(その4-45)の続き。
(c)まり子の父親谷本明さんの枝・鄭・健裁判コメントに対する筆者の見解
文字数減のために谷本明さんを明と略し敬称も略していることがありますのでご了承ください。
まり子の父谷本明さんの枝・鄭・健裁判コメント |
筆者の見解 |
角に付き従い、多くの犯罪を助長してきたことを思うと、主犯格である角と同等の責任があり、極刑を求めてもおかしくないと思っています。 |
この明のコメントはサイコパス犯罪が残虐であるために、極刑を求める一般的で代表的な見解。サイコパスに取り込まれた人はロボット化し、自分の意志は存在しなくなることを理解してほしい。取込まれた人は、サイコパスの分身のように行動するので、同等の責任があると見える。【太平洋戦争でサイコパス上官の命令に従って虐殺行為を行った兵士は上官と同等の責任があるように見えるが、戦後呪縛解放して苦悩していることが多い】。残虐行為をした兵士と同様に、枝、鄭、健の3人を許してほしいと思う。太平洋戦争のサイコパス上官の具体例は後の項「戦時下のサイコパスの特徴行動」参照。 |
本件一連の犯行は、枝と鄭の支えなくしては、決して角一人では、なし得なかったはずです。 |
まんじゅうサイコパスは、自分一人ではできない残虐行為を、まんじゅう構造を作りことにより実行可能にする。単独サイコパスにはない特徴。 |
健も、角からの信頼が厚く、角に意見を述べることができる立場にあったのですから、妻(初代)と娘(まり子)を助ける機会はいくらでもありました。にもかかわらず、何もせずに2人を見殺しにしたことに対する責任は重いと思います。 |
健は16歳の時に猪俣家から奪われたてきた人で、親が付けた徹也の名前も捨てさせられ健太郎に改名させられていた。「信頼が厚い」わけでも「意見を述べることができる立場」にもない。角に逆らって「助ける機会」は全くない。明は娘(まり子)から暴力を受けてやっとの思いで逃げたことを、また逃げた後娘の様子を見ようと角のマンション近くまで行ったときに、見つかるのを恐れて逃げ帰り、娘を助けられなかったことを思い出してほしい。この3人に「娘を助けられたはず」と言うのは、虫が良すぎる。角に取込まれた人(角田家または角田ファミリー)内部はサイコ化し、告げ口(密告)システムができた特別な集団で、健常者には想像を絶する。 |
妻(初代)と娘(まり子)は何一つ悪いことをしていないのに、言葉では言えないようなひどい虐待を受けた揚げ句、命をも奪われた無念さを思うと、今後も3名の被告を許すことは決してできません。 |
(d)裁判員のコメントに対する筆者の見解
裁判員のコメント |
筆者の見解 |
40代の男性公務員:「角と会わなかったら、普通の人生を歩んでいただろう。かわいそうな人生」と話した。 |
その通りと思う。 |
女性会社員(36):「同情したけど、被害者もたくさん出た。正しく判断するのに気をもんだ」と心境を明かした。 |
「同情したけど、被害者も出した」:この矛盾した状態が本質にある。【太平洋戦争で徴兵された人には同情するが、兵士は大陸やフィリピンや太平洋の島々などで住民の多くを殺した。この矛盾した状態と等しい】 |
(e)健の控訴取下げ理由:不明:健は呪縛解放苦悩に陥ったのではないかと思われる。
健の主任弁護人は本人がなぜ取り下げたのか「被告とは連絡を取ってないため理由は把握していない」と述べた。健はなぜあんな残虐なことをしたのだろうと自分に問いかけ苦悩する呪縛解放苦悩の状態になっていたのではないか。そのため敢えて懲役21年という重刑を受け入れたと筆者は思う。呪縛解放苦悩につては本シリーズ(その4-5)「(ⅰ)サイコパス化過程の4段階」の表の注*3:健常者の呪縛解放時の3つのタイプ、「忘却」「苦悩」「正当化」参照
(f)鄭の控訴審:控訴審大阪高裁。樋口裕晃裁判長。16/5/25判決、控訴を棄却。1審と同じ懲役21年。弁護側不服2017年6月現在上告中。
控訴審の検察、弁護側、裁判長の見解比較要点は下記表の通り。筆者の見解は注で述べている。
検察 |
弁護:一審判決不当 |
樋口裁判長:控訴棄却 |
控訴を棄却するよう主張 |
起訴された殺人罪について「誰に対しても殺意はなく、指も触れてない」*1と、懲役21年とした判決は不当。2件の殺人罪について「殺意がなく、罪は成立しない」などと主張。鄭は「角を殺して私も死ぬことができなかったのが悔しい。もっと勇気があればこんなに亡くなる人はいなかった」「私に勇気があれば、被害者を逃がすことができたが、当時は正常な判断ができなかった*2。被害者の冥福を祈り、一生償いたい」とする反省文を朗読した。判決後即日上告。 |
「鄭は、『被害者が死んでもかまわない』という角の意図を理解して犯行に関わっており、殺意があったと認定できる*3」「主導したのは角だが、鄭は虐待を黙認した。共同生活で自らの立場を維持する利益があった*4」。「監視カメラを調整するなど監禁や暴行に積極的に関与した」「角の意向に沿って行動するしかなかったとは言えず、積極的に犯行に加担した」全ての事件で角らとの共謀を認定*5。1審の判決を支持し被告の控訴を棄却 |
筆者見解:上記表の注で筆者の見解を記す
*1:1審の*13で述べたように弁護側は「関与していない」と事実でない主張をするのでなく、サイコ化犠牲者の実態を明らかにして無罪を主張すべき。サイコパスに取込まれ、人生のすべてを奪われた枝などを救うのが弁護士の役目だ。サイコパスが学問的に確立していないので困難さはあるが。
*2:呪縛解放苦悩が見られる。
*3:「鄭は『被害者が死んでもかまわない』という角の意図を理解して犯行に関わった」と言う樋口裁判長の解釈は次の2つの誤りからなっている。
①角は『被害者が死んでもかまわない』という軽い意図ではない。角は『愛情ある関係を破壊して殺し合わせること、心の破壊』と共に『飲食、睡眠、排せつ、動くこと、のすべての生存欲求を遮断すること、肉体の破壊』に強く惹きつけられている。まとめれば逆転欲求満足(逆転快)の報酬系ドーパミンの快感を求めての強い残虐欲求がある。残虐行為が快感になる逆転快の脳内メカニズムは本シリーズ(4-3)「(a)サイコパスの「痛み」が快感になるメカニズム」参照。
②鄭は「角の意図を理解して犯行に関わった」のではない。サイコ化されて角の意図を代行したのである。まんじゅうサイコパスは健常者をサイコパスにする強いサイコ化欲求がある。サイコ化した犠牲者は、サイコパスの残虐欲求を代行する。すなわち角の殺意を代行する。弁護側主張の鄭に「殺意はなかった」は事実だが、殺意がないのになぜ殺しに加担したかの説明がつかない。角の殺意の代行で説明ができ、これがサイコ化事件の本質である。
①②を単純化して言うとまんじゅうサイコパスは残虐欲求とサイコ化欲求をまんじゅう構造で実現する。言い換えると、心の破壊と肉体の破壊をサイコ化犠牲者に最下層の虐待犠牲者に向けて実行させる。
*4:樋口裁判長は「なぜ殺意を代行するのか」の理由も誤って「共同生活で自らの立場を維持する利益」と健常者の自分の延長上で考えた。サイコパスは健常者の延長上には居ない。サイコ化犠牲者が「自らの立場を維持している」のは、『空気』(サイコパスの強い意志)に従っているに過ぎない。犠牲者が自らの意に反してその立場にいることは角が停滞期に呪縛解放が進み、逃走したり、自殺未遂をしたりすることで分かる。枝はなぜ自殺未遂をしたかと聞かれたときに、同時に「マサはなぜ自殺未遂をしたと思うか」と聞かれ「自分と同様にマサ君も角田家におりたくて居るのではないと思います」と答えている。「共同生活に利益」を感じているわけではない。
*5:まんじゅう構造に取込まれた犠牲者は外部からは常にサイコパスと共謀しているように見える。実態は共謀とは無縁の完全な従属である。
映画トワイライト・ゾーン/超次元の体験、第3話「こどもの世界(IT'S A GOOD LIFE)」(1984年日本公開米国):オムニバスの4つの恐怖話の第3話。まんじゅう構造に取込まれた人が、サイコパスの機嫌を取る姿が風刺的に描かれている。下の画像左は残虐な魔力を使う少年のご機嫌を取る大人たち5人、その右下に魔力を使う少年がいる。子供に合わせ楽しそうにしていないと魔力でひどい目に合う。優が角からブランド品をもらい「嬉しそうにはしゃいで見せないと怒られる」(優証言)と似た状況。画像右は少年に逆らう言動をしたため口を取られた大人。サイコパスの自由な言論を圧殺する強烈さを表現している。逃げようとして見つかるとさらに恐ろしい目に合うので逃げられない。魔力を持つ子供がサイコパスに相当し、魔力は健常者が逆らうことができないサイコパスの強い意志『空気』に相当する。枝・鄭・健は常に角の機嫌を損なわないようにピリピリしていた。角はサイコ㌟により優しくなったり、残虐になったりを繰り返した。枝・鄭・健らはそのたびにほっとしたり震え上がったりした。トワイライト・ゾーンの大人たちのように。監督ジョー・ダンテがサイコパスを意識してこの作品を制作したかどうかは不明であるが、筆者にはこう観える。
画像出典左:Movie Monday。Twilight Zone: The Movie!http://robkellywriting.blogspot.jp/2012/12/movie-monday-twilight-zone-movie.html (閲覧2017/6/19) 画像出典右:Alchetron。Twilight Zone: The Movie.https://alchetron.com/Twilight-Zone:-The-Movie-29160-W#- (閲覧2017/6/19)
(K-5-3)マサ裁判:1審神戸地裁裁判員裁判:裁判長平島正道。判決2015/11/13無期懲役。裁判員120日。控訴棄却で2017年6月現在上告中。
マサ裁判全般:マサは疑似サイコ後期に至り自主的に残虐行為をするまでに至ってしまったことが分かる貴重な例の裁判である。6裁判すべてが05年橋本久芳虐殺から角逮捕までの7年間だけを対象とした裁判。その前の橋本家、猪俣家、皆吉家などマサがまだ角と知り合う前の角のサイコパス特性が現れている犯罪は取り上げられていない。裁判対象の7年間はマサが角によってサイコ化され「暴力装置」になった後で、マサの暴力が特に目立つ、マサにとって極めて不利な裁判である。マサの暴力が目立つため「角はマサによって凶暴にされた」とまったく逆の誤った報道さえ行われた。判決は結果責任をマサに被せた懲罰(こらしめる)判決で、なぜそういう行動をマサがとったかが解明されない、原因解明がない裁判になっている。その為、社会で同様の犯罪が再発することを防止することには全く役には立たない裁判。
マサのサイコ化要点:マサは母が皆吉長男と再婚して皆吉家の一員になる。義理の父皆吉長男が角に取り込まれ借金まみれになった時にマサ名義で借金され、取立人がマサの勤める会社に押しかけてマサ辞職。角と暴力団風の男たちと父皆吉長男がマサ宅へ押しかけ、マサは暴力団風の男たちを背景にした角のサイコ3手法(強弁、長時間拘束、眠らさない)で屈服し、角のマンションに移らされ、虐待を受ける。家族に角の手が及ばないように離婚し子供たちと別れた(離婚は角の命令でもある)。角の手が及ばないように離婚したのは谷本隆と同様。谷本隆は虐殺されたがマサは徐々にサイコ化され、角の暴力装置の位置になり、直系内部と傍系谷本家、川村家を恐怖に陥れた。角が「やめと言うまで殴り続ける」。マサは06年に自殺未遂後に疑似サイコ後期に至り自主的に最下層の犠牲者を虐待するようになった。逮捕後マインドコントロールの本を読み「これ俺のことだ」と述べ、「誰も信じられない、異様な世界だった」(被告人質問)と振り返り、呪縛解放が進んだ。
(a)1審検察、弁護側、裁判長の見解比較
下記表に鍵点(キーポイント)ごとの見解を示す。筆者の見解を表の注で記す。
鍵点 |
検察:求刑無期懲役 |
弁護:懲役15年相当、主張総崩れ |
平島裁判長:判決無期懲役 ほぼすべて検察主張通り |
サイコ化 |
「角の指示通りに暴力を振るうなどし、約7年間にわたって殺人行為を繰り返した」「すべての事件で角の意向に沿い、暴行や虐待などを担当し、中核的な役割を担っていた」「責任は他の共犯者に比べ格段に重い」「各犯行になくてはならない重要な役割を担い、角に次ぐ重い責任がある」*1「犯行の全てを角に押しつけるような答弁しかしておらず卑怯で反省していない」*2 |
「角から指示されたことをしたにすぎない」*3「角に従わないと自分が標的にされる恐れがあった」「嫌な役を押しつけられた」「絶対的な支配者の角に逆らえなかった。進んで加担していない」*3と反論 |
マサらと角の関係について「絶対的権力で忠誠を誓わせる*4角を恐れ、被告らは服従していた」「監禁方法を提案するなど積極的に犯行に関与し、指示のままに従っていた他の共犯者とは質的に違う*3」「角は『汚れ役』として利用したが、マサは進んで『汚れ役』を果たしていた」 |
饅頭構造 |
一連の事件は「角田家」がピラミッド型の疑似家族を形成し、角が頂点に君臨し「角が絶対的に支配する中で起きた事件」、実行役として各事件で重要な役割を果たしたマサでさえ、「従属的」とせざるを得なかった*5 |
「角田家では角が絶対的な存在で、角に従わないと自分が標的にされる恐れがあった」 |
「角の手足となったマサがいなければ、一連の犯行は不可能だった」*6「死刑の選択も検討せざるをえない事案だが、角を頂点とする特殊な共同体*5の中で起きた事件」 |
動機と殺意と共謀 |
久芳「保険金目的で卑劣極まりない」*7崖の上に立たせ、「はよせな」と声をかけて飛び降りを強要した。 (以下は動機説明がない)*8 まり子「飲食や睡眠を制限して衰弱させ、暴力を加えたのは非道」 次郎「常態的に暴力を加えて悲惨な犯行」 起訴されたすべての罪で角と共謀を主張*9 |
3件の殺人罪について「角に逆らえず、殺意はなかった」「死ぬとは思わなかった」などと起訴事実の多くを否認*10 まり子について「虐待も死に直結しなかった」と監禁致死か傷害致死罪にとどまるとした*10。 初代の傷害致死罪では「頭を揺さぶっていない」「自分は、暴力は振るっていない」と無罪を主張した*11 |
久芳について、「飲食制限など度重なる暴行を加え、飛び降りて死ぬ以外を選択できない精神状態に追い込んで殺害した」「久芳さんに自殺の意志がなかったことをマサは認識していた」と殺意を認定*10、殺人罪が成立するとした。まり子については「衰弱が顕著になった後も、睡眠や飲食のほとんどを制限して虐待を続けて殺害した」と殺意を認定*10。声を震わせながら「「強い殺意までは認定できないが、虐待によって自尊心を徹底的に奪い、想像を絶する苦痛や無念さを考慮すると、なぶり殺したと評するにふさわしい残酷な犯行」*10と非難した。次郎も物置に監禁して暴行し、殺害した、とした。「監禁方法を提案するなど積極的に犯行に関与し、指示のままに従っていた他の共犯者とは質的に違う」「積極的に暴行するなど角に匹敵する重要な役割を果たした*10」と述べた。監視モニターの設置や虐待方法を提案したことなどにも触れ「いずれの犯行においても重要な役割を積極的に果たした」と非難した。初代に対する傷害致死は「頭髪をつかんで揺さぶり、その後死亡させた」*11と弁護側の主張を退けた。全事件で角との共謀を認めた*9。 |
酌量と判決 |
論告で裁判員に「過去、3人を殺害した被告は精神的に問題がある場合などを除き、死刑になっている」と話し「本来、死刑求刑が相当だが、絶対的な立場にいた角の影響が大きいことも考慮すべき」「角に匹敵するとまでは断罪できないが、角に次ぐ責任がある」「各犯行は角の意向によるもので死刑は躊躇する」と無期懲役を求刑 |
「角田家の中で最も低い立場にあり関与は従属的、反省している、無期懲役は重すぎる」と反論し懲役15年が相当。 |
判決は、集団生活の中心にいた角のもと、格闘技の経験もあるマサが虐待の提案や実行行為を担ったとし、その役割は「角に匹敵する」と指摘した。「死刑の選択も検討しなければならないほど重大な事件、長期であっても有期懲役刑では軽すぎる」と言及する一方、「角の存在は大きく、従たる役割であることは否定できない」「ほかの被告たちが口をそろえて、角の存在の大きさを強調する以上*12、死刑を選択することは躊躇せざるを得ない」と無期懲役の判決 |
(b)筆者の見解:上記表の注で筆者の見解を記す
(その4-47へ続く)