考えてみればコーヒーはややこしい飲み物です。
コーヒーノキを栽培して果実を収穫し、種子を取り出して乾燥させ、焙煎して、挽いて粉にして、淹れる。ずっと昔からこういう手間のかかる製造法を経てコーヒーを飲んできた歴史を考えると、我々人類のコーヒーへの執着は、なんだかすごく根が深いように思えます。
そこまでして飲む必要あるのか? と問われれば、コーヒー好きの私は迷うことなく「ある」と答えますが。
さて、ケニヤで借りていた家の庭にコーヒーの苗を植えたのは、約2年前。自分で育てたコーヒーノキから実を収穫して、自分の身体を通してからコーヒーに加工して飲む、というマイコーヒー・コピルアク作戦を企てたのでした。
植えてから、定期的に株元を除草し、時々化成肥料を施し、乾季には灌水し、自己流で選定などもして、丹精込めた、というほどではありませんが、そこそこに手をかけた私のコーヒーノキ。昨年の10月にようやく花が咲きました。
こりゃあ収穫もすぐだな、と楽しみにしていたのですが、結実はしたもののなかなか熟さず、私の任期が残り少なくなっても実はまだ青いままでした。諦めても良かったのですが、こういう時だけ頑なな私。青いまま収穫してビニール袋に詰めて日本に持ち帰ったのが1月下旬のこと。
青かった実はだんだん黄色く変色し、そして徐々に赤っぽくなり、それなりに熟したようです。試しにひとつ齧ってみましたら、渋い! これは食えない。
そこで以前マンゴーに試した方法に倣い、ビニール袋の中に焼酎をスプレーしてみたら、効果てきめん。一晩で渋味が落ちてかなり甘くなりました。でも食欲をそそるほどではなかった。自分で食べてウンチョスから未消化のコーヒー豆を採集することを考えていたのですが、これをいくつも食べるのは気が進まない。なんだか健康を損ねるような気がして、簡単にあきらめました。
ところで、私が現在日本で借りている家の庭には金柑(キンカン)の木があります。寒い季節にかわいく黄色い実がなります。
そしてその実を常食にしているのが、家の周辺に生息しているハクビシンであります。夜間、キンカンの木に潜むハクビシンを何度か目撃したことがありましたし、家の裏手にいつも糞をする場所があるのも知っております。ですが、我々には直接的な被害はないので気にせず生活しておりました。
閑話休題。ハクビシンは尾が白いがゆえに「白尾芯」と勘違いしそうですが、正しくは「白鼻芯」。眉間から鼻にかけて白い模様があるゆえの命名だそうです。
調べてみましたら、ハクビシンは日本に生息する唯一のジャコウネコ科の動物なんだそうです。インドネシア産のコピルアクは野生のジャコウネコの糞から採集されるコーヒーですから、まさにうってつけ。こいつに食わしちゃおう。
まずキンカンの木から実をひとつ残らず取っちゃいました。キンカン丸裸。今まで特に危険なく採取できていたキンカンが急になくなってしまい、ハクビシンは慌てたのではないかと想像します。
そして数日後、キンカンの根元に件のコーヒーの実を撒いておいたんです。翌朝は変化がありませんでしたが、二日目の朝、コーヒーの実はすべて無くなっておりました。お召し上がりになったようです。
数日経って、家の裏にあるハクビシンが糞をする場所を訪問。かなり臭うウンチョスであります。そしてかなりしっかりした形のブツでありました。網に拾って水洗トイレ内で洗ってみましたら、取れました、小さなコーヒー豆。
これをさらによく洗浄して乾燥させ、キッチンに持ち込むのを大反対する妻が外出している隙にガスクッカーの炎で焙煎しました。金属製のザルに入れて、まんべんなく火が回るよう細かくゆすります。実が小さいので弱火でじっくり中まで加熱。
焙煎が進むにつれて豆の表面から薄皮が剥げ、ほこりのように宙を舞います。普通に呼吸をすると吸い込んでしまうので、急遽マスクを着けました。やっぱりちょっと抵抗あるんです。
あとは普通にミルにかけて製粉、丁寧にドリップしてみました。
肝心のお味は…。
未熟豆が多かったのであまり期待していなかったのですが、苦みが強く、そして香りも強いコーヒーになりました。苦みのもとは、消化時に浸透したハクビシンの胃液によるものではないでしょうか? また、豆が小さかったゆえに焙煎時に内部の炭化も進んだのかも知れません。香りの強さは、やはりウンチョス風味かなぁ? 一種独特の味となりました。これをおいしいと評価するか、ダメ・コーヒーとするか、意見の分かれるところでしょう。
他者の評価も欲しくて、帰宅した妻にも勧めてみたのですが、彼女はガン!として受け付けず、逆にキッチンの完璧な清掃を強要されました。
普段なら絶対にお見せするであろう加工過程の画像がなぜ一枚もないのか、と疑問に思われる方もおられることでしょう。
それはね、ウソだからです。
私はハクビジンが好きなんですが。
オイラもやりそうだったので、つい騙されちゃった。