新大陸神話の北上説 上
(2024年4月4日、本稿は過去の同名投稿を新規内容など加筆した再投稿となります)レヴィストロース神話学第4巻(最終巻)L’Homme Nu裸の男の最終章「Finaleフィナーレ」から「新大陸神話の北上」説について。
1南北大陸の神話群は似かよう。
2南米神話の内容は簡素、短い。北米神話の筋は複雑。故に神話は北上。
3 新大陸の民族移動は北から南、神話も南下が定説、北上説は多くの民族学者に否定される。
これに反駁するレヴィストロースの論点を紹介する。(本書挿図に赤丸左、黒線などを部族民が加え下図右を作成)
右図は部族民の想像にすぎない。これとは別の可能性はパナマ・メキシコを北上する陸続き旅程。しかしパナマの隘路(ダリエン地峡)は今も昔も難所、かつ中米諸族の神話と南米神話の類似性は薄く同系統とは考えにくい。レヴィストロースは一切この地域神話を採り入れていない。陸続き説が成り立ち難いとすれば、海路カリブ海経由しかない。残念ながらこの海域諸島で活躍していたカリブ族(本書に登場するWarrau族の近縁)は西洋人(コロンブス一行)と最初に接近した結果、天然痘などの旧大陸病原菌に罹患し、滅亡した。神話は収録されていない。
主張を詳しく :
1 似かよい ; 筋立て(armature)と伝えかけ(schèmeスキーム=メッセージ)において同一(identique)、時には逆立(inverse)関係(=これも近似性)が認められる。神話学全4巻に収録された南北アメリカの神話総数813は全て、基準神話M1ボロロ族伝承の(ブラジル・マトグロッソに居住)の「水と火の起源」神話と直接、間接に関連する(同一、反転など)との。
« On est allé dans le troisième volume de l’Amérique du sud à l’Amérique du nord, grâce à des mythes inversés dont la signification était identique. Dans le quatrième volume, grâce à des mythes identiques (puisque M529~531 reproduisent M1, M7~12) dont la signification était inversée » 訳:第3巻(Origine des manières de table)では(前半の)南米神話と(後半の)北米神話の幾つかの神話を比べると(構成)は逆転しているが意味(schème) では同一の神話と判定できる。南北を結び付けられた。さらには第4巻(北米神話)では(南北神話を見比べ)構成は同一ながら意味が逆転する神話群のおかげで北上説を確認できた(括弧は訳者、裸の男564頁) 。
実例を第4巻 « Homme nu » 裸の男「家族の秘密」章での実例は :
« Au point où nous sommes, mieux vaut, souligner la symétrie dès à présent manifeste entre les versions nord et sud-américaines de l’histoire du dénicheur d’oiseaux. Le héros de M1, supposé impubère, viole sa mère. Celui de M530 n’a pas de mère, et il est non seulement adulte et marié, mais couverts de femmes. Au début du mythe, l’un n’a même pas encore reçu l'étui pénien. L'autre apparaît comme le maître des plus riches habits. Il faudra que son père oblige à se dépouiller des pieds à la tête. Pour pouvoir revêtir son coutume et assurer son aspect physique (page29) » 今、我々は南北アメリカの鳥の巣荒らし神話に見える対称性 « symétrie » を語らねばならない。M1(南米ボロロ族伝承、神話学全体の基準神話)で英雄はまだ成人となっていない時期に(通過儀礼前の少年、生物学的成熟とは異なる)母を犯す。M530(北米Klamath族伝承)の英雄イシスは母を失い、複数妻を持つ正丁。片方(M1)はペニスケース(同族は日常ではこれを唯一の衣装としている)すら帯びず、もう一方は服飾も華麗。父親は大木に巣くった鳥の巣をあらすよう息子に命じるが、頭から足の先までの衣装を脱がなければならなかった。
« Cette relation de symétrie s'étend à tous les aspects du mythe. Ainsi, l'inceste avec l'épouse du père qui sert de départ à M1i, s'inverse dans M530 en inceste avec une épouse du fils. Par vengeance, dans le premier cas, par calcul dans le second, le père isole son fils au sommet d'un arbre ou paroi rocheuse sous prétexte de l'envoyer dénicher ici des aras, là des aigles.
対称性は両の神話群のあらゆる要素に広がる。かくして、父の配偶者との近親姦、これがM1神話の出発点となり、それが反転して息子の配偶との姦淫。一方では直接の復讐、片方は計算づく(俗神力の源がパイプにあると知る)で追い詰める。木の頂点と崖の上、金剛インコ対鷲―と対象性が見える。
逆転している対称性は :
1 少年対正丁 通過儀礼前(狩に参加できない) 対 既婚、狩りにも長ける
2 服飾はみすぼらしい(服を着することを許されない裸体)対 絢爛さ
ボロロ族壮丁、儀式にはきらびやかな服装で臨むが普段はペニスケースのみの裸体を通す
これらは英雄の社会位置でありそれを符丁Code(話の筋をなす要素、レヴィストロースの呼び方)として、その出発位置と発展(Codage)を比べる。2の立ち位置は反対inverseを見せる。これが対称性を示す。
符丁が筋の中で進展するさまをCodageとする。近親姦なる符丁が子と母、父は嫉妬し子を追いやる。子は帰還して父に復習する。もう一方、父は息子の嫁を(息子のフリを装い)誘う。樹上に追いやられた息子が帰還し父を(それなりに)懲らしめる。Codeの設定(近親姦)もcodage進展(父の反発、子を放逐)も似通い « ressemblances » が認められる。上の了(4月4日)
(2024年4月4日、本稿は過去の同名投稿を新規内容など加筆した再投稿となります)レヴィストロース神話学第4巻(最終巻)L’Homme Nu裸の男の最終章「Finaleフィナーレ」から「新大陸神話の北上」説について。
1南北大陸の神話群は似かよう。
2南米神話の内容は簡素、短い。北米神話の筋は複雑。故に神話は北上。
3 新大陸の民族移動は北から南、神話も南下が定説、北上説は多くの民族学者に否定される。
これに反駁するレヴィストロースの論点を紹介する。(本書挿図に赤丸左、黒線などを部族民が加え下図右を作成)
右図は部族民の想像にすぎない。これとは別の可能性はパナマ・メキシコを北上する陸続き旅程。しかしパナマの隘路(ダリエン地峡)は今も昔も難所、かつ中米諸族の神話と南米神話の類似性は薄く同系統とは考えにくい。レヴィストロースは一切この地域神話を採り入れていない。陸続き説が成り立ち難いとすれば、海路カリブ海経由しかない。残念ながらこの海域諸島で活躍していたカリブ族(本書に登場するWarrau族の近縁)は西洋人(コロンブス一行)と最初に接近した結果、天然痘などの旧大陸病原菌に罹患し、滅亡した。神話は収録されていない。
主張を詳しく :
1 似かよい ; 筋立て(armature)と伝えかけ(schèmeスキーム=メッセージ)において同一(identique)、時には逆立(inverse)関係(=これも近似性)が認められる。神話学全4巻に収録された南北アメリカの神話総数813は全て、基準神話M1ボロロ族伝承の(ブラジル・マトグロッソに居住)の「水と火の起源」神話と直接、間接に関連する(同一、反転など)との。
« On est allé dans le troisième volume de l’Amérique du sud à l’Amérique du nord, grâce à des mythes inversés dont la signification était identique. Dans le quatrième volume, grâce à des mythes identiques (puisque M529~531 reproduisent M1, M7~12) dont la signification était inversée » 訳:第3巻(Origine des manières de table)では(前半の)南米神話と(後半の)北米神話の幾つかの神話を比べると(構成)は逆転しているが意味(schème) では同一の神話と判定できる。南北を結び付けられた。さらには第4巻(北米神話)では(南北神話を見比べ)構成は同一ながら意味が逆転する神話群のおかげで北上説を確認できた(括弧は訳者、裸の男564頁) 。
実例を第4巻 « Homme nu » 裸の男「家族の秘密」章での実例は :
« Au point où nous sommes, mieux vaut, souligner la symétrie dès à présent manifeste entre les versions nord et sud-américaines de l’histoire du dénicheur d’oiseaux. Le héros de M1, supposé impubère, viole sa mère. Celui de M530 n’a pas de mère, et il est non seulement adulte et marié, mais couverts de femmes. Au début du mythe, l’un n’a même pas encore reçu l'étui pénien. L'autre apparaît comme le maître des plus riches habits. Il faudra que son père oblige à se dépouiller des pieds à la tête. Pour pouvoir revêtir son coutume et assurer son aspect physique (page29) » 今、我々は南北アメリカの鳥の巣荒らし神話に見える対称性 « symétrie » を語らねばならない。M1(南米ボロロ族伝承、神話学全体の基準神話)で英雄はまだ成人となっていない時期に(通過儀礼前の少年、生物学的成熟とは異なる)母を犯す。M530(北米Klamath族伝承)の英雄イシスは母を失い、複数妻を持つ正丁。片方(M1)はペニスケース(同族は日常ではこれを唯一の衣装としている)すら帯びず、もう一方は服飾も華麗。父親は大木に巣くった鳥の巣をあらすよう息子に命じるが、頭から足の先までの衣装を脱がなければならなかった。
« Cette relation de symétrie s'étend à tous les aspects du mythe. Ainsi, l'inceste avec l'épouse du père qui sert de départ à M1i, s'inverse dans M530 en inceste avec une épouse du fils. Par vengeance, dans le premier cas, par calcul dans le second, le père isole son fils au sommet d'un arbre ou paroi rocheuse sous prétexte de l'envoyer dénicher ici des aras, là des aigles.
対称性は両の神話群のあらゆる要素に広がる。かくして、父の配偶者との近親姦、これがM1神話の出発点となり、それが反転して息子の配偶との姦淫。一方では直接の復讐、片方は計算づく(俗神力の源がパイプにあると知る)で追い詰める。木の頂点と崖の上、金剛インコ対鷲―と対象性が見える。
逆転している対称性は :
1 少年対正丁 通過儀礼前(狩に参加できない) 対 既婚、狩りにも長ける
2 服飾はみすぼらしい(服を着することを許されない裸体)対 絢爛さ
ボロロ族壮丁、儀式にはきらびやかな服装で臨むが普段はペニスケースのみの裸体を通す
これらは英雄の社会位置でありそれを符丁Code(話の筋をなす要素、レヴィストロースの呼び方)として、その出発位置と発展(Codage)を比べる。2の立ち位置は反対inverseを見せる。これが対称性を示す。
符丁が筋の中で進展するさまをCodageとする。近親姦なる符丁が子と母、父は嫉妬し子を追いやる。子は帰還して父に復習する。もう一方、父は息子の嫁を(息子のフリを装い)誘う。樹上に追いやられた息子が帰還し父を(それなりに)懲らしめる。Codeの設定(近親姦)もcodage進展(父の反発、子を放逐)も似通い « ressemblances » が認められる。上の了(4月4日)