蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造13社会学からの説明(3)

2021年03月05日 | 小説
(2021年3月5日)なぜ近親婚は禁止されるか。社会学からの説明を続けます。
Durkheimはオーストラリア原住民(アボリジン)の社会をして、原始時代の形態を残す遺構、ひいては人類共通の祖型社会であるとした。彼らは特定の動物を先祖、守護神と仰ぐ「トーテム信仰」をいまも抱き、トーテムそのものが部族の独自性(identite)を保証する。その独自とは具体的で目に見える物質「血」と結びつき、社会の起源とその立ち位置を魔術生物的(magico-biologie)に説明して、部族のよりどころとしている(24頁)。トーテムが族民統合の象徴であれば「血」はその機能、表彰とも言える。よって「血」は族民に不可触、怖れとなる。(この解釈の根拠は後の引用に)
Cette crainte du sang clanique est particulièrement intense dans le cas du sang menstrual, et elle explique pour quoi, dans la pluspart des sociétiés primitives, les femmes sont , d’abord à l’occasion de leurs règles, puis d’une facon plus générale, objet de croyanaces magiques et frappées d’interdits spéciaux.(24頁)
部族民が怖れる「血」は女性の月経に及ぶ。多くの未開社会において女性が、月経時には特に怖れが伴い、平時においても魔術信心の対象となる特例的禁止の対象であることを、この怖れが説明している。

この引用の後の文でDurkheimは団結としての「血」が怖れに変わり、女性の不可触化に至る慣習につながった過程を記している。<La prohibition touchant les femmes et leur ségrégation, telle qu’elle s’exprime dans la règle d’exogamie, ne seraient donc que la répercussion lointaine de croyanaces religeuses …. 月経はrépercussion lointaine de croyances religeuses古い信仰の遺構であり、同族の女性と性関係を持つは禁忌となった。

<un homme ne peut contracter mariage au sein de son propre clan, c’est que , en agissant autrement, il entrerait en contact ou risquerait d’entrer en contact , avec ce sang qui est le signe visible et l’expression substantielle de sa parenté avec son totem.(同)
男は同族(clan支族)の女と婚姻関係を結んではならない。 この戒めと別の行動を取ると彼は同じトーテムの親族である女が持つ、目に見える具体的な表象の「血」との接触を犯すこととなる。
レヴィストロースは;
<Ainsi donc , en suivant une marche analytique , nous voyons que pour Durkheim , la prohibition de l’inceste est un residu de l’exogamie; que ces interdits trouvent leur origine dans la crainte du sang menstrual.> Durkheimの分析手順を見ると「…の禁止」は族外婚の遺構であり、その元を訪ねれば月経血への怖れであり…
禁忌(禁止)戒めを遵守し「la croyance en la consubstantialité de l’individu , membre d’un clan , avec son totem」(同)「同一体consubstantialité」を確信できるのである。
ここで族外婚が「近親婚の禁止」と重なる。先住民とされる民族以外は(今となって)族外婚の規定、慣習をもたないが、「血」なる具体的存在が表象として「親族」をまとめる思想は生き残っている。「…禁止」のみが継承されてきた。


月。南米アマゾニアで流布する神話「転がるクビ」では敵に討たれクビだけになった戦士が転がりながら村に戻った。戸戸に助けを求めるが、誰も戸を開けない。「月になってやる」の呪いを残し天に登る。村人が「お前が月になったらなんの災厄じゃ」尋ねると「お前の娘、妻らが毎月血まみれになるのだ」答えた。

写真はネットから



支族を「血」が団結させる、mgico-religeuese(魔術的)信心が根底にあった。トーテム成員がそれ「血」を分かちあう。すなわち肉親となる。トーテム集団の内では「血」を汚すから結婚できないとの論理である。
レヴィストロースはこれに何というか:
(以下の節は前に引用、再掲)<La force de cette interprétation provient de son aptitude à organiser, dans un seul et même système, des phénomènes très différents les uns des autres et dont chacun , pris à part , semble difficilement intelligible>(24頁)
意訳:まず結論ありきの無理技で説明している。関連のない事柄をつなぎ合わせて、論理手順からして無理筋となっているが、力業で辻褄あわせを試みているだけである。
関連の無い事象とはトーテム信仰とは祖先動物があって「血」の概念と結びつき、一方が思想、別が表象として働いているコト。同一トーテム内で婚姻するとは「血」の不可触を犯すなどの信心である。Durkheimが論理を進める基礎素材の正当性を否定している。
<Prenons la coyance en la substantialité totémique : nous savons qu’elle ne fait pas obstacle à la consommation du totem, mais seulement à celle-ci un caractère cérémonial .Or le mariage, l’acte sexuel lui-même, présente nullement compatible avec l’opération supposée de communion totémique En second lieu l’horreur du sang menstrual n’est pas un phénomène universel.(25頁)
トーテム信仰とその実際性を取り上げると、トーテムを(儀式などに)持ち込む行為には、祭礼の性格を帯びる限り何ら問題がない。一方、婚姻とはそれ自体、男女間の行為に帰結するし、そこにトーテム集団の怖れる幻想は関わりなどもてない。さらに言えば、月経血への怖れにしても汎人類性などない。

「婚姻が男女間の…」の意味合いとは、交合によって「血」が犯されるとする推測に対して結婚とは制度であり、「血」の穢れなるmagico-religeuse(魔術信仰)とは無関係である。先に近親婚は遺伝劣化を生み出すから禁止したなる解釈を否定した同じ歩調で、不可触なる血を汚すから禁止はあり得ないとしている。
レヴィストロースによれば婚姻とは制度であり、制度とは「女交換」の原理である。続く

親族の基本構造13社会学からの説明(3) の了

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