Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

グループワーク(2)

2013-06-23 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
雪は食べた。



食べに食べた。

やけ食いとはこういうことだと言わんばかりの食べっぷりだった。



成り行きで、資料の分類は雪が全て受け持つことになってしまった。

いくら手元に資料があるからって、その全てのグローバルマーケティング事例を分類するのは骨の折れる作業だ。

あのまま黙って青田先輩の意見に頷いていたならこんなことにはならなかっただろうが、

それでも知っていることは言わないとモラルに反するし、第一良いレポートにならない。

他の女子メンバーが、雪のおかげで気が楽になったと喜んでいたが、そうじゃないだろと思った。



資料の分類はみんなでやることだろう。

だからグループワークと言うんだろうが!



雪は向こうの席で柳先輩と談笑している彼を睨んだ。



あいつのせいだと言わんばかりに。



はっきり言って、雪は暇じゃない。他の科目の試験勉強もあるし、夜間の授業も聴いている。

資料の分類に割ける時間を工面出来るだろうかと考えていると、

隣の子が、もっとオーダーしようと店員を呼んだ。

飲み会費があまり高くなっては懐が寂しくなるので、キリを見て帰り支度をした。

何を食べ、何杯飲んだか、雪は頭の中で支払い金額を目算する。



「あの‥先輩」



青田先輩は柳先輩との話に夢中で、雪の声が聞こえていない。

「先輩!」



その声にようやく気が付いた彼は、パッと勢い良く雪の方へ振り向いた。








瞳と瞳が、真っ直ぐ向かい合っていた。



雪は時が止まったように感じながら、



そういえばこんなに傍で彼を見るのは初めてだと思った。




しかし時間はいつか動き出す。



雪は弾かれるように我に返った。

「私バイトがあって!遅れそうで!時間が!」



雪は動揺のあまり支離滅裂だ。

目を丸くした先輩が、その様子を黙って見ている。

「お金はこのくらいで足りますか?」



その雪の言葉に、先輩はキョトンとした。

「え?」



「??」



その状況を見かねた柳が、フォローするように間に入る。

「おいおい赤山ちゃ~ん、淳が払うってのに何でお金‥突然どうした?」



柳は当然のようにそう言う。しかし雪には理解出来なかった。

いつの間にそういう話になったんだろう?皆の飲み会なのに、なぜ青田先輩が一人で全部出すんだろう?

純粋な疑問だったのだが、二人は変わったものでも見るような目つきで雪を凝視した。



「‥‥‥‥」



雪はそそくさと、それではごちそうさまです‥と言って店を出た。

外に出ると、決まり悪さに顔が赤くなって行く。



自分の空気読めなさ加減が恥ずかしくて、でもやっぱりどこか納得出来なくて、

雪はそんな自分の心が揺れるがままに走った。

「うわああああああああー!」




めまぐるしく廻る自分の運命に抗い続けるように、雪はどこまでも走り続けなければならなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グループワーク(2)でした。
これでグループワークのお話は終わりです。

初めて雪と淳が正面から互いを見つめた、記念すべき回ですね~。

淳はその生き方も相まって、いつも人が集まる時は主導権を握って一人で事を進めようとしたり、
飲み会では当然のように全部自分が支払ったりするんだけど、

それは普通に考えたらおかしな事で、雪の純粋な疑問は至極真っ当な意見だと思う。

けれど経営学科の皆にとっては、いつのまにか青田先輩のすることこそが”普通”になってしまって、
皆それに甘んじてしまっている。

淳の、人々を思い通りに動かすその能力の高さにも問題は多いにあるけど、

本当に人間の物事の判断の基準というものは曖昧で、
簡単にその環境や状況に流されてしまうということを、すごく巧みに描いているなぁと感じます。

さて次回は雪に災難が降りかかりますよ!



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グループワーク(1)

2013-06-22 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)


A大学経営学科の授業の中には、成績が個人評価で付かないものもある。

今回の国際マーケティングの授業も然り、グループワークでの発表が成績の対象となる。

グループメンバーは教授側が無作為に決定し、学生たちはそれに従うしかないのである。



雪は、同じグループのメンバーを見て愕然としていた。

柳先輩が、嬉しそうに口を開く。

「俺らラッキーだよなぁ!青田と赤山と同じグループなんてな~!」







一瞬注がれた彼の眼差しに、

雪はビクリと身体を揺らした。



しかし彼はすぐに視線を戻すと、

何事も無かったかのようにプリントに目を落とす。



なにこのデジャヴ‥



自主ゼミの時の不穏な空気を思い出す。

雪の心配をよそに、グループワークでのミーティングが始まった。




会議は青田先輩の主導で始まった。皆口々に意見を出し合う。

「国内企業のグローバルマーケティングだろう?まずは皆で意見を出し合ってみよう」



「A企業の電化製品はどう?」

「そこは資料が膨大で、事例を分類するのがちょっと難しそうなんだ。他のグループとかぶるかもしれないし」

「大手だもんな。そもそも課題に合ったグローバル企業を探すこと自体に時間がかかるんじゃね?」

「それなら最初から中小企業をターゲットにして探します?」



会議は早くも難航した。

しかし次の瞬間、雪の頭に良案が浮かぶ。

「それじゃあB‥」

「じゃあB企業はどうでしょうか?」



実際は青田先輩の意見を遮る形になったのだが、それに気づく者は居なかった。

雪すらも気が付かず、思いついたその案を皆に説明する。

「B企業はAほど有名ではないですが、代表商品にクリームパイがあるでしょう?

クリームパイは国内で20年間も販売され続けてますし、国内認知度も高いですよね。

世界進出を謳った広告もしてるじゃないですか」




雪の意見に、皆それはいいねと同意した。



「それじゃあ‥雪ちゃんの言う通り、クリームパイのグローバルマーケティング事例を扱うことにしよう」



最後には青田先輩の合意で、課題の調査対象が決まった。

「以前B企業のCEOのエッセーを読んだんだけど、B企業はすでに中国では成功しているし、

次はロシア市場を狙うと書いてあったよ。その事例を辿って探してみればー」




青田先輩の意見に、柳先輩が「お前そんなのも読むのかよ~!」と称賛の声を上げた。

そのまま青田先輩の意見の方向性で会議は進むかと思われたが、

雪の発言でそれは180度変わることになる。

「あの‥それはすでに失敗したって‥」



えっ?



場の空気が一瞬固まる。

雪はその発言の根拠を説明し始めた。

「青田先輩が話していたエッセーは私もこの前読んだんですけど、

最近B企業はロシア政府側と衝突があって、進出が失敗に終わったんです。

私、これとマーケティング原論を一緒に聞いているんですが、

B企業のクリームパイのSWOT分析をその授業で先週したとこなんです。

そしてたまたまこの間、その記事を読んだもんで‥」




柳先輩が両手を上げて喜んだ。

資料がかぶってることに対して、そして雪の優秀さに対して。



すると青田先輩が、雪に向かって提案した。

「そうか。それじゃあ雪ちゃんが持ってる資料を土台にすれば良いね」



えっ?と雪が困惑している間に、事態は既に進んでいた。

「君が持つB企業の資料の中で、グローバルマーケティング事例を種類別に選定出来ないかな?

そうしてくれると時間も短縮出来て助かるんだけど」




青田先輩の一声に、皆も口々に賛成し、資料を探す手間が省けたと雪に感謝の意を述べた。

「やってくれるよね?」



雪はもう断ることは出来なかった。

最新資料まであるとはさすが熱心だねと、青田先輩は微笑んだ。




先輩の笑顔には、有無を言わせない力があった。

人々を主導して、NOと言わせない無言の圧力。


「資料だけ整理すれば、レポートを書くのに多いに役に立つよ。ありがとな」



「い、いいえ‥私も同じ班のメンバーですから当然です‥」



雪はその空気に逆らえなかった。当然の流れに、押し流されるようにYESと言っていた。

「よっしゃー!これで俺らの班は終わったも同然だぜぇ~!」



柳先輩が立ち上がってそう言うと、雪と青田先輩の肩に手を置き、二人共素晴らしいと褒めると、

後は団結の時間だと騒いだ。

「会議で脳を酷使したあとはアルコールっしょ~!」


(はて、柳先輩はいつ脳を酷使したであろうか‥)

「行こうぜ~!!」



果たして一行は、連れ立って飲み屋へと移動したのであった。




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グループワーク(1)でした。

うわ〜青田先輩のあの笑顔‥。

結果出しぬかれた形になっちゃって、めちゃ怒ってますね。。


次回はグループワーク(2)です!



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<雪>報復戦

2013-06-21 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
雪は廊下で和美が通りかかるのを待っていた。



ひと通りのことは我慢してやろうと思っていたけれど、

やはり下剤を人のコップに入れるということは、

黙ってやり過ごすことの程度を超えたと雪は判断した。

「和美!」



雪は和美を呼び止めた。用意していた台詞を掛ける。

「お腹の具合は大丈夫? ジュースの賞味期限でも過ぎてたのかな?」



和美は「それじゃああんたがコップを‥!」と動揺したが、



すぐには尻尾を出さず、口を噤んだ。

「何か言うことがあるんじゃないの?」



雪が起爆剤を撒く。



和美は冷や汗を垂らし、意味わかんないとその場から立ち去ろうとした。

雪はポケットから携帯電話を取り出す。



そこには、和美から送られてきた故意の間違いメールが保存してあった。

「あんたから今まで送られて来た嘘メールだよ。全部保存してある。

ミスにしては5つは多すぎるんじゃない?それにあんたがくれた使い物にならないプリントも家に何枚かあるんだよね」




「だから何?」と言った和美に、雪は最終通告を突きつけた。

「全部青田先輩にバラしてやる。」



和美は狼狽した。青田先輩が信じるとでも思ってるのと、雪に食ってかかる。



しかし雪は冷静に、手元にある証拠を見せれば一目瞭然だし、下剤を入れたことも伝える、と淡々と言った。

「なんて悪い女なの!」

和美は場所もわきまえず、大きな声で雪を罵倒した。

「あんたこそコップを捨てずにすり替えるなんて最低!鳥肌立つわ!」

「ちょ‥声デカイって‥」



「ってことは、下剤の件は認めたってことだね?」

「そうよ!メールだってプリントだって全部あたしがわざとやったし、

下剤だってあたしが入れたわよ!これでいい?!」




雪の冷静な詰問も、もう和美には気に食わないこと以外の何物でも無かった。

その剣幕に雪は若干気圧されたが、今この場でもう二度とやらないと誓えば許してあげても良いと言った。

しかし和美はそれには同意せず、確かめてみなよとけしかける。

「先輩があんたとあたし、どっちの言葉を信じると思う?!

あんたの言葉なんて、誰も信じやしないんだから!」




あんたねぇ‥と雪が言いかけた時、和美の後ろから柳先輩がひょっこり顔を出した。

「うわ~!オソロシ~!女って怖いのな!下剤?!

俺らは肉弾戦だけど、お前らは生化学兵器まで‥!」




和美はうろたえ、誤解なんですと弁解しかけると、

柳先輩は後ろに要るらしい人物に声を掛けた。

「やっぱいい男は罪だよな~」



「この罪多き奴め?そー思うだろ?」



角を曲がった所から出てきたのは、渦中の青田先輩だった。

「誰か揉めてるっぽかったから、止めようと思って来てみたら‥」







和美は顔面蒼白。

雪も予想だにしなかったこの状況に、言葉も出なかった。



青田先輩は、同期同士喧嘩もほどほどにしてちゃんと和解しろよと言い、柳先輩と共に踵を返した。



しかし去り際に、

「ああ、それと今の話は聞かなかったことにするから、心配すんな」



そう言って溜息を吐くと、そのまま去って行った。








和美は立ち尽くした。

取り返しのつかないことになったと狼狽する。

そしてハッと気がつくと、雪に向かって突っかかってきた。

「あんた‥わざとあたしをはめたんでしょ?」



わけが分からない雪に、青田先輩がこの時間にここで授業すると分かっていて、

それであたしをここで呼び止めたんでしょうと詰め寄った。

雪は弁解するが、和美には1mmも届かない。

「絶対に許さないから」



涙を浮かべて、バタバタと走り去った。

雪はその場に立ち尽くしながら、複雑な思いに苛まれていた。



「こ、こんなはずじゃなかったのに‥」




不本意ながら和美に仕返し出来たものの、全くスッキリしなかった。

いやむしろ、不快さだけが残った。




それからというもの、二人のことで頭を悩ます日々が続いた。

課題も手に余り、ただ二人共自分の人生に関わってこないでと、痛む胸の奥で祈るのみだった。





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<雪>報復戦 でした。

やっぱり最初占い師に言われた通り、雪は運が悪いですね‥。
やることなすことマイナス方向へ向かうというか‥。

さて次回、とある授業でグループワークをすることになった雪ですが‥。



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<雪>その前触れ(2)

2013-06-20 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
あの疎ましい後ろ姿。



雪は教室で席に着きながらも、先ほどの青田先輩の態度を思い出し、凹んでいた。

聡美がそんな雪を気遣い、紙コップに入ったジュースを机の上に置く。

「どしたの?疲れた?」「うん」「ジュース飲みな。おいしいよ」「後で飲むわ」

「あたしちょっとトイレ」「うん」



雪は机に突っ伏したまま、言葉に出来ない文句を心の中で反芻した。

‥決して文句なしの性格だとは言い切れないけど、先に私を無視したのはあっちじゃん‥







雪はムクッと起き上がり、聡美がくれたジュースを飲んだ。

すると背後から名を呼ばれる。

「雪ちゃん」



振り返っても名前が出てこない‥。同じ学科の子だった。

そしてこの後の彼女の話に、雪は言葉を失うことになる。


「さっき平井さんがね、赤山さんが突っ伏してた時に横を通り過ぎたんだけど、

そのコップの中に何か入れたように見えたんだよね‥。もしものためにあたしがすり替えておいたんだけど‥」




何を入れたって?と雪は彼女に詰め寄ったが、その子はモゴモゴと口先を動かすだけだ。

「見間違えかもしれないけど、あの子ならやりかねないなと思って‥。

ただ念のために替えただけだから、あたしがやったことは内緒ね?ね?」




そう言い残して、彼女は席に戻って行った。



和美を探した。

彼女は前方の席で、友人と何かを見てクスクスと笑っている。



凝視していると、ふいにその後姿がうずくまった。



バタバタと、一目散に教室を出て行く。

トイレから戻ってきた聡美が、和美とすれ違ったけどすごい形相だった、

あの子も普通の人間だったのねと可笑しそうに言った。




次の瞬間、雪は駆け出した。

頭に血が昇り、トイレの扉をガンガン叩きながら和美を気の済むまで罵倒してやりたかった。

しかしふと、先程のあの子の姿が思い浮かぶ。

あたしが言ったことは内緒ね‥?ね?



雪は頭をゴンゴンと叩くと、ようやく目が覚めた。



それでも腹の中が煮えくり返っているのには変わりがない。

雪は今にみてろよと、くさくさしながら歩いた。



すると廊下の窓から、

一人で立っている青田先輩の姿が目に入った。



よく見てみると、足元のベンチにはホームレスが突っ伏している。



青田先輩はホームレスに、警備員に見つかるとややこしくなるので、早く起きたほうが良いと言った。

ホームレスは意味不明なことをブツブツと呟き、彼の言葉は届いていないようだ。

「それじゃあこれ上げますから、何かの足しにでもして下さい」



彼がお金をベンチに置くと、ホームレスはそれを奪うように掴み、よろよろと歩いて行った。

その姿を、同じ学科の学生たちが見て声を掛ける。



お前ホームレスに金やったのか、という言葉に、

「ああ。警備員さんがうるさいと思ってさ」と彼は言った。

その後学生たちは、ホームレスについてガヤガヤと非難中傷を騒ぎ立てる。



建物の中に入ってくることへの不満、駅でセクハラされそうになったとの女学生の怒り、

あんな奴らに金をやるくらいなら自分たちの酒代にしたほうがマシだという意見。

「はは」



青田先輩はただ笑っただけだった。

そのまま一行は、雪の目の届かないところへと去って行く。






雪は、その意外性に目を丸くしていた。

誰もいないところでホームレスを気遣っている姿は、彼のイメージにそぐわない優しさを感じたからだ。

けれど雪はすぐに自らを戒めた。



先ほどのような姿を一度見ただけで、全てを無かったことにするわけにはいかない。

青田先輩に関する、不信な記憶が頭を廻る。

「これからは気を付けろよ」「青田先輩だって知ってるんだぜ?」「ごめん。そんなつもりじゃなかったのに」



次々と思い出される彼についての記憶は、とてもじゃないが”良い人”で括るには不審すぎた。

特に引っかかるのは横山に関する記憶だ。



健太先輩が言っていた話が本当ならば、なぜ横山はあんなにも堂々と”青田先輩が後押ししてくれた”などと言ったのか。

青田先輩が本当に知らなかったとして、それならばなぜああもすんなりと謝った上に、償うだなんだの言ったのか。



やはり健太先輩が居ない所で、二人がそういう会話をしたと考えるのが一番シックリくる。



それに横山があんなにもあっさりと休学したのも気になっていた。

球技大会の後あれだけ皆から邪険にされても、学校に来ていた奴なのに‥。




そこまで考えたところで、雪は頭を左右にブンブンと振った。

悪く考え始めたらキリがない。もう考えるのはやめようと思ってたくせに。



このまま無かったことにするのは悔しいが、

今は青田先輩よりも許せない人物が一人居た。



平井和美‥。



雪は自分の感情を俯瞰して見ていた。

するとおのずと、どうすべきかが明確に見えてくるような気がした。



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<雪>その前触れ(2)でした。

しかし和美、下剤を盛るとは‥。そしてコップを入れ替えたあの子(清水香織ちゃんといいます)、
コップ入れ替えってかなり難易度高くないですか?処分するならまだしも‥。
なにげに大胆ですね。

次回は、雪から和美への報復戦です!



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<淳>中庭にて

2013-06-19 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
「先輩!」



呼び止められた淳が振り向くと、同じ学科の女学生が、わいわいと仲間と共に寄って来た。

「先輩、どこ行かれるんですか?一緒に行きましょう!」「俺らも一緒に行くぜー」



共に歩きながらも、皆口々に先ほどの授業で淳が優秀な答えを導き出したことや、

教授からの突然の質問にも完璧に答えていたことなどを話題に出し、彼を誉めそやしていた。

すると廊下の先から、事務職員の品川さんが現れる。

「淳君、さっき教授があなたのこと呼んでたわよ!」



開講した途端人気爆発ね~と言う彼女に、にこやかに接しながら共に歩く。

何かと淳に付きまとってくる女学生も教授の部屋へ一緒に行くと言い、世間話をしながら廊下を歩いた。



「あ、そうだ。淳君は早期卒業の考えはあるの?」



品川さんの質問に、淳は「はい、可能なら。」と答える。

やっぱりすごいな~と品川さんが感嘆する横で、女学生が「ヤダヤダ」とごねながら惜しんだ。



いつもの風景だ。

周りの人々が、自分に向かって賛辞の言葉を浴びせる。



その騒がしさはどこか、ノイズに似ていた。




中庭のベンチで一人、目を瞑る。


さっさと卒業しよ‥



彼は疲れていた。



ノイズに囲まれ続けた三年間の、疲労が身体に蓄積していた。

「なんで私にだけそうやって言うの?!」



誰かの怒号が耳から入って来たので木陰から覗くと、

あの後輩が携帯電話を手に通話しているところだった。

「私がわざとそうしたと思ってるの?間違いもあるに決まってるじゃない!」



赤山雪。

前もこうやって影から彼女の姿を隠れ見たことがあった。

新歓飲みの時、タバコを拾ってヘラヘラ笑って、第一印象から最悪だった。



淳は鈍い頭痛を感じて、こっそりと席を外そうと腰を浮かせる。

「だから学年首席のどこが簡単なのよ!」



赤山は文句を言っていた。

口調と内容からして、家族‥推測するに相手は母親であるようだ。

「全体首席は一人だけなの!もうそれはすでに他の奴が取ってるのよ!」



全体首席である他の奴‥それは自分に他ならない。

淳はそのまま息を潜めて会話を聞いた。

「私、蓮が奨学金を受けたとこなんて一度も見たことない。

蓮にそうやって叱ったことすらないでしょう?!」




「私もお父さんの子供じゃないの?!」



「私の方がずっと一生懸命やって来たの!」



赤山は父親に認めてもらおうと、いつも人並み以上に勉強を頑張って来たと母親にその努力を訴えた。

全体首席に拘っているところを見ると、一番を取れば父親から認めてもらえるのか、

それとも全額奨学金をもらえなかったことへの両親からの不満か、

どちらにせよその葛藤が滲み出た内容だった。




やがて赤山は電話を切った。

父親とは何度話をしても分かってもらえず、その八つ当たりを母親にしてしまったと、最後は謝っていた。



彼女が溜息を吐く。

淳はふぅん、と一人納得していた。



彼女がなぜ自分に対して突っかかって来るのか、なぜあんなにも屈折しているのか、分かったような気がした。

淳は今度こそ席を外そうと立ち上がった。







赤山は俯いていた。

手で顔を覆い、唇をギュッと噛んで、何かに耐えているようだった。

淳はその表情の真意が飲み込めずしばらく彼女を見ていたが、

彼女はパッと顔を上げると、スタスタと歩いて行ってしまった。






父親‥。




淳の脳裏に、幼い頃の記憶がフッと掠めた。



そして赤山の、感情を押さえ込んだ口元が、思い浮かんだ。





その後淳は彼女が見えなくなるまで、その後姿を見送った。





後日、廊下で赤山と会ったが、挨拶をする素振りをした彼女を尻目に、無視して通り過ぎた。






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<淳>中庭にて でした。


次回は雪の話に戻ります。



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