幼児の頃、私は時折「幽体離脱」を経験しておりました。
布団に入り、身体が温まり、気持ちが落ち着いてくると徐々に眠さが増してきます。眠りの世界に引き込まれる直前、ふと気づくと目の前に天井の板がある。えっ? と驚いて目を見開くと就寝した時と変わらず私は布団の中におり、あれー? 今のはなんだったんだろう? 確か天井を間近に見ていたようなんだけど・・・。
腑に落ちないまま再び眠りの姿勢に戻り、しばらくすると目の前には天井。わっ、まただ!
こういうことが何度もあり、そのうちに自分が空中に浮かび天井に近づいていることに気がつきました。そして更に経験を重ね、その浮遊感を面白がるようにもなりました。
毎日ではありませんでしたが、眠りに落ちる直前の半覚醒の状態のとき、天井が変に歪んで見えることがあって、その状態で天井に近づくように意識すると、かなりの高確率で浮遊を楽しむことができるようになったのです。
浮遊中はとてもデリケートな状態で、急に身体を動かすと覚醒してしまいます。覚醒すると浮遊していた意識が瞬時に身体に戻り、幽体離脱状態が解けてしまいます。考えますに、私の幽体離脱は非常に不完全なもので、意識が身体にかなり残った状態だったのではないかと思います。
ですから身体を動かすとは言っても、あまり複雑なことはできず、自身の身体が寝ている上空に留まり、ごくゆっくりと頭をめぐらして周囲を見るくらいのことしか出来ませんでした。
しかしこれは楽しい経験でありました。普段は経験できない高い視点から部屋の中を見ることができたのです。
それはきっと夢だったのだ、と言われてしまえば何も反論できません。ですが、天井から鎖で吊られた蛍光灯の笠の上に埃がたまっていた様子など、普段の子供の視点からは見えない光景をとてもリアルに覚えており、あの体験が単なる夢だったとは思えません。
というわけで、「幽体離脱」なんていう言葉は知りませんでしたが、魂というか精神というか、そういうものは身体から離れることもある、と、なんとなく分かっていたんです。
それからしばらく後の話。
私は高校3年生。確か秋が深くなる頃で、受験勉強もかなり大詰めになる季節でした。
ある日の深夜。
さほど良くないアタマを限界近くまで使って勉強に集中していた私は、床に就きます。疲れていたせいか、布団に入った途端、私はすぐに眠りについたようです。布団を引っ張り上げた両手を胸の上で交差したまま。
その晩、私は人生で最初の「金縛り」を経験します。
眠りに落ちてからどのくらい経ったのか定かではありませんが、強い衝撃を受けて気がつくと、身体がまったく動きませんでした。何かの型にはめられたようで、自分の身体であるにもかかわらず、意志の力では微動だにしません。
あ、これが噂の金縛りか! と瞬時に理解しましたが、事態はそれだけではなかったのです。
(この項、続く)
布団に入り、身体が温まり、気持ちが落ち着いてくると徐々に眠さが増してきます。眠りの世界に引き込まれる直前、ふと気づくと目の前に天井の板がある。えっ? と驚いて目を見開くと就寝した時と変わらず私は布団の中におり、あれー? 今のはなんだったんだろう? 確か天井を間近に見ていたようなんだけど・・・。
腑に落ちないまま再び眠りの姿勢に戻り、しばらくすると目の前には天井。わっ、まただ!
こういうことが何度もあり、そのうちに自分が空中に浮かび天井に近づいていることに気がつきました。そして更に経験を重ね、その浮遊感を面白がるようにもなりました。
毎日ではありませんでしたが、眠りに落ちる直前の半覚醒の状態のとき、天井が変に歪んで見えることがあって、その状態で天井に近づくように意識すると、かなりの高確率で浮遊を楽しむことができるようになったのです。
浮遊中はとてもデリケートな状態で、急に身体を動かすと覚醒してしまいます。覚醒すると浮遊していた意識が瞬時に身体に戻り、幽体離脱状態が解けてしまいます。考えますに、私の幽体離脱は非常に不完全なもので、意識が身体にかなり残った状態だったのではないかと思います。
ですから身体を動かすとは言っても、あまり複雑なことはできず、自身の身体が寝ている上空に留まり、ごくゆっくりと頭をめぐらして周囲を見るくらいのことしか出来ませんでした。
しかしこれは楽しい経験でありました。普段は経験できない高い視点から部屋の中を見ることができたのです。
それはきっと夢だったのだ、と言われてしまえば何も反論できません。ですが、天井から鎖で吊られた蛍光灯の笠の上に埃がたまっていた様子など、普段の子供の視点からは見えない光景をとてもリアルに覚えており、あの体験が単なる夢だったとは思えません。
というわけで、「幽体離脱」なんていう言葉は知りませんでしたが、魂というか精神というか、そういうものは身体から離れることもある、と、なんとなく分かっていたんです。
それからしばらく後の話。
私は高校3年生。確か秋が深くなる頃で、受験勉強もかなり大詰めになる季節でした。
ある日の深夜。
さほど良くないアタマを限界近くまで使って勉強に集中していた私は、床に就きます。疲れていたせいか、布団に入った途端、私はすぐに眠りについたようです。布団を引っ張り上げた両手を胸の上で交差したまま。
その晩、私は人生で最初の「金縛り」を経験します。
眠りに落ちてからどのくらい経ったのか定かではありませんが、強い衝撃を受けて気がつくと、身体がまったく動きませんでした。何かの型にはめられたようで、自分の身体であるにもかかわらず、意志の力では微動だにしません。
あ、これが噂の金縛りか! と瞬時に理解しましたが、事態はそれだけではなかったのです。
(この項、続く)