学食へと移動した雪達は、食事を共にしながらお喋りを楽しんだ。
「いや~直美さんも突然人が増えて超楽しそうだよね。横山の友達とかとも合流して面白いみたいねー」
「あ、清水香織って最近雪の真似してなくない?」 「あの子の話はしないでよっ!」
「てかちょっとうるさくない?こっちは静かに集中してんのにさー」
気の置けない同期達は、良いことも悪いことも含めて思い思いの話題を口にした。
雪は皆の話に耳を傾けつつ、話題を試験のことに移す。
「皆テスト結構出来た?」
雪からの質問に外ハネヘアの子が「びみょー」と答えると、黒髪ロングの子が謙遜すんなと肘で突く。
とりあえずさっきの試験はそんなに難しくなくて良かった、と外ハネが続けると皆もそうだと頷いた。
彼女らは同期であると同時に、成績を争うライバルでもある。先程の試験は簡単だったので、皆の点数は均衡するだろう。
これから待ち構えている他の科目で差が出るはず、と雪は踏み、
とにかく今晩も徹夜だな と心に決める。
すると黒髪の子が、溜息を吐きながら口を開いた。
「あ~あ、奨学金取らないといけないのに~」
何度か奨学金を手にしている雪は、彼女のその発言にビクッとなった。
しかし皆は特に気に留めず、話題は奨学金のことへと移っていく。
取れたらいいのに、取りたいね、皆そう口にして頷き合った。
すると黒髪の子が皆の方を見て、少し神妙な面持ちで話出した。
「うちのお父さん、今年で定年退職なんだよね」
雪は驚き、「本当?」と聞き返した。頷く彼女。
「まぁそれで家が超苦しくなるとかじゃないんだけど、それでも学費がちょっと負担になるってことで‥」
皆が相槌を打ち、息を吐いた。高額な学費が負担になっているのはどの家も一緒だ。
しかもA大は奨学金の額もそれほどでもなく審査も厳しいのだ。皆は一様に頷き合って肩を落とした。
「そういえばあんた、お母さんが勤めてる所が奨学金支援してくれるんでしょ?」
同期の一人が外ハネの子に向かってそう話題を振ると、黒髪の子が「うらやましい」と言って彼女の方を見た。
しかし外ハネの子は言葉に詰まり、やがて首の後ろを掻きながら口を開いた。
「この前うちの母さん、ガンの手術してさ‥」
彼女の言葉に、全員が息を飲んだ。そしてそんな空気を察した外ハネの子は表情を緩め、詳しい話を続ける。
「あ、今はもう大丈夫!早期発見だったから、大したことはなかったの。皆が気を揉むほどじゃないからさ」
彼女は笑顔でそう口にしたが、続ける言葉は沈んだ調子だ。
「ただ今回のことで辞職して家で休むことになるから、奨学金の方はちょっと‥。勉強にもっと集中しなくちゃ」
そう言って肩を竦める彼女を見て、聡美が共感の相槌を打つ。
「あんたの家もそうだったんだ‥」
聡美が話し出すその隣で、雪は一人心の中で思っていた。
時々そういう日がある。突然流れに乗って、話が溢れ出るような日。
一つの話題に乗っている中で、今まで話したことのない、胸の内に隠し持っていたものが、
ふと自然に零れ出る。
聡美はリハビリ中の父親のことを話した。皆が同情の相槌を打つ。
雪は流れに乗って、自分の家の食堂がオープンしたことを話した。近くに来た時は是非寄ってよ、と。
心の内を話すタイミング、それは一体いつやってくるのだろう。
もしかしたら単純に試験のストレス解消なのかもしれないし、
実際そこまで深い話は無かったけど
外ハネの子と黒髪の子は話を続ける。親戚が実家にお金を借りに来て、お小遣いが貰えなくなっただとか、
バイトをもう一つ増やそうと思っているとか。
その中で、雪は彼女達の隣に座るもう一人の子に視線を送る。
一人だけ何の話もせずに、なぜだか沈んだ表情をしていた友人も居た。
その子には何も語るべきことが無かったのかもしれないし、抱えているものを出す気になれなかっただけかもしれない。
その子の心の中は、語らない限りその子にしか分からない。
そしてタイミングという流れが過ぎ去ってしまったら、言葉を出すことは出来なくなる。皆それを分かっている。
そして話はすぐに他の話題に移り、何事も無かったかのように私達は別れる。
テスト頑張ろうね、と言って手を振り合い、彼女らは別れを告げる。
心の中身を少しだけ見せて、そしてまた仕舞って、彼女らは歩いて行く。
それでも、みんなの違う一面を感じたり‥
雪はそれぞれの事情を語る、彼女達の顔を思い浮かべて歩いていた。
今まで敢えて話す機会も無かったから‥想像してみたことさえ無かった‥
そして雪は、アイスクリームを食べに行こうと言ってニコニコ笑う聡美の方を見て思った。
そういえば、聡美だっていつも笑って過ごしてるじゃない。親友だから色々な事情を知ってるだけで‥。
雪は聡美からの提案に頷くと、二人は並んで歩き出した。
「私がおごったげる。太一には内緒!」 「マジ?!やったー!可哀想な奴ww」
考えてみれば、私がいつも悩むように皆にも悩みがあるのは当然なわけで‥。
近くに居る人達の事情さえ知らずに、私はただ何かに追われて日々を生きてきたのかもしれない。
様々な悩みを抱えて、心の中に色々な感情を抱えて、私達は日々の間を泳ぐように生きる。
流れに負けないように、前へ前へ。
その中で共に泳いでいる仲間達に、ふと思いを馳せてみる。
いつも笑っている友人に、そして当たり前のように近くに居る家族に‥。
姉がそんなことを思っているとは露も知らない弟は、その時A大に居た。
心の中の感情と流れる時間に目をつむり、目の前の楽しさだけを必死で追いかけながら‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの事情>でした。
なんてリアルな‥現実的な話なんでしょう‥。
生きていく中で直面する出来事の、裏も表も同じくらい描き出すチートラ、本当にすごいなぁと思います。
あと外ハネの子と黒髪の子がかなり仲良くて、もう一人の子が少し置いてけぼりになってる感じとか、
女同士での「あるある」ですよね‥。あーリアル‥。
次回は<曖昧な(仮)>です。
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「いや~直美さんも突然人が増えて超楽しそうだよね。横山の友達とかとも合流して面白いみたいねー」
「あ、清水香織って最近雪の真似してなくない?」 「あの子の話はしないでよっ!」
「てかちょっとうるさくない?こっちは静かに集中してんのにさー」
気の置けない同期達は、良いことも悪いことも含めて思い思いの話題を口にした。
雪は皆の話に耳を傾けつつ、話題を試験のことに移す。
「皆テスト結構出来た?」
雪からの質問に外ハネヘアの子が「びみょー」と答えると、黒髪ロングの子が謙遜すんなと肘で突く。
とりあえずさっきの試験はそんなに難しくなくて良かった、と外ハネが続けると皆もそうだと頷いた。
彼女らは同期であると同時に、成績を争うライバルでもある。先程の試験は簡単だったので、皆の点数は均衡するだろう。
これから待ち構えている他の科目で差が出るはず、と雪は踏み、
とにかく今晩も徹夜だな と心に決める。
すると黒髪の子が、溜息を吐きながら口を開いた。
「あ~あ、奨学金取らないといけないのに~」
何度か奨学金を手にしている雪は、彼女のその発言にビクッとなった。
しかし皆は特に気に留めず、話題は奨学金のことへと移っていく。
取れたらいいのに、取りたいね、皆そう口にして頷き合った。
すると黒髪の子が皆の方を見て、少し神妙な面持ちで話出した。
「うちのお父さん、今年で定年退職なんだよね」
雪は驚き、「本当?」と聞き返した。頷く彼女。
「まぁそれで家が超苦しくなるとかじゃないんだけど、それでも学費がちょっと負担になるってことで‥」
皆が相槌を打ち、息を吐いた。高額な学費が負担になっているのはどの家も一緒だ。
しかもA大は奨学金の額もそれほどでもなく審査も厳しいのだ。皆は一様に頷き合って肩を落とした。
「そういえばあんた、お母さんが勤めてる所が奨学金支援してくれるんでしょ?」
同期の一人が外ハネの子に向かってそう話題を振ると、黒髪の子が「うらやましい」と言って彼女の方を見た。
しかし外ハネの子は言葉に詰まり、やがて首の後ろを掻きながら口を開いた。
「この前うちの母さん、ガンの手術してさ‥」
彼女の言葉に、全員が息を飲んだ。そしてそんな空気を察した外ハネの子は表情を緩め、詳しい話を続ける。
「あ、今はもう大丈夫!早期発見だったから、大したことはなかったの。皆が気を揉むほどじゃないからさ」
彼女は笑顔でそう口にしたが、続ける言葉は沈んだ調子だ。
「ただ今回のことで辞職して家で休むことになるから、奨学金の方はちょっと‥。勉強にもっと集中しなくちゃ」
そう言って肩を竦める彼女を見て、聡美が共感の相槌を打つ。
「あんたの家もそうだったんだ‥」
聡美が話し出すその隣で、雪は一人心の中で思っていた。
時々そういう日がある。突然流れに乗って、話が溢れ出るような日。
一つの話題に乗っている中で、今まで話したことのない、胸の内に隠し持っていたものが、
ふと自然に零れ出る。
聡美はリハビリ中の父親のことを話した。皆が同情の相槌を打つ。
雪は流れに乗って、自分の家の食堂がオープンしたことを話した。近くに来た時は是非寄ってよ、と。
心の内を話すタイミング、それは一体いつやってくるのだろう。
もしかしたら単純に試験のストレス解消なのかもしれないし、
実際そこまで深い話は無かったけど
外ハネの子と黒髪の子は話を続ける。親戚が実家にお金を借りに来て、お小遣いが貰えなくなっただとか、
バイトをもう一つ増やそうと思っているとか。
その中で、雪は彼女達の隣に座るもう一人の子に視線を送る。
一人だけ何の話もせずに、なぜだか沈んだ表情をしていた友人も居た。
その子には何も語るべきことが無かったのかもしれないし、抱えているものを出す気になれなかっただけかもしれない。
その子の心の中は、語らない限りその子にしか分からない。
そしてタイミングという流れが過ぎ去ってしまったら、言葉を出すことは出来なくなる。皆それを分かっている。
そして話はすぐに他の話題に移り、何事も無かったかのように私達は別れる。
テスト頑張ろうね、と言って手を振り合い、彼女らは別れを告げる。
心の中身を少しだけ見せて、そしてまた仕舞って、彼女らは歩いて行く。
それでも、みんなの違う一面を感じたり‥
雪はそれぞれの事情を語る、彼女達の顔を思い浮かべて歩いていた。
今まで敢えて話す機会も無かったから‥想像してみたことさえ無かった‥
そして雪は、アイスクリームを食べに行こうと言ってニコニコ笑う聡美の方を見て思った。
そういえば、聡美だっていつも笑って過ごしてるじゃない。親友だから色々な事情を知ってるだけで‥。
雪は聡美からの提案に頷くと、二人は並んで歩き出した。
「私がおごったげる。太一には内緒!」 「マジ?!やったー!可哀想な奴ww」
考えてみれば、私がいつも悩むように皆にも悩みがあるのは当然なわけで‥。
近くに居る人達の事情さえ知らずに、私はただ何かに追われて日々を生きてきたのかもしれない。
様々な悩みを抱えて、心の中に色々な感情を抱えて、私達は日々の間を泳ぐように生きる。
流れに負けないように、前へ前へ。
その中で共に泳いでいる仲間達に、ふと思いを馳せてみる。
いつも笑っている友人に、そして当たり前のように近くに居る家族に‥。
姉がそんなことを思っているとは露も知らない弟は、その時A大に居た。
心の中の感情と流れる時間に目をつむり、目の前の楽しさだけを必死で追いかけながら‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの事情>でした。
なんてリアルな‥現実的な話なんでしょう‥。
生きていく中で直面する出来事の、裏も表も同じくらい描き出すチートラ、本当にすごいなぁと思います。
あと外ハネの子と黒髪の子がかなり仲良くて、もう一人の子が少し置いてけぼりになってる感じとか、
女同士での「あるある」ですよね‥。あーリアル‥。
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
自分に余裕がないときとか、精神的にたくさんのことを抱え込んだときって、
自分だけが大変だって被害妄想に陥ったり、
自分は誰よりも悟ってるって勘違いしたり…。
ほんとはそうじゃないんだよ、みんな明るく振舞ってるけど、多かれ少なかれ様々なダークな何かを持ってるんだよ。
って教えられた気がします。
ここの食堂の会話がこんなに深かったとは…!
雪も余裕ないときは、なんで私ばっかり!っていう風になってたのかもしれないですね…。
ダークな部分が被害妄想や勘違いだらけで膨らむと、
香織や横山みたいになっちゃうのかもしれないですね。
気をつけよう…。
関係ないですが、蓮の髪型って韓国のアイドルみたい。
蓮はアイドル的なイケメンさをもってるのかもしれないですね!
香織が一目惚れしたくらいだし(o^^o)
そして澪さんががおっしゃっていたように、
「自分だけが大変だって被害妄想に陥ったり、
自分は誰よりも悟ってるって勘違いしたり…。
ほんとはそうじゃないんだよ、みんな明るく振舞ってるけど、多かれ少なかれ様々なダークな何かを持ってるんだよ。」
って言うことに気づくことができるんですよね。
先輩が以前に言っていた、
「間違いなく皆も、各自人知れない事情があるだろうに」
ってやつですね。
チートラって、ほんといろいろ考えさせられますね。
ttps://www.youtube.com/watch?v=6tYUvmdQcOM
逆に言えば話さないと自分を分かってもらうことなんて出来なくて‥。
話すことで実際に解決出来るわけじゃないけど、「それだけで良いんだ」と言っていたのは先輩だったっけ‥。
(じゃあ自分のこと雪ちゃんに話せよ!と3部に入ってからの淳をなじる)
そしてSHINee!蓮君っぽいですね~。
蓮君はピアスを始め、チートラ1のオシャレ男子ですもんね!(私の中でオシャレ男子1位蓮、2位太一、3位ナシ‥)
むしろ2位ぐらい…笑
それか、秀紀さん( ̄▽ ̄)
ほんとそうですね。
こうやって親友未満の友達に吐き出せる内容ならまだ逃げ道があるんだと思います。
言葉に出せない彼女はほんとにどうなんでしょうね。
まあ案外あら私心配ごと無さ過ぎてネタがない。。黙ってよ。。みたいな心境だったかもしれませんが。
にしてもパソコンでみたら師匠ほんとカテゴリ分けすごい進んでますね~
さすがの仕事っぷり!