黄昏の暮れゆく海沿いを二人、互いに手を絡めて歩いている。夏の終わりかけの静かな夕暮れ時だ。
二人は若く、未来はとても不確かだけれど、それでも扉は広く開け放たれ、あらゆる可能性を秘めた明るい明日が待っている。それをもちろん二人は知っている。
強靭な意志と肉体と、それらをしっかりと引き摺った若さという最強の武器を持った愛し合う二人に、倒せない敵など何処にも存在しないから・・・。
それでも、そんな最強の二人にだって何れ別れはやって来る。心なんて身勝手だ。肉体なんて浮気者だ。永遠に確かなものなんて存在しない。どんなにお互いの変わらない愛を確かめ合っても、それさえ時間という悪戯な魔物は悪さをし続け、引き離してゆく。それだけのことだ・・・。
真夜中に突然目が覚めた。
夢を見ていたのだ。
10代か20代の頃の自分が同年代(らしい)女の子と二人、黄昏の海辺の優しい汐風に吹かれながら肩を組んで暮れゆく空を見ている。季節は夏の終わり(らしい)。
とても短い夢だったのに(もちろん、とても短いようでいてとても長い夢のようにも感じたけれど)、そこにいる自分はなぜか天下無敵で、意気揚々、来るべき未来って奴に対して威風堂々としていたのである。
こんな自信に満ち溢れた強い気持ちなんて生まれてから一度だって持ったことがない(当然、夢の中でそういう意識の流れとか気分とかまでが描かれていたわけじゃない。でも、そんな颯爽とした自分が夢の中に確かにいたのだ。本当に)。
目を開けて枕元の時計を見たら午前3時だった。
外は真っ暗だ。
ゴーゴーという吹雪の雄叫びだけが聴こえている。雪がこびり付いた窓硝子の向こうに点滅している信号機のくすんだ明かりが反射している。
真冬のど真ん中の真夜中の時刻。
夢に意味はない。ただ、そんな夢だったというだけだ。
でも、あそこにいた、威風堂々とした真っ直ぐで純粋で無敵な自分は一体何だったんだろう?
一瞬でいて、まるで永遠にその海辺にいたような夢、あのデ・ジャブは一体何だったんだろう?
まだ、眠っているんだろうか?
まだ、闘志とか負けたくない意志とか勝ちたい意志とかが、心の奥底に眠っているんだろうか?
まだ、やり直すことに遅くなんかないんだろうか?
ぜーんぶ投げ去って、ぜーんぶチャラにして、そこからまた新たな気持ちで遠い先まで走って行けるんだろうか?
希望はある。