ドス ドス ドス!
夜の公園を大股で歩く亮の後ろを、淳が静かに追いかけて行く。
ある程度まで歩いたところで、淳は肩を怒らせた亮に話し掛けた。
「一体何だよ」
「まだ言いたいことがあるのか?
雪の両親の前だったから、さっきの喧嘩ふっかけてくるような態度だけじゃ満足出来ないってわけか」
その嫌味ったらしい発言に、亮は歯をギッと噛みながら振り返る。
「おっまえなぁ!オレとダチだっつー演技は面白かったかよ?!」
「それが俺がここに呼ばれた理由か?」
指を指しながらヒートアップする亮とは対照的に、淳は斜に構えて彼と相対していた。
幼馴染のいつもながらの姿に、亮は腸が煮えくり返る思いがする。
「ハッ!性格の相違だって?!クソ野郎、笑わせんな!」
「自分こそペラペラと饒舌だったじゃないか。それじゃどうすれば良かったんだ?
皆の前で殴り合いの喧嘩でもした方が良かったか?ありえないだろうが」
「ありえないのはテメーだっつーの!」「俺が何だって?」
ああ言えばこう言う淳に対して、亮は怒りにまかせて早速本題を切り出した。
「お前また静香に美術について何か言いやがったって?
しかもダメージのストーカー野郎の写真まで取らせて!今度は一体何企んでんだよ!」
亮は、先日姉から聞き出した淳と静香のやり取りを思い出していた。
アンタ、今回淳ちゃんがどれだけ面白いことしたのか分かってる?
自分の知らないところで行われていた、女虎と狐の取引。
そして亮は、かつて姉の捨てた「美術」という夢を使って、虎を動かした狐の狡猾さが許せなかった。
「美術をするもしないも、アイツ自身が決めることだろ?!
静香はお前のオモチャじゃねーんだよ!」
青筋を立てる亮。しかし淳は涼しい顔だ。それが亮の癪に障る。
「それが何か?静香にとってもプラスになることだろ。金だって手に入るんだし。
美術は本人もずっと考えてたことなんだし、俺から切り出して何が悪い?何か差があるか?」
「あるに決まってんだろ!!テメーに何が分かるっ?!」
全てに恵まれたこの幼馴染。
夢を失うことなど無いであろうこの男に、一体何が分かると言うのかー‥。
しかし淳は心底不思議そうな顔をしながら、自分の気持ちを淡々と口にする。
「お前だってピアノを弾いてるだろう。なのに静香が美術を始めちゃいけないのか?
それにもういい年した姉貴のことに対して、お前が干渉するのも理解不能だよ。
お前こそいい加減にしたらどうだ?」
「話が通じねぇ‥」と亮が呟く。
しかしそれに被せるように、淳は話を続けた。
「それより‥俺の方こそ話したいことがある。お前ー‥」
「一体いつまで雪につきまとうつもりだ?
ハッキリ言っただろ。無駄にフラフラするのは止めろって。何度言わせれば気が済むんだよ」
亮に対して何度もしてきた忠告。
”雪の周りから離れろ”
しかし亮はそれをことごとく聞き入れなかった。
そればかりか、いつの間にか赤山家の一員のような存在になっているー‥。
その言葉を聞いた亮は思わず吹き出し、淳のことを嘲笑した。
「ぶはっ!」
「何度も何度もひつこいっつーの!ここはオレの職場ですが何か?!」
すると淳は、静かなトーンで話を切り出した。
それは淳が今日手に入れた、切り札だった。
「つきまとうだけならともかく、トラブルを起こすってのが問題なんだよ。
吉川って社長が、大学で雪のことを探してた」
「えっ?」
ピクッ、と亮の動きが止まった。
サッと青ざめて行く亮に向かって、淳は「弁解出来るか?」と言い捨てて息を吐く。
亮は地方で働いていた時の雇用主‥吉川社長の名が淳の口から出たことに動揺していた。言葉が何も出て来ない。
俯いて沈黙する亮に向かって、淳は冷たい視線を投げかけながら口を開く。
「一体今まで何をして生きてたのかと思えば‥。結局他人の金を奪って、逃げるように上京して来たってことか」
「そうやってコソコソ隠れて生きてても、全部解決出来るわけがないだろうが」
亮の頭の中で、警鐘が鳴っていた。
それは吉川社長が自分を追ってここまで来たことに対することではなく、
先ほど淳が口にしたことに対してのシグナルだ。
「ダメージを‥探してたって‥?あの野郎が‥?」
真っ青になり、頭を抱える亮。
淳はそんな亮を見据えながら、淡々と口を開く。
「‥ああ。お前、どうするんだ?」
「あの人が雪の家‥店を探し出すのも時間の問題だ。お前、何なんだよ。一体何してんだよ」
「ダメージを‥」と呟きながら、亮は視線を彷徨わせていた。淳の蔑みに怒りを覚える余裕すら無かった。
しかし次の瞬間、淳が発したその言葉に、ピクと亮は反応する。
「あんなにリハビリを拒否していなくなった結果がこれなんてな。
自分で自分が情けなくはならないか?」
沸々と込み上げる怒り。
気がついたら歯を食いしばり、拳を強く握っていた。
昔味わった、あの苦い憤りが蘇る‥。
「クソったれっ!!どうしてオレがリハビリを拒否したか分かんねぇのか?!」
亮は吼えた。しかし淳は、亮の怒りなど想定内とばかりの涼しい顔だ。
「ああ、分からないね。そのまま受け入れておけば良かったのに。普段は図太く厚かましいくせに」
目を丸くする亮に向かって、淳は抑揚のないトーンで話し続ける。
「自分がしでかしたことには目を瞑って、今になって夢探しか?
そんなに安易に新しい一歩を踏み出そうなんて‥逆に感心するよ」
「しかも雪の傍で」
「俺を困らせようと思ってつきまとってるのは分かるけど、
それが皆を苦しめてるってことに気づくんだな」
そして淳は真っ直ぐ亮を見据えながら、決定的な一言を口にした。
「もし良心があるんなら、お前が雪の傍にいること自体が迷惑だっていい加減分かれよ」
雪の笑顔を守りたい、ずっとそう思っていた。
けれど今、彼女の身に危険が迫っている。そしてこの事態を招いているのは、他でもないこの自分ー‥。
強く握った拳が、小刻みに震えていた。
「どうすればいいのか、しっかり考えろ」と、淳の声が遠く聞こえる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<侃々諤々>(かんかんがくがく)でした。
互いがそれぞれ己の正しさを信じているから、いつまでたっても平行線ー‥。
淳と亮の話し合いは、そんな印象ですね。
そこに亮が地方で働いていた時の社長(初めて名前が出てきましたね。韓国語では「ミン社長」と書いてあります)
が絡んで、状況は混濁模様‥。
というかあの社長と淳が会ったのってこの日の昼のことでしたね‥またしてもパラレルワールドです私‥^^;
*2015.10.12追記
日本語版にて社長の名前が「吉川」と出てきましたので、これ以降の社長の名前を吉川とさせて頂きます。
ご了承くださいませ~
次回は<タイマン勝負(1)>です。
次回、次々回と、台詞ほとんど無いですが‥(汗)お付き合い下さいませ
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夜の公園を大股で歩く亮の後ろを、淳が静かに追いかけて行く。
ある程度まで歩いたところで、淳は肩を怒らせた亮に話し掛けた。
「一体何だよ」
「まだ言いたいことがあるのか?
雪の両親の前だったから、さっきの喧嘩ふっかけてくるような態度だけじゃ満足出来ないってわけか」
その嫌味ったらしい発言に、亮は歯をギッと噛みながら振り返る。
「おっまえなぁ!オレとダチだっつー演技は面白かったかよ?!」
「それが俺がここに呼ばれた理由か?」
指を指しながらヒートアップする亮とは対照的に、淳は斜に構えて彼と相対していた。
幼馴染のいつもながらの姿に、亮は腸が煮えくり返る思いがする。
「ハッ!性格の相違だって?!クソ野郎、笑わせんな!」
「自分こそペラペラと饒舌だったじゃないか。それじゃどうすれば良かったんだ?
皆の前で殴り合いの喧嘩でもした方が良かったか?ありえないだろうが」
「ありえないのはテメーだっつーの!」「俺が何だって?」
ああ言えばこう言う淳に対して、亮は怒りにまかせて早速本題を切り出した。
「お前また静香に美術について何か言いやがったって?
しかもダメージのストーカー野郎の写真まで取らせて!今度は一体何企んでんだよ!」
亮は、先日姉から聞き出した淳と静香のやり取りを思い出していた。
アンタ、今回淳ちゃんがどれだけ面白いことしたのか分かってる?
自分の知らないところで行われていた、女虎と狐の取引。
そして亮は、かつて姉の捨てた「美術」という夢を使って、虎を動かした狐の狡猾さが許せなかった。
「美術をするもしないも、アイツ自身が決めることだろ?!
静香はお前のオモチャじゃねーんだよ!」
青筋を立てる亮。しかし淳は涼しい顔だ。それが亮の癪に障る。
「それが何か?静香にとってもプラスになることだろ。金だって手に入るんだし。
美術は本人もずっと考えてたことなんだし、俺から切り出して何が悪い?何か差があるか?」
「あるに決まってんだろ!!テメーに何が分かるっ?!」
全てに恵まれたこの幼馴染。
夢を失うことなど無いであろうこの男に、一体何が分かると言うのかー‥。
しかし淳は心底不思議そうな顔をしながら、自分の気持ちを淡々と口にする。
「お前だってピアノを弾いてるだろう。なのに静香が美術を始めちゃいけないのか?
それにもういい年した姉貴のことに対して、お前が干渉するのも理解不能だよ。
お前こそいい加減にしたらどうだ?」
「話が通じねぇ‥」と亮が呟く。
しかしそれに被せるように、淳は話を続けた。
「それより‥俺の方こそ話したいことがある。お前ー‥」
「一体いつまで雪につきまとうつもりだ?
ハッキリ言っただろ。無駄にフラフラするのは止めろって。何度言わせれば気が済むんだよ」
亮に対して何度もしてきた忠告。
”雪の周りから離れろ”
しかし亮はそれをことごとく聞き入れなかった。
そればかりか、いつの間にか赤山家の一員のような存在になっているー‥。
その言葉を聞いた亮は思わず吹き出し、淳のことを嘲笑した。
「ぶはっ!」
「何度も何度もひつこいっつーの!ここはオレの職場ですが何か?!」
すると淳は、静かなトーンで話を切り出した。
それは淳が今日手に入れた、切り札だった。
「つきまとうだけならともかく、トラブルを起こすってのが問題なんだよ。
吉川って社長が、大学で雪のことを探してた」
「えっ?」
ピクッ、と亮の動きが止まった。
サッと青ざめて行く亮に向かって、淳は「弁解出来るか?」と言い捨てて息を吐く。
亮は地方で働いていた時の雇用主‥吉川社長の名が淳の口から出たことに動揺していた。言葉が何も出て来ない。
俯いて沈黙する亮に向かって、淳は冷たい視線を投げかけながら口を開く。
「一体今まで何をして生きてたのかと思えば‥。結局他人の金を奪って、逃げるように上京して来たってことか」
「そうやってコソコソ隠れて生きてても、全部解決出来るわけがないだろうが」
亮の頭の中で、警鐘が鳴っていた。
それは吉川社長が自分を追ってここまで来たことに対することではなく、
先ほど淳が口にしたことに対してのシグナルだ。
「ダメージを‥探してたって‥?あの野郎が‥?」
真っ青になり、頭を抱える亮。
淳はそんな亮を見据えながら、淡々と口を開く。
「‥ああ。お前、どうするんだ?」
「あの人が雪の家‥店を探し出すのも時間の問題だ。お前、何なんだよ。一体何してんだよ」
「ダメージを‥」と呟きながら、亮は視線を彷徨わせていた。淳の蔑みに怒りを覚える余裕すら無かった。
しかし次の瞬間、淳が発したその言葉に、ピクと亮は反応する。
「あんなにリハビリを拒否していなくなった結果がこれなんてな。
自分で自分が情けなくはならないか?」
沸々と込み上げる怒り。
気がついたら歯を食いしばり、拳を強く握っていた。
昔味わった、あの苦い憤りが蘇る‥。
「クソったれっ!!どうしてオレがリハビリを拒否したか分かんねぇのか?!」
亮は吼えた。しかし淳は、亮の怒りなど想定内とばかりの涼しい顔だ。
「ああ、分からないね。そのまま受け入れておけば良かったのに。普段は図太く厚かましいくせに」
目を丸くする亮に向かって、淳は抑揚のないトーンで話し続ける。
「自分がしでかしたことには目を瞑って、今になって夢探しか?
そんなに安易に新しい一歩を踏み出そうなんて‥逆に感心するよ」
「しかも雪の傍で」
「俺を困らせようと思ってつきまとってるのは分かるけど、
それが皆を苦しめてるってことに気づくんだな」
そして淳は真っ直ぐ亮を見据えながら、決定的な一言を口にした。
「もし良心があるんなら、お前が雪の傍にいること自体が迷惑だっていい加減分かれよ」
雪の笑顔を守りたい、ずっとそう思っていた。
けれど今、彼女の身に危険が迫っている。そしてこの事態を招いているのは、他でもないこの自分ー‥。
強く握った拳が、小刻みに震えていた。
「どうすればいいのか、しっかり考えろ」と、淳の声が遠く聞こえる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<侃々諤々>(かんかんがくがく)でした。
互いがそれぞれ己の正しさを信じているから、いつまでたっても平行線ー‥。
淳と亮の話し合いは、そんな印象ですね。
そこに亮が地方で働いていた時の社長(初めて名前が出てきましたね。韓国語では「ミン社長」と書いてあります)
が絡んで、状況は混濁模様‥。
というかあの社長と淳が会ったのってこの日の昼のことでしたね‥またしてもパラレルワールドです私‥^^;
*2015.10.12追記
日本語版にて社長の名前が「吉川」と出てきましたので、これ以降の社長の名前を吉川とさせて頂きます。
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次回、次々回と、台詞ほとんど無いですが‥(汗)お付き合い下さいませ
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