Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

侃々諤々

2015-02-20 01:00:00 | 雪3年3部(ディナーショー第三幕)
ドス ドス ドス!



夜の公園を大股で歩く亮の後ろを、淳が静かに追いかけて行く。

ある程度まで歩いたところで、淳は肩を怒らせた亮に話し掛けた。

「一体何だよ」



「まだ言いたいことがあるのか?

雪の両親の前だったから、さっきの喧嘩ふっかけてくるような態度だけじゃ満足出来ないってわけか」




その嫌味ったらしい発言に、亮は歯をギッと噛みながら振り返る。



「おっまえなぁ!オレとダチだっつー演技は面白かったかよ?!」

「それが俺がここに呼ばれた理由か?」



指を指しながらヒートアップする亮とは対照的に、淳は斜に構えて彼と相対していた。

幼馴染のいつもながらの姿に、亮は腸が煮えくり返る思いがする。

「ハッ!性格の相違だって?!クソ野郎、笑わせんな!」

「自分こそペラペラと饒舌だったじゃないか。それじゃどうすれば良かったんだ?

皆の前で殴り合いの喧嘩でもした方が良かったか?ありえないだろうが」


「ありえないのはテメーだっつーの!」「俺が何だって?」



ああ言えばこう言う淳に対して、亮は怒りにまかせて早速本題を切り出した。

「お前また静香に美術について何か言いやがったって?

しかもダメージのストーカー野郎の写真まで取らせて!今度は一体何企んでんだよ!」




亮は、先日姉から聞き出した淳と静香のやり取りを思い出していた。

アンタ、今回淳ちゃんがどれだけ面白いことしたのか分かってる?



自分の知らないところで行われていた、女虎と狐の取引。

そして亮は、かつて姉の捨てた「美術」という夢を使って、虎を動かした狐の狡猾さが許せなかった。

「美術をするもしないも、アイツ自身が決めることだろ?!

静香はお前のオモチャじゃねーんだよ!」




青筋を立てる亮。しかし淳は涼しい顔だ。それが亮の癪に障る。

「それが何か?静香にとってもプラスになることだろ。金だって手に入るんだし。

美術は本人もずっと考えてたことなんだし、俺から切り出して何が悪い?何か差があるか?」




「あるに決まってんだろ!!テメーに何が分かるっ?!」



全てに恵まれたこの幼馴染。

夢を失うことなど無いであろうこの男に、一体何が分かると言うのかー‥。

しかし淳は心底不思議そうな顔をしながら、自分の気持ちを淡々と口にする。

「お前だってピアノを弾いてるだろう。なのに静香が美術を始めちゃいけないのか?

それにもういい年した姉貴のことに対して、お前が干渉するのも理解不能だよ。

お前こそいい加減にしたらどうだ?」




「話が通じねぇ‥」と亮が呟く。

しかしそれに被せるように、淳は話を続けた。



「それより‥俺の方こそ話したいことがある。お前ー‥」



「一体いつまで雪につきまとうつもりだ?

ハッキリ言っただろ。無駄にフラフラするのは止めろって。何度言わせれば気が済むんだよ」




亮に対して何度もしてきた忠告。

”雪の周りから離れろ”

 

しかし亮はそれをことごとく聞き入れなかった。

そればかりか、いつの間にか赤山家の一員のような存在になっているー‥。



その言葉を聞いた亮は思わず吹き出し、淳のことを嘲笑した。

「ぶはっ!」



「何度も何度もひつこいっつーの!ここはオレの職場ですが何か?!」



すると淳は、静かなトーンで話を切り出した。

それは淳が今日手に入れた、切り札だった。

「つきまとうだけならともかく、トラブルを起こすってのが問題なんだよ。

吉川って社長が、大学で雪のことを探してた




「えっ?」



ピクッ、と亮の動きが止まった。

サッと青ざめて行く亮に向かって、淳は「弁解出来るか?」と言い捨てて息を吐く。



亮は地方で働いていた時の雇用主‥吉川社長の名が淳の口から出たことに動揺していた。言葉が何も出て来ない。

俯いて沈黙する亮に向かって、淳は冷たい視線を投げかけながら口を開く。

「一体今まで何をして生きてたのかと思えば‥。結局他人の金を奪って、逃げるように上京して来たってことか」



「そうやってコソコソ隠れて生きてても、全部解決出来るわけがないだろうが」



亮の頭の中で、警鐘が鳴っていた。

それは吉川社長が自分を追ってここまで来たことに対することではなく、

先ほど淳が口にしたことに対してのシグナルだ。

「ダメージを‥探してたって‥?あの野郎が‥?」



真っ青になり、頭を抱える亮。

淳はそんな亮を見据えながら、淡々と口を開く。

「‥ああ。お前、どうするんだ?」



「あの人が雪の家‥店を探し出すのも時間の問題だ。お前、何なんだよ。一体何してんだよ」



「ダメージを‥」と呟きながら、亮は視線を彷徨わせていた。淳の蔑みに怒りを覚える余裕すら無かった。

しかし次の瞬間、淳が発したその言葉に、ピクと亮は反応する。

「あんなにリハビリを拒否していなくなった結果がこれなんてな。

自分で自分が情けなくはならないか?」







沸々と込み上げる怒り。

気がついたら歯を食いしばり、拳を強く握っていた。

昔味わった、あの苦い憤りが蘇る‥。




「クソったれっ!!どうしてオレがリハビリを拒否したか分かんねぇのか?!」



亮は吼えた。しかし淳は、亮の怒りなど想定内とばかりの涼しい顔だ。

「ああ、分からないね。そのまま受け入れておけば良かったのに。普段は図太く厚かましいくせに」



目を丸くする亮に向かって、淳は抑揚のないトーンで話し続ける。

「自分がしでかしたことには目を瞑って、今になって夢探しか?

そんなに安易に新しい一歩を踏み出そうなんて‥逆に感心するよ」




「しかも雪の傍で」



「俺を困らせようと思ってつきまとってるのは分かるけど、

それが皆を苦しめてるってことに気づくんだな」




そして淳は真っ直ぐ亮を見据えながら、決定的な一言を口にした。

「もし良心があるんなら、お前が雪の傍にいること自体が迷惑だっていい加減分かれよ」






雪の笑顔を守りたい、ずっとそう思っていた。

けれど今、彼女の身に危険が迫っている。そしてこの事態を招いているのは、他でもないこの自分ー‥。



強く握った拳が、小刻みに震えていた。

「どうすればいいのか、しっかり考えろ」と、淳の声が遠く聞こえる‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<侃々諤々>(かんかんがくがく)でした。

互いがそれぞれ己の正しさを信じているから、いつまでたっても平行線ー‥。

淳と亮の話し合いは、そんな印象ですね。

そこに亮が地方で働いていた時の社長(初めて名前が出てきましたね。韓国語では「ミン社長」と書いてあります)

が絡んで、状況は混濁模様‥。

というかあの社長と淳が会ったのってこの日の昼のことでしたね‥またしてもパラレルワールドです私‥^^;

*2015.10.12追記

日本語版にて社長の名前が「吉川」と出てきましたので、これ以降の社長の名前を吉川とさせて頂きます。

ご了承くださいませ~


次回は<タイマン勝負(1)>です。

次回、次々回と、台詞ほとんど無いですが‥(汗)お付き合い下さいませ


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

二人のキーパーソン

2015-02-17 01:00:00 | 雪3年3部(ディナーショー第三幕)
更に夜は更け、賑やかだった赤山家ディナーも終わりを迎えた。

玄関先にて、淳は雪の両親に向かって頭を下げる。

「本当にごちそうさまでした」「また来てね」「運転気をつけるんだぞ」「はい。おやすみなさい」

「オレには何かないんすか?」「明日遅刻するなよ」「あーもうっ」



雪は、淳を駐車場まで送りに出た。

「それじゃね。美味しかったよ。ごちそうさま」

「お口に合ったみたいで何よりです」



淳は雪の頬に触れ、二人はお別れのキスをする。

ちゅっ



照れくさくなった雪は、「へへっ」と笑いながら淳のみぞおちに肘を入れた。

ドスッ



するとそれがクリティカルヒット‥。

お腹を抱えてうずくまる淳に、

「きゃーすいません!」と雪が慌てる‥。





「今日は家に来てくれて、ありがとうございました」

「俺の方こそ。沢山もてなしてもらって」

「いつもしてもらってばっかりだから、おもてなし出来てよかったです」



淳が雪の身体を引き寄せ、二人は笑い合う。

けれど雪にはひとつ、気掛かりがあった。彼から目を逸らしながら、オズオズと口を開く。

「でも‥先輩を初めて家にお招きしたのに、気分を害してないか心配で‥。

河‥のこととか‥。なんかすいません‥


「大丈夫だよ。このくらいのこと」



わざとではないものの、雪は再び亮と淳を遭遇させてしまったことを申し訳なく思っていた。

けれど淳は笑顔で首を横に振り、彼女に優しい言葉を掛ける。

「次は俺がおもてなしするよ」

「うわ!ホント?!」



淳の提案に、雪ははしゃいだ。そうして二人は再び笑顔になる。

穏やかに笑う淳と、その笑顔を見て微笑む雪‥。



「もう行くから、雪ちゃんは帰りなね」

「気をつけて帰って下さいね!」



そして車は走り出した。

雪は小さくなるそれを見つめながら、口元にほんのりと笑顔の余韻を残している。




ふと瞼の裏に、ほんの数カ月前の自分の姿が思い浮かんだ。

 

誰もいない食卓で、一人で取った食事。

いつも一人が気楽だと、そう思い続けていた半年前の自分。




ふと鼓膜の裏に、以前先輩から言われた言葉が蘇った。

君と夕食を共にすることが、こんなにも大変なことなんてな



いつも一人が気楽だと、他人との間に壁を作って来た。

人から手を差し伸べられることなんて、想像すら出来ないで居た。




けれど。




差し出されたおにぎりを受け取ると、今まで一人きりだった空間は二人の空間になった。

笑い合いながら食べる深夜のおにぎり。

すべて、ここから始まった。







負担や目的に囚われなければ、一緒に食事をするのはこんなにも簡単なことだったんだー‥。

先輩と向き合うことで教わった、人と共に生きるということ。

数々の出来事を経験して、今までとは違う価値観を受け入れ始めた頃。


そしてもう一人、雪の生き方に変化を与えてくれた人が居る。




ぶっきらぼうな、それでいて真っ直ぐな優しさで、

亮はバラバラになっていた赤山家をそっと繋いでくれた。



家族が共に外食をするなんて、何年ぶりだっただろう。

賑やかにテーブルを囲んだ、昼下がりの焼き肉。

家族の中に、当たり前のように亮が居た。




そして今夜。

雪の生き方を変えてくれた二人の人間が、雪を育んでくれた家族の間で笑っていた。

賑やかに囲む食卓は、今までのそれとは何もかも違っていたー‥。




生き方を変えてくれた、二人のキーパーソン。

そんな二人のことを想いながら、雪は穏やかに微笑む。


去年はまるで考えられなかった。こんな小さな平和が、私の身に訪れるなんて‥。



二人のお陰で、私の夕食が少しずつ変わる。




人と共に生きるということ。

それは時に煩わしく、時に神経を使い、時に傷つけられる。

しかしそれと同時に、温かでささやかな幸福を、その生き方はもたらしてくれるのだ。



雪は帰路を辿りながら、二人のことについて考え続けていた。

でも今日は、前よりもっと二人のことが分からなくなったような気がするような‥。

和解したわけじゃないけど、仲の良かった高校時代を思い出して懐かしくなってたんじゃないかな‥?私も時々そうするように‥。

取り敢えず今日はケンカもしなかったし‥親の前だからってのもあるかもだけど‥。




だから‥必ずしも最後まで話し合わなくったって、良いんじゃないのかな‥。



とりあえず関係が悪化しなければ、最後まで和解を追求しなくても良いのではないかー‥。

そんなことを考えながら、雪は家路へと歩を進めた。


一方淳は、車の中で信号が青に変わるのを待っている。



すると運転席の窓が、不意にノックされた。

コンコン



振り向くと、そこに居たのは亮だった。

ブスッとした表情で、淳のことを睨んでいる。



淳は窓を下げると、表情を変えぬまま一言発した。

「何だよ」



亮は親指で外を指しながら、ぶっきらぼうにこう返す。

「何だよとは何だ。ちょっと顔貸せよ」



「‥‥‥‥」




そして淳は車から降りた。

主人公不在でのディナーショーが、緞帳の中で続いて行く‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<二人のキーパーソン>でした。

淳と亮が雪に影響されているように、雪もまた二人に影響されて生き方が変わって来た‥

そんな物語の流れを感じる回でしたね。


そして最後、亮さん‥先輩の車、信号待ちするまで結構走ってたっぽいのに‥

どれだけ足速いの

やはりあの腿上げ走りは相当速いんですかね‥↓




次回は<侃々諤々(かんかんがくがく)>です。




人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

雪の部屋にて

2015-02-16 01:00:00 | 雪3年3部(ディナーショー第三幕)
その予想だにしない展開に、雪が大きく声を上げる。

「なに、何なの!?なんでいきなり部屋見学?!なにこの流れ?!」



果物を食べ終えた彼らは、ごく自然な流れで雪の部屋へと足を運んだ。

なぜ部屋を見たいのか、という雪の質問に各々が答える。

「女の子の部屋だから?」「おお。女の部屋だからな」「何もないっすよ」

「そりゃ男の部屋じゃないけども!」



雪のツッコミもそのままに、彼らは雪の部屋を見回した。

しかしそこは、味も素っ気もない普通の部屋‥。



淳は「ふーん」と言いながら、部屋の中で目を点にして佇んでいる。

「‥何を期待してたんです?」「いや‥」



‥どうやらどこか期待とは違っていたらしい

すると雪の後ろに居た蓮が、クククと笑いながら口を開いた。亮も部屋を見回して茶々を入れる。

「これでも母さんがソッコーで片付け‥」

「変態野郎がメチャクチャにした一人暮らしの部屋みたいなのを想像してたけどな」

「あれは変態野郎の仕業ですってば!」



雪は淳と亮が部屋に入ったこと自体に動揺しているのに、そんな彼女の心中構わず、

彼らは好き勝手に部屋を探索し始めた。雪はアタフタ駆け回る。

「おい音楽はどんなの聞いてんだ?クラシック聞こうぜー」

「それ関係あります?!漁るなっ」「ねーちゃんの部屋、お菓子とか隠してねーのー?」

「これアルバム?」「ひいっ!」



そんな中、淳がフォトアルバムを発見した。それを手に取り、雪に向かって交渉する。

「前もスクラップブック見せてもらったじゃない」「あれは選びに選び抜いた写真達であってぇ‥」

「それじゃ雪ちゃんが選んで見せてよ」「どうしても見せなきゃですか?」



見せたくないと粘る雪だったが、淳はニッコリと笑いながらアルバムから手を離さなかった。

「うん。気になるもん♪」



結局その笑顔の力に抗えず、雪はアルバムを淳に託したのだった‥。





幼い雪や、若き日の母、小さな蓮‥。そこには赤山家の軌跡が詰まっていた。

沢山の写真を床に広げながら、淳、亮、蓮の三人はそれらに目を通して行く。

「これはマジでイモだなw」「可愛いじゃない」「姉ちゃんって小さい頃ちょっとぽっちゃりしてたんすよ」



部屋の主そっちのけで盛り上がる三人に背を向けて、雪は「ココはドコ‥ワタシはダレ‥」と呟きながらベッドに寝っ転がっていた。

淳は、雪が高校時代に撮った写真を手に取る。

「友達もいっぱいだ」



すると淳はとあることを思い出し、雪に一つ質問をした。雪はベッドから上半身を起こし、それに答える。

「そういえば、夏に同窓会があったんだよね?あれどうなったの?」

「あ‥あれ結局流れちゃって‥。近い内また会うことになってるんです」

 

雪はその同窓会について、微妙な表情と口調で話を続けた。

「でも行くの止めようと思ってて‥」「どうして?」

「んー‥同窓生の中には絶縁した子もいるし、他の子達ともあまり連絡取ってなくって‥。

なんか気まずいんですよね‥」




その雪の答えに、淳は目を丸くした。

「え?雪ちゃんから縁を切ったの?」



「はい‥まぁ‥」



そう淳の質問を肯定した雪は、自虐的な笑いを浮かべながらガックリと頭を垂れた。

蓮は、姉が人間関係で揉めていた当時のことを思い出し口を開く。

「人間関係ってそういうとこないですか‥誰でも一人とくらいは‥負の歴史が‥」

「あーそうだったそうだった。俺もあん時驚いたもん。一度見限ったら最後、

そんな恐ろしいねーちゃんの一面‥」




蓮は姉の性格を茶化し、目を丸くする淳の前で、姉弟は会話を重ねる。

「でも我慢してる期間が長すぎて、結局痛いキャラっていう‥w」

「ちょ‥アンタ‥



高校時代の写真を見ながら、亮もそれに賛同する。

「冷静で良い判断だぜ、ダメージ。人間関係なんざ、どうせ全て諸行無常よ」

「てゆーか、なんでいきなり私の部屋でこんな話してるの?



雪は我に返って、部屋に居座る三人に退室を促した。

亮と蓮は「ハイハイ」とすぐに腰を浮かせたが、淳だけは一人ぼんやりと宙を見つめて座っている。



「一度見限ったら最後」という、蓮の言葉が淳の脳裏を巡る。

どこか既視感のある彼女のそんな一面を、淳は改めて認識していた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪の部屋にて>でした。

雪のお部屋訪問~でしたね。^^

そして雪ちゃんが自分から絶縁した友達‥どんな人だったんでしょうか‥清水香織的な‥?


短い場面ですが、やはり「淳と雪亮蓮」という構図が気になるところです。

後々この場面が、淳が「自分の考え方は変わってる」ということに気づく伏線(材料?)になるかもですね。


次回は<二人のキーパーソン>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

青い芝生(2)

2015-02-15 01:00:00 | 雪3年3部(ディナーショー第三幕)
続くディナーショーの中で、不意にとあることを思い出した蓮が、姉に向かって大きな声を上げた。

「あっそーだ姉ちゃん!あの健太とかってヤツ、マジムカつくんだけど!」「はぁ?」



突然出された健太の名に、雪は顔を顰め淳も反応した。蓮は、ここ最近の出来事を口を尖らせながら話し始める。

「暇がありゃ人の足踏みに来やがって!昨日も後ろから人の靴踏んづけて謝りもしねーでやんの!

明らかにわざとなのに知らん顔で、こっちが文句言ってようやく謝るんだぜ?しかもニヤニヤ笑いながら!

もー超ムカつくんだけどマジで!」







蓮が健太に足を踏んづけられている場面を、以前雪も目にしたことがあった。

健太の大人げない振る舞いを思い出し、雪は怒りでプルプルと震える。

「あーもうあの人‥マジ‥てかあの先輩、なんで就活もしないで大学にいるの‥」

「あ、健太先輩上半期の就活失敗したっぽいよ」



「あ‥」



その淳の発言で、雪の怒りのトーンは幾分下がった。小さな声でブツブツと呟く。

「そうだったんだ‥。自分自身のことに関しては抜け目の無い人なのにな‥」

「そうだね」



淳は健太の就活に関して知り得た情報を、自分の考察も交えながら雪に伝えた。

「MOSに奉仕活動に、英語や中国語まで、準備出来ることは全部したのに、

変に就活がうまく行かないみたいだよ。実務の経験不足だからかな」




その淳の発言に対し、雪は自分の意見を口にし始めた。

二人は健太のケースを例にして、就活に関しての議論を交わす。

「実務経験積むのは難しいでしょー。学生が経験積むのにも限界がありますし‥。

大学の単位だけでも手にあまるもん」




「だよな。柳もインターン落ちたらしいから。し烈な争いなんだろうな‥」

「そりゃそうですよ!骨身を削ってスペック積んだ人もそうじゃない人も、

内定ゲットするのに苦労するのは皆同じでしょう?」




そんな二人の会話を聞きながら、亮は「何言ってんのかワケ分かんね」と呟いて咀嚼を繰り返した。

一流大学の首席と次席。雪と淳はまるで世間話でもするように、亮が理解不能な議論をさらりと交わす。



二人は亮の方を見もしない。

亮も二人から目を逸し、黙々と食事を口に運んだ。



すると二人の会話を聞いていた蓮が、嘆くような口調で話に入る。

「つーかこんな社会で一体どうやって就職しろってーのよ。

バカみたいに苦労しても無駄じゃね?」




蓮のその発言に、思わず雪はピクッと反応した。

額に青筋を浮かべながら、かろうじての笑顔を保持しながら弟を諭す。

「蓮、戯言はそこまでにしな。就職が厳しいのは皆同じだけど、入れる所が増えたところで

アレコレ言い訳して何もしなかった人と、何にでも努力した人の差があるでしょ?」


 

雪の発言は正論だった。

そんな姉に対し、蓮は苦笑いを浮かべるしかない。

「あ‥ウッス‥」



すると雪も熱が入ったのか、説教モードでガミガミと蓮を叱り始めた。

「てか、もう既にスペックで健太先輩に負けてるってのは分かってる?

そんなに遊んでばっかだと、今に恵に捨てられるよ!」
「わ、分かってんよぉ!」



タジタジになった蓮に向かって、雪の父がなだめるように「蓮はやる時はやる子だ。これからは頑張るよな?」と言って場をおさめた。

亮はそんなやり取りの中、雪に向かってニヤリと笑う。

「おいおいダメージ、おっそろしいなぁ。まるで暴風雪だな!」



するとその亮の発言に対し、言葉を返したのは淳だった。

「正論だろ。周りの環境に不満を言い続けてる間に、一つでも多くの努力をする方が合理的じゃないか」



鋭利な刃物でスパッと切るように、物事を割り切るその価値観。

昔から変わらない幼馴染のその性質を前にして、亮は言葉も出なかった。

「は‥」



亮の胸の中にこびりつくシコリになど気づきもせずに、淳は亮から視線を逸らした。

人当たりの良い笑顔を浮かべながら、蓮に対してアドバイスをする。

「それでも蓮君はまだ若いんだから、そんなに焦る必要無いよ」



それきり亮はムッツリと黙った。

食卓の上に並べられた料理が、だんだんと無くなって行く‥。



「ご馳走様でした」「あ~腹いっぱい~」「めちゃ沢山作ったね」



空になった食器を残して、六人は各々席を立った。

雪と雪の母がキッチンへと向かう最中、振り返って淳に声を掛ける。

「ソファに座ってて下さい!果物持って行きますね」「美味しいお林檎剥くからね~」



ほほほ、とエレガンスに笑った雪の母であったが、続いて亮に普段通り指示を飛ばす。

「亮君と蓮は、テーブル合わせといてちょうだいね」

「こき使うためにオレを呼んだんすか?」



亮はそう言いながらも、渋々頷いて手を動かした。

後片付けをする家族の中に、亮はごく自然に溶け込む。



淳はその見飽きた背中をじっと眺めていた。

「さ、座りなさい」と雪の父が、彼に着席を促しても尚。








二人は人一人分のスペースを空けてソファに座った。

しんとして幾分気まずい空気が、二人を包んでいる。



雪の父はポリポリと頬を掻きながら、会話に困って淳の方をチラリと窺った。

そして幾分わざとらしい咳払いをしながら、自分の方から声を掛ける。

「最近はインターンに行ってるのか?お父さんの会社なのに、インターンとは‥」

「あ、はい。何をするにしてもきちんと学ばなければいけないと父が‥」



淳のその発言を受けて、雪の父は深く頷いた。淳の家のことを、ぶっきらぼうな言葉で褒める。

「君の家はきちんとしてるんだな。

確かに気構えやそれ相応の器がなければ、ただ地位だけ受け継いでもなんにもならん」




しかしまるで自分を試されているかのような雪父の発言に、淳は「ハハハ」と小さく笑うしか出来なかった。

再び二人の間に沈黙が流れる‥。



そこを救ったのは、雪の登場だった。

「果物だよー」



盆を持った雪に続いて、蓮や亮もリビングに入ってくる。

六人は再びワイワイと食卓を囲んだ。



淳の隣に座った雪は、フォークに刺した林檎を彼に差し出す。

「先輩、これ!」



「どーぞ」



そう言って雪は、彼に向かってニッコリと笑った。

その愛らしい笑顔は、固くなり始めていた淳の心を優しく癒やす。







再び淳と亮を中心として、六人の会話に花が咲いた。

蓮と亮は茶々を入れ合いながら、淳は再び笑顔を浮かべながら。



そんな皆の姿を、雪は微笑みながら見つめていた。

心地の良い彼らの喋り声が、普段はしんとしたリビングに賑やかに響いている‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<青い芝生(2)>でした。

今回も細かいクラブ発動!

主に亮さんに関してですが、最初長袖を着ていたはずが‥↓



急に半袖に。




蓮の足を踏んづけた時は白い靴下を履いていたはずが‥↓



急に裸足。



脱ぎ着の激しい亮さんから目が離せませんね‥!


次回は<雪の部屋にて>です。



人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

青い芝生(1)

2015-02-14 01:00:00 | 雪3年3部(ディナーショー第三幕)


テーブルの上いっぱいに並べられた料理に、「わぁ」と淳が声を上げた。

赤山家+淳+亮は、談話しながら食卓を囲んで座る。

「いただきます」「ほほほ‥沢山召し上がれ。亮君もね」「ハイ‥」「俺ここ座るよー?」「頼むから肩に羽織ったそれを取れっ!」



淳は微笑みながら、雪の母に向かって言葉を続ける。

「本当に料理がお上手なんですね」「あらあら~」



そんな二人の会話を聞きながら、亮は終始仏頂面だ。

「お好きなものがあるかどうか分からないけど」「全部頂きます」



無言で淳を睨む亮に、雪は咎めるような視線を投げる。

この人‥何でこんな態度なワケ?今日はマジで振り回されたく無いんだって‥。

もうしたいようにすればいいさ。テーブルひっくり返すとか!




何が起こってももう知らん、と雪は思いながら箸を齧った。

すると何かを思い出したように雪の母が、亮の肩を小突きながら口を開く。

「あ、蓮から聞いたけど、二人はお友達なんですって?ご学友?」



その質問に、にこやかに答える淳。

「はい。高校の時の」



そしてその話題に雪の父が食いついた。

「そうなのか?二人が?」「はい」「ほぉ‥仲は良かったのか?」



「はい、かなり‥」という淳の答えに被せるように、今度は亮が口を開いた。

「あ~それはもう!コイツ‥じゃねえこのお方は超優秀なんで、

オレらの面倒をよく見てくれて!シッター役までやってくれて!」




もう知らん、と口を噤んだ雪の前で、亮は尚も続けた。

「未だにうちの姉のこともほっとけないらしくて、ヤツの面倒も見てもらってるんすよ。

やっぱオレとは完璧器が違うっすね」




繰り広げられる亮の皮肉を、淳は無言でただ聞いている。

すると”姉”という言葉に反応した雪の母が、亮に向かって質問した。

「あ、あの美人なお姉さんのことよね?最近よく店に来てくれる‥」



その雪の母の発言に、雪と淳はピクリと反応した。

雪は無言のまま、心の中で疑問を浮かべる。

?!私が大学行ってる間に来てるのか?



思わず白目になる亮に構わず、続いて淳が雪の母に向かって口を開いた。

雪の母は上機嫌だ。

「よく‥来るんですか?」「そうよぉ」



そして雪の母は、静香について喋り始めた。亮はタジタジである。

「亮君のお姉さんは美人な上に人柄も良さそうだし、料理も美味しそうに食べてくれるしねぇ」

「ハハハ‥でしょ‥?うちの姉ちゃん‥」



そして雪の母は静香を引き合いに出して、雪に活を入れる。

「ほら雪、あんたも食べる!それにあの子みたいにちょっとは着飾んなさいな」



思わずグッと喉を詰まらせる雪。

雪母のお喋りは続いた。

「お姉さんまで知ってるってことは、二人はかなりの仲良しなのね」

「はい、高校の時は同じクラスでしたし‥」「どこの高校だ?」「B高です」



雪の父は淳と亮の出身がB高だと知って、思わず唸った。

「B高?良い学校じゃないか。◯◯区の‥確か大きな建物の近くの‥」

「あ~社長、そこはC高っすよ」



亮は爪を噛みながら、雪の父がしている勘違いを正す。

「C高はB高のライバル校っすから、そこ間違ったらオオゴトなんすよ」「何を大袈裟な」

「いやでもそれはその通りなんです」「じゃあ亮君のお姉さんも同じ学校?」「ハイ‥」



雪は初めて耳にする二人の高校時代の話を興味深そうに聞いていた。淳と亮を中心にして、食卓には会話の花が咲く。

「淳さんは高校の時もお勉強がよくお出来になったんでしょうねぇ。大学でも首席ですもの」

「お母さん、”淳さん”て‥。青田君とかなんとかあるでしょうに‥

「あ‥まぁ大学に行ける程度に、成績の維持はしてました」「うわ~マジで頭イイんすね~」 

「ご両親も誇らしいでしょうねぇ。お勉強は出来るわ、ハンサムだわ‥」



すると淳を褒め続ける雪の母に、亮が若干苛立って口を開いた。

そんな亮に雪の父がツッコミを入れる。

「は!そりゃもう!優等生っすからね!級長に会長に‥」

「どう見てもそうだろうな。ところでお前は?」

「何でオレに振るんすか。ピアノ弾いてただけっすよ」

「どう見てもそうだろうな」



弁解するように口を開く亮に、蓮がクククと笑いながら茶々を入れた。

「それでも成績だって、オレの下に一人は居たしー‥」

「えええー?B高に亮さんより出来ない人なんて‥ギャッ」



みなまで言う前に、亮に耳を引っ張られた蓮が白目を剥く。

食卓は賑やかであった。



雪はチラと二人の方へ視線をやりながら、この光景の意外さを噛みしめる。

二人がテーブルを挟んでこんな話をするなんて‥






淳と亮は互いに目を合わせはしないものの、”高校時代”という共通の話題について会話を続けていた。

雪が知ることの出来ない二人の過去。

共有して来た見えない時間の流れ。

てかアンタ達、付き合ってどのくらいなのよ?長くて半年ってとこ?



鼓膜の裏に、先日静香から言われた言葉が蘇る。

そして想像するのは、高校時代の淳と亮、そして静香の仲睦まじい姿‥。



胸が疼く。

その時間の流れの中に、静香が居たことに。

それじゃあたしとはどのくらいの付き合いだと思う?



三人が共有して来た過去の中に、自分は絶対に交じることが出来ない。

それはもう、どうしようもないことなのだ‥。

「‥‥‥‥」



くさくさし始めた雪は、知るかっ、と思いながらその思いを掻き消した。

食卓では、まだ淳と亮の高校時代の話が続いている。

「それじゃ今まで二人は連絡し合わなかったが、ここでまた会ったと」「はい」



淳が頷くと、雪の父はこう質問した。

「それはなんでだ?二人、ケンカでもしてたのか?」



淳と亮の間にあるわだかまりに触れたような父のそんな質問に、思わず雪は身を固くした。

しかし淳は穏やかな表情で、淡々とそれに答えを出す。

「いえ‥特にそういうことでは無いんですが、あまり性格が合わなくて。結果、疎遠になったというか‥。

卒業後は連絡も途切れまして」




亮は皮肉な笑みを浮かべながら、淳の答えに乗っかった。

「だーよな。性格の相性ってのは大事よ。性格の相性ってのは」



「近頃の離婚の理由の大半も皆、性格の不一致だって言わないっすか?

それはなぜかと言うとだなぁ、性格がネジ曲がってっからだよ!」




「誰が~?」と聞く蓮に、雪は青筋を立てながら「二人とも!」と小声で答える。

亮は淳の方を睨みながら、大仰な手振りでこう続けた。

「あぁ?ちげーか?しまいには一癖あるソイツのせいで手もメチャクチャになってー‥」



雪は険悪になりつつあるその雰囲気に白目になり、雪の父は静かにその話を聞く。

淳は溜息を吐きながら、亮の言葉にこう答えた。

「そうだな。それは俺もいつも残念に思ってたよ」



その言葉に、亮は呆れたように息を吐き捨てる。

「は!」



すると話を聞いた雪の母が、しんみりとした口調で口を開いた。しかし蓮はそんな母親に激しくツッコミを入れる。

「やっぱり亮君の手は良くないのね。なんとなく仕事の時に変だったもの‥」

「おいおい母さんったらマジかよ!左手だし!メシの時とかフツーに食ってんじゃん!」



「ただ亮さんは仕事が出来ない‥ギャッ!



テーブルの下にて、亮の足がドカッと蓮の足を踏み、その痛みで彼は黙った。

亮は雪の方を睨みながら言う。

「お前が話したのか?えぇ?ダメージよぉ!」

「はぁ~?!違いますよ!

あなたがあっちこっちでコソコソしてるから‥!」




手のことを気にせずには居られない振る舞いをするあなたが悪い、と言って雪は白目を剥いた。

すると騒々しいその雰囲気の中、雪の父が口を開く。

「ピアノ弾きだったのに、苦労も多かっただろう。仕事の方はわしらにまかせて、熱心に励めよ」



普段無口な雪の父の、温かな言葉。

社長と従業員以上の愛情が、そこにはあった。

亮はそんな彼を目を丸くして見つめている。蓮が、「俺が話したんだよね」と小さく呟く。



一瞬しんとした食卓。雪の母が淳に向かって声を掛けた。

「もっと持って来ようかしら?」「いえ、沢山頂きました。ありがとうございます」



淳は笑顔を崩さず、雪の母に都度頭を下げる。

「それじゃあ水持ってくるわね、グラスが空よ」「ありがとうございます」



他人に対する気掛かりが、胸の中に固いしこりを作る。

けれど彼らはそれを飲み込み、普段通りの顔で、会話の中に溶け込んで行く。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<青い芝生(1)>でした。

皆様お久しぶりです!ようやく本家が再開されましたね~~

私は久しぶりの翻訳+記事執筆に、なんだか手間取ってしまいました

たどたどしかったらすいません徐々に勘を取り戻して行きたいと思います。。


そして連載開始と同時に、ディナーショーの始まりでもありますね。

何気なく交わされる会話を通じて、互いへの憧憬、焦燥、嫉妬などが見え隠れするこのディナーショー。

「隣の芝生は青い」、各々が持つそんな感情を感じて、記事のタイトルにしています^^


次回は<青い芝生(2)>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!