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男子シングルが好きです。

氷の国の物語 6

2010-01-19 22:54:44 | 氷の国の物語
書くのが遅くてごめんなさい。ちっとも進みません。

<氷の国の物語 6>

第二の試練は早朝に始まった。前日のうちに旅装を調えた王子たちは、馬にまたがり王宮から北の山の中腹にある夏の離宮を目指す。この離宮にある水晶の珠を持って翌日の真夜中までに帰ってくること。それが今回の試練だった。
夏であれば馬で半日の距離であり、走り通しであれば往復してもその日の晩には帰ってこられる場所だ。
だが、冬は雪に閉ざされて訪れる者はいない山中だ。雪深い今、道のりは遅々として進まないだろうし、天候でも変わればどんな危険が待ち受けているかわからない。
前日、kumは母とともにdai王子の荷造りを手伝った。寒さを防ぐ旅装に、道中の食料に飲み物。kumは城の炊事場を借りて、薬草を焼き込んだパンと焼き菓子、薬草のお茶を用意した。こうしたものは王子の体を温め活力となるだろう。それに干し肉と果物を添えた。
馬に積める量ならば、旅の荷物は何をどれだけ持って行っても構わなかった。ただし、魔法の力を帯びたものだけは禁じられていた。
dai王子の従者として仕えるkumの弟は、王子の武具を磨き、普段よりも念入りに馬の世話をした。

三人の王子は城の人々に見送られ、同時に出発した。若者たちは第一の試練を受けるときよりもよほど楽しげに、快活な表情で馬を進めていく。森に入ると自然に三方に分かれた。
一緒に行動したり協力し合ったりしないこと、ただし互いの行動を妨げないこと、という決まりがあったからだ。水晶の珠は三つ用意されており、全員がこの第二の試練を通ることも可能だった。

dai王子は気楽に馬を進めていった。冬に訪れるのは初めてだが、夏であれば幼い頃から通い慣れた道だ。天気もよく、何の心配事も起こりそうもない。もし吹雪が起こったとしても、そんなときにはどうしたらいいのか王子たちは幼い頃から訓練を受けている。これはきっと一年の半分が冬のこの国で、雪や氷の世界に一人で対応できるかを試されているのだろう、そう考えた。
恐らく三人ともがこの試練に通るだろう。だができれば一番に帰って見せようと、daiは思った。だがあせって馬を飛ばしすぎてはならない。体力の配分を間違えることが死に繋がることもあるのだから。
雪が少ない木立で一度休憩を取り、食料を腹に入れた。薬草の効果なのか、体が温まるだけではなく心にも新たな力が湧く。

離宮には日暮れ前に着くことができた。雪の上にはまだ足跡はないから、一番に着いたようだ。馬を降りてつなぎ、渡されていた鍵で表門の錠前を開け、中に入っていく。夏には毎年のように母や姉、従兄弟たちと遊んで過ごした離宮は懐かしい場所だが、今は番人すらいず寒々としている。
広間の隅に置いてある小さな円卓に近寄ると、言われていたとおりその上に三つの水晶の珠があった。夏の間にはこんなものはなかったから、この試練のために最近誰かが用意したのだろう。
水晶は鶏の卵ほどの大きさだった。daiはそのうちの一つを手にとり、かすかに揺らして珠の奥底を覗き込んだ。何の変哲もないただの水晶であることを確かめると、腰に着けた皮袋の中に入れた。皮袋の中には最初からもう一つ球形のものが入っている。
それは旅立つにあたり、王から孫たちに渡されたのろし玉だった。命の危険を感じ、旅をそれ以上続けることができなくなったとき、こののろし玉を投げ上げれば、魔法の力が働いてどこで使ったとしても見つけ出され、助けが寄越されるというものだ。
魔法の力を帯びたものは一切禁じられていたが、大魔法使いの用意したこののろし玉だけはもちろん別で、絶対に肌身離さないようにと言い渡されていた。
こののろし玉を使うことは絶対にすまい、祖父の手から直接渡されたときからdaiはそう思っていた。のろし玉を使うとき、それはこの試練を自ら放棄したときなのだから。

夜を離宮で過ごし朝早く発ってもよい。daiは迷ったが、まだ日のあるうちに帰路を少しでも進めようと離宮を出た。雪の中で野営する訓練は積んでいる。門の錠前に鍵を掛けていると、nar王子が到着した。
「やあ!daiは早いね。水晶を三つとも持って行ってないよね?」
人のよさそうな笑顔を浮かべながら、話し掛けてくる。水晶については嫌味ではなく、冗談のつもりなのだろう。
「いや、悪いけど、三つとももらった」
daiは笑って馬に飛び乗る。
「それは反則だ、daiは失格になるぞ」
顔をゆがめて言うnarに、そんなことをするはずはないだろ、中を見て来い、と叫んでdaiは馬を駆けさせた。
すぐに今度はtak王子に会う。片手を軽く上げてあいさつし合い、速度を並足に落とす。
「今narが離宮の中にいるから、早く行かないと水晶を二つとも持って行かれるかも」
「narはそんなことはしないさ。失格になるってわかっているからね」
takは涼しい顔で答え、すれ違っていった。
自分が一番先に城に帰り着きたいが、従兄弟たちも無事にこの試練を終えてほしい。さらに先まで競い合いたいから。daiは従兄弟たちがライバルというよりは、同じ試練に立ち向かう仲間のような気しかしなかった。

日が暮れるまで馬を走らせ、夜は雪に穴を掘り持ってきた毛布にくるまってその中で眠った。天候はよく、夜の間に吹雪く心配はなさそうだ。馬には餌をやって、樹につないだ。一日中走らせた馬は疲れてはいるようだが、一晩経てば回復するだろう。
こんなに順調でいいはずがない、そんな気持ちがふと胸によぎったが、疲れ果てていたdaiはそのまま朝まで眠り込んだ。

まだ薄暗いうちに朝は起きて、馬も自分も腹ごしらえをするとdaiは出発した。狭い雪穴の中で丸まって眠ったせいか、疲れは残っている。
離宮に泊まったほうがよかったのかもしれない、そんな気持ちが浮かんだ。しかしnarやtakが離宮に泊まったなら、自分のほうが遥かに進んでいるはずだ。これでよかったのだ、daiはそう自分を励まし先を急いだ。
雪が降り出してきた。吹雪にならなければよいのだが、と不安に駆られた。自分はこの試練を少々甘く見ていたのかもしれない。だが条件は皆同じはずだ。daiは弱気になりそうな自分を励まし続け、進むことのみに意識を集中した。
しかし空は一層暗くなり、雪が一頻り激しくなったかと思うと、ふと目の前が歪んだような錯覚に襲われた。次の瞬間乗っていた馬が激しく跳ねて、何が起こったのかもわからぬままdaiの体は宙に投げ出された。   <つづく>

とんでもないところで終わると抗議を受けそうです。(汗)