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男子シングルが好きです。

ルールって

2008-03-28 23:49:41 | フィギュアスケートその他
私はけっこう立ち直りが早いのか、今回の世界選手権の大ちゃんのことはほぼ吹っ切れました。でもここ数日もやもやしているものがあります。それは今回の4回転論争のこと。ずっと書きたいと思っていたけれど、ためらいがあって書けずにいたから。でも書かないと今回の世界選手権から完全に頭を切り替えることが無理なようなので、書くことにします。この話題が不愉快な方は読まないでください。
書きたいと最初に思ったのがスポーツナビの記事を読んだ24日の晩。そのときに、4回転論争の存在を知りました。そして高橋大輔が4回転と美しいスケーティング、二つの至宝をともに得た者として世界チャンピオンになる責任がある、という青嶋ひろのさんの言葉でかなり立ち直りました。
しかし立ち直ると同時に疑問が起こりました。現実として、大ちゃんのように二つの至宝を持つ選手ばかりが優勝し続けることはできないし、年毎に色々なタイプのチャンピオンがいてもいい。例えば今年のジェフのように4回転なしのチャンピオンも。チャンピオンになった記者会見の場で、いわば優勝にケチを付けられたような形になったジェフを私は擁護したくなりました。
そして今日目にしたJスポの田村明子さんの「記者会見レポート」(『大会のみどころ』の欄にあります。)は、今回の論争を収めるような納得のいくもので、私の思っていたことを代わりに言ってもらえたような気持ちになりました。でもやっぱり自分の言葉でも書きたい気持ちは残っています。
現行の採点方式の下で「4回転」か「美しいスケーティング」か、どちらの持ち主がチャンピオンにふさわしいかを論ずるのは無意味な気すらします。ご存知のように新採点方式では点数を加算していき、一番多く点数を稼いだ者が勝ちです。旧採点方式であれば、ジェフとジュベール、2人のどちらの演技がチャンピオンにふさわしいかは論議の対象となり得たでしょう。
発端になったジュベールの言葉は、4回転に対する点数を上げて欲しいという採点方式に対する要望からくるものでした。確かに4回転に挑み失敗した場合に得られる点数の余りの少なさを考えると、リスクが大きすぎます。私も4回転は大好きでこれからも選手たちに挑戦し続けてもらいたいと思うので、ジュベールの意見に基本的に賛成です。ただ発言の場所・タイミングが悪すぎただけなんですよね。
ジュベールの発言が今回の勝敗への疑念から来るものだとは思いたくありません。それはプロトコルを見れば氷解します。

ジェフ(総合1位SP1位FS1位)とジュベール(総合2位SP6位FS2位)のFSを比較してみました。ジャンプ、スピン、ステップ、PCSの4つに分けて見てみます。

まずジャンプを跳んだ順に並べてみます。
ジェフが跳んだジャンプは、3A-2T-2Lo,3F-3T,3A,3Lz-2T,3Lo,3S,2A,3Lzの8つで、合計72.24です。
ジュベールが跳んだジャンプは、4T,3S,3A,3F-3T,3Lz,3Lo,3F,2A-1Tの8つで、合計56.90です。
結論からいくと、2人の点数差が最も開いたのがジャンプで、ジェフの点が高くその差は5.34です。2人とも前半に3つ、後半に5つ跳んでいます。
ジャンプの基本ルールはこうです。「同じ種類の3回転以上のジャンプは2種類を2回まで」、「ジャンプコンビネーションは3つまで」。
ジェフの跳んだジャンプを見てみてください。コンビネーションを3つ跳んでいるだけでなく、3Aと3Lzを2回ずつ跳んでいます。つまり、4回転を入れなかった場合の最高難度のジャンプ構成なのです。しかもクリアに、1つ以外は全て加点をもらって跳んでいます。加点がもらえなかったジャンプもGOEは0.00です。
ジュベールのコンビネーションは2つです。3回転以上のジャンプは3Fを2回跳んでいるほかは、4Tと残り5種類のジャンプを1回ずつです。最後のコンビネーションは2A-3Tのつもりで跳んだと思われます。成功していれば3Fと3Tが2回ずつですね。3Fは2つともエッジマークが付いています。4Tが1本入っているほかはジェフと比べて見劣りするように感じます。

次にスピンとステップ。
ジェフは全てのスピンでレベル4を取り、合計は14.43です。
ジュベールのスピンはレベル3が1つ、レベル2が3つで、合計は9.44です。
ジェフがジュベールより4.99高い点数を取っています。
ステップはジェフもジュベールもレベル3を2つずつ取っています。
合計はジェフが7.62、ジュベールが7.77で、ジュベールが0.15高い点数を取っています。
TESを比べるとジェフが84.29、ジュベールが74.11で、その差は10.18です。

次にPCSを見てみましょう。
ジェフは 7.89 7.75 7.86 7.89 8.00 合計39.39で、FSでは2倍されるのでPCSは78.78です。
ジュベールは 8.04 7.64 8.07 7.89 8.04 合計39.68で、FSでは2倍されるのでPCSは79.36です。
ジュベールがジェフより0.58高い点数を取っています。
トップ選手ではPCSがTESに連動して出ることが多い中、TESに10点以上差がありながら、8点台はジェフ1つ、ジュベール3つ。
特に注目して欲しいのは、「4回転」か「美しいスケーティング」かの根拠のうちの1つである“Skating Skills”でジュベールが勝っている点です。
やはりこれは“地の利”が少々働いたのでしょう。それと私の推測ですが、あのときのジュベールの演技は強さが際立ちながら、ジャンプ構成の密度が甘く意外と点数が伸びませんでした。ジャッジは彼の演技から得た印象をPCSに反映させたのでしょう。
FSの点数全体の合計ではジェフが163.07、ジュベールが153.47、その差9.6です。
SPの点を加えると、差はさらに開きます。

このブログを読んでくださるのは大ちゃんファンが多いので、FS6位の彼のプロトコルも計算してみました。
跳んだジャンプは、4T,4T(ダウングレード、転倒) ,3A,3A(お手つき),3F-3T,3S,3Lo,3Lz-2T(無効)で、合計は43.07です。
スピンはレベル4が3つ、レベル3が1つで合計13.09です。
ステップは2つともレベル3で合計7.99で、これは全選手中1番高い点です。
PCSは 7.82 7.39 7.57 7.75 7.75 で合計は38.28で、FSでは2倍されるので76.56、これはジュベール、ジェフに次ぐ3番目に高い点です。
TESは64.15、PCSは75.56、Deductionが1でFSの得点は139.71です。
プロトコルを見ながら手元のメモ用紙にこれを書き写したのは25日です。そのときに4T,4T<SEQ,3A,3A+SEQ・・・と書きながら思わず涙がにじみました。調子が悪いとわかっていた中で、大ちゃんは最高のものを見せてくれようとしていたのだと改めて感じて。
ある意味、男としてかっこよすぎるんじゃないか?その瞬間、今までにないほど世界選手権の大ちゃんをかっこいいと思いました。そして世界選手権の録画を平気で見られるようになり完全に立ち直ることができたのです。

今日中日スポーツで、ルールが改正される可能性が高いとのニュースがありました。5種類の3回転ジャンプにボーナス得点を与えるとの内容です。
一競技の採点法だろうが、法律だろうが、人間が定めるルールに完璧なものはないと私は思っています。ISUがそれを「改正」だと信じるのであれば「改正」すれば良いでしょう。
5種類の3回転ジャンプにボーナス得点を与えるのであれば、6種類の3回転ジャンプにはさらに高い得点が与えられてしかるべきだと私は考えます。特定の選手の有利不利を狙ったものであれば、それは「改悪」でしかありません。それに何より人としての良心がとがめないのでしょうか。