蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

神話学第4巻「裸の男」続き 2

2020年03月11日 | 小説
(2020年3月11日)
前回;
姉Aigleが探り当てた心臓の首飾りには2人分が足りなかった。その二人分は彼女が湖水回りで探し当てた父、兄の心臓に他ならなかった。併せてやっと家族の心臓が揃った、蘇生呪文をかけ生きかえらせて、家族成員を元通りにした。それからは幸せに暮らした。アビ(水鳥)の死体に果てた妹Plongeonには羽毛を剥いて剥製にして「お前、これからは春になったらその奇怪な鳴き声をたてるのだと」と言い含め、湖に放したとさ(Athugewi族の言い伝え)

写真はネットから。Yana族の母と姉妹

Aigleが別個に回収していた二人の心臓については別の伝えがある。Yana族版(M546、79頁)は;
Tsorejowa(Aigleと同一人物)はPlongeonを狩り取った兄弟から「遠く北の方からすすり泣きが聞こえてくる」と聞きつけ、向かう。地面に愛おしい父が頭だけ出ていた。掘り起こし地表に横たえ、骨と皮に果てた父親を確認した。妹Plongeonの死体とあわせて村に戻った(Yana族版では破壊者妹を湖に放つ仕打ちをしない)。まだ見つかっていない兄(あるいは弟)を探しに出た。
このころ父母と二人娘の家族が山の中腹に住んでいた。柴集めに森に出ると「歌」が聞こえた。出所を探ると地に、頭だけ曝す男が涙を流していた。歌と聞こえたはすすり泣きだった。二人して地を穿ちその身体を地表に出した。骨と皮しか残っていなかった。
家庭に戻って、父親は隣村の惨劇を聞き知っていたから、焼き討ちの生き残りと判断して「養生を尽くせ」娘に命じた。

Yana族などカリフォルニア北部に居住していた先住民は1849年のゴールドラッシュの開拓者蛮行で絶滅した。Yana族は金産出の河川近くに住み、人口も少なかったので民族誌記録がほとんどない。

確かに男はPlongeon虐殺の生き残りだった。
姉妹看病の篤きを得て回復に向かう。ここで神話は2の挿話を挟む。

1 男は泣きやまず、滴る涙が小川となって野に流れる。その川に鹿が群れとなって立ち寄る。涙は山中に湧く「塩泉」の由縁で狩りの起源につながる。
2 回復途上にヤマアラシが夜な夜な訪れて、ベッド回りで「力が残っているなら捕まえてごらん」と踊って挑発する。恢復を待って男はヤマアラシ(複数)を捕らえ、棘毛を添い寝してくれた姉妹と義母(となる)に贈った。ヤマアラシの段はM543(イシスの冒険神話、Modoc族伝承、70頁)からの引用です。(ヤマアラシの棘毛は服飾に用いられる。若い男は結婚を申し込む際に、娘の母親に与えなければならない「婿の賦役、prestation」重要価値が備わる。結納金か、結婚できるかの決め手である。前作第3巻「料理作法の起源」月の嫁神話M426、Arapaho族に詳しい)

男は恢復しヤマアラシを片付け、塩泉により来る鹿を多量に刈り取り義父(となる)に贈った。これで両親はOKです、なにせ喰ったこともない肉、きらびやかな宝飾(ヤマアラシ棘毛)をたっぷりもらったのですから。では娘らは。

愚問ですね。

気に入った、魅せられた、添い遂げたいなんて愛着が昂進しなければ、首面を出してただ泣いているコ汚い骨皮と筋野郎を、2日もかけて瓦礫を掘って拾い出し、村まで背負って戻るモノか。地面にぽっこり露出した頭を見つけて;

「こいつ、汚いけど=La tete etait salle et hideuse(本文から)、よく見たらイケ面でないかしら」「私もそれを思ってた」「助けてあげて恩を着せたら独り占めできる」「ズルい、二人占めでしょう」
の会話が交わされていたはずだ(レヴィストロースは特に言及していない)。
それにしても;
なぜ英雄は女受けが滅法良いのか、そして危急に必ず女から助けられるか。それが英雄ヒーローだとしか答えを用意できない。

姉Tsorejowaは兄(弟)が婚家に定着していると知り彼を連れ戻す必要がないと知った。村に戻り、集め揃えた死体と心臓に蘇生術を施し、家族を再興させた。家族には破壊者のPlongeonも含む(死体をアビとして湖水に放たなかった)

後日譚がある。
Juka(姉妹を妻にして家庭を築いた)は義父から「妻と子を実家に見せに行ったら」薦められた。再興された実家に戻ると、すぐさま父はJukaを「隠し子」とし地下に閉じこめた。理由は破壊者のPlongeonもが蘇生し、家族に組み入れられているから。姉妹は別の兄弟に振り分けられた。

姉妹が実家に戻って父に状況を嘆くのだが「それで良いのだ、かの父親は彼Jukaをこの世から引き離したのだ、Tout est bien ainsi, dit-il, son pere l’a retire du monde, 夫となった兄弟だって悪いことしてないだろうses freres font pour vous d’aussi bons maris」と新たな現状を受け入れ諭すけれど姉妹は賛同しない。婚家に戻りJukaの穴蔵に住むとなった。(Yana族版のアビ女の神話、DamePlongeon 81頁)

以上はAtsugewi族とYana族の神話を重ねながら「アビ女の神話」をまとめた。

南米神話(M1に代表される文化創造)、北米でもこれまで(イシスの冒険神話群)に認められる新しい世界の創造なる族民の息吹は、これらアビ女Plongeon神話には感じ取れない。神話群の全体に流れる思潮は

1 文化の破滅的創造
2 道具(狩り、服飾など)の正反利用
3 反同盟、反分散、endo-local, endo-congugal (孤立と族内婚)



に尽きる。根本で異質な神話群を同じ図式(上図)の仕組みで理解せよレヴィストロースは迫る。続く

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