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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

狭間の核心

2016-06-03 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)
勿論心配してるよ





淳が最後に書き記した文章を、暫し雪は目を丸くして見ていた。

淳はそんな雪の肩をポンポン叩く。

さ、授業に集中、集中ー



おどけながらそう言う淳。

筆談はそこで終わりとなり、雪は淳の言う通り授業に集中する。



教授の話に耳を澄まし、真剣な顔でノートを取って‥。

淳はそんな雪の横顔を、満足そうに見つめて微笑んでいる。






当たり前のように「家族が心配しているんじゃないか」と聞いてくれた彼女。

世間体と偽善ばかりの父親とは違う、淳の心の拠り所だ。



二人は並んで前を向いて授業に臨んだ。

いつまでも彼女と同じ方向を向いていたい、淳の理想がここにある‥。






教授の声を聞きながら、暫し淳は前を向いていた。

思考は徐々に内的世界へと潜って行く。



怪我をした右手の指が、一定のリズムで机を叩いていた。

トン、トン、トンと。



心の中にドス黒い暗雲が立ち込め始める。



その凍てつく様な視線の先には、あの人の姿があった。

その領域の線を越えた、あの人物の姿がー‥。



柳瀬健太。

淳は時の狭間に沈み込みながら、その核心が刻むリズムの中で思考を巡らせ始めた。



トン、トン、トン。



領域を越える者は許されない。

奪われたものと同等のものを、等しく奪い返さねばならない。



淳の核心が深く深く潜って行く。

暗い暗いそのドアの向こう側へと。

規則的に刻むそのリズムの中で、淳はターゲットの姿を凝視した。

トン、トン、トン‥








不意に淳は、翳り行くその世界から引き戻された。

リズムを刻んでいたその指は止まり、まるで固まってしまったかのように動かない。

「‥‥‥」



ひやりと、背筋が一瞬凍る気がした。

淳はゆっくりと隣の彼女へと視線を移す。



以前教室で同じ様なことがあったと、淳は思い出していた。



あの時、籠絡して行く周りの人間達を嘲笑している自身を、彼女だけが見ていたのだ。



出会った当初は気に障り、やがて恐れた彼女はその鋭い眼差しで、

やはり淳の核心を看破するーー‥。








息も出来ない程の緊張の中、ゆっくりと淳は雪の方を見た。

恐る恐る、まるでスローモーションの様に。



しかしあの鋭い目は、淳の方を見てはいなかった。

雪は先程と同じ様に、授業に集中し前を向いている。



淳のことを何も疑うことなく、

真面目に話を聞いて、ノートを取って‥。



淳は暫し雪から目を離せなかった。

本当に見ていなかっただろうか?

時の狭間で顔を出した、自身の暗い核心を‥。



暫く前を向いていた雪だが、やがて隣からの視線に気付き、淳の方を向いた。

自身のことを見ていた彼氏に対して、雪はニコッと優しく微笑む。






淳もその笑顔に応えるかのように、ニッコリと微笑みを浮かべた。

あの時と同じ、顔を出した核心を覆い隠すような笑顔を。








やがて雪は再び前を向いた。

何の疑いも無い笑顔を、その口元に残しながら。



淳もまた、笑顔を浮かべ続けたまま彼女の横顔を見ていた。

恐れと安堵と、えも言われぬ不安を、胸の中に秘めながら‥。







やがて授業が終わり、学生達は席を立った。

淳と雪も身支度をして席を立ち、各々別の場所へと向かう。

「俺、ちょっと教授室に行ってくるね。また後で会おう」

「私も聡美と会います。また後で!」



バイバーイ!



そして二人は手を振り合い、一旦別々の道を行く。

淳は手土産を持って教授室へ挨拶に、雪は聡美の元へ彼女を慰めに‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<狭間の核心>でした。

今回も途中までは通常営業の淳でしたが‥



雪ちゃんに自身の暗い一面をまた見られたのでは、

と恐れたような表情が印象的でしたね。



自分の性分が雪に受け入れられないことに、淳はもう気が付いているんですよね。

だから隠すしかない‥という方向に行ってしまっていて。

この健太騒動がその辺りの突破口を作るキッカケになるんじゃないか、と思うんですが‥。

どうなるんでしょう‥


次回は<各々の近況>です。


☆ご注意☆ 
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脱却へ

2016-06-01 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)
「前は顔に酷い怪我をしたかと思えば、今度は手にヒビが入っただと?」



昨日の夜、父親と電話で交わした会話のことを、淳は思い出していた。

父はあからさまに不機嫌な様子で、チクチクと淳を問い詰め続ける。

「一体どうやったら大学生がそんな生活送れるんだ。

しかもインターン生ともあろう者が、どうしてこんなに警戒心が無い?」




「一体どうしたと言うんだ。

まさか‥これ以上何か問題行動を起こしてるわけじゃあるまいな?」


淳はウンザリした表情を浮かべながら、父の様子を俯瞰しこう思っていた。

そろそろ限界かな、と。



延々と続く説教の、その内容に大した意味は無い。

淳は怪我をした右手を眺めながら、その中身を残酷なまでに見抜く。

愛情‥世間体



愛情‥世間体‥世間体



世間体‥偽善‥

今まで全くの掛け値無しで、自身の心配をしてもらったことがあっただろうか?

淳は体面ばかりを繕うその説教を聞きながら、幼い頃嫌というほど聞かされた父の言葉を思い出していた。

「班での宿題をその子がしないなら、お前がその分やれば良いじゃないか」



小学生の淳に向かって、父はネクタイを締めながら言う。

「そんな些細な問題で怒り続ける必要は無いだろう?」



自身がいかに理不尽な状況に置かれているか、始めは淳も主張し続けた。

けれど父の言葉はいつでも同じ、”理想的な子供”がどう振る舞うべきか、結論はいつもそこに帰結する。

「そんなことがあったのか?でもお前は班長なんだから、

その子達のことをもっと理解しようとする努力をしなくてはいけないぞ」




嫌だと言っても、苦手だと態度に表しても、

いつも少年淳は父の会社関連のパーティーへと連れ出された。

「ほら、挨拶を。もう小さな子供じゃないんだから」







隣に居る父親をチラリと見ると、いつも父は目の前の相手しか見ていなかった。

”父の思う理想的な子供”が、この後立派に挨拶をすることを疑いもしない顔をして。



「こんばんは」



淳の笑顔が作られて行く過程を、父は一度も目にすることは無かった。

その顔は常に世間に対して向けられていたからだ。




「今日は大事な日なんだ」



家で机に向かっていた淳に向かって、ある日父はそう切り出した。

「一緒に病院へ行こう。父さんの恩師のお見舞いだ」

「僕、今日は宿題があるんです。それに‥」



淳は話を続けようとしたが、父はその言葉を切って息子に人生を教え諭す。

「宿題も勿論大事だが‥。

人生を生きる上で、一度そういう方にお目に掛かって挨拶をすることを学ぶことも大事だよ」




「早く着替えて来なさい」



父の言葉は絶対だった。

そして子は父に連れられて、病院へと出向いて行く。






ベッドに横たわる老人に挨拶を済ませた少年淳は、そっと病室を出た。

少し開いたドアの合間から、そこに居る父の姿をそっと窺う。



見慣れた父の背中越しに、喘鳴が掛かる咳が何度も聞こえていた。



父の向かいのベッドに座った老人の声が、微かに聞こえる。

「先ほど病院で、おばあさんが亡くなって悲しむ子供を見たよ。

本当に気の毒でね‥。私は‥」




「うちの孫達もそうなるんじゃないかと思って‥恐いんだ。あの子達を、よろしく頼むよ」

「はい、河村教授。勿論です」



寂しそうに俯く父の横顔。

肩を落としながら、父は恩師に向かって言葉を続ける。

「心配されるお気持ち、分かりますよ」



「はぁ‥やはり気の毒です」



「僕が教授のお孫さん達を、最後まで責任を持って‥」



話が終わる前に、少年は廊下を歩き始めた。

誰も居ない、静かな廊下をひたひたと進む。







淳はソファに腰掛けると、一人ぼんやりと病院の白い天井をただ眺めた。

隣のソファには小さな女の子が眠っている。

あれのどこが恩師だよ。頼み事しかしないじゃないか。



先程耳にした会話を思い出しながら、淳は冷めた気持ちでそう思っていた。

何か役に立つことを話すかと思えば、頼み事しか口にしなかった弱々しいただの老人‥。



淳は皮肉を含んだ表情を浮かべながら、ぼんやりと自身の足元を眺める。

無駄に大勢の相手をするのは嫌いだ。受け入れるのも嫌だ。



けど嫌だっていうのを表に出しちゃダメなんだ。

どうしてそうしなきゃいけないのかは分かんないけど




以前父から言われた言葉が、淳の胸の中に澱のようにこびりつく。

「お前がこれからどんな人生を歩むのかは分からないが、

疑問に思うならやってみればいい。一度自分の弱点を、皆の前で剥き出しにしてみろ」


 

「それが顕になった瞬間、人々はお前に同情するか、

それを契機にお前を攻撃するか、哀れみの目で見始めるか、もしくは‥」




「おかしな人間だと指を刺し始めるかー‥」








”おかしな子供”

その烙印が、淳の心の奥深くに強く押される。



老人を見る父の顔は優しかった。

あんな笑顔を、向けられたことがあっただろうか‥?



少年はただぼんやりと足元を眺め続けた。

隣のソファで眠っている少女の他には、誰も居ないこの空間の中で‥。






「聞いてるのか?」



暫し淳の返事が無いことに痺れを切らした父は、苛立った口調で電話越しの息子にそう問うた。

淳はぼんやりと足元に目を落としながら、静かにこう返答する。

「色々と思い出しますよ。一つ一つ、ね」



「何だと?」と父はその意味を問うたが、淳は頓着せずにこう続けた。

「大学を卒業したらもう完全に大人でしょう?今は中途半端な状態ですが」



淳は自身の右手に嵌められたギブスを見つめながら言う。

「その前にその一つ一つを‥」



「全部、引き剥がして行きたいんです」



巻かれた白い包帯は、自由に羽ばたける日がくれば解かれる。

そして彼は強いられ続けた”理想の子供”から、自分の力で脱却するー‥。




勿論心配してるよ



雪との筆談に、淳は最後にそう書き記した。

これまで縛られて来た一つ一つを引き剥がす、その決意をギブスの下に隠したまま‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<脱却へ>でした。

少年淳の隣で眠るのは、幼い頃の雪ちゃんでしょうね。



河村教授の言う「おばあさんが亡くなって悲しんでいる子供を見た」っていうのも、雪ちゃんのことなんですね。

祖母が亡くなって悲しみに伏せる雪と、河村教授を見て「あれのどこが恩師だよ」と冷め切った淳が、対照的です。

そして十数年後にこの二人が出会い、関係を築き、彼女を線の中に引き入れた淳が、裏目からの脱却を図って行く‥、

チートラの物語の核心が、徐々に見えてきたような感じですね。

4部35話はここで終わりです。


次回は<狭間の核心>です。


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彼、突然の来校

2016-05-30 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)


暫し雪は授業に集中していた。

教授の話を聞き、真剣にノートを取って‥。



しかし背中に、何やら視線を感じる。



ひしひしと感じる違和感。ノートを取る手がピタッと止まった。

「‥‥‥‥」



鋭敏な彼女ならではの敏感な感覚(だてに何度もストーカーに合ってないな)

雪はそっと振り返った。



すると。



三つ程後方の席から注がれる視線、それはなんと青田淳だった。

雪は驚きのあまり、息を飲んだ拍子に机に膝をぶつけてしまう。






彼の突然の来校にオタオタと慌てる雪。

ビックリするわ膝は痛いわ‥。もう滅茶苦茶である。

だが慌てふためく雪とは対照的に、淳はニッコリと笑って彼女に手を振っている。



しかし次の瞬間雪の目に留まったのは、

包帯ぐるぐる巻きになった彼の右手だった。



「!」



雪は思わず目を丸くしながら、

ジェスチャーで淳に手のことを問う。



淳は彼女の言いたいことを察して自身の右手を見、



庇うような仕草で痛む旨を伝えた。

痛々しい怪我とは裏腹に、その仕草はどこかコミカルで仰々しい。



しかし雪は笑いもせず、ただ真っ青になってあんぐりと口を開けた。

昨日は大丈夫だと言っていたのに、どう見ても重傷ではないか‥。

「‥‥‥」






そんな雪のリアクションを見た淳は、頃合いを図って席を立った。

ボストンバッグと赤い箱を抱え、ササッとすばやく移動する。






よいしょ、と小さく声を出し、淳は雪の隣の席に着席した。

そしてニヤリと笑みを浮かべると、おどけながら挨拶を口にする。

「おはよ~ん」



彼は至って軽い調子だが、どう見てもその手は痛々しい。

近くで見れば尚の事、怪我の具合は芳しくなさそうだった。



依然として青い顔をしたままの雪は、すばやい動作でノートに文字を書き込む。

バババッ!



そしてその文章が彼に見えるよう、彼にノートを差し出した。

手、どうしてそんな状態なんですか?!

昨日は何も言ってなかったじゃないですか!






淳はそれをキョトンとした顔で見つめると、何やら嬉しそうな顔になった。

「雪ちゃんと筆談かぁ。初めてだね~!ドキドキ」と呑気なものである。



淳は雪が文章を書き込んだページの端に、左手でゆっくりと文字を書き込んで行った。

そうして書き終えたページを、雪は手元に引き寄せて読む。

重傷じゃないよ。ちょっとヒビ入ってるだけみたい。

手もこんな状態だし出席に厳しい教授だし、今日は会社には配慮してもらって、休み貰ったよ。

俺も単位取らなきゃ卒業出来ないしね




↓教授への贈答品



彼が持っていたその赤い箱は、教授へのお土産であるらしかった。

大手を振って会社を休み、この講義での単位もちゃっかり獲得するであろう彼の、余裕の笑み‥。



淳はニコニコ笑いながら、左手で雪の頭をいい子いい子した。

掛け値無しにまず淳の手を心配した心優しい彼女の頭を、淳は嬉しそうに撫でている。







雪はそんな淳の顔をじっと見つめた後、再び筆談を始めた。

「また?それでそれで?」と淳は相変わらず嬉しそうだ。



二人のやり取りは続く。

本当に大丈夫なんですか?



再び手を心配する雪に、

大丈夫だから、授業に集中してくれませんか?



おどけて敬語で返す淳。雪は更にこう続けた。

最近ずっと怪我続きだったから、

ご実家、すごく心配してるんじゃないですか?




その文章を見た後、淳はすぐには返答を書き込まなかった。

含みのある笑みを口元に浮かべながら、彼女の方をじっと見る。






一瞬の間の後、キョトンとした顔で淳を見つめる雪に向かって、淳はニッコリと笑って見せた。

彼の脳裏に、この怪我のことを報告した時の父親との会話が蘇る‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼、突然の来校>でした。

休載空けぶりの淳、登場!

イケ淳ジャケット着てますね~。



イケ淳ジャケットとは:以前亮の元職場の社長が大学に雪を探しに来ていた時にも着ていた淳のジャケット。

この後のコマの淳が近年稀に見るイケてる淳だと話題になった(当社比)





そして教授への贈答品はアリなのか‥。

なんと根回しの良い‥

↓イメージ



次回は<脱却へ>です。



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友の慟哭

2016-05-28 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)


雪は河村亮とのことを考えながら、一人教室へ向かって歩いていた。

するとその道中で、大きな声が雪に掛かる。

「雪っ!」「!」



声の主は伊吹聡美だった。

聡美は大声を上げ慟哭しながら、雪の肩に縋り始める。

「ゆきぃぃぃぃ!!」

「??!えっ?!どしたの?!アンタここで授業じゃないでしょ?!」



「ゆきぃぃぃぃ!!」「どうしたの?!何かあった?!」

「太一が‥」「太一が何?!」



そして聡美の口から語られた真実は、何も知らない雪を驚愕させた。

「う、うちら‥付き合うことになったのに‥」「へっ?!」



「軍隊に行くってぇぇぇ!」「はぁぁ?!」



聡美は涙をポロポロ零しながら、がっくりと肩を落とす。

「あたしとはもう終わったんだと思って、

ヤケクソで軍隊に申し込んだんだって‥」


「ちょ‥待って何が何だか‥」



「もう取り消しも出来ないってぇぇ‥!」



聡美の目からブワッと涙が溢れ出した。

「取り消しの期間も終わっちゃってて‥」と力なく呟く聡美に、雪は何も言葉を掛けてあげられない。



混乱の最中で、こう叫ぶのがせいぜいだった。

「な‥何がどうなっちゃってんの?!?!」



季節の移ろいと共に変化して行くそれぞれの関係。

冷たい秋風はただ静かに、彼らのその間を吹き抜けて行く‥。






次の授業が始まっても、雪は先程の衝撃から依然として立ち直れていなかった。

手元のノートには、「聡美」と「太一」の名が延々と書かれている。



先ほどの衝撃の告白の後、泣き続ける聡美を宥めるのは一苦労だった。

「雪ぃ‥あたしもうどうしたら‥」

「とりあえずアンタ授業あるんでしょ?落ち着いて、ね?

泣くの止めて、後でちゃんと話しよ。分かった?」
「ん‥」



涙ながらに唇を噛み締め、頷く聡美。

彼女が握った携帯電話が、何度も震えていた。きっと太一からなのだろう。

この二人は、一体どうなってしまうんだろう‥。



雪は後ろ髪を引かれる思いで、とりあえず授業を受けに教室へと向かった。

出席に厳しいと評判の教授の講義だ。休むことは出来なかった。

「おはようございます」「皆さんおはよう」



「授業を始めます」



痛む頭を庇いながら、教室へと入って来た教授をぼんやりと見ていた雪。

その視線の先に、先程までは確認できなかった人物の背中を見つけて目を見開く。



柳瀬健太‥。



雪の胸中がムカムカと憤る。

滑り込みで入って来たってわけね



雪から一番遠いと思われる席に、おそらくコソコソと就いたであろう健太。

苛立ちは隠せないが、とりあえず授業に集中せねばならない。

雪は目を閉じ、一度大きく深呼吸をする。



健太への対応をどうするか、未だ結論は出ていない。

無鉄砲に向かって行ったら、また思わぬ所に余波が押し寄せてしまうかもしれないから。



雪は授業に集中しようとノートを取り始めた。

頭の中には無数の考えが、次から次へと浮かんでは消えて行くけれど。



静かに授業を聴き、黙々とノートを取る。

今の場面だけ切り取れば、何てことのない日常の一片だろう。

けれど周りの環境や人間関係は常に変化し続け、それは少なからず雪に影響を与えて行く。



教授の声が広い教室に反響し、やがて消えて行った。

雪はぼやけていくその記録を、忘れないようにノートに書き留めて行く‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<友の慟哭>でした。

あちゃー‥太一‥。


クール◯コ再び‥

軍隊に申し込んだのはやけっぱちだったんですね‥。

あのピアスをお別れにしようと思っていたのかな。。うう‥(T T)
二人‥どうなるんだろう‥。

次回は<彼、突然の来校>です。

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白紙の準備

2016-05-26 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)
聡美と太一がカップル最大の危機に直面している頃、

雪は一人構内を歩いていた。



分かれ道に差し掛かった時目に入ったのは、

何度か足を運んだことのあるあの建物だ。

音大‥



雪は少し考えた後、そちらの方向へと足を伸ばす。







入り口の方へと近付いて、キョロキョロと辺りを見回す雪。

会えるわけないかと思いかけたその時‥。

「おい」



聞き覚えのある声が、後方から掛かった。

振り返ってみると、彼が立っている。



河村亮。

亮は無表情のまま、じっと雪のことを見つめている。



「河村氏‥」



雪は少しきまり悪い表情を浮かべながら、彼の名を口にした。

二人の間に沈黙が落ちる。





亮は首の後ろに手をやりながら、その大きな目をキョロッと上に動かした。

未だ黙っている雪に向かって、彼女がここに居る理由を当ててみる。

「謝んの?礼言うの?」



「あ‥どっちも‥」



そう気まずそうに口にした雪を見て、亮はふっと静かに笑った。

以前のような仏頂面でも、雪を突っぱねる態度でもない、どこかすっきりとした笑顔を浮かべて。



亮の視線は空を仰ぎ、落ち着いた口調で、雪に向かって口を開き始めた。

「いらねーよ。この前はオレも言い過ぎたし、昨日はお前んこと助けらんなかったし。

だからお前がオレに気ぃ使う必要なんて、全くねぇってこと」




亮はゆっくりと、雪の方へと視線を流す。

「だから全部忘れてくれ。最初から、何も無かったみてーにな」



「分かったな?」



亮からそう言われ、雪は言葉に詰まった。

彼が口にするその言葉の意味が、二人の間に見えない壁を作る。



秋の終わりの風が二人の間を吹き抜けて行き、鳥の鳴き声だけが辺りに響いていた。

その中で亮はただ静かに、穏やかな笑みを浮かべて佇んでいる。



彼の心の中を目で見ることは出来ないけれど、それにどうやら何かしらの折り合いが付いたことを、

無言の中で雪は感じ取った。

「‥‥‥‥」



これ以上自身が立ち入ることは出来ないのだ、と。



雪は若干わざとらしい程の声を上げ、亮の前で笑って見せた。

「いやいや~!それでも助けようとしてくれたじゃないですか!

本当にありがとうございました!あの時怒っちゃったのもとにかく‥すみませんでした!」




亮はそれをただ黙って聞いている。

雪の笑い声は、二人の間に虚しく響いて消えて行った。






雪は咳払いを二、三回した後、この場を立ち去る挨拶を口にする。

「あ‥それじゃコンクール‥の準備、頑張って下さいね。私授業行くので‥」



雪もまた、亮と同じような笑顔を浮かべた。

「頑張って下さいね」



亮は片手を上げて、彼女の笑顔に笑顔で応える。

「おう」






亮が浮かべるその笑顔を、雪は暫しじっと見つめた。

その笑顔の裏にある、何らかの決心を感じながら。



笑顔を崩さない亮の前から、

雪はやがて背を向ける。







亮は雪の背中が小さくなっても、上げた左手をそのままの状態で彼女を見送った。

彼女との関係を白紙に戻す、そのカウントダウンがだんだんと迫っている‥。



亮は音大の方へと歩き出した。

一度も彼女の方を、振り返らないまま‥。




これで充分だ



雪はだんだんと遠くなって行く彼の存在を背中に感じながら、亮のことを考えていた。

嫌だと言われたのに、家族のような付き合いを強要するのは違うし、

本人の心の整理はまだのように感じだけど、結論を下したのは確かなのだろう。

これ以上は、私も何も言うことは出来ない。




どうせ河村氏との関係が上手く行ったところで

先輩とはずっと衝突することになるだろうし‥。

二人が誤解を解いて円満な関係になることを願ったけど、

私が彼らのプライバシーに介入するのにも限界があるだろう。

ただ‥




冷たい風が頬を刺し、それは雪の心の中にもひゅるりと入り込んで来た。

河村氏との関係は、先輩に関する縁だけじゃなく、

私個人の人間関係の一つでもあったから‥。こういうぎこちない感じに慣れなくて、




ただ寂しさだけがしんしんと積もる



脳裏に浮かぶ亮の笑顔が、だんだんと霞んで行く。

「ダメージ!」



胸の中に煙る靄が彼の顔を白くぼやかし、まるで白紙の状態に戻して行くかのように感じた。

心の中に、ぽっかりと穴が開く。



ふと、雪は音大の方を振り返った。

上手くやってるなら良かった



そこにはもう誰も居ない。

河村氏がどこに行ったとしても



上手く‥行きますように



ぐらつく心に言い聞かせるように、雪はそう胸の中でひっそりと祈った。

その表情には、そこはかとなく寂しさが滲んで居たけれど‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<白紙の準備>でした。

なんとか4部35話の亮と雪の会話、記事に間に合いましたー^^

急いで訳したので、翻訳間違いあるかもしれません(汗)、あったら教えて下さいー。


着々と別れの準備をしている亮さんが切ないですね(TT)

全力で引き止め隊、集合!


次回は<友の慟哭>です。

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