建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

鈴木賢一,岡庭純子:小児病棟における壁面装飾の印象と効果に関する研究

2011-03-11 01:08:52 | 書架(療養環境関係)

小児病棟における壁面装飾の印象と効果に関する研究

鈴木賢一, 岡庭純子

日本建築学会計画系論文集 第73巻 第625, 511-518, 20083

 

1.研究の目的と方法

本研究は、小児と家族を中心とする療養環境の理念と実績を基礎にしつつ、壁面装飾を中心とするインテリアデザインの効果を分析しようとする研究であり、心理的要求に関わる視点から療養環境向上を目指すものである。研究対象は壁面装飾を用いた小児関連病棟である。看護師、医師、及び一部の小児患者から質問紙票により、病棟環境に関する評価を得、患者の不安軽減については、小児の気持ちを理解し代弁できる付添い、看護師、医師を対象とし、一部回答可能な小児患者のデータを合わせて分析する。

 

2.調査対象病棟の環境設備

調査対象病院は9階に小児病棟、小児外科病棟、新生児集中治療病棟が配置され、入院中の子どもの不安を払拭できる病棟全体の雰囲気づくりのために、物語、テーマカラー、キャラクターなどで病棟の全体的関連性を確保しようとしている。

 

3.調査の概要

調査に関しては患者と付添いに対し質問紙票を手渡しその場で記入を依頼。質問内容は1)テーマの認知、2)通路部分の評価(EVホール、病棟廊下、ピクトグラム)3)諸室に対する評価(プレールーム、処置室)4)壁面装飾の有効性や具体的な効果。

 

4.テーマ・キャラクターの認知程度

小児関連病棟が集まる9階のフロアがひとつのテーマを持ってデザインされていることに医療スタッフは一定の認知度を示しているが、小児患者の認知度は低い。付添いの半数は認知しているが、各棟の愛称とキャラクターに関しては知る条件が同様であるにも関わらず、付添いよりも子どもの方が関心が高い。認知度の高い看護師に対して医師の認知度は20%以下である。

 

5.通路空間のデザインに対する評価

EVホールの印象は全体的に高評価を得られた。しかし、積極的肯定、消極的肯定で分けると立場ごとで割合に違いがあった。また、どの立場にも否定的回答が見られた。病棟廊下の良いと思う要素については、幼児、看護師はナースステーション前の柱の装飾、付添いは壁や床の色彩と模様、医師は扉のキャラクターを約半数が選択した。ピクトグラムに関しては良いと思う理由に「わかりやすさ」「楽しい感じ」「子どもの場所らしさ」が選択された。

 

6.病棟内諸室に対する評価

プレイルームの評価ではいずれの立場も消極的評価が積極的評価を上回っている。印象について小児患者は「病院のような感じがしない」を全く選択していない。付添いは「ゆったりした気持ちになれる」、看護師と医師は「ゆったりした気持ちになれる」「病院のような感じがしない」が多かった。処置室に関して小児患者は6割が肯定的印象。しかし、看護師の多くが肯定的なのに対し、医師は半数以上が否定的印象を持っており、評価の傾向が異なっている。また、付添いの選択率が最も高かった「不安な気持ちをやわらげる」を小児は全く選択していない。

 

7.入院中の不安軽減の効果

入院生活に対するデザインの効果の有無を尋ねたところ、付添い、看護師、医師のいずれもが「気持ちが明るくなる」を最も多く選択している。だが、「不安を軽減する」、「治療に対して前向きになる」効果については選択率が少ない。自由回答においては小児患者のみでなく家族にとっての入院生活、また医療スタッフを支援する効果につながる記述も見られた。

 

8.立場の違いによる評価と効果についての考察

医療サイドはテーマについて一定の認知を示し、受け入側としての体制を整えつつあるが、組織として壁面装飾を活かす運用は徹底していない。小児はテーマを認知していないが具体的で親しみやすいキャラクターには関心を示している。看護師と医師の認知度の違いは患者への接し方、コミュニケーションの違いによるものと思われる。通路空間については肯定的反応が高かったが子どもは大人ほど魅力を感じていない。小児患者は背景的なものより点景要素に関心を示す傾向にある。

 

9.まとめ

・小児患者はテーマやその意味よりも具体的にデザインされたものへの興味関心が強い。

・平常心に回復させる、入院生活を応援するという不安軽減の効果を確認できた。

・小児のために療養空間が付添いの不安も緩和していることで壁面装飾への肯定的関心を得ている。

・壁面装飾を活用する仕組みを構築によって、治療や看護場面の不安軽減効果をより高めることができると思われる。

 

10.感想など

 子どもと大人、患者サイドと医療スタッフの2つで検証できるのが良いと感じた。小児患者と周りの大人の回答の違いがわかりやすく改善点も考えやすいと思ったので参考にしたい。肯定評価をさらに積極的肯定、否定的肯定でわけることで回答がどのようなものなのか想像しやすく読みやすかった。

 

(伊藤 美春)

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