Weekend Strummer

ウィークエンド・ストラマー。
世間知らずのオジサンが脈絡無く語る、ギター・アフリカ・自閉症。

サバンナの夜

2010-04-25 00:41:06 | ケニヤ

30年近く前の話です。
学生時代にアフリカをオートバイで旅行した時の話。
スーダンに近いケニヤ北西部の乾燥地帯を走り抜け、ナイロビに向かっておりました。途中のナクルという町で簡単な夕食を摂った私は、そのままナイロビまで走るつもりでした。別にその町に宿を取っても良かったのですが、ナクルからナイロビまではたったの150キロ。朝からすでに600キロ以上を走ってきた私にとって、さほど遠い距離ではありませんでした。

30年前の東アフリカ。夜9時。
今なら幹線道路には街灯が完備し、明るく照らされていることと思いますが、当時は真っ暗闇でした。サバンナを一直線に通る道。夜間の交通量はほとんどなく、時折大型トラックとすれ違う程度です。視界は自分のオートバイのヘッドライトが照らす範囲のみ。
ただ、その分星空は息を呑むほどにきれいなものでした。乾季で空気は澄んでいます。満天の星を眺めながらのツーリングは、ずいぶん贅沢な経験でした。
グレート・リフト・バレーを横断するので、ナクルからナイロビに向かう道は起伏が多く、時にかなり急勾配の坂を上ることになります。
朝からほぼ走りっぱなしのオートバイのエンジンがかなり熱くなってきているのが感じられました。アクセルに対するエンジンの反応があまり敏感ではなくなってきており、これは2ストローク・エンジン特有の症状で、「熱ダレ」などと呼ばれておりました。このまま高回転で回し続けると加熱し過ぎてストンと停止することがあり、そうなると時間をかけて冷まさないかぎり、エンジンが息を吹き返すことはないのです。
普通の旅行装備に加え、整備に必要な工具や予備のガソリンなど、ロング・ツーリングに必要な一切合財を積んでずっと走っているんですから、オートバイにかかる負担は大きく、いつオーバー・ヒートを起こしてもおかしくない状態です。人家も何も無いこんな真っ暗な草原でエンストなんて、ちょっと想像したくない。
安全のためにナクルに退き返すことも考えましたが、そうするには少々勇気がいるくらいの距離を、私はすでに走って来てしまっておりました。

前方に向けていた視線をふと横に向けると、真っ暗な草原に星が瞬くような小さい光があるのに気がつきました。私の真横に連なるようにキラキラと光を放ち、私の移動に合わせるかのように動いています。その数は20以上もあったでしょうか。視線をめぐらすと道の反対側にも同様の光が見えました。
頭上には満天の星。
地上では左右に並ぶ光の列。
なんだかとてもファンタジックです。
しかしこの光いったいなんだろう?
蛍かと思ったのですが、私のオートバイについて来るなんてずいぶん早く移動する蛍です。
それに20匹以上の蛍が連なって飛ぶなんて、蜂じゃないのにそんな群れを作るでしょうか? 
だいたい乾季のサバンナに蛍なんているのでしょうか?

何気なく背後を見て瞬時に納得しました。蛍なんかじゃなかった。
多くのハイエナが私を追いかけているのです。
テールライトに赤く染まるハイエナの顔。両目を鈍く光らせ、大きく開けた口からよだれまみれの舌を出し、あいつらは揃って笑っておりました。おいしいものを前にした動物の笑いでした。

ふはははっ。
ひへへへっ。

奴らは普通に鳴いているのでしょうけど、私には本当に笑い声に聞こえます。
左右に見える光の列もハイエナの群れの眼の輝きだったのです。たぶん、全部で数十頭の群れでしょう。

あー、すっごくヤバい・・・。

エンストしたら最後、その数秒後には生きたままハイエナの群れに食われてしまうのです。
恐怖心から頭皮がキュッと引き締まり、ヘルメットの中で頭が小さくなったような錯覚を覚えました。
この時ほど、差し迫った恐怖を感じたことはありません。
同時に、このときほど強く後悔したことはありません。ナクルに泊まっときゃ良かったんです。ホント馬鹿だな、俺って。

走来野犬濡唾液  (走り来るヨダレまみれのハイエナ)
笑犬問我何所之  (笑いながら我に問う何処へ行くかと)
我言我行冷水市  (我は言うナイロビへ行くと)
我言但去莫復来  (我さらに言う、あっち行って、もう追ってこないで)
熱帯草原夜沈沈  (サバンナの夜はしんしんと更けていく)

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