蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

エリュアールの詩ユゴーの挿し絵 1

2018年06月13日 | 小説
(2018年6月13日)

さる事情で投稿子の書棚に置かれる事となった詩人Paul Eluard (ポールエリュアール)全集(全2巻、ガリマール社発行、Pleiade叢書)。永らくは片隅に冷遇されていたが、手にとって頁を何気なくめくったのが数日前。詩集41、メディユーズ(Medieuses)にたどり着いて目が止まった。挿し絵がなかなかのモノ。調べるとバランチーヌユゴー(ValentineHugo)の作と分かった。


Valentine Hugo 挿絵(左頁)と詩 (Gallimart Biblioteque Pleiade版 Paul Eluard oeuvres completesから)

エリュアールにはアンドレブルトン、ダリなどと交遊が伝わる、ダリの細君となったガラ夫人はエリュアールが初婚の相手だったとも(ネット)で知った。こうした交わりで分かるとおり、エリュアールはシュールレアリズム運動に参加していた。さぞかしチンプンカンプンな詩なのだろうと読み始めると、これがなんとも平易、取っつき易い。投稿子がこの訳を挑戦するとは、ABCアベセとボンジュールの壁を乗り越える手段にも最適と確信して、このブログで取りあげるに至った。
エリュアールの訳本は20に迫るが、ネットで調べる限りメディユーズは紹介されていない。ユゴーの絵はネットかしこに見えるが、メディユーズの挿画は見ていない。これが第2の理由。


Paul Eluard (写真はネットから)

まず題名のMedieusesに躓いた。ギリシャ神話のメデゥーサ、髪が蛇、顔はとても恐ろしく、見た人は石に固まる)と推理したが、そちらはMeduse(クラゲの意味もある)。調べて行き着いたのが古代ペルシャの王国メディアMedie、その住民の女がMedieuseならば複数なので女達となるか。訳してメディアの女達、マスコミの女性記者と混同しそうだが、これを訳とする。

第一の詩 <<Je ne suis pas seule>>
Chargee
De fruits legers aux levres
Paree
De mille fleurs varies
Glorieuse
Dans les bras du soleil
Heureuse
D’un oisea familer
Ravie
D’une goutte de pluie
Plus belle
Que le ciel du matin
Fidele
Je parle d’un jardin
Je reve
Mais j’aime justement.
拙訳;一人じゃない、だって果物を口元に優しくあてているの、色々な千の花に飾られているわ、太陽の腕に抱かれて誇らしい、小鳥のいつものさえずりを聞いてとっても幸せ、雨の一粒を頬にうけてうっとりしたわ、私って朝の空よりも美しい、自身に誠実だから。
今、ある庭の事を話しているの、夢をみているのかしら。
でも私、愛するわ、時がきたら。

的はずれかも知れぬが解説;
ユゴーの挿し絵が素晴らしい。メデイア女はブドウを口元にしている、花は千を揃えていないが矢車草(blouet、フランス人がとくに好む、グレコは♪blouet est une fleur bleue♪と歌う)、チューリップ(tulipe)、ボタン(pivoine)が特定できる。腕が小麦穂に変わっている。春の終わりに実る小麦は黄金の輝きを野に放つ、太陽の賜とされる。小麦穂で太陽をかつ日やけした黄金色の腕を匂わせている、官能的だ。小鳥と雨と朝の空は見当たらないが、これは絵が煩瑣にならぬ画家の良心。
最後の。<<justement、正しく>>が分からなかった。辞書をたどれば2の意味があって、正義にもとると理性に適合するとある。しかし、この意味合いが詩とそぐわない。
時制との関連で正しく(その時に)との使い方を思い起こした。例えば「お前ブレーキを踏まなかったのか」「si, justement quand le feu a change rouge. 踏んだよ、信号が赤になったその時にまさに正しく=justement」などの使い方である。この語法を用いて訳した。すると詩全体が
「メディアの女は庭にたたずむ己を夢想している、果実、花と小鳥、通り雨に打たれたが、自身に誠実だから、男をまだ愛していない。でも、その時がきたら愛するーとなり、整合する。これを正義に則ってとか理性に委ねて愛するとしたら、付きあっていた男がドロボー、ぐうたらばっか、どうもこれでは詩にならない。
なお、Justementの時制での使い方は会話で聞くのみ、辞書le grand Robertには入っていない。

エリュアール、ユゴーの詩と挿し絵 1 の了(次回は来週)

注1 Pleiades版の注によるとユーゴへの手紙(1939年)で<<…J’ai en tete un grand poeme intitule Medieuses, une espece de mythologie feminine…>>訳;メディユーズと名付ける一つの(新しい)女性神話の詩を頭に浮かべている。なればメディユーズなる語は彼が創造したともとれる。
注2 エリュアールは1952年に逝去、ユゴーの没年は1968年3月(本年から50年と3月前)。著作権は死後50年と知るので、ネットで使用しても違反ではないとした。出版社(ガリマール)などから別の解釈を残せば、指摘を寄せて頂きたし。

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