Don't Let Me Down

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難病助成と生活保護法

2013-10-25 10:23:36 | 日記

* 国の難病対策を議論する第33回難病対策委員会が10月18日(金)に開催され、「難病に係る新たな医療費助成の制度案」が提示された。

このこと自体があまり報道されていない。
さらにこういうニュースは“難病”に関与しないひとには、見過ごされてしまうと思う。
しかし、“難病に関与しないひと”というのは、実は、ありえない(いない)のである。

以下に引用するのは、“記事A”は毎日新聞記事、“記事B”は「タニマーによる制度の谷間をなくす会」が記者会見を告知するものである。

記事Aをうっかり読むと、難病患者の自己負担が“2割に軽減される”良いことのように思える。

しかし、記事Bは難病患者の立場から、この制度変更の“危機”を訴えるものである;


記事A;
<難病:自己負担「2割に」 助成、厚労省が引き下げ案>毎日新聞 2013年10月18日

 難病対策の見直しと新法制定を目指す厚生労働省は18日、新制度で医療費助成の対象となる難病患者が自己負担する額について、同省の難病対策委員会(金沢一郎委員長)に議論のたたき台となる案を示した。自己負担割合を現行の3割から2割に引き下げる一方、対象者を重症者らに限定するなど患者への新たな負担を求める内容。同省は同委員会や患者団体から意見を聞いた上で改めて負担額を試算し、次回の委員会で修正案を示す。
 今回の案は、医療にかかる頻度の高い70歳以上を対象にした高額療養費制度を参考にした。患者の月額の負担上限額は夫婦2人世帯で▽生活保護は0円▽市町村民税非課税の低所得者8000円▽年収約370万円までは1万2000円▽約370万円以上は4万4400円。現行制度で助成を受けている患者については、おおむね3年の経過措置を設ける。
 新制度では、医療費助成の対象を現行の56疾患から300疾患に拡大する一方、重症者らに限定する方針。今回の案は社会生活に支障がある人に加え、高額な医療を受けることで軽症の状態を維持できている患者も医療費助成の対象とした。
 また、現行では訪問看護を全額無料にするなど優遇措置がある介護保険に関しても、負担を求めるかなどを検討する。【桐野耕一】
(以上毎日新聞記事引用)


記事B;
<記者会見のお知らせー:会見者:「タニマーによる制度の谷間をなくす会」代表 大野更紗 他>

日時:2013年10月29日(火)午後3時30分
場所:「厚生労働記者クラブ」

内容:

難病をもつ患者の生活が、危機にさらされつつあります。国の難病対策を議論する場である第33回難病対策委員会が10月18日(金)に開催され、「難病に係る新たな医療費助成の制度案」が提示されました。

「新たな医療費助成の制度案」は、難病患者にとって致命的な重い負担です。
年収370万円以上の世帯の自己負担額は、月額44,400円。年間の自己負担額は、1人の患者につき、医療費の窓口負担だけで年間約53万2800円にものぼることになります。年収370万円の世帯の、可処分所得にしめる医療費自己負担額の割合は、約18%にもなります(*現行制度は約3.8%程度)。

このきわめて重い負担水準が、生きている間、生涯続くことになるのです。
現行制度下でも、家族に経済的に依存しながら「ぎりぎりの生活」を維持している患者がほとんどです。医療費以外にも毎日の療養にかかる費用、入院時の差額ベッド代や移動交通費等を自己負担しています。特に、先天性や若年期に難病を発症した患者は、経済的負担が生涯にわたるにもかかわらず、民間の医療保険に加入することもできません。難病への社会支援も未整備のままです。

新制度案は「難病の子ども」「働く若年の患者」にとって、重すぎる負荷です。現行制度下でかろうじて就労を継続している患者の負担額が重くなるため「難病患者の社会参加を支援し、難病にかかっても地域で尊厳を持って生きられる共生社会の実現を目指す」という難病対策の改革の基本理念とは、逆行します。難病をもちながら就学・就労しようと願い、日々病とともに必死で生きている患者の「生きる権利」すらも、奪うことになります。

「新たな医療費助成の制度案」が現実のものとなれば、経済的理由から生命維持に必要な受診を抑制する人や、医療費の重い負担に耐えかねて心中や自殺を考える人が続出するのではないかという懸念をもっています。私たちは「このままでは、難病の人は、生きていけない」という声をあげることに致しました

状況は非常に深刻です。是非、皆様に取材をしていただけますように、お願い申し上げます。



* さらに、生活保護法改正案が国会に提出された。
この法案に反対する共同声明文を貼りつける;
 
<生活保護法の改悪に反対する研究者の共同声明10.24発表>

政府は、先の国会で廃案となった生活保護法改正案が今国会に提出された。この法案は、不正受給を防ぐためと称し、第1に、生活保護申請時に所定の申請書と資産・収入・扶養の状況などに関する書類の提出を義務づけると共に、第2に、親族の扶養義務を生活保護の事実上の前提要件としている。これは自由で民主的な社会の基盤であるセーフティーネットとしての生活保護を脅かすものであって、私たちはけっして許すことはできない。

第1の問題点については、悪名高い「水際作戦」による門前払いを合法化するものだとの指摘を受けて、先の国会では「特別の事情があるときはこの限りではない」と修正された。しかし、「特別の事情」を判断するのはこれまで「水際作戦」を進めてきたような行政の窓口である。政府は「運用はこれまで通り」「申請の意思があれば受理しなければならない」とし、「門前払いにならないように各自治体に通知する」と言っている。だが、「特別の事情があるときはこの限りではない」と認めたとしても、書類提出が原則となれば、申請にたいする門前払いが横行するのは目に見えている。

「運用はこれまで通り」であるならば、口頭申請も可能であることが法文に明記されるべきである。そもそも、このようは書類の提出は申請の後で済むことであり、裁判判例も申請は口頭でよいことを認めている。ギリギリの生活を迫られている人たちには、保護申請すること自体を簡素化し容易にすることこそが切実に求められる。これはまた、第50会期国連社会権規約委員会も我が国に対して勧告していることである。

第2の問題点については、まったく修正されていない。親族への通知を義務付ける条文や、親族の収入や資産の状況の報告を親族本人はもとより金融機関や雇い主などにも求めるという条文が新設されている。親族関係は多様である。夫への通知・調査を怖れるDV被害者だけでなく、親族に「迷惑がかかる」ことから申請をためらう人は現在でも少なくない。法改正によって、一層多くの人が親族に迷惑をかけたくないという理由から生活保護の利用を断念することになる。親族に「共助」を厳しく求めることは国の責任転嫁に他ならない。

この他にも、法案は、ジェネリック医薬品の使用義務づけ、保護受給者の生活上の責務、保護金品からの不正受給徴収金の徴収を定めている。保護受給と引き換えに生活困窮者にこのような責務を課すことは、性悪説に立って保護受給者を貶め、その尊厳を著しく傷つけるものである。

以上、この改正案は全体として生活保護を権利ではなく「恩恵」「施し」として生活困窮者とその親族に恥と屈辱感を与え、劣等者の烙印を押し、社会的に分断排除するものといわねばならない。

生活困窮者は少数であり、常に声を上げにくい当事者である。しかし、セーフティーネットは、現に生活に困窮している人々を救うためだけの制度ではない。それは自由な社会のなかで生きる人々が、様々なリスクを抱えつつも、幸福な暮らしを安心して追求していくことができるための必須の条件である。セーフティーネットを切り縮めることは、自由で民主的な社会の基盤を掘り崩すものといわざるを得ない。これは生活困窮者だけの問題ではなく総ての人々の生存権に対する深刻な攻撃である

このような問題点をもつ生活保護法改正に私たちは強く反対するものである。

以上、声明する。

(10月24日12時現在 賛同者1085名)