気ままにフィギュアスケート!

男子シングルが好きです。

氷の国の物語 8 (イラスト付き)

2010-01-26 23:51:03 | 氷の国の物語
毎度、遅くなってごめんなさい。(汗)

<氷の国の物語 8>

それより幾分か前のこと。城でkumは落ち着かない気持ちで過ごしていた。kumだけではない。城中の人々が試練に旅立った王子たちのことを気に掛け、落ち着きがなかった。
城の窓から王子が向かった北にそびえる雪に覆われた山を時折見ては、何とか仕事をこなしていたが、昼前にkumは胸に軽い衝撃を受けてdai王子の部屋の片づけをしていた手を止めた。思わず両手を胸に置いたが、自分の体ではなくdaiの身に何かあったのだとすぐにわかった。王子の心に何か悪い魔法のようなものの気配が忍び寄っている。それ以上のことはわからなかった。kumは残りの仕事を母親に任せて部屋を出た。
魔法のことは魔法使いに相談するのが一番だ。kumはdai王子が新たに相談役として迎えた二人の魔法使いを訪れた。ところが魔法使いたちは眠らされていた。魔法使いまでが魔法を掛けられている姿を見たのは衝撃だった。
もう猶予はなかった。kumは弟に馬の用意を頼むと、手早く必要なものをまとめた。その間に胸に伝わってくる王子の苦痛が、魔法の気配から底なしの絶望感に変わっていき、kumを焦らせた。しかし、馬屋への道を遮るかのようにsiz姫が現れた。
「kum、どこへ行くの?王子を助けたら、失格になるとわかっているわね?」
「siz姫様、お許しくださいませ。dai王子は窮地に陥ってらっしゃいます。悪い魔法の気配がいたします。このままでは試練を全うできません。」
「それはそなたに流れる妖精の血が教えるのか」
siz姫は射るような視線を投げ掛けたが、kumは怯まなかった。
「私は行かなくてはなりません。試練を続けられないならば、王子をお助けいたします。試練が続けられるのであれば、王子をただ見守ります。見守るだけでも変わるものがあると思うからです。助けるのではなく、見守るだけでもいけないのでしょうか?手をこまねいていては駄目になるとわかっているものを、可能性に賭けて試してはならないのでしょうか?」
しばらくの間siz姫は考えていたが、やがて美しい形の唇を開いた。
「癒しのkum、そなたは特別な力を持っている。そなたを信じることにしましょう。雪の中で慣れない馬は危険です。私の橇を使いなさい」
小雪が舞う中をkumはsiz姫の二頭立ての橇で出発した。行きは迷う心配がなかった。胸に伝わってくるdai王子の心の痛みが、引力となって導いてくれるのだから。kumはただ胸の痛みが指すほうへと馬を御せばよかった。それにはkumのdaiに対する想いの甘い痛みも、幾分か混じっているようだった。

地の割れ目の底に王子を見つけ、kumは呼び掛けた。
「dai王子、お怪我は?」
「いや、大丈夫だ。kum、よくここまで来てくれた。縄があれば下ろしてくれ。馬で来たのだろう?馬に引かせれば私を引き上げられるはずだ」
「siz姫様の貸してくださった橇で参りましたが」
「橇か、それはいい。馬が逃げた。私も乗せて行ってもらえるな」
「いいえ、なりませぬ」
kumは自分でも思わぬ声の調子の強さに驚いた。daiはあっけにとられて見上げている。それはどことなく少年の日のdaiの表情を思わせた。
「dai王子、縄はございますが私がお助けしたら、王子は失格となります。私はここで王子がご自分で上ってらっしゃるのをお待ちしております」
「kum、わかるだろう?nikが魔法で私をここに落としたのだ。助けてもらってもいいかもしれないではないか。それでも失格を怖れて私を助けられないのなら、せめてそなたの力で私の心を癒してくれ。そうすれば上る力が湧くかもしれない」
「それもできません。王子、確かにこの穴はnikが魔法で作ったものなのでしょう。でも人の心に魔法を掛け続けることはできないのですよ。あなたの心に魔法を掛けて、この穴から出られなくしているのはあなた自身なのです。ご自分で掛けた魔法なら、ご自分で何とかしてください。」
王子はうなだれた。そんなdaiに幼い頃の面影を見て、kumは続けた。
「dai王子、思い出して。王を目指して努力し続けていた日々のことを。あなたはご自分が王の有力候補として成長したのをnikの力だと思い込んでいます。でもそれは元々あなた自身の内側に眠っていた力なのですよ。dai王子、自分を信じて。これまであなたが生きてきた日々に積み重ねてきたものを信じて」
daiは顔を上げると、初めて微かに笑顔を見せた。
「kum、わかった。必ず行く。だから橇で待っていてくれ」

kumは割れ目の近くに止めてあった橇に戻り、幌の中に入った。助けるしかない状況であれば、助けるつもりで思い付く限りの用意はしてあった。食べ物に飲み物、薬に包帯、縄に毛布、手斧に小振りの剣、そして王子の着替え一式。あの状況のdaiを助けることはとても簡単だった。
しかし、穴に落ちているとはいえ、思っていたよりも王子は元気そうだった。自分に会っただけで、彼の心の苦痛が少し軽くなったことにkumは気付いていた。励ますことも助けるうちに入るのだろうか?分からなかったが、失格にならない可能性があってできることはそれだけだった。
穴はそれほど深いわけではない。心さえ平静を取り戻せば、この状況ならば彼ならきっと自力で切り抜けることができる。dai王子は王になるはずの人なのだから。

daiは自分が恥ずかしかった。体が弱っていたとはいえ、なぜあんなにも簡単に諦めてしまっていたのだろう。kumの言葉はそれに気付かせてくれた。kumは今でも自分を信じてくれている。女の身で雪の中を危険を冒して駆け付けてくれた彼女に、是が非でも応えたいと思った。近くで待ってくれている人がいる。きっと彼女も心の中で戦ってくれているのだろう。それはdaiに力と勇気を与えた。
剣を拾い上げた。先程は自らを追い詰めかけた剣だが、今はこれが脱出するための唯一の道具だ。体力はかなり落ちているが、体の痛みはだいぶ治まっている。
下が固い地面ならば、剣を地面に突き刺して、それを踏み台にして飛び上がることもできたかもしれなかったが、下が雪ではそれはできなかった。尤も、体力があるときでもこの高さではぎりぎり成功するかどうかだが。
雪を掘り出して穴の片側に積み重ねて階段にするのは、雪の量からして無理そうだった。他に方法がなければ試してみてもよいが。
daiは剣を胸の高さで横にして構え、氷の壁に突き刺した。氷の壁に刻み目を入れて、それを足がかりにして上ることを思いついたのだ。壁の上のほうに刻み目を入れるのは難しそうなので、この方法でうまくいくかはわからない。だが思いついたことはやってみるしかなかった。
剣を突き刺すたびに、氷のかけらが飛び散った。数度氷の壁に突き刺したところで、剣が動かなくなった。氷の奥の岩の割れ目に差し込まれてしまったらしい。daiは力任せに引き抜こうとしたが、ふと気付いた。これを足場にすればよいのだ。
反対側の壁ぎりぎりまで下がってから、勢いを付けて剣の柄の上に跳び上がる。そのまま剣のしなりも利用して高く上がり、割れ目の縁に何とか両腕を掛けた。堅く締まった雪に指を食い込ませ、片足を引き上げる。そしてさらにもう片足を。
力尽き果て雪の上で荒い呼吸を繰り返しながら横たわるdaiの傍らには、kumが立っていた。胸の前で両手を組み、涙を溜めた瞳で見つめている。daiと目が合って、微笑んだかと思うと、初めて涙がこぼれ落ちた。
起き上がりながら、daiは橇馬の横に荷物を付けた自分の馬の姿を認めた。
「先程の私たちの話し声を聞いて、やってきたようです」
涙を指先で払って、笑顔でkumが説明した。
「さあ、早くお城へ。まだ十分間に合います。私は後から参りますから」
daiは馬に歩み寄り、軽く撫でてやった。
「kum、ありがとう。いつかきっとこの恩に報いるから」
「私はあなたが素晴らしい王になってくだされば、それでいいのです」
daiは馬に飛び乗った。空が暗くなりかけていた。

「馬にまたがって城に戻るdai王子」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

dai王子は夜になってから城に着いた。そして知らされたのは、nar王子が日暮れ前に城に到着したことと、それと同じ頃tak王子がのろし玉を使ったことだった。
tak王子は帰路に休息を取っている最中に、倒れてきた樹にはさまれて身動き取れなくなったのだという。ただ助け出された王子は大きな怪我はしておらず、元気そうだという。
kumはdai王子にしばらく遅れて城に着いた。暗くなってはいても、dai王子のいる場所を目指している限り、彼女が迷う心配はなかった。
dai王子とnar王子が二日後に第三の試練を受けるという知らせがあった。   <つづく>

やっと第二の試練が終わりました。手短に書けない自分がイヤになります。