2021/01/21
ヤマザキマリさんと脳科学者の中野信子さんの対談本です。
テレビ共演などで知り合ったふたりがLINEでやり取りしていたら、どんどん話が弾んで、オンライン対談をして本ができたという、昨年の6月~7月頃の対談です。
パンデミックが起きたときの国別の対応、パンデミックの歴史から見る社会の変化、疫病に対する姿勢の違いなどが面白く語られています。
そこまで深い考察というのでもないけれど、充分、教養書として読めます。
この本が発行されて半年たった現在、感染者は以前増加していますが、それでも日本は西欧諸国に比べれば感染率は低く抑えられています。
日本はなぜ感染が低く抑えられているのかということについて。
中野:興味深いのは、新型コロナはアメリカやブラジルなど、社会の流動性が高くて移民が多い地域で爆発的な感染拡大がみられたことです。一方、日本のような流動性の低い地域は、それほど大きな被害はなかった。
カギは「新規探索性」かもしれない。「新規探索性」ー新しもの好きーという観点かもしれない。 これをつかさどる遺伝子が見つかっています。アメリカ人やブラジル人にその遺伝子を持つ人が多いが、東アジアではそうでもないことがわかっています。(p.45)
日本は流動性が低い社会。コミュニティに入ったり出たり、移動したりが長らく困難だった。流動性が低い場合はコミュニティの人々の意見に逆らわず、みんなの言うことをとりあえず聞く。(p.39)
ヤマザキ:大陸ならよその土地へ流れていけますからね。イタリアは文明の十字路だから流動性がすごく高い場所。
ヤマザキ:ヨーロッパは「感染症に打ち勝つ」という概念。それは自然を征服することで、人間至上主義なんです。コロナを敵とみなす。これは14世紀の黒死病パンデミックのときに生まれた思想。キリスト教がペストを逆手にとって、主導権を握った。「ペストは信仰を持たないものへの天罰だ」と大キャンペーンを広げたわけです。
中野:ペストを骸骨の姿に描いて、鎌を振り上げる死神のイメージを強調した。
ヤマザキ:そうやってキリスト教は死神と戦っているんだという意識を植え付け、民衆の信頼と信望を得ようとした。あれが大きかった。
中野:日本人にとって疫病は「避けるもの」であって、「戦うもの」ではないようですね。
ヤマザキ:妖怪の正体は疫病なんです。
中野:戦う相手だから「マスクをすることが『負け』になる」という欧米の感覚。日本人にとってはマスクをするのも、疫病に見つからないように顔を覆う、という感覚と近いところがある。疫病をもたらす妖怪とは、ネゴシエーションすることでやり過ごそうという日本のやり方は、実に「ウィズ・コロナ」的。
中野:日本の社会には古くから、いつ自分が阻害や排除の対象になるかわからないという「圧」があったんだと思う。資源の少ない貧しい国だったから。国外に逃げられない。群においては空気になるほうが生き延びられる。
日本の人々が無意識に行ってきた工夫としては、明文化されない厳しい掟のある集団を形成しはするけれど、やはり密で暮らしているのにアクリル板で隔てられているかのように、見えないアクリル板をマインドセット(思考様式)の中に作ったこと。
ヤマザキ:(感染率の低さは)日本の移動しないという民族傾向が関係していると思う。東日本と西日本の通婚率がかなり低い。国土が山、川、海に阻まれていた。
(私の感想:だからGoToで移動させたのは、明らかな間違いだった)
古代ローマ人は北はスコットランド、東はユーフラテス川まで領地を広げた。ペストなどの疫病もローマの道を通じてどんどん入ってきてしまった。大航海時代は、コルテスやピサロがヨーロッパの疫病をアステカ王国とかインカ帝国にもちこんで先住民をほぼ全滅させてしまったし、スペイン風邪は第1次世界大戦の軍隊の遠征によって拡大していった。流動性が高ければパンデミックを招く。(p.135~138)
ヨーロッパ文明の転換点には、大きな感染症があった。それが、キリスト教の勢力が拡大していく契機にもなった。
日本では「自粛警察」という言葉も生まれたように、法律で規制しなくても、お互いが検閲しているような社会。
日本は地震、津波、台風と自然災害を経験しているので、予行演習ができているのかもしれない。パニックを起こさないし、諦観が身についている。(p.194)
ペストが終焉してルネッサンスが始まったので、コロナ終焉後は、何か新しい文化が生まれているかもしれない。
コロナに関係のない話もちょくちょく出てきますが、国民性の違いや古代ローマ史を学ぶと思って読むと、勉強になります。
こんな話もおもしろかった。
今は若者と高齢者の力が逆転している。ネット社会なので、情報を使いこなせたり、いち早く取り入れられたりするものが強い。高齢者はそれができないから、置いてけぼりにならないように焦っている。だから若者の言うことを信じてしまって、オレオレ詐欺にひっかかったりする。若者の圧がすごい。