雪は食べた。
食べに食べた。
やけ食いとはこういうことだと言わんばかりの食べっぷりだった。
成り行きで、資料の分類は雪が全て受け持つことになってしまった。
いくら手元に資料があるからって、その全てのグローバルマーケティング事例を分類するのは骨の折れる作業だ。
あのまま黙って青田先輩の意見に頷いていたならこんなことにはならなかっただろうが、
それでも知っていることは言わないとモラルに反するし、第一良いレポートにならない。
他の女子メンバーが、雪のおかげで気が楽になったと喜んでいたが、そうじゃないだろと思った。
資料の分類はみんなでやることだろう。
だからグループワークと言うんだろうが!
雪は向こうの席で柳先輩と談笑している彼を睨んだ。
あいつのせいだと言わんばかりに。
はっきり言って、雪は暇じゃない。他の科目の試験勉強もあるし、夜間の授業も聴いている。
資料の分類に割ける時間を工面出来るだろうかと考えていると、
隣の子が、もっとオーダーしようと店員を呼んだ。
飲み会費があまり高くなっては懐が寂しくなるので、キリを見て帰り支度をした。
何を食べ、何杯飲んだか、雪は頭の中で支払い金額を目算する。
「あの‥先輩」
青田先輩は柳先輩との話に夢中で、雪の声が聞こえていない。
「先輩!」
その声にようやく気が付いた彼は、パッと勢い良く雪の方へ振り向いた。
瞳と瞳が、真っ直ぐ向かい合っていた。
雪は時が止まったように感じながら、
そういえばこんなに傍で彼を見るのは初めてだと思った。
しかし時間はいつか動き出す。
雪は弾かれるように我に返った。
「私バイトがあって!遅れそうで!時間が!」
雪は動揺のあまり支離滅裂だ。
目を丸くした先輩が、その様子を黙って見ている。
「お金はこのくらいで足りますか?」
その雪の言葉に、先輩はキョトンとした。
「え?」
「??」
その状況を見かねた柳が、フォローするように間に入る。
「おいおい赤山ちゃ~ん、淳が払うってのに何でお金‥突然どうした?」
柳は当然のようにそう言う。しかし雪には理解出来なかった。
いつの間にそういう話になったんだろう?皆の飲み会なのに、なぜ青田先輩が一人で全部出すんだろう?
純粋な疑問だったのだが、二人は変わったものでも見るような目つきで雪を凝視した。
「‥‥‥‥」
雪はそそくさと、それではごちそうさまです‥と言って店を出た。
外に出ると、決まり悪さに顔が赤くなって行く。
自分の空気読めなさ加減が恥ずかしくて、でもやっぱりどこか納得出来なくて、
雪はそんな自分の心が揺れるがままに走った。
「うわああああああああー!」
めまぐるしく廻る自分の運命に抗い続けるように、雪はどこまでも走り続けなければならなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
グループワーク(2)でした。
これでグループワークのお話は終わりです。
初めて雪と淳が正面から互いを見つめた、記念すべき回ですね~。
淳はその生き方も相まって、いつも人が集まる時は主導権を握って一人で事を進めようとしたり、
飲み会では当然のように全部自分が支払ったりするんだけど、
それは普通に考えたらおかしな事で、雪の純粋な疑問は至極真っ当な意見だと思う。
けれど経営学科の皆にとっては、いつのまにか青田先輩のすることこそが”普通”になってしまって、
皆それに甘んじてしまっている。
淳の、人々を思い通りに動かすその能力の高さにも問題は多いにあるけど、
本当に人間の物事の判断の基準というものは曖昧で、
簡単にその環境や状況に流されてしまうということを、すごく巧みに描いているなぁと感じます。
さて次回は雪に災難が降りかかりますよ!
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食べに食べた。
やけ食いとはこういうことだと言わんばかりの食べっぷりだった。
成り行きで、資料の分類は雪が全て受け持つことになってしまった。
いくら手元に資料があるからって、その全てのグローバルマーケティング事例を分類するのは骨の折れる作業だ。
あのまま黙って青田先輩の意見に頷いていたならこんなことにはならなかっただろうが、
それでも知っていることは言わないとモラルに反するし、第一良いレポートにならない。
他の女子メンバーが、雪のおかげで気が楽になったと喜んでいたが、そうじゃないだろと思った。
資料の分類はみんなでやることだろう。
だからグループワークと言うんだろうが!
雪は向こうの席で柳先輩と談笑している彼を睨んだ。
あいつのせいだと言わんばかりに。
はっきり言って、雪は暇じゃない。他の科目の試験勉強もあるし、夜間の授業も聴いている。
資料の分類に割ける時間を工面出来るだろうかと考えていると、
隣の子が、もっとオーダーしようと店員を呼んだ。
飲み会費があまり高くなっては懐が寂しくなるので、キリを見て帰り支度をした。
何を食べ、何杯飲んだか、雪は頭の中で支払い金額を目算する。
「あの‥先輩」
青田先輩は柳先輩との話に夢中で、雪の声が聞こえていない。
「先輩!」
その声にようやく気が付いた彼は、パッと勢い良く雪の方へ振り向いた。
瞳と瞳が、真っ直ぐ向かい合っていた。
雪は時が止まったように感じながら、
そういえばこんなに傍で彼を見るのは初めてだと思った。
しかし時間はいつか動き出す。
雪は弾かれるように我に返った。
「私バイトがあって!遅れそうで!時間が!」
雪は動揺のあまり支離滅裂だ。
目を丸くした先輩が、その様子を黙って見ている。
「お金はこのくらいで足りますか?」
その雪の言葉に、先輩はキョトンとした。
「え?」
「??」
その状況を見かねた柳が、フォローするように間に入る。
「おいおい赤山ちゃ~ん、淳が払うってのに何でお金‥突然どうした?」
柳は当然のようにそう言う。しかし雪には理解出来なかった。
いつの間にそういう話になったんだろう?皆の飲み会なのに、なぜ青田先輩が一人で全部出すんだろう?
純粋な疑問だったのだが、二人は変わったものでも見るような目つきで雪を凝視した。
「‥‥‥‥」
雪はそそくさと、それではごちそうさまです‥と言って店を出た。
外に出ると、決まり悪さに顔が赤くなって行く。
自分の空気読めなさ加減が恥ずかしくて、でもやっぱりどこか納得出来なくて、
雪はそんな自分の心が揺れるがままに走った。
「うわああああああああー!」
めまぐるしく廻る自分の運命に抗い続けるように、雪はどこまでも走り続けなければならなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
グループワーク(2)でした。
これでグループワークのお話は終わりです。
初めて雪と淳が正面から互いを見つめた、記念すべき回ですね~。
淳はその生き方も相まって、いつも人が集まる時は主導権を握って一人で事を進めようとしたり、
飲み会では当然のように全部自分が支払ったりするんだけど、
それは普通に考えたらおかしな事で、雪の純粋な疑問は至極真っ当な意見だと思う。
けれど経営学科の皆にとっては、いつのまにか青田先輩のすることこそが”普通”になってしまって、
皆それに甘んじてしまっている。
淳の、人々を思い通りに動かすその能力の高さにも問題は多いにあるけど、
本当に人間の物事の判断の基準というものは曖昧で、
簡単にその環境や状況に流されてしまうということを、すごく巧みに描いているなぁと感じます。
さて次回は雪に災難が降りかかりますよ!
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