出入りするのを見たことある?」



それはジイちゃんのお陰だし‥と返した亮に、静香はかぶりを振ってこう言った。

「ううん、あたしのお陰よ。あんたはあたしに借りがあるの。一生掛けて返しなさいよ」



静香はそう言って微かに笑った。

祖父が死に、叔母の元で暮らしていたあの地獄のような日々から脱出出来たのは、

自分の英断であったという自負が彼女を強くさせる。



その横顔を見ながら亮は、あの頃あらん限りの罵声を浴びせられていた姉の姿を思い出していた。

お前なんて要らないと言われ、罵られ蔑まれ、暴力を振るわれ‥それでも耐えるしか出来なかった、姉の姿を。




「‥‥‥‥」



幼い頃に姉が負ったその傷は、彼女の心にとてつもなく深くその傷跡を残した。

そして亮は今、静香のその傷はまだ完全には癒えていないんじゃないかと、そんな確信にも似た思いを抱いていた。

「‥正直に言ってみろよ。お前実は絵が描きたいんじゃなくて、

昔叔母さんが無理に止めさせようとしたから、こんな真似し続けてるんだろ」




亮の言葉に、静香は前を向いたままポカンと口を開けた。

その表情からは、どんな心情であるかはよく読み取れなかった。



亮はいつもの憎まれ口を捨て、正直に姉に対して思っていることを口に出した。

「オレに八つ当たりすんなら一生したっていい。けど少しは違う道を探そうとする努力、してみろよ。

少しは成果が得られるもんをー‥」




亮は姉が漫然と日々を過ごすのを、ずっともどかしい思いで見つめていたのだ。

亮は亮なりに姉のことを心配し、彼女が幼い頃の傷を乗り越えて心から笑える日が来ることを、誰よりも願っているのだ‥。


けれど静香にとってはそんな同情を掛けられるなど、まっぴら御免だった。

しかも”才能ある弟”から、だ。彼女は幼い頃から、天才と呼ばれた弟と常に比較されて来たのだ。

静香は嘲笑うかのような笑みを浮かべると、亮の言葉を遮りキッパリとこう言った。

「黙れ。今この全てがあたしの成果よ」



だからあんたはあたしに報いなければならないと、静香は亮の罪悪感にその呪いを掛けた。

幼い頃、自分を見捨てて逃げた彼のその弱さに付け入るように‥。




事ある毎に口出しするなと、静香は亮に向かって言葉を続けた。

そして亮がそれに対して声を荒げようとした瞬間、後方から淳が声を掛けて来た。

「亮!バスケ!」



二人が振り返ると、淳はパーカーを着て外へ出る準備をしていた。

運動がてら、今から少し走るのだと言う。



亮はそれを快諾し、静香は見に行くと言ってキャアと騒ぐ。

「オッケー!消化させよーぜ!」



二人はもう先ほどの話題を口にしようとはしなかった。

その代わりに、亮は気になっていたことを一つ静香に問い掛ける。

「あ、お前岡村泰士もそそのかしたんか?んなことする奴じゃねーのに、オレに媚びて来てよぉ」



亮からの問い掛けに、静香は首を傾げてその名前を復唱した。

「岡村泰士‥?」



なんと静香は、泰士から様々な貢物を貰っておきながら、その名前さえもきちんと覚えていなかった。

そして彼女の岡村泰士に対するその態度が、一つの事件を引き起こす‥。


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<亮と静香>高校時代(7)ー見えない壁ー でした。

亮と静香が、それぞれ思っていることのズレ、といいますか‥。そんな噛み合わなさがもどかしいですね。

幼い頃に掛け違ってしまったボタンが、今も掛け違い続けたままここまで来てしまったというか‥。

二人のやり取りからそんな印象を受けます。

そしてそんな二人の外側で一人孤独を抱え込む淳、という図も哀しいものがあります。

一見おだやかなこの青田家の食事シーンですが、よく読むと問題点ばかりが浮かび上がりますねぇ‥。


次回も過去編

<亮と静香>高校時代(8)ー二匹の狂犬ー です。



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