電動歯ブラシを使うと、鼻が痒くなることがあります。これは電動歯ブラシが上顎を振動させ、その振動が顔面突起物である鼻に伝わり、その内部に生えている鼻毛が細かく震えて触れ合う刺激が痒みとして感知されるためです。
ところで、ブリッジはギターの弦の下端をギターに固定し、演奏時の弦の振動をサドルを通じてボディ・トップ(表板)に伝えるパーツです。振動源となる弦と共鳴体であるボディをつなぐ部分であることから、ギターの音色を決定する数多い要因の中でもかなり重要視されております。
実際、ブリッジの質量(重さ)の違いは音質・音量に大きく関わってくるため、材質や寸法など、ギターの個性を語る際のこだわりポイントの一つになっています。重くなるにしたがって振動しにくくなるため、高音が伝わりにくく低音が強調されるようになり、サスティーンも増します。逆に軽くなると振動しやすくなるため、高音の輪郭がハッキリするようになり、明るい印象が強くなります。
というわけで、ブリッジを改造することでギターの音量や音色は大いに変化しますが、これは素人の手には負えない大工事になります。専門の工房に依頼してテマヒマかけたとしても理想の音が得られるとは限らない。なので誰もやりません、そんなこと。
代わりにお勧めしたいのはブリッジピンの交換・加工であります。これは割と簡単にできて効果テキメン。
上の図はアコースティックギターのブリッジ周辺の断面です。
前述したように、ブリッジピンは弦の下端(ボールエンド)をブリッジ裏に固定する役割をしています。
市販のブリッジピンのアタマを除いた部分の長さはおよそ25㎜で、これは往々にして長すぎる。ブリッジの厚さはギターによって違うので、それに対応すべく少々長めに作られているんです。
長すぎるピン先はブリッジに付属する余分な出っ張りになります。で、この出っ張りが演奏時の弦の振動に反応して、バネのように震え、本来ボディ・トップを震わせるはずのエネルギーを逃がしてしまうんです。冒頭の電動歯ブラシのエピソードで述べた鼻毛の部分に相当します。鼻の痒みを避けるためには、鼻毛を抜くか切るしかありません。
愛用のキャッツ・アイに使われていたブリッジピンは安価なプラスティック製でありました。その先端部分をおよそ5㎜切り取りました。プラスティックは軽い材質で振動の影響を受けやすく、演奏時には大いに震えます。そのぶん、切った効果は絶大でした。プラスティックを震わせていた振動エネルギーが逃げ場を失い、ボディ・トップがより振動するようになり、音量は驚くほどバカデカくなったのです。
ですが、音質は少々下品な印象。鳴り過ぎなんです。それまでは単純に「よく鳴るギターは良い楽器」と思い込んでいたのですが、鳴ればいいってもんじゃないな、と思い直しました。
この効果に大いに気を良くした私は、その後、色々な実験を繰り返すことになりました。
低音の更なる強調を狙って4~6弦のブリッジピンだけを短くしてみたり(特に低音だけが耳立つようにはなりませんでした)、振動しにくい重い材質である真鍮製のピンを装着してみたり(非常に個性的な音になりましたが、残念ながら好みじゃなかった)。
どれも楽しい実験ではありましたが、これは!と思うような結果には巡り会えませんでした。
現在採用しているのは人造象牙と言われる「Tasq」製のブリッジピンです。最初から20㎜の長さになっているモデルがあり、いいカンジです。