Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

曖昧な(仮)

2014-06-13 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)
A大にて彼女(仮)を待っていた彼氏(仮)は、その姿を見るやいなや大きな声でその愛称を呼んだ。

「キ~ンカーン!!」



「彼氏が来たぞーーー!!」



そう口にした赤山蓮は、キンカンこと小西恵の前に躍り出てポーズを決めた。

俺は誰?!ジャーン!彼氏!



そのままハートポーズを決めまくる蓮から(その意味はI love youらしい)、恵は目を逸らしながらそっと去ろうとした。

「今終わり~?‥ってどしたん?どこ行くの~?」



しかし蓮は逃がしてくれない。そのまま走り出した恵を追いかけて、尚も大きな声で話し掛けて来る。

「彼氏が来たってのに~!こんな超イケメン放ってどこ行くっての?!」



やめてよ!と口にする恵だが、蓮はうっとりとした仕草で彼女(仮)に語りかけた。

君が俺の元に飛び込んで来て‥と二人のストーリーを‥



ドゴッ



‥しかし最後は恵が切れ、蓮のお腹に一発食らわせた。バッカじゃないの、と捨て台詞付きで‥。

けれど蓮は挫けない。そのまま立ち去ろうとする恵に誘いをかける。

「なぁキンカン、そう言わずにメシ行こーぜ!」 

「ちょっと、あたし試験期間なんだってば」



そう言って早足で歩き出す恵を追いかけながら、蓮は尚も食い下がった。

「えーでも一日中じゃないだろ?」 「試験勉強もあるの!」

「美大も試験なんてあんの?全部実技じゃねーの?」 「違うんだって!」

「だったらメシだけでも一緒に食おーよー!」 「‥‥‥‥」



何度突き放しても、蓮はなかなか引き下がらない。恵は一つ息を吐くと、蓮の方に向き合って口を開いた。

「ねぇ蓮、こんなことしてる時間があったら帰ってお店手伝いなよ!」



そんな恵の提案にも、蓮は首を傾げて「今日は仕事無い日なのに?」と返してくる。

恵は「だったら友達とでも遊んで来なよ!」と尚も提案する。蓮には友達がいっぱいいるはずなのだ。

すると蓮はキョトンとした表情を浮かべ、ストレートにこう聞いて来た。

「俺がここに居たらヤダ?」



それは裏を返せば、自分はここに居たいという意味で‥。

恵はそんな彼を前にして、口をあんぐり開けて固まった。



すると蓮は肩を落としながら、手で顔を覆って俯いた。どんよりとしたオーラを背負っている。

「帰国した当初は天国だったけど‥今はお金も無いし、他の奴らと遊んでも何一つ面白くない‥」



いきなりシリアスムードになって項垂れる蓮を前にして、恵は幾分焦った。

こんな反応をさせたくて口にした言葉じゃなかったのに‥。

「そか‥あたし今から試験で行かなきゃで‥」「邪魔しないように待つからさぁ‥」



しおらしく蓮はそう言ったが、次の瞬間また元気になってハートマークを浮かべた。

彼氏なんだからそのくらいは



(仮)なのに彼氏彼氏と連発する蓮に、恵は再びブチッと切れた。その開いた口に食券をぶち込み、

「あたしが試験受けてる間、それでご飯でも食べな」と言い捨てる。



暫しゴホゴホとむせていた蓮だが、恵から貰った食券を握り締めると笑顔を浮かべた。

目の前に居るのは幼い頃から一緒に居る幼馴染み、けれど今は仮の彼女‥。



蓮はニコニコ笑いながら、恵の肩に腕を回した。

「やっぱり俺にはキンカンしかいないな~。メシ食って待ってたら後で会ってくれる?」

「分かった分かった」



「マジで?」 「マジで!」 「マジのマジのマジのマジで?」 「‥‥‥‥」



晴れ渡る秋の空の下を、二人はふざけ合いながら肩を組んで歩いた。

蓮は恵に向かって、微笑みを浮かべながら小指を立てて見せる。

「それじゃ、約束」



それを見て、恵はフッと小さく息を漏らす。

「なによもー」



そして二人は小指を絡めて指切りをした。

子供みたいね、と言って恵は小さく笑う。



蓮もニコニコ笑いながら、先ほど口にした言葉をもう一度言った。

「やっぱりお前しかいないよ」



蓮はそう言って、優しい眼差しを恵に向けた。

小さい頃から傍に居た、一番近くの女の子‥。



小さい頃から傍に居た、一番近くの男の子を前にして、恵は少し面食らった。

今まで見たことがあっただろうか? 蓮のこんな優しい眼差しを‥。



絡めた小指が体温を分けて、二人の境界を曖昧にさせる。

今は閉じられた(仮)の括弧もまた、曖昧にぼやけていく‥。


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<曖昧な(仮)>でした。

なんだかとても良い雰囲気‥ラブコメ部門はこちらの二人に任せることにしましょう(笑)


次回は<隠された秘密>です。


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それぞれの事情

2014-06-12 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)
学食へと移動した雪達は、食事を共にしながらお喋りを楽しんだ。

「いや~直美さんも突然人が増えて超楽しそうだよね。横山の友達とかとも合流して面白いみたいねー」

「あ、清水香織って最近雪の真似してなくない?」 「あの子の話はしないでよっ!」

「てかちょっとうるさくない?こっちは静かに集中してんのにさー」



気の置けない同期達は、良いことも悪いことも含めて思い思いの話題を口にした。

雪は皆の話に耳を傾けつつ、話題を試験のことに移す。

「皆テスト結構出来た?」



雪からの質問に外ハネヘアの子が「びみょー」と答えると、黒髪ロングの子が謙遜すんなと肘で突く。

とりあえずさっきの試験はそんなに難しくなくて良かった、と外ハネが続けると皆もそうだと頷いた。



彼女らは同期であると同時に、成績を争うライバルでもある。先程の試験は簡単だったので、皆の点数は均衡するだろう。

これから待ち構えている他の科目で差が出るはず、と雪は踏み、

とにかく今晩も徹夜だな と心に決める。



すると黒髪の子が、溜息を吐きながら口を開いた。

「あ~あ、奨学金取らないといけないのに~」



何度か奨学金を手にしている雪は、彼女のその発言にビクッとなった。

しかし皆は特に気に留めず、話題は奨学金のことへと移っていく。

取れたらいいのに、取りたいね、皆そう口にして頷き合った。



すると黒髪の子が皆の方を見て、少し神妙な面持ちで話出した。

「うちのお父さん、今年で定年退職なんだよね」



雪は驚き、「本当?」と聞き返した。頷く彼女。

「まぁそれで家が超苦しくなるとかじゃないんだけど、それでも学費がちょっと負担になるってことで‥」 



皆が相槌を打ち、息を吐いた。高額な学費が負担になっているのはどの家も一緒だ。

しかもA大は奨学金の額もそれほどでもなく審査も厳しいのだ。皆は一様に頷き合って肩を落とした。

「そういえばあんた、お母さんが勤めてる所が奨学金支援してくれるんでしょ?」



同期の一人が外ハネの子に向かってそう話題を振ると、黒髪の子が「うらやましい」と言って彼女の方を見た。

しかし外ハネの子は言葉に詰まり、やがて首の後ろを掻きながら口を開いた。

「この前うちの母さん、ガンの手術してさ‥」



彼女の言葉に、全員が息を飲んだ。そしてそんな空気を察した外ハネの子は表情を緩め、詳しい話を続ける。

「あ、今はもう大丈夫!早期発見だったから、大したことはなかったの。皆が気を揉むほどじゃないからさ」



彼女は笑顔でそう口にしたが、続ける言葉は沈んだ調子だ。

「ただ今回のことで辞職して家で休むことになるから、奨学金の方はちょっと‥。勉強にもっと集中しなくちゃ」



そう言って肩を竦める彼女を見て、聡美が共感の相槌を打つ。

「あんたの家もそうだったんだ‥」



聡美が話し出すその隣で、雪は一人心の中で思っていた。

時々そういう日がある。突然流れに乗って、話が溢れ出るような日。

一つの話題に乗っている中で、今まで話したことのない、胸の内に隠し持っていたものが、

ふと自然に零れ出る。




聡美はリハビリ中の父親のことを話した。皆が同情の相槌を打つ。

雪は流れに乗って、自分の家の食堂がオープンしたことを話した。近くに来た時は是非寄ってよ、と。



心の内を話すタイミング、それは一体いつやってくるのだろう。

もしかしたら単純に試験のストレス解消なのかもしれないし、

実際そこまで深い話は無かったけど




外ハネの子と黒髪の子は話を続ける。親戚が実家にお金を借りに来て、お小遣いが貰えなくなっただとか、

バイトをもう一つ増やそうと思っているとか。

その中で、雪は彼女達の隣に座るもう一人の子に視線を送る。

一人だけ何の話もせずに、なぜだか沈んだ表情をしていた友人も居た。



その子には何も語るべきことが無かったのかもしれないし、抱えているものを出す気になれなかっただけかもしれない。

その子の心の中は、語らない限りその子にしか分からない。

そしてタイミングという流れが過ぎ去ってしまったら、言葉を出すことは出来なくなる。皆それを分かっている。

そして話はすぐに他の話題に移り、何事も無かったかのように私達は別れる。



テスト頑張ろうね、と言って手を振り合い、彼女らは別れを告げる。

心の中身を少しだけ見せて、そしてまた仕舞って、彼女らは歩いて行く。

それでも、みんなの違う一面を感じたり‥



雪はそれぞれの事情を語る、彼女達の顔を思い浮かべて歩いていた。

今まで敢えて話す機会も無かったから‥想像してみたことさえ無かった‥



そして雪は、アイスクリームを食べに行こうと言ってニコニコ笑う聡美の方を見て思った。

そういえば、聡美だっていつも笑って過ごしてるじゃない。親友だから色々な事情を知ってるだけで‥。



雪は聡美からの提案に頷くと、二人は並んで歩き出した。

「私がおごったげる。太一には内緒!」 「マジ?!やったー!可哀想な奴ww」



考えてみれば、私がいつも悩むように皆にも悩みがあるのは当然なわけで‥。

近くに居る人達の事情さえ知らずに、私はただ何かに追われて日々を生きてきたのかもしれない。




様々な悩みを抱えて、心の中に色々な感情を抱えて、私達は日々の間を泳ぐように生きる。

流れに負けないように、前へ前へ。

その中で共に泳いでいる仲間達に、ふと思いを馳せてみる。

いつも笑っている友人に、そして当たり前のように近くに居る家族に‥。




姉がそんなことを思っているとは露も知らない弟は、その時A大に居た。

心の中の感情と流れる時間に目をつむり、目の前の楽しさだけを必死で追いかけながら‥。



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<それぞれの事情>でした。

なんてリアルな‥現実的な話なんでしょう‥。

生きていく中で直面する出来事の、裏も表も同じくらい描き出すチートラ、本当にすごいなぁと思います。

あと外ハネの子と黒髪の子がかなり仲良くて、もう一人の子が少し置いてけぼりになってる感じとか、

女同士での「あるある」ですよね‥。あーリアル‥。


次回は<曖昧な(仮)>です。


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刺さる視線

2014-06-11 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)
「‥‥‥‥」



背後から、横山翔の視線が刺さる。雪は暫し顔を顰めながらそのストレスに耐えていた。

そうする内に時刻は開講時間に迫り、教室には学生達がぞくぞくと登校して来たのだった。

「雪おはよ!」 「早かったッスね!」



聡美と太一も教室に入って来た。

雪は自分と横山との間に沢山の人が入ったことで、ほっと胸を撫で下ろす。



試験勉強について話す雪と聡美と太一が居る席の後方に、同期の女の子二人が座ってノートを開いていた。

そしてその隣には通路を挟んで横山翔、そしてそこに直美や香織などが集っている。

「キャハハハハッ!えーマジでぇ?!」



しかし横山を始めとする彼等はうるさかった。

皆試験勉強をしたりノートを見たりしている中、彼等は大きな笑い声を上げて騒いでいる。

うるさー 何なのあれ



彼女達は顔を上げ、小さくそう呟いていた。聡美が顔を顰め、雪は彼等に視線を送る。

彼等は清水香織が可愛くなったということをしきりに話していた。

香織は彼等から褒められて、嬉しそうに頬を染める。



そんな彼女を見ていた雪だが、不意に清水香織と目が合った。

少し雰囲気が変わった彼女は、どこか見下すような視線を送ってくる。



しかし直美が「彼氏が出来たせいだ」と話題をそっちに持って行くと、

香織は後ろめたそうに俯いた。



テストや課題のことを口に出しながら、チラと直美がこちらに視線を送ってくる。

どこかニヤニヤした笑みを湛えて。



そして人々の影の間を縫うように、横山もこちらに視線を送って来る。

じっと見ていたかと思うと、可笑しそうにクックと笑ったりを繰り返して。



そんな嫌な視線が次々と刺さるのを、雪は背中でビシビシと感じていた。

むっつりと黙りこみ、雪は一人苛立ちを募らせる。



彼等に神経使わされるのは御免だが、嫌でも感じてしまうその視線、その存在感‥。

「みなさーん試験の準備してくださーい」



そうする内に、試験開始時刻が迫り事務の品川さん達が教室に入って来た。

皆各々席に就き、問題用紙と解答用紙が配られる。

遂に中間考査が始まったのだった。



しんとした教室に、ペンが走るカリカリという音だけが響く。

雪は勉強の成果を存分に発揮して、白い答案を黒い文字で埋めて行ったのだった。





「うあ~!一つ終わったー!」 「お疲れっス」 「おつかれ!」



一つ目の試験が終わった。雪は割りとよく出来たと今の試験を振り返ってホッとしていた。

他の科目で手が回らないと思っていたこの試験だが、地下鉄の中で暗記した内容が結構出たのだった。



太一は次、教養科目の試験があるらしく、その場で雪達に別れを告げた。

時刻はもう昼前だったので、雪と聡美はお昼を食べに行こうと言って教室を出る準備をする。

「何食べよっか~」 「うーん‥外行ってー‥」



そこまで口にしたところで、後方から大きな馬鹿笑いが聞こえた。

振り返ると、横山を囲んだ御一行がワイワイと昼食について話している。



大人数の彼等は、大学近くの座敷がある店に行くらしい。

彼等が外に食べに行くことを知った雪は、行き先を学食へと変更する。



するとそんなやり取りを聞いていた同期の女の子が、雪達に声を掛けて来た。

「雪ちゃん達も学食?うちらも一緒に行くー」



女の子三人が雪と聡美に合流し、雪達は計五人で学食に行くことになった。

教室を出る時に、出入口近くでバッタリ横山と顔を合わす。



すると横山は雪に声を掛けようとした。

「ちょっと‥」と口が動くのが見える。



雪はギクッと身を強張らせると、即効で横山に背を向けた。

学食に向かう雪の背中を、横山はそのまま見つめている。



横山は先日雪に青田淳からのメールを見せた時、彼女が去り際に見せた表情が忘れられなかった。

あの哀しみとショックを湛えた、今にも泣き出しそうな顔の彼女‥。



ぼんやりと雪の背中を目で追っていた横山に、隣の直美が声を掛けた。

「ちょっと!聞いてんの?」



先ほどから話し掛けているというのに、ちっとも反応しない横山に直美は立腹していた。

しかし横山は直美に対して、適当な相槌で話を流す。


そして彼等は皆一様に、昼食を取りに教室を出て行った。



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<刺さる視線>でした。

今回悲しかったこと‥

 


太一がことごとく見切れ&後ろ姿というこの事態‥。

間違いなくこの漫画で一番か二番を争ういい男なのに‥(^^;)


次回は<それぞれの事情>です。




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始まる中間考査

2014-06-10 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)
中間考査 前日



時刻は深夜一時過ぎ。小さな時計の秒針が、時を刻む音が部屋に響く。

白いノートが、黒い文字で埋め尽くされて行く。



雪は黙々と勉強した。

一時間経ち、二時間経ったが、同じ姿勢で手を動かし続ける。



時計の針は三時半を刺した。

徐々に靄がかかっていくような頭の中に、あの時背中越しに掛けられた彼の言葉が蘇る。

それじゃあ、待つよ



胸の中に、苦い思いが広がって行く。

雪は「疲れた‥」と口にしながら、息を吐いて手で顔を覆った。



机の上に散らばったプリントに手を伸ばす。心の中が揺れていた。

何を待つというのか。真実は一体何なのか。



忘れている中でふと思い出す、その瞬間ですら混乱している。

全てのことは、現実の前に冷たく冷める。




雪は段々と意識が遠のいていくのを感じていた。

目に見える黒いものは文字だが、白いものは‥何だっけ?

 

本を読んだって頭の中がぐじゃぐじゃで、意味なんてさっぱり分からない。

ヨダレを口から垂らしたまま、その眼がゆっくり閉じて行く‥。


「たっだいま~!」



いきなり大きな声が玄関から響き、雪はビクッと驚いた。蓮が帰って来たらしい。

扉の向こうで母が蓮をなじり、まだ明かりの点いている雪の部屋を見て声を掛けて来た。

「勉強はそのくらいにしてもう寝なさいよ!

蓮はまた何なの?!明け方に忍び込むみたいに帰って来て!」




雪はヨダレを拭いながら返事をし、もうひと頑張りと気を引き締めた‥。








中間考査、初日。

雪は地下鉄の駅への道を歩きながら、受け取ったメールの文面を眺めていた。

試験頑張って



先輩からのメールだった。たった一文だけの。

「‥‥‥‥」



雪は複雑な気分のまま、眉を寄せて俯いた。

彼とはまだ、何も話す気にはなれない‥。

「おいっ!ダメージヘアー!」



すると突然、物陰から河村亮が顔を出した。

雪は驚きのあまり息を飲み、「何なんですか?!」と亮に問う。



亮は期せずして彼女を驚かせてしまったことを申し訳無く思いながら、雪に向かって口を開いた。

「いや‥お前、テスト受けに行くのか?」

 

その探るような視線と質問に、雪は訝しげな顔をしながらも頷いた。

亮は出来るだけさり気ない仕草を演じながら、

「大学ってのも、テストだと早く終わんのか?」と彼女に問う。



そうですけど、と雪は答えながらも頭の中は疑問符でいっぱいだ。尚も亮は続けてくる。

「だったら早く家に帰って来んだろ?」

「?図書館に行って勉強しなきゃ」



雪がそう口にすると、亮は顔をさっと青くして声を上げた。

「はぁ?!図書館?!夜遅くなるじゃねーか!」 「だから何なんですか!」



雪にとっては、亮の行動は意味不明である。そして雪は彼が自分をからかっているんだと思い、

「ヒマなら蓮とでも遊んでて下さい」と口にしてその場から去ろうとした。



しかし亮としては、このまま彼女を行かせるわけにはいかない。いつ静香の毒牙がかかるか分からないのだ。

「おいおいダメージヘアー!」



そう言って雪のリュックを引っ張った亮は、やはり出来るだけさり気ない風を装って声を掛けた。

「いや‥てか、お前もしや‥最近学校で誰かに追いかけられたり見つめられたり‥、

そういうことされてねーか?」




その亮の言葉を受けて、雪は一瞬真顔になった。



つい先日、横山から後を付けられたからだ。

音もなく現れた横山に、あの時は本当に驚いた‥。



黙っている雪に、亮は頭を掻きながら話を続けた。

「いやまぁ‥その‥もしそういうことあったらオレに言えよ?特別な意味はねーけどよ」



脳裏には、大暴れする静香が浮かぶ‥。

亮は雪にそう言葉を掛けてから、最後は冗談で締め括った。

「もしそんな奴がいたら、そいつのツラを拝んでみてーからよぉ!」



誰がお前なんかをw と意地悪そうに笑う亮に、雪は青筋を立てて憤った。

何で朝からケンカ売るのと、雪の荒ぶる声が晴天に溶けて行く‥。









片道2時間弱の通学時間を経て大学に着いた雪は、試験の準備をしながら、

先ほどの亮の行動について訝しく思っていた。

あの人何で突然あんな話を‥。前からずっと学校で何かないかって聞いてくるし‥。

誰が追いかけるって??




雪は以前亮がそう聞いてきた時の記憶を辿った。

確か店の裏の路地で‥。



そして思い出す内、

その後店にやって来た先輩の顔が浮かぶ‥。



無意識の内に浮かんだ彼の顔を、雪は眼をつむったまま打ち消した。

あ‥また先輩のこと考えて‥ダメダメ



すると背後から、何やら不穏な視線を感じた。

彼女が持つ鋭敏さが、いち早くそれに反応する。



うすうす誰がその視線を送ってくるのか分かってはいたが、

とりあえず雪はバッと振り返ってみた。やはり少し離れた席に、その男は座っている。



横山は雪と目が合うと、ニヤリと笑って口を開いた。

「どうした?話でもあんの?」



その台詞は、あれだけ「話がある」と雪に言い続けた横山の、軽い復讐だろう。

雪は再び前に向き直ると、あんぐりと口を開ける。



波乱に満ちた、中間考査が始まった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<始まる中間考査>でした。

雪ちゃんの集中力すごいですね!さながら受験生‥。


さて次回からちょっと地味な展開が続きます~

次回、<刺さる視線>です。




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退屈な遊び

2014-06-09 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)
去年の夏。

河村静香は青田淳と共にカフェでお茶をしていた。

目の前の淳は携帯を片手に、何やら不機嫌なオーラを出し始めていた。



長年一緒に居る幼馴染みだけあって、静香にはその表情の意味がなんとなく読めた。

携帯を眺める淳に向かって、頬杖をつきながら質問する。

「なーに? 誰? 女?」



「どんな女?」



静香からの問いに、淳はポツリと「‥ウザイ奴」と答えた。

静香はメール相手が男だということを知って、幾分驚いた。

高校時代から彼女と行き詰まるとこういった表情になっていた淳だったので、てっきり女だと思っていたのだ。

「淳ちゃんがウザイ奴の相手してるってこと?見せて見せて!」



数々のメールをスクロールして、静香は溜息を吐く。

「うっわこれはイタイ子だね~。女の子誰よ、かっわいそー」



顔を顰めながら静香がそう口にすると、目の前の淳が再びポツリと口を開いた。

「‥同じだよ」



え?と聞き返す静香に、淳は視線も寄越さず続けて言った。

「同じだよ。そのメール送って来てる奴も、その相手の女も‥」



見限った相手に対する、その冷淡な一面。

静香は淳のそんな顔を見る度、自分しか知らない彼を見つけたようで嬉しくなる。

「ふーん‥そーなんだ。まーた淳ちゃんの気に障る奴が出てきたんだ?」



静香はそう言って、淳に一つ提案をした。

「あたしが代筆してあげよっか?片付けちゃう?」

「何言ってんだよ」



静香の提案に淳は彼女を咎めたが、携帯を取り上げるまではしなかった。

静香は淳を制しながら、メールの新規作成ボタンを押す。

「あたしこういうの得意なんだって。”それじゃあ家にプレゼントを‥”淳ちゃんっぽい口調でっと‥」



おい、と淳は身を乗り出し静香に声を掛けたが、途中で口を噤んだ。

おもしろ、と口にして笑う静香を見ながら、一人何かを思案する。



やがて淳は、乗り出した半身を再び椅子に戻すと、雑誌に目を落としながらこう言った。

「‥好きにしろよ」



そう言ってそれきりメールを見ることもなく、雑誌に目を通し続けた。

カフェには静香の小狡い笑い声と、淳が紙を捲るパラパラという音だけが、響いていた。







「君は見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、文句が多いね」



静香がその言葉を聞いたのは、青田淳の実家であった。

広い部屋の真ん中で彼は、通話先の相手に冷淡な最終通告をする。



「その台詞、そっくりそのまま君にお返しするよ」



静香がそのままその場に佇んでいると、

電話を切った淳と目が合った。



静香は、会長が夕飯に招待してくれたから来た、とここに居る理由を述べた後、その感想を口にした。

「そいつとのやり取りもう終わっちゃったの?結構面白かったのにぃ」



静香の感想に対して、淳はさもつまらなそうな顔をしていた。静香は言葉を続ける。

「思ったより大学ってのも大したことない所みたいね~。淳ちゃんいっつもつまんなそうなんだもん」



いつも彼を取り囲む、凡庸、疲弊、退屈。

その暗い瞳を見て感じる闇を、静香は率直に口に出した。

しかし淳はそれに対しては返事をせず、静香に向かって持っていた携帯電話を軽く投げた。

「これあげる」 



携帯を受け取った静香は、「どーゆーこと?」とそれを受け取りながら彼に問うた。

しかし淳は質問に答えることなく、狡知な表情でこう言っただけだった。

「要らないの?」



当時、その携帯は最新の機種だった。静香は二つ返事で携帯を譲り受ける。

「まっさかそんなワケ無いじゃん!超ウレシー」



彼は遊び飽きたおもちゃを捨てるように、その退屈な遊びを手放した。

彼の番号と末尾が少し違ったその携帯は、こうして静香の物になったー‥。




「あんたが探してんのはどのメールなの?」



静香は携帯を手に入れることになった経緯を語ったが、

あの時自分が打ったメールがどんな物だったか、曖昧にしか覚えていなかった。

静香は亮の肩に手を掛けながら、今の事態を把握しようと言葉を続ける。

「その明白な証拠を、わざわざ見つけなきゃいけないの?」



静香は、自分のメールはショッピング関連の物しか残してないけれど、

淳のメールはそういう類のものじゃない、と言い切った。内容は決まっているから探す必要は無いと。

「全て利用価値があるかないかよ」



亮は静香の言葉を聞きながら、心の奥深く沈めた記憶が段々と浮き上がって来るのを感じていた。

携帯を握る手に力が入り、「やはりそうだったか」という思いが強まっていく。


先ほど耳にした、呟くような赤山雪の言葉が脳裏に蘇る。

あの子がそういう子だって、本当に分からなかったんですか?



あの男。同じピアノ科で唯一の同学年の男子。ピアノと呼んでいた。

あの事件の後、廊下をがむしゃらに走り、淳の肩を掴んで問い詰めた時のことを思い出す。



お前がやったのか? いいや、俺じゃない お前だろう 



本当に分からなかったんですか?

その中に、先ほどの雪の言葉が入り混じる。

俯いた彼女に透けて見えた、かつて感じた既視感の尻尾ー‥。

 



「‥一緒だってのか‥?」



無意識に、心の声が漏れ出ていた。隣で静香が首を傾げる。

脳裏に、以前雪の実家の裏にて淳と話した記憶が浮かぶ。



雪が危ない、と忠告した亮に、「お前が出て行け」とそっけなく言い放った淳。

あの時亮は憤った。自分の彼女に危機が迫っているというのに、気にも留めないのかよと。


やはりそういうことだったのだ、と亮は今確信していた。

拳を握る手に力が入り、細かく怒りに震えている。

ダメージヘアにも本気じゃなかったってのか?ダメージとオレは、今同じ状況にあるってことなのか?



あの時と同じ思いを、赤山雪がしているというのかー‥。

亮は自分と同じ様に嵌められた彼女を思うと、居てもたっても居られない気分になった。

淳から譲られた携帯を振り上げ、その名を叫びながら投げつける。

「くっそ‥!淳、あの野郎ー!!」



何をするかと静香は目を剥いたが、結局亮は携帯をソファに投げたので無事だった。

静香は、まだ使ってる携帯なのに傷がついたらどうする、と言って憤慨する。



そんな静香を振り返り、亮は荒ぶる気分のまま彼女に釘を刺した。

「お前もバカなことしでかすんじゃねーぞ。オレが監視してっかんな。分かったな?!」



亮はそう言い捨てて、自室のドアをバタンと閉めた。

静香は謎だらけの事態の展開に顔を顰め、「変なの‥」と呟いて肩を竦めた‥。





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<退屈な遊び>でした。

以前淳の視点からは<淳>その回想>で書いてますので、合わせてどうぞ。

二度目の記事で失礼しました

しかしアレですねぇ‥静香と淳の2ショット、画になりますねぇ‥。

勿論淳と雪ちゃんが好きな私ですが、この静香と淳のブラック2ショットが堪らなく格好良く見えてしまいます‥^^;

いつかこの二人のイラスト描きたいな‥。(多分需要なし‥)



さて次回は<始まる中間考査>です。



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