ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

学生による授業評価の点数はどこまで上げられるか?(クリッカーの効果)

2013年04月19日 | 高等教育

 4月から鈴鹿医療科学大学の学長をお引き受けするにあたり、学長が授業をするかどうか聞かれたのですが、僕は即座にさせていただくとお答えしました。少なくとも最初の数年間は。

 その理由としては、組織の幹部は現場を知らなければならないことが一つ。組織の意思決定にリーダーシップを発揮しなければならない学長自らが、大学の最大の顧客である学生さんに直接接して、学生さんたちがどのように感じ、どのように考え、どのように反応して行動するのか、それを肌で感じることは、顧客に対して最適の教育サービスを提供する上でたいへん重要なことであると思います。

 同時に、サービスを提供する側の先生方の負担の程度や、教育のむずかしさもわかりますね。組織の意思決定者は、サービスを受ける現場、提供する現場の両方を肌で感じなければならない。

 さらに、もう一つ。大学の教育改革のリーダーシップを取ろうとする者は、やはり教育評価についても他の教員よりも優れている必要がある。評価の低いリーダーが、他者を動かし、あるいは評価することは、極めて困難ですね。役職や権限によって人を動かすことはある程度可能かもしれませんが、それは本物のリーダーシップではなく、飾り物の管理者になってしまいます。

 学生による授業評価は、ある程度日本の大学でも定着したようです。鈴鹿医療科学大学でも各学期の終わりに、学生がコンピュータ上で先生への評価を入力することになっています。ただし、学生による授業評価をほんとうに教育指導の在り方の改善に生かしているかどうか、あるいは教員の評価に生かしているかどうかについては、大学によって大きな差があるのではないかと思っています。

 僕は、三重大学で教鞭をとっている時から、自分自身で毎回の授業で簡単な無記名のアンケートをとって学生さんに評価していただいています。

 どんなアンケートかって?

 わかりやすさ、眠たさ、熱意、総合点の4つを5段階で評価してもらい、あと、自由記載欄を設けています。

 5点 とてもわかりやすい(全然眠たくない、非常に熱意がある、とても良い講義である)

 4点 わかりやすい(眠たくない、熱意がある、良い講義である)

 3点 ふつう

 2点 わかりにくい(眠たい、熱意がない、良い講義ではない)

 1点 とてもわかりにくい(とても眠たい、全然熱意がない、全然良い講義ではない)

 このうち、「眠たさ」という項目は、評価項目としては、ちょっと珍しいのではないかと思っています。鈴鹿医療科学大学でも、大学としての評価項目には入っていません。

 でも、僕は「眠たさ」は、非常に重要な評価項目と考えています。それは、学生が「眠たさ」を感じるということは、その時に先生が話したことは、まったく記憶に残らないということを意味するからです。

 僕は、学生による授業評価の目的には2つあるのではないかと考えています。学生満足度の向上と修学達成度の向上の2つです。両者は別物であり、修学達成度はテスト等によって把握されていますが、でも同時に、学生満足度とも相関すると考えています。

 そして、「眠たさ」は、修学達成度に最も直結する質問項目ではないかと考えています。

 実は僕の点数は最初は良い点数ではなかったのですが、毎回のアンケートの結果を次の授業の改善に生かす努力を続けていたら、つまりPDCAを回していたら、だんだんと点数が上がってきました。下のグラフは、平成9年に鈴鹿医療科学大学で副学長を務めていた時の学生による授業評価の結果です。

 学期の初めころの総合点は3.60だったのですが、7月14日には4.05という値に上がりました。この学期の大学の行った授業評価の点数は4.19という点数で、この点数は鈴鹿医療科学大学の講義の中ではトップ5というまずますの点数でした。

 皆さんもうお気づきになったと思いますが、僕が独自にやっている評価項目の中で「眠たさ」が最も低い点数になっていますね。いろいろと自分なりに工夫をしたのですが、この「眠たさ」の点数を改善することは非常に困難でした。

 昨年の中教審の答申で、学生による自習時間を増やす必要があることやアクティブラーニングの重要性が指摘されたことは、皆さんもご存知だと思います。もう、20年近くも前に三重大学医学部でアクティブラーニングの代表的な教育手法の一つであるproblem-beased-learnig (PBL)を導入した僕としては、何をいまさらという感じも受けないでもありませんけどね・・・。

 その答申の文章の中に、いくつかの新しい教育手法が例示として挙げられているのですが、その中に「クリッカー」が挙げられています。これは、パワーポイントなどを使って学生さんに講義をするときに、小テスト的な選択問題を出し、あらかじめ配っておいた端末のボタンを学生さんが押すと、瞬時に正解率などを示すことができるというシステムです。

 このクリッカーのシステムを大学に購入してもらい、今年度の授業から試してみることにしたのです。(IC Brains社製)

 

 これは、救急医学概論の2回目の授業なのですが、1週間前の授業で学習したことを確認する問題を出したところ、約4分の3の学生が正解したことが瞬時に示されました。逆に4分の1の学生は正解することができず、前回の授業の修学達成度が不十分であったことがわかります。もっとも、先日のブログでお示しした学長式辞の忘却率に比べると、ずいぶんと良い値ですが・・・

 さて、このようなクリッカーを用いた授業をしたところで、学生による僕の授業評価の点数はどうなったのでしょうか?

 学生の人数も異なっているので、クラスの条件は全く同じではありませんが、総合点は4.55に跳ね上がりました。今まで、いくら改善努力をしても僕の点数は4.5を超えなかったのですが、今回初めて超えました。

 また、最も点数を上げることが困難であった「眠たさ」についても、4.06という点数になり、他の評価項目よりも低い点数であるものの、初めて4を超えることができました。

 クリッカーの最終的な評価については、さらにデータを集積する必要がありますが、今回の結果からは、かなり有望なツールであると感じました。さっそく、FD活動(教員能力開発)で、他の教員ともいっしょに実証的な検討を進めていこうと思っています。次は、大学全体の学生満足度と修学達成度の数値がどこまで上がるかが楽しみですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1 コメント

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クリッカーを使った授業の効果 (松本尚浩)
2013-05-30 10:12:04
私が昨年医学部4年生に実施したクリッカーを用いた授業で1学年108名中66名回答で(平均±標準偏差)
わかりやすさ 4.4 ± 0.7
眠くなさ 4.5 ± 0.7
熱意 4.7 ± 0.5
総合的 4.5 ± 0.6
です。
クリッカー使った授業ワークショップなどあるといいですね。
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