joy - a day of my life -

日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

映画 『ニュースの天才』

2007年06月18日 | 映画・ドラマ

2004年のアメリカ映画『ニュースの天才』を見ました。主演は『スター・ウォーズ』のアナキン(ダース・ベイダー)役のヘイデン・クリステンセン、共演にピーター・サースガード、クロエ・セヴィニーなど。

アメリカで権威ある雑誌として認められている“The New Republic”で、1990年代後半に、ある一人の記者が書いた記事が捏造だったことが判明するという事件があったそうです。それも、1本ではなく20本以上の記事が。

アメリカのジャーナリズムでは取材源に対するチェックはかなり厳しいということなのですが、この記者スティーブン・グラスは、自身が原稿チェックの経験を持っていたため、どうすればチェックを潜り抜けられるかも熟知していました。

おかげでその一流雑誌に勤める記者たちの誰もが、編集会議で自身の捏造した“ネタ”を披露するグラスの嘘を見抜くことができず、グラスによる長期にわたる捏造記事の発表を止めることができませんでした。

映画では、この実話をかなり丹念になぞり、ある事件をきっかけに他誌の記者に捏造がバレそうになったグラスが、必死で編集長に嘘を隠そうとしていく様子を再現しています。その過程でグラスは、自身が捏造した記事を本物であると周囲に思い込ませるために、様々な嘘を重ねていくようになります。しかしやがて・・・

この映画でとにかく感心したのが、実在する元記者のスティーブン・グラスを演じたヘイデン・クリステンセンの演技。

この映画は捏造を重ねていく記者の内面を深く追うことはせずに、グラスの行動や表情を表面的に追いかけていきます。しかし、その行動を見ただけで、観客は、この記者が自分の感情に触れることを忘れ、自分に仮面をかぶせ、さらには自分が仮面をかぶっていることすら忘れてしまうぐらいに、内面に深い闇があることを感じ取っていくことができます。

おそらくグラスの中にあったのは、単純な虚栄心だけではないと思います。それは、状況に適応しようとする心性であり、周りの人間が驚く姿を見ることの快感であり、(捏造された)見事な記事を見て自分自身が興奮していったのでしょう。つまり彼自身も、自分が考え出した話に夢中になって言ったために、作り話に没頭して行ってしまったのです。

自分が本当に考えていること・感じていることを内省するだけの注意力を失い、周りの状況の動きだけに翻弄されている人間の悲しい姿がここにあります。ただ彼は、そのあまりにも卓越した演技力のために、自分が演技していることすらわすれてしまったのではないかと思います。

ヘイデン・クリステンセンは、そのように嘘をつき続ける人間が、実は自分を完璧に見失ってしまっていることを、その表情によって見事に表現します。

この映画では編集長を演じたピーター・サースガードが批評家から絶賛されたそうです。たしかにそれは素晴らしい演技なのですが、私にはこの映画を作っているのは、やはり主演のクリステンセンの演技のように感じました。