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氷の国の物語 5 (イラスト付き)

2010-01-15 23:44:48 | 氷の国の物語
続き、お待たせしました。

<氷の国の物語 5>

王選びは三つの試練が課されることになっていた。
試練の始まりの日、六人の王子たちは正装して、王の執務室に集まるようにと言い渡されていた。何を申し付けられるのかと王子達は緊張した面持ちで王の前に並ぶ。王の横で担当の大臣が試練の内容を告げると、王子たちはやや拍子抜けした面持ちになった。
そして順番を決めるために王子たちはくじを引いた。nar王子はニ番、tak王子は五番、dai王子は最後の六番目を引いた。
最初の王子が役人に連れ出され、王も大臣も部屋を出て行く。残りの王子たちは執務室から出ることを許されず、役人に見張られながら自分の順番を待った。

城の正面の広場には、城内からだけでなく町からも人が集まっていた。前の晩に降り積もった雪が、朝日に照らされて輝いている。寒さにも関わらず、王選びを一目見ようと集まった人の群れには熱気がこもっている。
広場から城の二階へと続く階段の上の踊り場に大臣が姿を現し、これから王子たちが一人ずつ演説をするから、王にふさわしいと思うものに大きな歓声を上げ、手を打ち鳴らせと告げた。

王は大臣や大魔法使いなど信頼できる側近のみを集めて話し合い、王選びの試練を決めた。相談に使った王の執務室には大魔法使いが結界を張っていて、どんな魔法をも通さない。王子たちの母親や教育係りの魔法使いが、予め試練の内容を知ろうとしても漏らさぬように細心の注意がしてあった。
この第一の試練を考えたのは王だった。民衆の前でどの王子が王にふさわしいと思うか問うのは、王子たちが他の試練を乗り越え王に足ることを自ら証明してからでいいではないかと、家臣たちは反対した。しかし王は頑として譲らなかった。
三人の息子を失った年取った王の心の傷は深かった。戦場でならいざ知らず、王選びの試練などで孫の王子たちを一人として失いたくはなかった。
第一の試練で候補者を篩いに掛けることで、幼い者や王には向かない者を、王は傷つく危険から守りたかった。
王は厚い毛皮に包まれ、踊り場が見えるテラスから王子たちの様子を見守った。王子たちの母や姉妹も、魔法使いや乳母たちも背後に控える。kumもテラスの隅で、母と並んで王子たちが現れるのを待っていた。

緊張した面持ちで少年らしい声を張り上げてたどたどしく演説する一番目の王子に、大きな歓声は起こらなかった。
二番目はnar王子。姿を現しただけで、意外と歓声が上がる。黒を基調にし白い曲線の飾りを付けた上下の正装をまとっている。魔法使いnikは仕える王子や王女の服装にも細かく口をはさむ。あれはnikの趣味で、nar王子を大人っぽく見せようとしているのだろうかと、kumは考えた。
nar王子は剣の筋はいいが、演説などは得意ではない。ところがkumの予想とは裏腹に、nar王子は自分が王になったならば国のためにどれだけ尽くしたいかと、流麗に語り始めた。案の定、民衆からの歓声と拍手は大きい。中には熱狂して、「nar王子!nar王子!」と続けざまに名前を叫ぶ者もいる。
nar王子は予め第一の試練の内容を知っていたのではないだろうか、そんな疑いがkumの心に芽生えた。nor姫が王の側近を買収したか、魔法使いnikが大魔法使い以上の魔力を持ち始め結界を破ったのだろうか。しかし、日頃の王子の教育で演説に力を入れていたのだろうと、心の不安を打ち消した。
三番目、四番目の王子にも大きな歓声はなかった。

五番目はtak王子だった。姿を現すと民衆からはnar王子と変わらないほど歓声が湧く。三人の王候補の中では一番落ち着いた雰囲気の持ち主で、この王子を支持する者も多い。
ただdai王子よりも三つ年若いこの王子にはまだ少年らしさが残っていて、dai王子やnar王子と比べれば、国の指導者としては重々しさに欠ける。本人にもそれはわかっていると見えて、普段はdaiやnarに一歩譲っているところがある。
しかし生来の品のよさや考え深さに加え、最近急に鋭さを増した大人びた眼差しには人をはっとさせるものがある。この王子がdai王子かnar王子と同い年であったならば、または王選びが二、三年先であったならば、tak王子が王の最有力候補であったかもしれないと、kumが思ってしまうほどだ。
tak王子は若々しい情熱を強調するかのように赤い上着の正装をまとっている。年よりも大人びている王子は言葉を的確に選びながら、どんな国を作り上げたいかと語った。
nar王子に対するよりもさらに大きな歓声が起こった。

dai王子は王の執務室で自分に気持ちを集中させようとしていた。一人ずつ王子たちは役人に連れ去られ、この部屋に残っているのは自分と役人、そして部屋の片隅の肘掛け椅子に腰掛けている大魔法使いのみだ。dai王子が幼い頃からもう一人の祖父のようにかわいがってくれていた大魔法使いだが、今日は一言も口を聞かない。目を閉じ、時々長い髭をしごいている。だが、大魔法使いには広場の情景が見え、王子たちの演説も人々の歓声も聞こえているのだろう。王子たちの出番を察し、役人に指示を出して一人ずつ王子を連れ出させているのは大魔法使いだった。
他の王子が一人もいなくなった今、daiは大魔法使いと同じ部屋にいることに息苦しさを覚えた。他の王子はどう演説をしたのだろう。それに対する人々の反応はどうだったのだろうか。余計なことを考えてしまい、これではいけないと自分の弱い心を叱り付け、王になって何がしたいのか、どんな国にしたいのかと考えることに集中していく。すでに答えは自分の中にできあがっているはずだった。あとはそれを人々の前でうまく言葉にするだけだ。演説はそれほど得意ではない。しかしやるしかなかった。
大魔法使いが顔を上げ、杖を軽く打ち鳴らして役人に合図を送った。daiは役人に連れられて部屋を出た。

「信じる力と信ずる力」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

演説の順が最後なのは、考えをまとめるのにはよさそうだが、他の王子が同じようなことをすでに語った可能性もあり、一長一短だとkumは思っていた。
dai王子は黒地に大輪の赤い花を散らした豪華な上着の正装をまとって現れた。こんなに派手な服装が似合うのはdai王子ぐらいのものだろう。
dai王子が踊り場に立つと、それだけでこれまでにはなかったほどの歓声と拍手が湧き上がる。どれだけdai王子が人々に愛されているのかが、それだけで伝わってくる。
しかしこの第一の試練は単に人気を計るためのものではない。王たるものは、民衆の支持を得るのと同時に、説得力ある言葉で人々を従わせ導くことが大切だ。
判定を下す王や重臣たちは、民衆の反応だけでなく、無論王子自身の態度や演説の内容からも判断を下す。何をどう語り、それがどう人々の胸に響いたかが何よりも大切だった。
dai王子は自分に向かってくる人々の熱気に臆することなく、静かに語り始めた。
まずはこの国の現状を訴えた。それをどう変えていけばよいのか、この先どんな国にしていきたいのかと語った。そしてこの国のために自分は生涯を捧げるから、人々にも出来得る限りの協力を願いたいと締めくくった。
この国に対する憂いや愛情が込められた、心に染み入る言葉の数々だった。王子の言葉が終わると一瞬の静寂があり、それから割れるような拍手と地響のような歓声が湧き上った。男たちはかぶっていた帽子を、女たちは手にしていたハンカチや肩に掛けていたショールを放り上げ、それが晴れ渡った空に色とりどりの花のように舞った。
王子は両手を広げて歓声に応え、この日の空のような澄み切った笑顔を浮かべていた。

しばらくあって、大臣を通して発表があった。dai、nar、takの三王子が、第二の試練に進む、次の試練は二日後であると。   <つづく>

地味すぎる試練で申し訳ない。王様が孫達に優しすぎるのよ。気持ちはわかるけど。(汗)
なぜFSの滑走順でSP衣装なのかというと、こちらの衣装のほうが描写しやすいし、映えるから。(笑)