気ままにフィギュアスケート!

男子シングルが好きです。

氷の国の物語 あとがき (イラスト付き)

2010-02-09 23:45:27 | 氷の国の物語
あとがきを書こうかな~と思いつつ、わざわざ書くほどのものでもないか~と思って書きそびれていました。
でもゆゆんさんがまたまた素敵なイラストを2枚もくださったので、あとがきを書きたくなりました。

そのうちの1枚はdai王子とkumなので、挿絵に使わせて頂きました。→<氷の国の物語 10
戴冠式の後の舞踏会の場面と考えると、場面的にも物語の最後にぴったりです。
ゆゆんさん、またまたありがとうございます!
この絵はkumさんが羨ましすぎ!微妙に、いやかなり嫉妬しました。(笑)
kumさんにとっては最高のプレゼントになるのではないでしょうか。

もう1枚の絵は大ちゃんなので、ここで紹介させてくださいね。

イラスト by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

大ちゃんとdai王子、ゆゆんさんがタッチから雰囲気までしっかりと描き分けてらっしゃるのがすごいです。
こんな真っ直ぐな眼差しで、バンクーバーの舞台に立ってほしいと思います。
こちらの大ちゃんはkumさんだけでなく、私達ファン全員へのプレゼントですよね?(と強引に念押し 笑)

kumさんへの誕生日プレゼントという形でこのお話を書かせてもらって、一番のサプライズであり、kumさんだけでなく私へのプレゼントでもあったのが、ゆゆんさんのイラストです。
もったいないぐらい素敵なイラストばかりだったし、何気なく始めたものがこんなふうに広がっていくんだなってことがとても新鮮で嬉しかったのです。書き始めたのもkumさんとの縁からだし、人との繋がりっておもしろいですよね。自分1人では絶対に生み出されるはずがなかったものが出てきます。

このブログでお話を書いた最初は、まだブログを始めて間もない頃、別の友人への誕生日プレゼントでした。そのときは別の内容をメインに書いたので、お話はおまけで短いあらすじのみ。
そのときも今回も、自分がプレゼントとしてお話を書くということに、実は少し疑問を持っていました。
だって大ちゃんファンは皆さん妄想力豊かでしょ?誰もが自分の頭の中では何らかのお話を紡いでらっしゃるはず。
自分と自分が好きな選手が登場するお話ならば、本人が作るのが一番その方の好みに合うのではないでしょうか。ある程度内容をリクエストされたとしても、私が書いたならばその方の好みに染まないものができてしまうんじゃないかと思ったのです。
でも自分自身ではなく、他人に自分が主人公のお話を作ってもらうことに意味があるのだろうと思って書きました。普通そんなことはほとんどありませんものね。

書くからには、自分がまずは楽しもうと思って書きました。自分の好みに走りすぎた部分もあるかも。(笑)
kumさんにリクエストされた部分はなるべくそのまま入れたつもりです。助けられる力を持つのに見守るだけ、というリクエストは私にとってはすごく新鮮でした。
私なら、助けられるから助ける、または助けたいけれど助けることができないから心配しながら見守る、そのどちらかの発想しか思い浮かびません。

無機質なPC画面を見るとお話が思い浮かばないので、ストーリーの基本部分は、料理や後片付けをしながら台所で考えました。考えたアイデアはとりあえず娘に話してみました。
まずは何を試練の内容にするか。
「大ちゃんダンスなら間違いなく勝てるから、ダンスでもさせる?」、「いいんじゃない」と適当な娘。「でもダンスで王様を決めたら国が滅ぶね」と自分でダメだし。
外交能力や軍事能力や内政能力で王様は決めるべきなんじゃないかと思うのですが、それだとおとぎ話になりません。3つの試練の内容は妥協案です。

2番目の試練、dai王子をkumが助けに行くと話すと娘は、「助けに行ったら普通に失格でしょ」
3番目の試練、魔法使いnikが魔法を使って妨害する場面では、「そんなことしたらばれちゃうじゃない。そんなことするほど頭悪くないでしょ」
どれもダメだしされましたが、そのままお話にしました。
しかし、娘はこういうお話では失格になった王子たちは殺されると思っていたようです。完成したものを読んだときも、剣試合の終わり方を「生ぬるい」と言っていました。
どこでどう育て方を間違えたのか、私よりもずっと残酷なようです。(汗)

書いている最中に、コメント欄で「見守る側と見守られる側」のお話が出てきたのも新鮮でした。元々私は小説を読むときもストーリー展開を追うのが好きで、心理描写が長々と続くのは好きではないので、こういう部分に興味を持って読まれたりもするのかとかなり意外でした。
その後は心理描写にも力を入れたかったのですが、お話を進ませ終わらせることを重点として書いたので、心理描写は半端になってしまいました。お話の中で解決できていない部分が多すぎます。

「見守る側と見守られる側」は考え出すと複雑で深すぎるテーマなので、このお話の中では簡単にしか扱えませんでした。
あと私が興味あるのが、「優しさと弱さ(又は強さ)」について。これは3番目の試練でのテーマにしたかったのですが、うまく書けず心残りです。
今回は最初の予定よりも長くなってしまいましたが、お話を書くこと自体はおもしろいので、いつかまた機会があったら何か書いてみたいと思っています。

氷の国の物語 10 (イラスト付き)

2010-02-04 20:24:19 | 氷の国の物語
きりのいい回数で終わることができました。最終回です。

<氷の国の物語 10>

剣の試合であるからには、無論どちらかが死に至ることも時として起こる。しかし、それはあくまで相手を打ち負かすために起きた事故であり、相手の命を狙っての攻撃によるものではなかった。
「dai王子、今のうちです!」
そんな叫び声が遠くから響いているのを耳にしたが、narが自分にしたのと同じように、無防備な姿を攻撃するにはなれなかった。相手は幼い頃から共に育った従弟だ。敵や野獣が相手ではない。
こんなところが自分の弱さなのかもしれないな、切羽詰った状況にも関らずつい冷静に分析した。次にnarが本気で打ち掛かってきたならば、自分はもうよけられないかもしれない。そう思いながらも体は動かなかった。
腹を押さえていたnarが立ち上がった。

kumはnar王子がdai王子の腕に切り付け怪我をさせた瞬間に、異常を悟った。daiの心が驚きと猜疑心で揺れている。dai王子の左腕の鋭い切り傷。nar王子が発する異常な殺気。明らかに何かがおかしかった。
はっとして思わず柵の反対側のnor姫の後ろに立っているnikに目を遣った。nikはnor姫の座る椅子の背に手を掛けて前屈みに身を乗り出し、視線をnar王子に固定したまま、何かをつぶやき続けていた。呪文だった。
人の心を操る魔法は、操っている間中呪文を唱え、自分の意識を相手の中に流し込まなければならない。昔医術を習った魔法使いから教わって、kumはそれを知っていた。「人の心に魔法をかけ続けることはできない」と、地の割れ目の縁でdai王子に語ったのも、そのためだった。
何とかしなければ。kumはnikの元へと急いだが、その間にもdai王子は雪の上に倒され必死で防いでいた。何とか起き上がったdai王子の心は、従弟に命を狙われたことに傷付いていた。nar王子も立ち上がり、nikの呪文は続いている。
nar王子が再び剣を構えてdai王子に襲いかかろうとした刹那、kumはnikがdai王子の剣の指南役や相談役の魔法使いたちともみ合っているのを目にした。
「魔法使いnikが神聖な勝負に魔法を使ったぞ!」
「魔法でdai王子の命を狙ったぞ!」
「nar王子は失格だ!」
nikを取り押さえながら、指南役と相談役の魔法使いたちが次々と叫ぶ。さすがのnikももう呪文を唱えることはできなかった。kumはほっとしてその場から再びdai王子を見守った。

daiはそれまで自分に憎悪を向けていたnarの目の焦点が合わなくなったかと思うと、見る見るうちに表情が変わり、目が覚めたばかりのように呆然とするのを目の辺りにした。narは剣をだらりと垂れて突っ立っている。
narは操られていた間の記憶が抜け落ちているのだろう。状況がよくわかってないらしいが、ふとdaiの腕の切り傷に目を留めた。次に自分の剣に視線を落とし、指の腹を剣の刃に滑らせる。切れ味に驚愕し、再びdaiの腕の傷に目を戻した。この剣はnarが選んだときは普通の練習用の剣だった。nikは剣にも魔法をかけたのだろう。
そのとき柵の内側に武官が入ってきて告げた。
「魔法使いnikの妨害により、nar王子は失格となります」
柵の外の騒ぎには王子たちも気が付いている。narは全てを悟り、諦めの表情で立ち去ろうとした。
「待ってくれ!narは操られただけだ。頼むから最後まで勝負を続けさせてくれ!」
daiは思わず叫んでいた。narのためではなかった。このままでは終われない。このままでは自分は勝ったとはいえない。こんな気持ちのまま王になるわけにはいかなかった。
「頼む、nar。最後まで戦ってくれ」
「dai」
narはつぶやいて振り返った。
「dai王子がよろしいのであれば、試合の続行を認めましょう」
この勝負の判定を任されている武官は鷹揚だったが、narは再び柵に向かって歩いて行った。daiはそんなnarを胸の痛みを感じながら見ていた。王になる喜びは感じず、ただ苦い後味だけが胸に広がっていた。

nar王子は柵まで行くと武官に他の剣を出させ、交換させた。新しく手にした剣の刃を確かめてから、daiのほうに戻ってくる。
「dai、もう一度やろう。負けないからな」
「ああ、望むところだ」
daiはほっとすると同時に、立っているのがやっとでまともに戦うだけの体力が残っていない自分を笑いたい気持ちになった。何を格好付けているのだろう。しかしnarの顔にも疲労が色濃く出ている。ここまできたら、あとはお互いに気力だけだった。
二人の王子は再び剣を交えた。冬だというのに肌が上気し、体力は限界を超えているはずなのに、苦しい中にも不思議な爽快感があった。やめたくもあり、このままずっと続けていたくもあり、そんな相反する感覚の中でdaiはnarの剣を跳ね飛ばした。拾うように促したが、narは苦しげな表情で両膝を地面に付くと言った。
「daiの勝ちだ」
dai王子は剣を持っている右手を高々と掲げた。柵の周囲では王の一族までが立ち上がり、大きな歓声を上げている。勝利の喜びに浸りながら、daiはこれまで支えてくれた一人一人の顔に感謝の眼差しを送った。

戴冠式の日、すっかり傷も癒えたdaiは、王の正装を纏って式が行われる広間に現れた。短期間に顔付きが変わり、全身から自信と風格が漂っている。
王のマントの製作者として、新しい王にマントを着せ掛ける栄誉をkumは賜っていた。王の一族や貴族、重臣たちが集まる前で、kumはdaiの背後からそっとマントを肩に掛け、前に回って金具を止め、豪華な房飾りの付いた紐を結んだ。
結び終わり視線を上げると、daiと目が合った。優しい眼差しと柔らかな笑顔には何の変わりもない。
「おめでとうございます」
「今までありがとう、kum」
daiは片手を上げ、kumの頬にそっと触れた。頬に掌の温もりを残したまま、daiは王冠を戴くために、壇を登って行った。
その背に輝くマントには、新しい王の健康と安全を願ったkumの祈りが織り込められている。結局、織っている間にdaiを想って込められた祈りは、然るべき場所に届いたのだ。

壇上でdaiは大魔法使いの前にひざまずき、頭上に冠を受ける。続けて祖父である前王から国宝の剣を譲り受けた。daiはこの瞬間、名実共に王となった。
人々のほうに向き直って、王として堂々たる姿で祝福を受けるdaiを見ながら、kumは涙が止まらず、そっと人の後ろに身を忍ばせた。
思い出が胸に溢れ繰る。幼い頃の泣き顔。心を癒してやったときの愛らしい笑顔。成長してからの精悍な姿。傷つき悩む日々。全てが結実し、少年の日からの夢を叶えたdaiは、これまでのどの瞬間よりも輝いていた。
新王の前にnarやtakたち、5人の王子が進み出て忠誠を誓う。彼らは成長に応じて国の要職に付けられ、daiと共にこの国を率いていくことだろう。
他の王族も忠誠を誓い祝辞を述べる。その中にはnor姫の姿もあった。nikはいない。神聖な王の試練を妨害した罪を問われ、国外へ追放された。

王になったとはいえ、列強諸国に取り囲まれたこの小さな国を率いていかねばならぬdaiの行く手には、これからも困難が待ち受けていることだろう。しかし彼ならば、どんな困難も乗り越えていけるはずだ。それこそは彼が王になって成し遂げようとしていたことなのだから。そして彼にはいかなるときも彼を支持する多くの人が付いている。
daiには自分の特別な癒しの力は必要なかった、彼は内側から自分で輝いていける人なのだから。kumはそんなdaiを見守っていられることを、何よりも幸せだと感じていた。

「二人で紡いだ心」 by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

<おわり>

結びの部分が納得いかないので、もっといい文を考え付くことができたら手直しするかもです。
kumさん、長らくお待たせしました。そして読んでくださった皆様、ありがとうございました!
細部がいい加減で書いている本人も納得いかない部分がたくさんあるお話ですが、感想など頂けると嬉しく思います。

氷の国の物語 9

2010-02-03 23:54:53 | 氷の国の物語
1月中に完成させたかったのに、2月に入ってしまいました。(汗)

<氷の国の物語 9>

第三の試練の日の朝、daiは指南役に見守られながら軽く剣を振っていた。第二の試練で打ち身と軽い凍傷を負ったが、kumの手当てを受け丸一日ゆっくりと休んだことで、体は本調子とは言えないがそれほど酷いわけではない。
軽く足を引きずりながらtakがやってきた。daiは体調を理由に部屋に食事を運ばせていたので、takと顔を合わせるのは試練の最中に離宮近くで会ったきりだった。daiは剣を鞘に収め、指南役に休憩にすると声を掛けると、takに歩み寄った。
「調子はどうだ?」
「いいとは言えないな。daiは穴に落ちたんだって?」
takの頬は窪み表情が険しく、元々細面立ちの顔が一層細く見える。苦悩の跡のにじむ目元が、これまでの少年らしさを払拭している。takの無念を思うとdaiは胸が詰まった。これは自分の姿だったかもしれないのだ。
「ああ、何とか出られたが。takは樹の下敷きになったと聞いたが」
「帰りに樹の下で休んでいたら、突然倒れてきて足を挟まれた。枯れ木でもないのに、普通そんなことが起こるか?足はそのときは無事だったが、無理に引き抜こうとして痛めた。足を切り落としでもしない限り、抜け出す方法はないと思ってのろし玉を使った。daiが穴に落ちたことといい、おかしいだろう?二人とも魔法で嵌められたんだ。証拠がないからと大魔法使いにも取り合ってもらえなかったが、他に考えられない。narの奴、汚い手を使ってでも王になろうとするとは許せない」
「いや、違う。恐らくnarは何も知らない。叔母上とnikが勝手にしたことだろう」
「そうだとしても、知らないで済まされるのか?自分のために母親と教育係の魔法使いがしたことだ。そんなことにも気付かぬ者が、人の上に立ち、一国の王となることが許されるのか?知らないこと、気付かぬこと、ただそれだけでも罪になることがあるのだ。私はnarが王になるのは認めない。あいつが王になったなら、この国を捨てる」
「tak、何もそこまで。母上がお泣きになるぞ」
「そう言うのなら、daiが王になれ。今日の試練であいつを打ち負かして、王になってくれ」
daiは目の前の従弟を見つめた。takの瞳には苦悩だけではなく、炎のような強い光が残っていた。daiはtakの肩に手を置いた。
「わかった。お前の分まで力を尽くす。それで私が王になることができたなら、国のために力を貸してくれるな?」
「言うまでもない」
二人はがっしりと手を握り合った。そのままもう片方の手で背中を叩き合い、一旦別れる。
またひとつ、自分は人の想いを乗せて進んでいく。それは時には重たく感じたが、今は自分の中でひとつに合わさり力となっている。戦っているのは自分だけではない。daiは足を引きずりながら城に入っていくtakを見送った。

定められた時間にdai王子は城の正面の広場に行った。通常、冬季に人が集まるときには雪がどけられ中央が開いているのに対し、今日は中央に雪が盛られ、踏み固められている。雪と氷の上で新しい王は決められると、この国では決まっている。
その周囲には簡易な柵が張り巡らされ、その外にはすでに人垣ができている。柵のすぐ外には椅子が並べられて王の一族が座り、その後ろには仕える者たちが立っている。daiはその中に母や姉やkumやtak王子の姿を認めた。
nar王子とともに椅子に座った王の前で一礼し、武官の持ってきた数本の剣の中から扱いやすいものをそれぞれが選ぶ。剣は刃をつぶした練習用のものだ。
nar王子と顔を合わせるのも離宮以来、三日振りのことだ。試練に向けて気が昂ぶってはいるが、対戦相手のnarに対しての特別な感情は起きなかった。恐らく、対戦相手がnarではなくtakだとしても、今の自分は同じ心持ちだろう。
先程のtakだけではなく家族や身近な者たちと話していても、皆narとその背後にいる者たちを非難するが、daiはnarたちに憎しみも腹立たしさも感じなかった。ただ負けたくはない、王にふさわしく正々堂々と勝負して勝ちたい、それだけが心の中にあった。
汚い手で妨害されたことが何だというのだ。自分の心の中にも汚い弱さはある。地の割れ目の底でそれを嫌というほど味わった。そんな自分が他人を非難できるのか。今はただ自分の中の弱さや迷いに対して戦いを挑み、自己に打ち克って再び誇りを取り戻したかった。
見返したい、きっとそんな気持ちもあるのだろうとは思うが。daiは一度も視線を当てようとはしなかったが、nikの姿が人垣の中にあることを意識していた。

柵の内側に入っていくと雪は凍り付いている。急ごしらえの白い闘技場は周囲から切り離されていて、遠くを多くの人に囲まれながらも、もう頼れるものは自分しかないのだと身が引き締まる。応援の声だけが響くが、騒々しさの中、孤独をより一層強く感じる。
二人の王子は距離を保って向かい合って立ち、武官の合図で剣を構えた。幼い頃より何度も剣を交えた相手だ。互いに相手の手の内は知り尽くしている。
nar王子は背はdai王子とほぼ同じながら、細身で身が軽い。その分腕力ではdai王子に劣るものの、身のこなしの軽さ、素早さを活かして的確に相手の急所を攻め、また相手の攻撃を機敏によけるのを得意としていた。
対してdai王子の剣は力強い正統派の剣。正面から激しく切り込み、相手を力で押していく。
しかし体が本調子ではないdaiは、体力でも俊敏さでも今日はnarに劣ることを自覚していた。無駄な体力の消耗は避けたかったが、長引かせても不利だ。構えたままnarの動きを注視し、打ち込んでくるのを待つ。
痛いほどの緊張が破られて、narが打ち込んできたときには剣筋を読み、受け止めていた。そのまま剣を返し、短時間で勝負を付けようとこちらから激しく打ち込んでいく。幾度も切り結び、互いに攻防を繰り広げた末に、daiがnarの剣の手元に近い部分に加えた一撃に、narがよろめき氷と化した雪に足をとられて転んだ。
daiは油断なく剣を構えたままnarが起き上がるのを待ったが、予想していた以上に息が切れて体力が落ちているのを感じていた。

起き上がったnarはそれまでとは形相が変わっていた。うなり声ともつかぬ声を低く漏らすと、体ごとぶつかるように鋭く切り込んでくる。とっさにdaiはよけたが、次の一撃をよけ損なった。narの剣がdaiの左腕をかすり、服の布地が破れて血が流れた。
narの剣は刃が研がれている、確かにnarも武官の持ってきた刃をつぶした剣を使っていたはずなのに。
daiは痛みよりも驚きで動きが一瞬止まり、次にnarが打ち込んできた一撃にも対応が遅れた。何とか剣で受けたものの、衝撃で雪の上に転がる。さらに覆いかぶさるように頭を狙って打ち込んできたnarの剣を寝転んだまま下からすくい上げるように受け止め、血走った目で迫ってくるnarの力を渾身を振り絞って防いだまま、何とか腹を蹴り上げた。
narがうずくまったその隙に這い出すように起き上がり、距離を取って小刻みに震える腕で剣を構えた。荒い呼吸を繰り返しながら立つ、daiの受けた衝撃は大きかった。narは今、自分を殺すつもりだった。   <つづく>

次回完結します。ほぼ書けているので、明日アップできると思います。
しかし、私ってアクションシーンが好きだよね。お話って自由に書けるせいか、まともに性格が出ます。(笑)

氷の国の物語 8 (イラスト付き)

2010-01-26 23:51:03 | 氷の国の物語
毎度、遅くなってごめんなさい。(汗)

<氷の国の物語 8>

それより幾分か前のこと。城でkumは落ち着かない気持ちで過ごしていた。kumだけではない。城中の人々が試練に旅立った王子たちのことを気に掛け、落ち着きがなかった。
城の窓から王子が向かった北にそびえる雪に覆われた山を時折見ては、何とか仕事をこなしていたが、昼前にkumは胸に軽い衝撃を受けてdai王子の部屋の片づけをしていた手を止めた。思わず両手を胸に置いたが、自分の体ではなくdaiの身に何かあったのだとすぐにわかった。王子の心に何か悪い魔法のようなものの気配が忍び寄っている。それ以上のことはわからなかった。kumは残りの仕事を母親に任せて部屋を出た。
魔法のことは魔法使いに相談するのが一番だ。kumはdai王子が新たに相談役として迎えた二人の魔法使いを訪れた。ところが魔法使いたちは眠らされていた。魔法使いまでが魔法を掛けられている姿を見たのは衝撃だった。
もう猶予はなかった。kumは弟に馬の用意を頼むと、手早く必要なものをまとめた。その間に胸に伝わってくる王子の苦痛が、魔法の気配から底なしの絶望感に変わっていき、kumを焦らせた。しかし、馬屋への道を遮るかのようにsiz姫が現れた。
「kum、どこへ行くの?王子を助けたら、失格になるとわかっているわね?」
「siz姫様、お許しくださいませ。dai王子は窮地に陥ってらっしゃいます。悪い魔法の気配がいたします。このままでは試練を全うできません。」
「それはそなたに流れる妖精の血が教えるのか」
siz姫は射るような視線を投げ掛けたが、kumは怯まなかった。
「私は行かなくてはなりません。試練を続けられないならば、王子をお助けいたします。試練が続けられるのであれば、王子をただ見守ります。見守るだけでも変わるものがあると思うからです。助けるのではなく、見守るだけでもいけないのでしょうか?手をこまねいていては駄目になるとわかっているものを、可能性に賭けて試してはならないのでしょうか?」
しばらくの間siz姫は考えていたが、やがて美しい形の唇を開いた。
「癒しのkum、そなたは特別な力を持っている。そなたを信じることにしましょう。雪の中で慣れない馬は危険です。私の橇を使いなさい」
小雪が舞う中をkumはsiz姫の二頭立ての橇で出発した。行きは迷う心配がなかった。胸に伝わってくるdai王子の心の痛みが、引力となって導いてくれるのだから。kumはただ胸の痛みが指すほうへと馬を御せばよかった。それにはkumのdaiに対する想いの甘い痛みも、幾分か混じっているようだった。

地の割れ目の底に王子を見つけ、kumは呼び掛けた。
「dai王子、お怪我は?」
「いや、大丈夫だ。kum、よくここまで来てくれた。縄があれば下ろしてくれ。馬で来たのだろう?馬に引かせれば私を引き上げられるはずだ」
「siz姫様の貸してくださった橇で参りましたが」
「橇か、それはいい。馬が逃げた。私も乗せて行ってもらえるな」
「いいえ、なりませぬ」
kumは自分でも思わぬ声の調子の強さに驚いた。daiはあっけにとられて見上げている。それはどことなく少年の日のdaiの表情を思わせた。
「dai王子、縄はございますが私がお助けしたら、王子は失格となります。私はここで王子がご自分で上ってらっしゃるのをお待ちしております」
「kum、わかるだろう?nikが魔法で私をここに落としたのだ。助けてもらってもいいかもしれないではないか。それでも失格を怖れて私を助けられないのなら、せめてそなたの力で私の心を癒してくれ。そうすれば上る力が湧くかもしれない」
「それもできません。王子、確かにこの穴はnikが魔法で作ったものなのでしょう。でも人の心に魔法を掛け続けることはできないのですよ。あなたの心に魔法を掛けて、この穴から出られなくしているのはあなた自身なのです。ご自分で掛けた魔法なら、ご自分で何とかしてください。」
王子はうなだれた。そんなdaiに幼い頃の面影を見て、kumは続けた。
「dai王子、思い出して。王を目指して努力し続けていた日々のことを。あなたはご自分が王の有力候補として成長したのをnikの力だと思い込んでいます。でもそれは元々あなた自身の内側に眠っていた力なのですよ。dai王子、自分を信じて。これまであなたが生きてきた日々に積み重ねてきたものを信じて」
daiは顔を上げると、初めて微かに笑顔を見せた。
「kum、わかった。必ず行く。だから橇で待っていてくれ」

kumは割れ目の近くに止めてあった橇に戻り、幌の中に入った。助けるしかない状況であれば、助けるつもりで思い付く限りの用意はしてあった。食べ物に飲み物、薬に包帯、縄に毛布、手斧に小振りの剣、そして王子の着替え一式。あの状況のdaiを助けることはとても簡単だった。
しかし、穴に落ちているとはいえ、思っていたよりも王子は元気そうだった。自分に会っただけで、彼の心の苦痛が少し軽くなったことにkumは気付いていた。励ますことも助けるうちに入るのだろうか?分からなかったが、失格にならない可能性があってできることはそれだけだった。
穴はそれほど深いわけではない。心さえ平静を取り戻せば、この状況ならば彼ならきっと自力で切り抜けることができる。dai王子は王になるはずの人なのだから。

daiは自分が恥ずかしかった。体が弱っていたとはいえ、なぜあんなにも簡単に諦めてしまっていたのだろう。kumの言葉はそれに気付かせてくれた。kumは今でも自分を信じてくれている。女の身で雪の中を危険を冒して駆け付けてくれた彼女に、是が非でも応えたいと思った。近くで待ってくれている人がいる。きっと彼女も心の中で戦ってくれているのだろう。それはdaiに力と勇気を与えた。
剣を拾い上げた。先程は自らを追い詰めかけた剣だが、今はこれが脱出するための唯一の道具だ。体力はかなり落ちているが、体の痛みはだいぶ治まっている。
下が固い地面ならば、剣を地面に突き刺して、それを踏み台にして飛び上がることもできたかもしれなかったが、下が雪ではそれはできなかった。尤も、体力があるときでもこの高さではぎりぎり成功するかどうかだが。
雪を掘り出して穴の片側に積み重ねて階段にするのは、雪の量からして無理そうだった。他に方法がなければ試してみてもよいが。
daiは剣を胸の高さで横にして構え、氷の壁に突き刺した。氷の壁に刻み目を入れて、それを足がかりにして上ることを思いついたのだ。壁の上のほうに刻み目を入れるのは難しそうなので、この方法でうまくいくかはわからない。だが思いついたことはやってみるしかなかった。
剣を突き刺すたびに、氷のかけらが飛び散った。数度氷の壁に突き刺したところで、剣が動かなくなった。氷の奥の岩の割れ目に差し込まれてしまったらしい。daiは力任せに引き抜こうとしたが、ふと気付いた。これを足場にすればよいのだ。
反対側の壁ぎりぎりまで下がってから、勢いを付けて剣の柄の上に跳び上がる。そのまま剣のしなりも利用して高く上がり、割れ目の縁に何とか両腕を掛けた。堅く締まった雪に指を食い込ませ、片足を引き上げる。そしてさらにもう片足を。
力尽き果て雪の上で荒い呼吸を繰り返しながら横たわるdaiの傍らには、kumが立っていた。胸の前で両手を組み、涙を溜めた瞳で見つめている。daiと目が合って、微笑んだかと思うと、初めて涙がこぼれ落ちた。
起き上がりながら、daiは橇馬の横に荷物を付けた自分の馬の姿を認めた。
「先程の私たちの話し声を聞いて、やってきたようです」
涙を指先で払って、笑顔でkumが説明した。
「さあ、早くお城へ。まだ十分間に合います。私は後から参りますから」
daiは馬に歩み寄り、軽く撫でてやった。
「kum、ありがとう。いつかきっとこの恩に報いるから」
「私はあなたが素晴らしい王になってくだされば、それでいいのです」
daiは馬に飛び乗った。空が暗くなりかけていた。

「馬にまたがって城に戻るdai王子」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

dai王子は夜になってから城に着いた。そして知らされたのは、nar王子が日暮れ前に城に到着したことと、それと同じ頃tak王子がのろし玉を使ったことだった。
tak王子は帰路に休息を取っている最中に、倒れてきた樹にはさまれて身動き取れなくなったのだという。ただ助け出された王子は大きな怪我はしておらず、元気そうだという。
kumはdai王子にしばらく遅れて城に着いた。暗くなってはいても、dai王子のいる場所を目指している限り、彼女が迷う心配はなかった。
dai王子とnar王子が二日後に第三の試練を受けるという知らせがあった。   <つづく>

やっと第二の試練が終わりました。手短に書けない自分がイヤになります。

氷の国の物語 7 (イラスト付き)

2010-01-20 23:15:28 | 氷の国の物語
昨日あそこで終わったのはあんまりだと思ったので、真面目に更新。

<氷の国の物語 7>

しばらく気を失っていたようだった。目を覚ましたdaiは自分がいるのが地の割れ目の底であることに気付いた。
そっと手足を動かし、ゆっくりと上体を起こしてみる。雪が衝撃を吸収してくれたらしく、大きな怪我はないようだが、体中が痛く手足の先が冷え切っている。
どれぐらいの間意識がなかったのだろうか。空は明るく雪は小降りになっている。まだ昼間だろう。
しかし、この割れ目からどうやって出ればいいのだ。さほど広くはない穴で、高さは自分の背丈の倍ほどだが、壁はほぼ垂直でしかも氷に覆われている。
予想外の出来事だった。この森の中にこんなふうに地面が割れている場所があるとは、話に聞いたことすらない。自分が陥っている状況が信じられなかった。これは悪い夢の中なのだろうか?そのときdai王子は突然悟った。ああ、これは悪い魔法の中なのだと。

落馬する直前に惑わされるかのように朦朧としたことといい、魔法なのだと考えると辻褄があった。ある名前が浮かびそうになるのを振り払い、これは用意されていた試練の一部で、大魔法使いが仕掛けたものなのだろうかと考えてみる。
だが、気候が不安定なこの時期に、雪の中を一人で遠出すること自体危険なのだ。故に王は耐えられそうもない者を一つ目の試練で落とした。それは祖父の孫たちへの思い遣りであった。そんな祖父が魔法の罠を仕掛けることを許すだろうか?
違うと思いつつ、これが大魔法使いの仕掛けた試練の一部であるなら、そのほうがいいと思った。それならば他の二人も同じめに遭っているはずだし、抜け出す方法も用意されているはずだ。

daiは痛む体を引きずるようにして何とか立ち上がった。しかし、雪と氷に覆われた壁には、手を掛ける場所もなく登るのは無理だった。
力なく座り込む。自分の体を探り、身に付けているものを確認してみた。右腰に着けた皮袋に入った2つの玉、左腰の剣、これで全てだった。食料も毛布も縄も、役に立ちそうなものは全て馬に積んだ荷物のほうに入っている。馬はどこかへ行ってしまった。第一、ここから出ないことには馬も荷物も役立てようにもできない。
ただ冬の旅装をしているから、すぐに凍え死にする心配はない。daiは足を曲げ体全体を毛織りのマントでくるんだ。雪を口に含んでのどを潤す。

「玉を見つめるdai王子」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

このままいつまでこうしていればいいのだろう。それほど長くは続かないことはわかっている。この試練は真夜中で終わるのだから。そのときまでに戻らなければ、きっと魔法の力で見つけ出され、助け出されるのだろう。
しかしそれまでにはまだ半日はある。どうせ試練を全うできないのならば、このまま痛みと寒さと空腹に耐えていなければならないのだろうか。のろし玉を取り出してみる。これはこんなときのためのものではなかったか。
一瞬見つめた後、daiは掌の上の黒い玉を厭わしげに皮袋に戻した。まだ少年の頃より、亡き父に代わっていつか祖父の跡を継いで王になり、この国を治めこの国のために尽くそうと心を決めていた。王になる、その目的のためにこれまでの日々を生きてきたのも同じだった。それをこんな形で終わらせるのか。
自分を慈しんでくれる母や祖父や姉。大切に守り育ててくれた乳母。導いてきてくれた教師や魔法使い。その他にも自分に仕える多くの者の顔が浮かんだ。
どれほど多くの人間が自分が王になることを期待し、尽くしてきてくれたことか。それをこんな形で裏切り、おめおめと城に戻って無様な姿を晒すのか。そんな雪辱を受けるぐらいなら、いっそ。
daiは剣を取り出して、柄を握り鞘を払った。冷たい光を放つ刃先を自分の左胸に押し当てる。
痛みが怖いわけでも、死が怖いわけでもなかった。ただ、母の顔が浮かんだ。

daiは剣を持っていた手を力なく下ろした。自分は王になれないなら自死を選ぶほど傲慢な人間だったのか。それこそ、自分を大切にしてきてくれた多くの人々への最大の裏切りではないか。自分はここまで弱い人間だったのだ。
daiは頬の痛みに気付いた。いつの間にか涙を流していたらしい。それが凍り付いていたのだった。涙をぬぐって静かに自分に言い聞かせる。
王になれなくても、この国のために尽くす道はいくらでもある。与えられた立場で自分ができることを精一杯すればよいのだ。
それでもnarかtakが王となり、臣下として自分が仕えるのだと想像するのは、耐え難い屈辱だった。このまま助かっても、自分の胸には一生埋まることのない空洞ができるだろう。
daiは魔法使いの顔を思い浮かべた。nik、こんな仕打ちをするほど私が憎かったか。
それからふと苦笑する。いや、彼は自分に大怪我をさせたり死なせたりすることもできたはずだ。足止めを食わせるだけなんて、随分優しいではないか。
ただ、少年の日からの夢だけを壊された。少年から青年へと成長する日々の中で、その夢を現実に手が届くところまで大きく膨らませてくれたのが彼だった。皮肉なことだな、daiはもう何もかもがどうでもよくなった。

ただ胸が痛く苦しかった。この辛さ、苦しさから早く解放されたかった。今度は乳兄弟のkumの顔が浮かんだ。
「癒しのkum」、特別な力を持つ彼女はそう呼ばれていて、幼い頃いつも自分の心の痛みを癒してくれていた。誰よりも優しい彼女が大好きで、自分はいつも少しのことでも彼女に泣きついて慰めてもらっていたっけ。
しかし成長するにつれ、彼女はその力を使ってくれなくなった。
「dai王子は王様になるお方ですから、心を強く持たなくてはなりません」
彼女はそう言っていた。でも、もういいんだ、kum。私はもう王になるわけではないのだから。私は自分の心が余りにも弱くて、王にふさわしくないことに気付いてしまったのだから。だからここに現れて、私の心の痛みや苦しみを全て拭い去って、早く楽にしておくれ。
光の失せた瞳で見るともなしに宙を見つめていたdaiの目の端に、人影が映った。雪が小花のように舞う只中にいるのは、確かにkumだった。穴の縁に屈んで見下ろしている。これも何かの魔法なのだ、daiはそう思って目を凝らした。   <つづく>

dai王子、今回が一番かわいそうかも。これ以上に悲惨な場面は多分ないと思うので、ドSな私を許して~。

氷の国の物語 6

2010-01-19 22:54:44 | 氷の国の物語
書くのが遅くてごめんなさい。ちっとも進みません。

<氷の国の物語 6>

第二の試練は早朝に始まった。前日のうちに旅装を調えた王子たちは、馬にまたがり王宮から北の山の中腹にある夏の離宮を目指す。この離宮にある水晶の珠を持って翌日の真夜中までに帰ってくること。それが今回の試練だった。
夏であれば馬で半日の距離であり、走り通しであれば往復してもその日の晩には帰ってこられる場所だ。
だが、冬は雪に閉ざされて訪れる者はいない山中だ。雪深い今、道のりは遅々として進まないだろうし、天候でも変わればどんな危険が待ち受けているかわからない。
前日、kumは母とともにdai王子の荷造りを手伝った。寒さを防ぐ旅装に、道中の食料に飲み物。kumは城の炊事場を借りて、薬草を焼き込んだパンと焼き菓子、薬草のお茶を用意した。こうしたものは王子の体を温め活力となるだろう。それに干し肉と果物を添えた。
馬に積める量ならば、旅の荷物は何をどれだけ持って行っても構わなかった。ただし、魔法の力を帯びたものだけは禁じられていた。
dai王子の従者として仕えるkumの弟は、王子の武具を磨き、普段よりも念入りに馬の世話をした。

三人の王子は城の人々に見送られ、同時に出発した。若者たちは第一の試練を受けるときよりもよほど楽しげに、快活な表情で馬を進めていく。森に入ると自然に三方に分かれた。
一緒に行動したり協力し合ったりしないこと、ただし互いの行動を妨げないこと、という決まりがあったからだ。水晶の珠は三つ用意されており、全員がこの第二の試練を通ることも可能だった。

dai王子は気楽に馬を進めていった。冬に訪れるのは初めてだが、夏であれば幼い頃から通い慣れた道だ。天気もよく、何の心配事も起こりそうもない。もし吹雪が起こったとしても、そんなときにはどうしたらいいのか王子たちは幼い頃から訓練を受けている。これはきっと一年の半分が冬のこの国で、雪や氷の世界に一人で対応できるかを試されているのだろう、そう考えた。
恐らく三人ともがこの試練に通るだろう。だができれば一番に帰って見せようと、daiは思った。だがあせって馬を飛ばしすぎてはならない。体力の配分を間違えることが死に繋がることもあるのだから。
雪が少ない木立で一度休憩を取り、食料を腹に入れた。薬草の効果なのか、体が温まるだけではなく心にも新たな力が湧く。

離宮には日暮れ前に着くことができた。雪の上にはまだ足跡はないから、一番に着いたようだ。馬を降りてつなぎ、渡されていた鍵で表門の錠前を開け、中に入っていく。夏には毎年のように母や姉、従兄弟たちと遊んで過ごした離宮は懐かしい場所だが、今は番人すらいず寒々としている。
広間の隅に置いてある小さな円卓に近寄ると、言われていたとおりその上に三つの水晶の珠があった。夏の間にはこんなものはなかったから、この試練のために最近誰かが用意したのだろう。
水晶は鶏の卵ほどの大きさだった。daiはそのうちの一つを手にとり、かすかに揺らして珠の奥底を覗き込んだ。何の変哲もないただの水晶であることを確かめると、腰に着けた皮袋の中に入れた。皮袋の中には最初からもう一つ球形のものが入っている。
それは旅立つにあたり、王から孫たちに渡されたのろし玉だった。命の危険を感じ、旅をそれ以上続けることができなくなったとき、こののろし玉を投げ上げれば、魔法の力が働いてどこで使ったとしても見つけ出され、助けが寄越されるというものだ。
魔法の力を帯びたものは一切禁じられていたが、大魔法使いの用意したこののろし玉だけはもちろん別で、絶対に肌身離さないようにと言い渡されていた。
こののろし玉を使うことは絶対にすまい、祖父の手から直接渡されたときからdaiはそう思っていた。のろし玉を使うとき、それはこの試練を自ら放棄したときなのだから。

夜を離宮で過ごし朝早く発ってもよい。daiは迷ったが、まだ日のあるうちに帰路を少しでも進めようと離宮を出た。雪の中で野営する訓練は積んでいる。門の錠前に鍵を掛けていると、nar王子が到着した。
「やあ!daiは早いね。水晶を三つとも持って行ってないよね?」
人のよさそうな笑顔を浮かべながら、話し掛けてくる。水晶については嫌味ではなく、冗談のつもりなのだろう。
「いや、悪いけど、三つとももらった」
daiは笑って馬に飛び乗る。
「それは反則だ、daiは失格になるぞ」
顔をゆがめて言うnarに、そんなことをするはずはないだろ、中を見て来い、と叫んでdaiは馬を駆けさせた。
すぐに今度はtak王子に会う。片手を軽く上げてあいさつし合い、速度を並足に落とす。
「今narが離宮の中にいるから、早く行かないと水晶を二つとも持って行かれるかも」
「narはそんなことはしないさ。失格になるってわかっているからね」
takは涼しい顔で答え、すれ違っていった。
自分が一番先に城に帰り着きたいが、従兄弟たちも無事にこの試練を終えてほしい。さらに先まで競い合いたいから。daiは従兄弟たちがライバルというよりは、同じ試練に立ち向かう仲間のような気しかしなかった。

日が暮れるまで馬を走らせ、夜は雪に穴を掘り持ってきた毛布にくるまってその中で眠った。天候はよく、夜の間に吹雪く心配はなさそうだ。馬には餌をやって、樹につないだ。一日中走らせた馬は疲れてはいるようだが、一晩経てば回復するだろう。
こんなに順調でいいはずがない、そんな気持ちがふと胸によぎったが、疲れ果てていたdaiはそのまま朝まで眠り込んだ。

まだ薄暗いうちに朝は起きて、馬も自分も腹ごしらえをするとdaiは出発した。狭い雪穴の中で丸まって眠ったせいか、疲れは残っている。
離宮に泊まったほうがよかったのかもしれない、そんな気持ちが浮かんだ。しかしnarやtakが離宮に泊まったなら、自分のほうが遥かに進んでいるはずだ。これでよかったのだ、daiはそう自分を励まし先を急いだ。
雪が降り出してきた。吹雪にならなければよいのだが、と不安に駆られた。自分はこの試練を少々甘く見ていたのかもしれない。だが条件は皆同じはずだ。daiは弱気になりそうな自分を励まし続け、進むことのみに意識を集中した。
しかし空は一層暗くなり、雪が一頻り激しくなったかと思うと、ふと目の前が歪んだような錯覚に襲われた。次の瞬間乗っていた馬が激しく跳ねて、何が起こったのかもわからぬままdaiの体は宙に投げ出された。   <つづく>

とんでもないところで終わると抗議を受けそうです。(汗)

昨日のプレゼント

2010-01-17 21:35:06 | 氷の国の物語
昨日頂いたプレゼントは、「氷の国の物語」のイラストです!
ゆゆんさんが贈ってくださいました!
見た瞬間、あまりに素敵なのでびっくりしました!
描写がいい加減なあの話からこんなに素敵な絵が描けるなんて、一番の魔法使いはきっとゆゆんさんですね。

3枚頂いたので、それぞれに合ったシーンの挿絵として使わせて頂きました。
使った場所はそれぞれこちら。すごく素敵なので、是非見てくださいね!

<氷の国の物語 1> dai王子がかっこよすぎです!
<氷の国の物語 3> 優しいkumと幼いdai王子、大好きなシーンです!
<氷の国の物語 4> siz姫もkumも美しい!
<氷の国の物語 5> 羨ましい2ショット。衣装の赤いお花付きです!(1月21日追加)

ゆゆんさんはまた描いてくださるかもしれないそう。
エヘヘ、とっても楽しみにしています!
ではゆゆんさん、こんなに素敵な嬉しいプレゼントを本当にありがとうございました~!

こんなに素敵なイラストを頂いたことだし、私も話の続きを書かねば。
でもちょっと今、全米の最中で~。(汗)
続きはもう少しお待ちください。

それと2周年のお祝いコメントをたくさんありがとうございました!
「かなり幸せ者ですね」by 大ちゃん、な気持ちです。

氷の国の物語 5 (イラスト付き)

2010-01-15 23:44:48 | 氷の国の物語
続き、お待たせしました。

<氷の国の物語 5>

王選びは三つの試練が課されることになっていた。
試練の始まりの日、六人の王子たちは正装して、王の執務室に集まるようにと言い渡されていた。何を申し付けられるのかと王子達は緊張した面持ちで王の前に並ぶ。王の横で担当の大臣が試練の内容を告げると、王子たちはやや拍子抜けした面持ちになった。
そして順番を決めるために王子たちはくじを引いた。nar王子はニ番、tak王子は五番、dai王子は最後の六番目を引いた。
最初の王子が役人に連れ出され、王も大臣も部屋を出て行く。残りの王子たちは執務室から出ることを許されず、役人に見張られながら自分の順番を待った。

城の正面の広場には、城内からだけでなく町からも人が集まっていた。前の晩に降り積もった雪が、朝日に照らされて輝いている。寒さにも関わらず、王選びを一目見ようと集まった人の群れには熱気がこもっている。
広場から城の二階へと続く階段の上の踊り場に大臣が姿を現し、これから王子たちが一人ずつ演説をするから、王にふさわしいと思うものに大きな歓声を上げ、手を打ち鳴らせと告げた。

王は大臣や大魔法使いなど信頼できる側近のみを集めて話し合い、王選びの試練を決めた。相談に使った王の執務室には大魔法使いが結界を張っていて、どんな魔法をも通さない。王子たちの母親や教育係りの魔法使いが、予め試練の内容を知ろうとしても漏らさぬように細心の注意がしてあった。
この第一の試練を考えたのは王だった。民衆の前でどの王子が王にふさわしいと思うか問うのは、王子たちが他の試練を乗り越え王に足ることを自ら証明してからでいいではないかと、家臣たちは反対した。しかし王は頑として譲らなかった。
三人の息子を失った年取った王の心の傷は深かった。戦場でならいざ知らず、王選びの試練などで孫の王子たちを一人として失いたくはなかった。
第一の試練で候補者を篩いに掛けることで、幼い者や王には向かない者を、王は傷つく危険から守りたかった。
王は厚い毛皮に包まれ、踊り場が見えるテラスから王子たちの様子を見守った。王子たちの母や姉妹も、魔法使いや乳母たちも背後に控える。kumもテラスの隅で、母と並んで王子たちが現れるのを待っていた。

緊張した面持ちで少年らしい声を張り上げてたどたどしく演説する一番目の王子に、大きな歓声は起こらなかった。
二番目はnar王子。姿を現しただけで、意外と歓声が上がる。黒を基調にし白い曲線の飾りを付けた上下の正装をまとっている。魔法使いnikは仕える王子や王女の服装にも細かく口をはさむ。あれはnikの趣味で、nar王子を大人っぽく見せようとしているのだろうかと、kumは考えた。
nar王子は剣の筋はいいが、演説などは得意ではない。ところがkumの予想とは裏腹に、nar王子は自分が王になったならば国のためにどれだけ尽くしたいかと、流麗に語り始めた。案の定、民衆からの歓声と拍手は大きい。中には熱狂して、「nar王子!nar王子!」と続けざまに名前を叫ぶ者もいる。
nar王子は予め第一の試練の内容を知っていたのではないだろうか、そんな疑いがkumの心に芽生えた。nor姫が王の側近を買収したか、魔法使いnikが大魔法使い以上の魔力を持ち始め結界を破ったのだろうか。しかし、日頃の王子の教育で演説に力を入れていたのだろうと、心の不安を打ち消した。
三番目、四番目の王子にも大きな歓声はなかった。

五番目はtak王子だった。姿を現すと民衆からはnar王子と変わらないほど歓声が湧く。三人の王候補の中では一番落ち着いた雰囲気の持ち主で、この王子を支持する者も多い。
ただdai王子よりも三つ年若いこの王子にはまだ少年らしさが残っていて、dai王子やnar王子と比べれば、国の指導者としては重々しさに欠ける。本人にもそれはわかっていると見えて、普段はdaiやnarに一歩譲っているところがある。
しかし生来の品のよさや考え深さに加え、最近急に鋭さを増した大人びた眼差しには人をはっとさせるものがある。この王子がdai王子かnar王子と同い年であったならば、または王選びが二、三年先であったならば、tak王子が王の最有力候補であったかもしれないと、kumが思ってしまうほどだ。
tak王子は若々しい情熱を強調するかのように赤い上着の正装をまとっている。年よりも大人びている王子は言葉を的確に選びながら、どんな国を作り上げたいかと語った。
nar王子に対するよりもさらに大きな歓声が起こった。

dai王子は王の執務室で自分に気持ちを集中させようとしていた。一人ずつ王子たちは役人に連れ去られ、この部屋に残っているのは自分と役人、そして部屋の片隅の肘掛け椅子に腰掛けている大魔法使いのみだ。dai王子が幼い頃からもう一人の祖父のようにかわいがってくれていた大魔法使いだが、今日は一言も口を聞かない。目を閉じ、時々長い髭をしごいている。だが、大魔法使いには広場の情景が見え、王子たちの演説も人々の歓声も聞こえているのだろう。王子たちの出番を察し、役人に指示を出して一人ずつ王子を連れ出させているのは大魔法使いだった。
他の王子が一人もいなくなった今、daiは大魔法使いと同じ部屋にいることに息苦しさを覚えた。他の王子はどう演説をしたのだろう。それに対する人々の反応はどうだったのだろうか。余計なことを考えてしまい、これではいけないと自分の弱い心を叱り付け、王になって何がしたいのか、どんな国にしたいのかと考えることに集中していく。すでに答えは自分の中にできあがっているはずだった。あとはそれを人々の前でうまく言葉にするだけだ。演説はそれほど得意ではない。しかしやるしかなかった。
大魔法使いが顔を上げ、杖を軽く打ち鳴らして役人に合図を送った。daiは役人に連れられて部屋を出た。

「信じる力と信ずる力」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

演説の順が最後なのは、考えをまとめるのにはよさそうだが、他の王子が同じようなことをすでに語った可能性もあり、一長一短だとkumは思っていた。
dai王子は黒地に大輪の赤い花を散らした豪華な上着の正装をまとって現れた。こんなに派手な服装が似合うのはdai王子ぐらいのものだろう。
dai王子が踊り場に立つと、それだけでこれまでにはなかったほどの歓声と拍手が湧き上がる。どれだけdai王子が人々に愛されているのかが、それだけで伝わってくる。
しかしこの第一の試練は単に人気を計るためのものではない。王たるものは、民衆の支持を得るのと同時に、説得力ある言葉で人々を従わせ導くことが大切だ。
判定を下す王や重臣たちは、民衆の反応だけでなく、無論王子自身の態度や演説の内容からも判断を下す。何をどう語り、それがどう人々の胸に響いたかが何よりも大切だった。
dai王子は自分に向かってくる人々の熱気に臆することなく、静かに語り始めた。
まずはこの国の現状を訴えた。それをどう変えていけばよいのか、この先どんな国にしていきたいのかと語った。そしてこの国のために自分は生涯を捧げるから、人々にも出来得る限りの協力を願いたいと締めくくった。
この国に対する憂いや愛情が込められた、心に染み入る言葉の数々だった。王子の言葉が終わると一瞬の静寂があり、それから割れるような拍手と地響のような歓声が湧き上った。男たちはかぶっていた帽子を、女たちは手にしていたハンカチや肩に掛けていたショールを放り上げ、それが晴れ渡った空に色とりどりの花のように舞った。
王子は両手を広げて歓声に応え、この日の空のような澄み切った笑顔を浮かべていた。

しばらくあって、大臣を通して発表があった。dai、nar、takの三王子が、第二の試練に進む、次の試練は二日後であると。   <つづく>

地味すぎる試練で申し訳ない。王様が孫達に優しすぎるのよ。気持ちはわかるけど。(汗)
なぜFSの滑走順でSP衣装なのかというと、こちらの衣装のほうが描写しやすいし、映えるから。(笑)

氷の国の物語 4 (イラスト付き)

2010-01-12 23:01:00 | 氷の国の物語
まだまだ続きます。しつこく続きます。

<氷の国の物語 4>

城に着いたkumは、まず次期王の選定に関わる一切を任されている大臣にマントを納めると、あいさつをするためにdai王子の元へと行った。
dai王子は城の中庭で剣の稽古をしていた。普段の派手な服装ではなく、飾り気のない黒の上下の稽古着に身を包み、剣をふるう姿にはいつもとは違った精悍な男らしさが漂う。
剣を交えているのは姉のsiz姫。普段は豊かに肩に垂らしている長い髪を後ろで一つに束ね、男物の白いシャツに黒いパンツに膝までのブーツ姿。長身で凛々しい顔立ちのsiz姫にはこの姿がよく似合った。
この国ではたしなみのうちの一つとして姫君にも馬術や武術を習わせたが、何をしてもsiz姫は筋がよく、中でも剣術を好んだ。
だがお互い大人になった今、剣では全く弟に敵わない。siz姫が必死で打ち込むのを、dai王子はうまくあしらって相手をしている。
もちろん二人とも練習用の刃をつぶした剣を使っているが、わずかでも体に当たれば痣になる。優しいdaiが姉に怪我をさせないよう細心の注意を払っていることは、傍目にも見てとれた。

ひとしきり打ち合うと二人は剣を止め、邪魔にならないように少し離れて見ていたkumのほうにやってくる。
「まあ、kumじゃない。久し振りね。マントを持ってきたのでしょう?見せてちょうだいな」
侍女が手渡した布で無造作に汗をぬぐいながら、siz姫は気さくに声を掛けてくる。
「申し訳ございません。すでに大臣閣下に預けて参りました。こちらへ先にお持ちすればよかったのに、気が利きませんでした」
小腰をかがめてkumは返事をした。持ってこればdai王子にマントが完成したところを見てもらえたのにと、自分の迂闊さが情けなくなる。
「いいじゃないですか、姉上。大臣に言えばいつでも見られますよ」
「そうね、それに戴冠式であなたが纏うまで待つっていうのも一興ね」
「私が纏うと決まっているわけじゃありません」
「dai王子、何を情けないことを言っているの。自分が王になるという気迫でいないと、王になることはできません。常に自分が王になるんだという気持ちでいなさい」
優しすぎる性格の弟を、幼少の頃より不甲斐なく思っていたsiz姫は手厳しい。
「お言葉、この胸に留めておきます」
dai王子は右手を左胸に置き、優雅に会釈した。そんな美しい姉弟の姿にkumは見とれた。

「氷の美女」とも称されるsiz姫は、容姿端麗、才気煥発、何をしても優れていて、この姫が王子であったなら、最も国王にふさわしかったのにという声が今でも聞こえてくるほどだ。
今は剣の稽古のために男装をしているが、髪を結い上げ華やかなドレスを纏って宮廷の晩餐に出れば、万人が振り返るほどの艶やかさ。容姿と教養を武器に外国からの客人を魅了し、随分この国の外交を助けてきた。
当然外国の王や王子からの縁談は多いが、siz姫は中々首を縦に振らない。kumと同様にとっくに嫁いでいていい年頃だ。周囲が案ずる中、siz姫は遂に隣の大国の王との婚姻を承諾した。
ただし条件を付けた。この国の新しい王が決まり、戴冠式が終わるまでは待ってほしいというものだ。
siz姫もdai王子とこの国の行く末が心配でたまらないのだろう。身分や立場は違うものの、kumにはsiz姫の気持ちが痛いほどわかった。
siz姫ならば、隣国の王妃となった後もこの国を気にかけ、外から助けてくれるはず。姫はこの国の王にはならずとも、自分自身を最大限に生かす方法を知っていた。しかもそれはこの国のためになるだけでなく、大国の王妃として彼女自身の人生をも輝かせるに違いない。siz姫は何をしても常に鮮やかだった。

「私はもう少し剣を励むことにします。従兄弟たちに剣で負けたくはないからね」
dai王子はそう言うと、控えていた剣の指南役に相手をするように目で合図した。
「私が相手じゃ不満だったんでしょ」
siz姫は不満そうに言う。
「いいえ、ほどよく体が温まりました」
dai王子はあくまで姉を立てるが、王子自身の練習にならなかったことは明白だ。
王選びの試練に何を課されるのか、王子達はまだ何も知らされてはいない。だが祖父である今の国王が選ばれたときには、剣の勝ち抜き試合で決められたという。剣の腕だけは磨いておいたほうがいいだろうと、どの王子も剣の稽古に精を出していた。

dai王子の剣の指南役は、まだ若いが戦場で数々の武勲を立てた国の英雄だった。だが戦場での怪我が元で一時的に軍を離れる。傷が癒えた頃、城から頼まれてdai王子の剣の相手を務めるようになり、そのままdai王子の剣の指南役に収まった。時折戦場が恋しく、軍に戻って立身を極めたい想いに駆られるが、今はdai王子から離れることはできない。
人を惹きつける不思議な魅力を持つ王子だった。この王子のために何かしたいと人に思わせてしまう。いつの日か軍に戻るにしろその前にこの王子を王に押し上げ、命を懸けるに値する主君のために戦場で戦えたなら、それが指南役の願いだった。
dai王子のほうでもそれほど年が離れていない指南役を、兄であるかのように頼りにしていた。頑固なところもある王子だが、こと剣に関しては指南役の助言を素直に聞き入れ、剣の腕は急激に上達していた。

王子と指南役は笑顔で互いに歩み寄ったが、向き合って剣を構えた瞬間、場は一変した。
そこにいるのは先ほどまでの温和なdai王子ではない。別人かと思うほど目付き鋭く、体から発散される気合が空気を通して見物人の肌にまで伝わってくるほどだ。
対する指南役は落ち着き払ったまま。しかし油断なく王子を見据える。王子が相手の稽古でも、手加減する気は毛頭ないのだろう。
王子と指南役は激しく切り結んだ。どちらも足に古傷を抱えているはずだが、そんなことを微塵も感じさせない素早さで目まぐるしく動き回り、剣を何度も打ち合わせる。
こんなに激しい若者だったのだろうか。siz姫と並んで見守りながらkumは圧倒されていた。王選びの試練を前に王子の心も体も準備が整い、気力が充実しているのだろう。本番さながらの気迫からは、言葉以上に玉座に対する王子の意思が伝わってくる。
王子自身がまるで一本の剣のようだ。そうkumは感じた。下手に触れたらすぱりと切られてしまうような、鋭く、それでいて美しい抜き身の剣。決して触れることのできない剣。
それにも関わらず、一区切り付けてこちらを振り返った王子は、すでにいつもの親しみやすい笑顔の優しげな若者で、kumはどちらが本当の王子かわからなくなった。

「心の中で祈るkumとsiz姫」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

<つづく>

個人的には、3人のイマイチ頼りなげな王子達よりも、siz姫のほうがかっこいいんじゃないかと思います。
でも今回の後半では、dai王子も少しはかっこいいんじゃないかと自画自賛。(笑)
次回からやっと王選びの試練に入ります。

氷の国の物語 3 (イラスト付き)

2010-01-11 20:24:11 | 氷の国の物語
kumさん、改めてお誕生日おめでとうございます!
そしてkumさんと、混乱させちゃった皆様、ごめんなさい!

<氷の国の物語 3>

kumはマントを織り急いでいた。マントは戴冠式までに仕上げて城に納めればよい。しかし彼女にはマントを急いで仕上げたい理由があった。
そのため寝る間も惜しんで織り続け、体調を崩してしまうほどだった。一緒に暮らす父親が心配したが、医術にも通じているkumは自分で薬草を煎じて飲み、治してしまった。
織り上げた布地の縦糸を切って織り機から外すと、それをきめ細かな針目で縫い、布地と同じ糸をよって紐を作り形を整えて房飾りとし、マントを仕立て上げた。
マントが仕上がった翌朝、kumは自分の身の回りの物と一緒にまとめた荷物を担ぎ、家を出た。歩きでも昼には城に着けるだろう。
短い夏は終わり束の間の秋を経て、季節は冬の初めへと入っていた。山々は白く輝き、平地のこの辺りでもすでに初雪は降り、道すがらそれが所々斑になって残っていた。もうしばらくすればどこもかしこも厚く雪が積もり、一面白銀の世界に覆われてしまうだろう。
過ごしやすい夏ではなく、この時期に王選びの試練を行うということに、kumは不安を感じていた。

kumの年頃では他の娘達はとっくに嫁ぎ子供を儲けていたから、両親からそろそろ嫁ぐように言われていた。そんなとき、好きな人がいないから興味ないわ、と答えたり、私が嫁いだら父さんが一人になっちゃうでしょ、などと言ってkumははぐらかしていた。
母親と弟は城でdai王子に仕えているから、kumが嫁げば確かに父親は一人になる。しかし母親がdai王子のお側で身の回りの世話を続けるのも、もう長くはないだろう。母親はdai王子が王になり妃を娶れば、後のことは妃に託して城から暇をもらうつもりだと言っていた。
kumには織物と医術の腕があったから、一生独りで暮らしていくことができた。それで両親はkumの口実をそれ以上追及しなかった。
近隣の村や町に住む若者でも、城勤めの若者でも、kumに言い寄ってくる者はいたし、kumも自分の夫や子供を持ちたくないわけではなかった。
ただ、今はそんなことは考えられなかった。きっとdai王子が妃を娶れば、その後ならば自分も心に区切りを付け相手を見つけられるだろう、kumはただそう思って自分の先のことは考えないようにしていた。

dai王子は王になった暁には美しい妃を娶るだろう。可愛らしい王子や王女が次々と生まれることだろう。kumの胸に幼い頃のdai王子の面影が浮かんだ。
幼いdai王子は、本当に愛らしい子供だった。大きな目にふっくらとした頬と唇。何とも言えない愛嬌ある顔立ちで見る者を惹きつけ、そのくせ本人は泣き虫の弱虫でしょっちゅう泣きべそをかいていた。
姉や従兄弟達にいじめられた、厳しい先生や乳母に叱られた、苦手な虫が出て怖い、そんなことを大きな瞳一杯に涙を溜めて一々訴える王子を、kumは姉らしい態度でなぐさめ、ぎゅっと抱きしめた。
すると王子の心の傷は瞬時に消え、輝くような笑顔でkumを見上げてはしゃぐ。そんな王子が可愛くて、王子の役に立てたことが嬉しく誇らしくて、kumはいつも王子の心の傷を癒してやった。

「小さな弱虫daiと優しく暖かいkum」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

だがあるときこれを母親に咎められた。kumの癒しの力は母譲りだが、母のものよりずっと強い。だから母はすぐにはkumのしていることと、その害に気付かなかったのだろう。
「もうおまえのその力をdai王子に使ってはいけません」
王子の乳母である母はそうはっきりとkumに告げた。
「王子にだけではない。その力を使っていいときと悪いときの区別が付けられるようになるまで、その力は封じ込めておきなさい」
そのときに受けた衝撃を、kumは今でもはっきりと覚えている。母の言葉はそれこそkumの心の傷になったし、人の心の痛みを癒すことがなぜ悪いのかと反発もした。
だが成長するにつれてkumには母親の言葉が理解できるようになっていった。力を禁じた訳を説明しなかったのが、幼い娘に対する気遣いだったこともわかった。
daiは体こそ小さめだったが、頭は利発だし体も丈夫ではしこい。ただ心だけが同じ年頃の他の子供たちよりも少し幼く、いつまでも弱虫だった。
このことを思い出すとき、kumは罪悪感に駆られる。
人の精神の成長に、心の痛みや苦しみは不可欠だ。心の疼きや苦しみに葛藤し、自身で乗り越えていくことで人は大人になっていく。
心に痛みや苦しみが生まれた瞬間に拭い去ってしまうことで、kumはdai王子の心が成長する機会を奪っていたのだ。
その後dai王子が順調に成長し、外見だけでなく内面もたくましい若者に育っていくのをkumはほっとして見守っていた。
そして大人になるに連れて、自分の癒しの力の用い方もわかっていった。大切な人を亡くすなど、自分では乗り越えることもできないほど大きな不幸に見舞われ、生きる力を失った人々には、必要とされ感謝される力だった。
この力は用い方さえ誤らなければ、やはり人々に必要とされる力なのだ。kumは自分自身の生まれながらの力に誇りを取り戻した。
だが王子を守りたいという気持ちは消えない。ならばせめて体が傷を負ったとき、病を得たときに治してやりたいと、kumは近所の魔法使いや魔女に習い、徐々に医術を身に付けていった。

dai王子が魔法使いnikに付けられた心の傷が、右足の傷と共に癒えていったとき、母はkumが癒しの力を使ったのではないかと疑っていたようだった。
だがこれは違った。kumは足の傷の治療と、体が活力を取り戻すように薬草を煎じた薬を飲ませただけで、心に関しては特に何もしなかった。心おきなく話せる乳兄弟として、治療の合間に話し相手になっただけだ。
王子といるkumには、彼の苦しみが手に取るように伝わっていた。kumさえその気になれば、王子の心の苦しみを取り除いてやることができる。それができるのに、じっと見守るだけでい続けるのは辛かった。だがkumは王子を信じて耐えた。
王子の心の傷が癒え元のような快活さを取り戻したのは、一度どん底まで落ちた王子の心が、苦しみ抜いたあげく自ら解決を導き出し、一回り大きくなって戻ってきたからだった。
今の王子にはnikといたとき以上の度量の大きさがある。試練を乗り越えることで、王にふさわしい器量を身に付けたのだ。   <つづく>

話が全然進みません。しかし幼いdai王子は余りにかわいいので、外せませんでした。(笑)