ラッパを吹くは木口さん
忠実だっは木口さん
純真だったは木口さん
・・・・時は笑うさ、美談、美談と笑うさ
だがよそう、それはそれで
童心だったは木口さん
一途だったは木口さん
無垢だったは木口さん
・・・・進軍ラッパは勇ましく、野を超え山越え、彼方までこだまする
傀儡だったは木口さん
虚構だったは木口さん
露と消えるも木口さん
知りえぬものを、知っちまった悲劇を、
知ってるかい、お前は
彼は無を求め、無のみ信じて逝ってしまった
一切が空を証明しえず、魂との対話に慣れちまい、病んでいった
知性の奴隷と化し、真理の毒に酔い、観念のみを信じ、
ガラスの弱さを知らなかった
時は輪転し、青葉は揺れる
今際にこう言った・・・・
「この世は、プロローグ」
羽は黄金に染まり、引きたてるは淡き生、知るよしもない命
一夜の宴、一夜の露
儚く思うは人心、哀れと思うは世のならい
だれが知ろう、この命
諦念を諭す、この命
明かり灯り
燈篭は黄泉へと流れゆく
蜉蝣は後を追う
泣くほどに異物は磨かれ、それは真珠になりました
真珠の涙は青いです、海と同じです
だから、誰も知りません
真珠のジャネは言いました・・・・
(明日は笑えるだろう だぶん きっと)
波は揺れました、声は消されました、潮騒だけが響いてます
ジャネはまた言いました、けれど聞こえません、
潮騒よりも弱い声です、潮騒にすら勝てません
遠くで誰かが呼んでいます
ジャネは誰だか知ってます
涙は、また零れました
幻影は白夜に現れ、亡霊が守る都はあわらになる
呪いは渦巻き、囚われ人を虐げ卑しめる
思想を生み、思想を殺すこの刹那、
彼の文豪は何を思い、哲理に憂い旅に出たのか
ツァーの亡霊は邪魔をし、霧はそれを解かせない
民の傷は癒されず、ネリーの涙はネヴァ川に落ちる
永遠に輪転し命を得て、観念の人となる
すべては過ぎてゆく
過ぎゆく中で、謎を秘め霧に沈む街
黄昏の、サンクトペテルブルグ
誰かが泣くとき、誰かが笑う
誰かが死ぬとき、誰かが産まれ
誰かが産まれとき、誰かが死ぬ
時は止まるを知らず、無情を知り、そして空漠を作る
空漠は慄然、黄泉への流れに流される
時が笑うと、流れは蒼くなる
その蒼の流れは無となり、無のみが幻影を作る
現世という幻を作り、人を盲目にする
そこの住人は知らない
生のみが有でなく、死が無ではないを知らない
詩的空間に住む愚人は、感傷に溺れ、
偽善を愛し、卑屈に花を添える
虚栄と古本で城壁を作り、孤低に甘んじ、
空想の世界に逃げ込み、三文文士を気取る
罪という酒に酔い、五十後家を抱き、
憐憫の嵐に追われ、虚無に陥る
もう一人の自分が囁く
きのうの女は絵になった
お前は、小説になるよ、と
濁流となり時代を動かした、大河なるドン
時には血に染まり、赤い血の涙を薄め、青い血を泥と化し、
凄烈な中和をもたらし、輪転して天に帰るドン
逆流となり、ツァーリに牙を見せ、
怒涛のように襲い掛かり、血で血を洗ったドン
凍てつく大地ロシアを流れ、時の流れを見守り、見届けるドン
民の傷を、怨みを癒すドン
夕陽に輝くドン
歌を作ったドン
ステンカ・ラージンは悲痛に響く
虚無という大海を、今日も小舟が進む
定めに見離された行く末は暗く
怨念の嵐は、砂の船を溶かしては悦び
諦念の灯火すら、吹き消す
いずこから、声がする
悲痛な憂いに溺れた声は、殺された自分の声
だが、気付くすべはない
麻痺した魂は、霊界に帰るを必至とし、離脱を計る
従から主への旅は、必然の波に乗り
虚偽という借り着を脱ぎ捨て
過去と虚栄を捨て、斜陽の彼方に消える
幽界から声がする
堕落を、死を願う声がする
忘れえぬ憎悪の声は
罵詈となり呪詛となり、祟り来る
死霊は去れど、生霊はのさばり
服従への罠を掛ける
理知は毒されど、魂は戦う
呪われし業に、戦いを挑む
生霊よ去れ
奈落の底に沈み、業の重さに砕かれよ
宿命は待っている
阿鼻は待っている
悠久の流れを見守り、かたくなに押し黙る
この、沈黙の重さよ
語られざる訳は、いかにあるや
知るを阻む憂いを凍らせよ
人知の及ばぬ超越した魔力は
暗黙理に、実は語る
語られど人には聞こえぬ
思惟を凍らし、理念を封じ、思想を生み出した偉大さよ
この必然よ、この宿命よ、この慄然よ
ああ、いつまでも
街は夕暮れ
猫坂は赤く染まり
浮かない気持ちは照らされる
アパートの部屋の明かりは消えている
彼女は二度とは戻らない
ヒールの場所は空しく冷たい
ラジオはダミアを流す
カタコトと電車は通る
隣部屋の与太は帰らない
猫はないている
消えるくもの、それは灯
壊れゆくもの、それは魂
雪はすべてを隠し
悲しみを和らげ、降り続く
風は呼び声を遠ざけ、罵りを運び
思い出を伝えない
誰か、呼ぶ声がする
声は細く、雪に消される
バイカルの月は知っている
農奴の叫びを、政治犯の正義の目を
そして鎖の音を知っている
風が暴れ、雲が月を歪めるとき、民衆は立ち上がった
カマを持ち、銃を持ち革命の元に戦った
嵐が止むと、ツァーリは消え帝政は滅んだ
・・・・ウラー・・・・は木魂した
バイカルは深く澄み、月は湖水を照らす
バッハの調べにのり
運ばれるは、毅然たる貴公子
まだ見ぬ花嫁は城のなか
期待と不安がよぎり
つのる心は早馬の如く駆け巡る
街道の民は祝福し、新しき王を待ち望む
だが、ドレスデンは遠い
向こうに見えるは城なれど
行くほどに遠ざかり、望むほどに消えゆく
幾夜、日が暮れど、着く宛てのない城なり
夢見るレナンは時の世界の人
花嫁は時の消え失した世界の人
橋渡しは、死のみ