お話の続きです。まだまだ続きます。
<氷の国の物語 2>
城の広間では王の一族が集まり、食事をとっていた。
長い食卓の上座には王が。その右手の席にはdai王子、そしてtak王子がまず並ぶ。左手の席には王の娘nor姫とその息子nar王子。
それ以外の席には他の王子や王女たち、その母親である亡くなった王の息子の妃たちが座っていた。
nor姫が真向かいの席に座るdai王子に声を掛ける。
「dai王子、今日は機織りの家に行ってらしたとか。よほど王のマントにご執心ね」
高齢で耳の遠い王には聞こえないほどの声だ。dai王子はナイフとフォークを持っていた手を止め、口元をナプキンでぬぐうと、nor姫にゆったりと微笑みかけた。
「私の乳母の家であり、今も乳兄弟が住む家ですから。叔母上は私の行動を全てお見通しだ。一体どんな魔法を使えば、何から何までわかるのです?」
「何かと知らせてくれる者があるのですよ」
nor姫は表情を変えず、ただ視線を逸らせて話を終わらせようとした。王の皿とグラスを見て、給仕に指示を与え始める。
ただ一人残った王の子として、また王妃亡きあと王の身辺の世話にも目を光らせることで、nor姫は宮殿で絶大な権力を誇っていた。そんな彼女が自分の息子に王座を継がせたいのは当然のことだろう。この国の法では、王の位を継ぐ権利は男系女系関係なく、王の血を引いた男子全てにある。
dai王子はそんなことを思いながら、再び皿の肉を口に運んだ。すると食卓の下で軽く足を蹴ってくる者がいる。隣の席を見ると、tak王子がにやりと笑いウインクしてきた。他の王子や王女には厳格でありながら、自分の子供達には甘い叔母には、お互い幼い頃から苦労してきたのだ。
daiもにやりと笑い返し、takの足を蹴り返した。同じ玉座を争うことになるライバルとはいえ、同じ立場のtakが隣にいてくれるのは心強かった。
そしてtak王子の向かいの席で、何も気付かないのか、それとも気付かない振りをしているのか、一心に食べているnar王子を見た。
悪い奴ではないのだ。時々周囲が見えなくなり場違いな行動を取ってしまうことがあるが、本人に悪気はない。ただ母親であるnor姫と、彼の教育係の魔法使いとが問題なのだ。今回自分の行動を監視したのもあの魔法使いだろう。
takの気遣いで一瞬軽くなった心が、再び重くなった。
食事を終えて広間を出て行くdai王子は、廊下で視線を感じた。魔法使いnikだ。痛いほどの視線を感じたまま、daiは誇り高く頭を上げ、そ知らぬ振りで自分の部屋へと歩んで行く。
nikは初めはdaiの姉、siz姫の教育係だった。sizが美しいだけでなく教養高い姫に育ったことを買われ、その後nikはdaiの教育係になった。王子の教育係の魔法使いは、普通王子が成人したのちも相談役となり、政務を助ける。つまりその王子が王となった場合は、王の相談役の大魔法使いとして、国をも動かす力を持つことになるのだ。
王子の教育係は魔法使いたちの手っ取り早い出世の道だった。自分が仕えた王子が王になることをどの魔法使いも望んでいた。
daiは自分の教育係のnikが好きだった。王子として必要な知識や教養を授けてくれただけでなく、自分が王にふさわしいのかと自信が持てなかったのが、自信を付けてくれ王を目指すために具体的な指針を与えてくれたのもnikだった。
nikと過ごす日々を経て、daiはいかなるときも王子らしく堂々と振る舞えるように成長していった。だからdaiはnikはこのまま自分と歩み、将来は国を治めるのを手伝ってくれるのだと思っていた。
だがそんなとき、nar王子がちょっとした不注意から王の不興をこうむった。慌てたnor姫は切れ者と名高いnikに、nar王子の教育係になって、nar王子を王にふさわしい者に育ててくれと頼み込んだ。
普通、一人の魔法使いは二人の王子の教育を任されたりはしない。王子同士はライバル関係にあるので、利害が衝突してしまうからだ。
だが野心家であり、自信家でもあるnikは、nar王子の教育をも引き受けた。表向きはdai王子の教育係だが、裏でnar王子の指導をも始めたのだ。恐らくdaiではなくnarのほうが玉座に就いたときの、身の振り方を考えてしたことだろう。
しかしあるときそれが露見し、daiは苦しんだあげく、とうとうnikを自分の教育係から外した。
正式にnarの教育係になった今でも、nikはそれを根に持っている。どんな手を使ってでもnarを王にしようとしてくるのではないか。相手が魔法使いであるだけに一層不気味だった。
それは一年半ほど前に起こったこと。そしてその後しばらくして、それまで大きな怪我知らずだったdai王子は落馬して右足の骨を折った。魔法使いnikが呪いを掛けたなどと言う者もあったが、daiは虚ろになった自分の心が招いた事故だったと思っている。
足は今ではほぼ元通り。この足の怪我を治してくれたのは、もう一人の姉とも慕う「癒しのkum」だったと、自室でdaiは自分の右足の古傷をそっと撫でた。あのときは足の怪我が癒えるに従って、いつしかnikに付けられた心の傷も癒えていった。
母上に姉上、kumの母である今も仕えてくれている乳母、kumと弟、二人の乳兄弟。nikが去ったあと相談役として新しく迎えた才能ある魔法使いたち。自分はたくさんの人に支えられている。
daiは王を目指す気持ちに変わりはなく、どんな困難をも乗り越えていく決心を持っているかと、改めて自分に問うた。
dai王子は優しいと、皆によく言われる。しかし自分では優しい心は弱さに繋がるのではないかと思ってしまう。そうかといって心の痛みを切り捨ててまで、強さに徹することもできない。
優しさと強さは相反するものだろうか、王にふさわしいのはどんな心持ちなのだろうか、優しさを内包しながら王にふさわしい強さを持てたなら・・・そんなことを思いながら、daiは寝台で眠りについた。 <つづく>
ここまででやっと状況説明のプロローグは終わりです。王様選びの本編は明日以降書きますね。
どの程度の長さになるのか、自分でも見当付きません。(汗)
<氷の国の物語 2>
城の広間では王の一族が集まり、食事をとっていた。
長い食卓の上座には王が。その右手の席にはdai王子、そしてtak王子がまず並ぶ。左手の席には王の娘nor姫とその息子nar王子。
それ以外の席には他の王子や王女たち、その母親である亡くなった王の息子の妃たちが座っていた。
nor姫が真向かいの席に座るdai王子に声を掛ける。
「dai王子、今日は機織りの家に行ってらしたとか。よほど王のマントにご執心ね」
高齢で耳の遠い王には聞こえないほどの声だ。dai王子はナイフとフォークを持っていた手を止め、口元をナプキンでぬぐうと、nor姫にゆったりと微笑みかけた。
「私の乳母の家であり、今も乳兄弟が住む家ですから。叔母上は私の行動を全てお見通しだ。一体どんな魔法を使えば、何から何までわかるのです?」
「何かと知らせてくれる者があるのですよ」
nor姫は表情を変えず、ただ視線を逸らせて話を終わらせようとした。王の皿とグラスを見て、給仕に指示を与え始める。
ただ一人残った王の子として、また王妃亡きあと王の身辺の世話にも目を光らせることで、nor姫は宮殿で絶大な権力を誇っていた。そんな彼女が自分の息子に王座を継がせたいのは当然のことだろう。この国の法では、王の位を継ぐ権利は男系女系関係なく、王の血を引いた男子全てにある。
dai王子はそんなことを思いながら、再び皿の肉を口に運んだ。すると食卓の下で軽く足を蹴ってくる者がいる。隣の席を見ると、tak王子がにやりと笑いウインクしてきた。他の王子や王女には厳格でありながら、自分の子供達には甘い叔母には、お互い幼い頃から苦労してきたのだ。
daiもにやりと笑い返し、takの足を蹴り返した。同じ玉座を争うことになるライバルとはいえ、同じ立場のtakが隣にいてくれるのは心強かった。
そしてtak王子の向かいの席で、何も気付かないのか、それとも気付かない振りをしているのか、一心に食べているnar王子を見た。
悪い奴ではないのだ。時々周囲が見えなくなり場違いな行動を取ってしまうことがあるが、本人に悪気はない。ただ母親であるnor姫と、彼の教育係の魔法使いとが問題なのだ。今回自分の行動を監視したのもあの魔法使いだろう。
takの気遣いで一瞬軽くなった心が、再び重くなった。
食事を終えて広間を出て行くdai王子は、廊下で視線を感じた。魔法使いnikだ。痛いほどの視線を感じたまま、daiは誇り高く頭を上げ、そ知らぬ振りで自分の部屋へと歩んで行く。
nikは初めはdaiの姉、siz姫の教育係だった。sizが美しいだけでなく教養高い姫に育ったことを買われ、その後nikはdaiの教育係になった。王子の教育係の魔法使いは、普通王子が成人したのちも相談役となり、政務を助ける。つまりその王子が王となった場合は、王の相談役の大魔法使いとして、国をも動かす力を持つことになるのだ。
王子の教育係は魔法使いたちの手っ取り早い出世の道だった。自分が仕えた王子が王になることをどの魔法使いも望んでいた。
daiは自分の教育係のnikが好きだった。王子として必要な知識や教養を授けてくれただけでなく、自分が王にふさわしいのかと自信が持てなかったのが、自信を付けてくれ王を目指すために具体的な指針を与えてくれたのもnikだった。
nikと過ごす日々を経て、daiはいかなるときも王子らしく堂々と振る舞えるように成長していった。だからdaiはnikはこのまま自分と歩み、将来は国を治めるのを手伝ってくれるのだと思っていた。
だがそんなとき、nar王子がちょっとした不注意から王の不興をこうむった。慌てたnor姫は切れ者と名高いnikに、nar王子の教育係になって、nar王子を王にふさわしい者に育ててくれと頼み込んだ。
普通、一人の魔法使いは二人の王子の教育を任されたりはしない。王子同士はライバル関係にあるので、利害が衝突してしまうからだ。
だが野心家であり、自信家でもあるnikは、nar王子の教育をも引き受けた。表向きはdai王子の教育係だが、裏でnar王子の指導をも始めたのだ。恐らくdaiではなくnarのほうが玉座に就いたときの、身の振り方を考えてしたことだろう。
しかしあるときそれが露見し、daiは苦しんだあげく、とうとうnikを自分の教育係から外した。
正式にnarの教育係になった今でも、nikはそれを根に持っている。どんな手を使ってでもnarを王にしようとしてくるのではないか。相手が魔法使いであるだけに一層不気味だった。
それは一年半ほど前に起こったこと。そしてその後しばらくして、それまで大きな怪我知らずだったdai王子は落馬して右足の骨を折った。魔法使いnikが呪いを掛けたなどと言う者もあったが、daiは虚ろになった自分の心が招いた事故だったと思っている。
足は今ではほぼ元通り。この足の怪我を治してくれたのは、もう一人の姉とも慕う「癒しのkum」だったと、自室でdaiは自分の右足の古傷をそっと撫でた。あのときは足の怪我が癒えるに従って、いつしかnikに付けられた心の傷も癒えていった。
母上に姉上、kumの母である今も仕えてくれている乳母、kumと弟、二人の乳兄弟。nikが去ったあと相談役として新しく迎えた才能ある魔法使いたち。自分はたくさんの人に支えられている。
daiは王を目指す気持ちに変わりはなく、どんな困難をも乗り越えていく決心を持っているかと、改めて自分に問うた。
dai王子は優しいと、皆によく言われる。しかし自分では優しい心は弱さに繋がるのではないかと思ってしまう。そうかといって心の痛みを切り捨ててまで、強さに徹することもできない。
優しさと強さは相反するものだろうか、王にふさわしいのはどんな心持ちなのだろうか、優しさを内包しながら王にふさわしい強さを持てたなら・・・そんなことを思いながら、daiは寝台で眠りについた。 <つづく>
ここまででやっと状況説明のプロローグは終わりです。王様選びの本編は明日以降書きますね。
どの程度の長さになるのか、自分でも見当付きません。(汗)