気ままにフィギュアスケート!

男子シングルが好きです。

氷の国の物語 2

2010-01-10 00:16:01 | 氷の国の物語
お話の続きです。まだまだ続きます。

<氷の国の物語 2>

城の広間では王の一族が集まり、食事をとっていた。
長い食卓の上座には王が。その右手の席にはdai王子、そしてtak王子がまず並ぶ。左手の席には王の娘nor姫とその息子nar王子。
それ以外の席には他の王子や王女たち、その母親である亡くなった王の息子の妃たちが座っていた。

nor姫が真向かいの席に座るdai王子に声を掛ける。
「dai王子、今日は機織りの家に行ってらしたとか。よほど王のマントにご執心ね」
高齢で耳の遠い王には聞こえないほどの声だ。dai王子はナイフとフォークを持っていた手を止め、口元をナプキンでぬぐうと、nor姫にゆったりと微笑みかけた。
「私の乳母の家であり、今も乳兄弟が住む家ですから。叔母上は私の行動を全てお見通しだ。一体どんな魔法を使えば、何から何までわかるのです?」
「何かと知らせてくれる者があるのですよ」
nor姫は表情を変えず、ただ視線を逸らせて話を終わらせようとした。王の皿とグラスを見て、給仕に指示を与え始める。
ただ一人残った王の子として、また王妃亡きあと王の身辺の世話にも目を光らせることで、nor姫は宮殿で絶大な権力を誇っていた。そんな彼女が自分の息子に王座を継がせたいのは当然のことだろう。この国の法では、王の位を継ぐ権利は男系女系関係なく、王の血を引いた男子全てにある。

dai王子はそんなことを思いながら、再び皿の肉を口に運んだ。すると食卓の下で軽く足を蹴ってくる者がいる。隣の席を見ると、tak王子がにやりと笑いウインクしてきた。他の王子や王女には厳格でありながら、自分の子供達には甘い叔母には、お互い幼い頃から苦労してきたのだ。
daiもにやりと笑い返し、takの足を蹴り返した。同じ玉座を争うことになるライバルとはいえ、同じ立場のtakが隣にいてくれるのは心強かった。
そしてtak王子の向かいの席で、何も気付かないのか、それとも気付かない振りをしているのか、一心に食べているnar王子を見た。
悪い奴ではないのだ。時々周囲が見えなくなり場違いな行動を取ってしまうことがあるが、本人に悪気はない。ただ母親であるnor姫と、彼の教育係の魔法使いとが問題なのだ。今回自分の行動を監視したのもあの魔法使いだろう。
takの気遣いで一瞬軽くなった心が、再び重くなった。

食事を終えて広間を出て行くdai王子は、廊下で視線を感じた。魔法使いnikだ。痛いほどの視線を感じたまま、daiは誇り高く頭を上げ、そ知らぬ振りで自分の部屋へと歩んで行く。
nikは初めはdaiの姉、siz姫の教育係だった。sizが美しいだけでなく教養高い姫に育ったことを買われ、その後nikはdaiの教育係になった。王子の教育係の魔法使いは、普通王子が成人したのちも相談役となり、政務を助ける。つまりその王子が王となった場合は、王の相談役の大魔法使いとして、国をも動かす力を持つことになるのだ。
王子の教育係は魔法使いたちの手っ取り早い出世の道だった。自分が仕えた王子が王になることをどの魔法使いも望んでいた。

daiは自分の教育係のnikが好きだった。王子として必要な知識や教養を授けてくれただけでなく、自分が王にふさわしいのかと自信が持てなかったのが、自信を付けてくれ王を目指すために具体的な指針を与えてくれたのもnikだった。
nikと過ごす日々を経て、daiはいかなるときも王子らしく堂々と振る舞えるように成長していった。だからdaiはnikはこのまま自分と歩み、将来は国を治めるのを手伝ってくれるのだと思っていた。
だがそんなとき、nar王子がちょっとした不注意から王の不興をこうむった。慌てたnor姫は切れ者と名高いnikに、nar王子の教育係になって、nar王子を王にふさわしい者に育ててくれと頼み込んだ。
普通、一人の魔法使いは二人の王子の教育を任されたりはしない。王子同士はライバル関係にあるので、利害が衝突してしまうからだ。
だが野心家であり、自信家でもあるnikは、nar王子の教育をも引き受けた。表向きはdai王子の教育係だが、裏でnar王子の指導をも始めたのだ。恐らくdaiではなくnarのほうが玉座に就いたときの、身の振り方を考えてしたことだろう。
しかしあるときそれが露見し、daiは苦しんだあげく、とうとうnikを自分の教育係から外した。
正式にnarの教育係になった今でも、nikはそれを根に持っている。どんな手を使ってでもnarを王にしようとしてくるのではないか。相手が魔法使いであるだけに一層不気味だった。

それは一年半ほど前に起こったこと。そしてその後しばらくして、それまで大きな怪我知らずだったdai王子は落馬して右足の骨を折った。魔法使いnikが呪いを掛けたなどと言う者もあったが、daiは虚ろになった自分の心が招いた事故だったと思っている。
足は今ではほぼ元通り。この足の怪我を治してくれたのは、もう一人の姉とも慕う「癒しのkum」だったと、自室でdaiは自分の右足の古傷をそっと撫でた。あのときは足の怪我が癒えるに従って、いつしかnikに付けられた心の傷も癒えていった。
母上に姉上、kumの母である今も仕えてくれている乳母、kumと弟、二人の乳兄弟。nikが去ったあと相談役として新しく迎えた才能ある魔法使いたち。自分はたくさんの人に支えられている。
daiは王を目指す気持ちに変わりはなく、どんな困難をも乗り越えていく決心を持っているかと、改めて自分に問うた。
dai王子は優しいと、皆によく言われる。しかし自分では優しい心は弱さに繋がるのではないかと思ってしまう。そうかといって心の痛みを切り捨ててまで、強さに徹することもできない。
優しさと強さは相反するものだろうか、王にふさわしいのはどんな心持ちなのだろうか、優しさを内包しながら王にふさわしい強さを持てたなら・・・そんなことを思いながら、daiは寝台で眠りについた。   <つづく>

ここまででやっと状況説明のプロローグは終わりです。王様選びの本編は明日以降書きますね。
どの程度の長さになるのか、自分でも見当付きません。(汗)

氷の国の物語 1 (イラスト付き)

2010-01-10 00:02:58 | 氷の国の物語
今日はkumさんのお誕生日です。
kumさん、お誕生日、おめでとうございます!
(kumさん、皆様、ごめんなさい!kumさんのお誕生日は11日でした。)

このブログを始めた頃にしていた、お誕生日のお祝い企画を一時的に復活させました。
kumさん、長らく2年間もお待たせしました。
しかもkumさんのリクエストとは懸け離れたとんでもないものになりましたが、お祝いの気持ちだけでも受け取ってくださいね!
ちなみにkumさんからのリクエストはファンタジーみたいな感じとのこと。他にも色々とありましたが、ネタばれになるので書きません。

登場人物は実在の人物とは何の関係もありません。書いているうちにかなり悪ノリしちゃいましたが。誕生日限定のお遊び企画なので、内容に目くじら立てないでくださいね。

<氷の国の物語 1>

遠い遠い昔、魔法がまだこの世に息づいていた頃、一年の半分を雪と氷に閉ざされた北の果ての国に一人の娘がいた。
娘は太古からの一族、妖精の血を引いていて不思議な力を持っていた。人の痛みや苦しみを敏感に感じ取り、それを癒す能力。人々は彼女を「癒しのkum」と呼んでいた。
また素晴らしい織り手でもあり、今も城から頼まれた次の国王に贈られるマントを織っていた。彼女はこのマントに、次の国王の健康と安全の祈りを込めていた。いにしえの善き魔法を織り込めたそのマントは、新しい王の体と魂を守り、ひいては国をも守るはず。
ただマントを織る彼女の胸の内には、常に一人の王子の面影があった。マントを受け取るのはどの王子なのか、今はまだわからない。彼女は機織りをしている間だけでも自分の胸に棲む王子を打ち消そうとしたが、うまくいったためしはなかった。
戴冠式はひとつき先の予定。しかしいまだに次の国王は決まっていなかった。

年老いたこの国の王には、三人の息子と一人の娘がいた。しかし列強諸国に取り囲まれたこの小さい国には戦が絶えず、息子達は皆戦死した。王は自らも戦の古傷が痛み軋みを上げる体で、髪も髭も雪のように白くなるまで国の手綱を取り続け命を削った。しかしそれもあとごくわずかな間のこと。
孫の王子達は健やかに成長し、国の行く末を託せる日は近い。あとは六人の王子のうち、誰を王に選ぶかだけだった。
小さなこの国では、真に王にふさわしい者が位につかなければ、すぐに隣国に滅ぼされてしまうであろう。
これからのひとつきで王は選ばれるはずだった。試練を乗り越えた者が王となり、他の王子達は臣下として王に仕え、皆でこの国を守っていくのだ。
六人の王子のうち、一際抜きん出ていて次の王だと目されている者は、次の三人だった。
年の順に、王の長男の息子、dai王子。一つ年下の王の娘の息子、nar王子。さらに二つ年を開けて王の次男の息子、tak王子。
他の三人の王子達は、まだ幼すぎるか、年がいってはいても凡庸であるかで、この三人に勝てる見込みはなかった。

ふと人の気配を感じて、kumは織る手を止めた。
「まあ、dai王子、こんなところへ来てはいけません」
「どうして、kum?私にとっては自分の家と同じようなものなのに。マントが見たかったんだ」
快活な笑顔でdai王子が戸口に立っていた。

「糸をつぐむkumとdai王子」 by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

kumの母はdai王子の乳母だった。kumの弟が生まれてしばらくして、母は王子の乳母として召された。妖精の血を引く女の乳を飲んだ子は、強く育つといわれている。それがkumの母が乳母に選ばれた訳だった。
自分もいつか王子が妃を娶り赤子が生まれたときに、城に召されることがあるのだろうか。kumはぼんやりとそんなことを考えたが実感は湧かず、ただ微かに胸の痛みだけを覚えた。
小さな国の王宮にいかめしい堅苦しさはなく、kumと弟は幼い頃dai王子ときょうだいのように遊び共に育った。kumと弟が城に招かれたり、またkumの家に王子が滞在することもあった。
そんなふうに王子と育ったからなのかはわからないが、kumの人の苦痛を感じ癒す能力は、daiに対するとき一層力を増した。家族や友人に対するよりもずっと。だがそれをkumは自分の胸だけに秘めていて、dai本人にも告げなかった。

dai王子は食い入るように織りかけのマントを見つめていた。笑顔は消え、瞳には思い詰めたような真剣さがあった。
秀でた額にはらりとかかった前髪とその下の横顔の線の美しさについ見とれ、そんな自分に気付かれる前にkumは声を掛けた。
「お手に取ってくださってもよろしいのですよ」
はっとしたように王子は顔を上げ、笑顔を作ってkumを見つめた。
「いや、やめておこう。私のものと決まったわけじゃない」
「あなた以外に王にふさわしい人はいないわ」
「それはわからないな。narは素晴らしい剣の使い手だし、takは若いが落ち着きと知恵がある」
従弟達のことをそう評してから、一旦言葉を切って髪をかき上げた。

dai王子は服装は派手好みで、髪型もよく変えた。そんなところが誤解を生み、かつては王にふさわしくないと言う者もいた。
だがkumは知っていた。一見柔和で気さくな王子が、実は誰よりもこの国を愛し、将来を憂いていることを。そして堅い意思と信念を持ち、この一国がすっぽりと入るほど大きく広い心の持ち主であることを。
若い頃は王子という地位に対して自信がなさげで頼りなげなところもあったが、成長と共に立ち居振る舞いに落ち着きと内実が伴い、今では重臣からも民衆からも幅広い支持を集めていた。

「だが、私は誰にも王座を譲る気はない。王になって私はしたいことがある。そのために試練に打ち勝たなければ」
最後のほうは自分に言い聞かせるようにつぶやき、王子は帰って行った。
戸口から馬に乗った王子の姿が見えなくなるまで見送ると、kumは部屋に戻ってまたマントを織り出した。王子のあの様子では心配はなさそうだ。ただ、気がかりはまだ残っていた。  <つづく>

kumさん、ごめんなさい!書いているうちに話がファンタジーからパロディになってとんでもない方向に行き、しかもものすごく長くなりました。連載ものになります。(爆)
あらすじは単純で結末はもうわかるだろうけど、細部の描写をしているとおもしろくって~。(笑)そのうち萌えシーンとかも書きたいな。(爆)
皆さ~ん、kumさんからのリクエストはこんな変なのじゃなくて、もっとまともでしたからね。私の趣味で変な方向に走っているだけです。

わざわざ書くのも変ですが、この作品の著作権はwalにあり、無断転載・使用を禁じます。