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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『経済の考え方がわかる本』新井明・新井 紀子・柳川 範之・e‐教室 (著)

2007年03月15日 | Book

             夕方の遊具


『経済の考え方がわかる本』(岩波ジュニア新書)という本を読みました。

私は大学は経済学部だったにもかかわらず、経済学はちんぷんかんぷんです。数式は分からないし、数式を省いた経済学の本を読むのも苦手です。そういう私にとっても、経済と経済学の考え方の初歩的な部分を分かりやすく説明してくれるこの本は、とても読みやすかったです。経済学の専門的な入門書(?)を読んでも、その内容を現実の経済を考える際に頭の中で応用することは難しいですが、この本の内容であれば、例えば新聞の経済欄のトピックを見て、「あっ、これはあの本のああいう考え方で考えればいい問題だな」と思えるかもしれません。

この本に経済問題の答えは書かれていないと思います。むしろ、この本は経済について具体的な分析するというよりも、経済について考える際の《考え方》の基礎を中学・高校生に分かりやすく書いた本です。


僕がこの本を読んで「あっ、そうかぁ」と思ったのは、需要曲線と供給曲線についての著者の説明でした。

需要曲線とは、ある商品がある値段の場合にその商品はどれだけの数が市場で需要されるかをグラフで示したもの。供給曲線は、どれだけの数が市場で供給されるかを示したものです。

頭ではこの説明では分かった気になるし、実際にグラフを見せられてなるほどと一応思ったりしますが、数式や図形の考え方に馴染めない私は、人間の行動をグラフで説明されても本当は納得していません。

しかし著者たちは、需要曲線と供給曲線を次のように言います。

「「需要曲線」とは、ある値段だったら買ってもいいと思う人の気持ちをグラフにしたものです。「供給曲線」とは、ある値段だったら売ってもいいと思う人の気持ちをグラフにしたものです」(p.38)。

その場合の「気持ち」とは、需要側からすればできるだけ安い品物が欲しいという気持ちであり、供給側からすればできるだけ高く品物を売りたいという気持ちです。だから、値段が高い場合では需要は少なく供給は多くなり、値段が低い場合ではその反対になります。そしてその間の値段では、お互いの曲線は交差するように線を描きます。そして現実の価格は、需要と供給が一致する点になると考えられます。

このような曲線は、やはり具体的なモノを売る経済が主流だった時代の考え方なのでしょうね。知識を売る時代になればなるほど、買う側は値段の高い安いに左右されずに商品を選ぶようになります。

具合的なモノ(食糧)は、デフレの影響を受けて、消費者は安いものを確かに求めています。しかし知識・情報・サーヴィスといった商品に関しては、消費者は必ずしも安いものを求めません。むしろ高いからこそ、その情報を買うということも考えられます。経営コンサルタントが経営者向けのセミナーで二日間50万円という値段を設定し、それに申し込みが殺到するという事態は、従来の需要供給曲線では考えられないように思います。

その際には、「これまでのお金とは別の使い方をする」=「これまでとは別の行動を取る」という体験も、そのセミナーのサーヴィス内容に含まれていると考えることができます。そのような購買体験自体がサーヴィスの内容になっているのです。その場合、そこで何が得られたかということは不明確であるため、そこで得たものの値段の適正な額というものは主観に左右されることになります。客観的に見て適正な額というものが存在しない以上、供給者は可能性としては無限に値段を引き上げることが可能になります。

いわゆる「富裕層ビジネス」というものも、値段が高いこと自体が一種のサーヴィスとなっているとも言えるかもしれません。

このことは、この本で説明されている「機会費用」という概念を考える際にも当て嵌まると思います。

「機会費用」“opportunity cost”とは、ある選択をする際に、その選択をすることでどういう別の選択肢を犠牲にしたかを示す概念です。つまり、150円のドリンクを買うことは、そのお金で別のものを買ったときに得られる効用を犠牲にしていることを意味します。

この効用も、知識・情報・サーヴィスが経済の主流になっている今の時代では、容易には測り難いものとなっています。モノが主流だった時代であれば、機会費用の算出は容易だったかもしれません。テープレコーダーから得られる効用と、テレビから得られる効用の比較は容易だったかもしれません。

しかし購買から得られる快感が主観的になればなるほど、効用の比較は困難になります。この本でも述べられているように、青春18切符で長い時間列車に乗ったり、長時間の列に並んで映画を見ることは、それが好きな人とそうでない人との間で効用はまったく別のものになります

そんなことは著者たちも、また経済学者たちも、とっくの前から分かっていることで、そのような消費者の新しい購買感覚にあわせた経済学が現在は構想されているのだと思います。

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