ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

大学改革実行プランの地方私立大学への影響と適切な評価への期待

2013年04月15日 | 高等教育

 さて、東京での3年間の単身赴任の後に4月から三重に帰ってきて2週間が経ちました。4月2日の鈴鹿医療科学大の入学式の式辞から始まって、全8学科のオリエンテーションに顔を出し、学長としての最初の授業をすませ、理事長、研究科長、学部長、学科長全員が集まる運営協議会であいさつ、各学科長さんと個別の改善課題をお聞きする懇談、三重県や鈴鹿市の方々との懇談、現在進められている教育改革の担当教員との懇談、以前学長を務めていた三重大学の教員および学士レベルのダブルディグリープログラムを実施している天津師範大学の先生方との会食、東日本大震災の支援活動をしている学生のリーダーとの懇談、三重県知事さんをはじめ県内の主な関係機関へのあいさつ回り、国の審議会への出席のために東京へ出張、僕が会長をやっている三重県立美術館友の会総会でのあいさつと、慌ただしい日々が過ぎました。ブログのネタになることもたくさんあったのですが、あまりに忙しすぎて書く暇がなく、もったいないことをしました。今、一息ついたところなので、この2週間のことを振り返ってブログの更新をしていきたいと思います。

 まずは、大学内での運営協議会での僕のあいさつ。昨年文科省から出された、「大学改革実行プラン」の説明をしました。実は、この1月に私立大学連盟学長会議で「大学改革実行プランをどう読むか」というお話をさせていただいていたので、その内容の一部をお話したのです。 

 今までのブログでは、大学改革実行プランが特にトップの研究大学以外の大学にとっては、かなり厳しいことになると予想されることを何度もお話しましたね。私立大学でも同じことが考えられ、私学助成にもメリハリをつけることが謳われており、大学の2極化が進むであろうことをお話しました。

 

 大学改革実行プランのあるページをコピーした上のスライドの赤い楕円は僕がかってに書き入れたものです。

 このポンチ絵にはいろんなことが書かれているのですが、その中に、たとえば大学のガバナンスについても書かれており、先進的なガバナンス体制をとった大学を支援する旨が書かれています。これは、従来の教授会主導のガバナンスではなく、学長(理事長)のリーダーシップで大学を動かすことが期待されているということです。教授会主導は、国立大学だけかと思っていたら、私立大学でも同じようなガバナンスのところが多いんですね。

 学校教育法で教授会が重要事項を審議することが決められている以上、私学でも教授会主導になることが多いとも言われています。でも、今後は、従来の教授会主導で物事を決めている大学は、国からは評価されないということですね。

 いっそうの情報公開も求められています。すべて正直に情報公開しないと、国から評価されず私学助成に影響する。国の税金から補助を受ける以上は、当然といえば当然ですね。鈴鹿医療科学大学は、正直に公開できる私立大学の一つだと思っています。

 特定の役職員や教職員の報酬・給与についても書かれていて、高額の場合は私学助成が減額されるということです。僕の学長としての給与も公開しないといけませんね。

 このポンチ絵に書かれている私立大学に求められていることは、学士課程の質保証、地域再生の核(COC)となること、産学連携および大学間連携の3つです。鈴鹿医療科学大は、ほとんどすべての学科が資格取得とつながっており、その点では学士課程の質保証が、国家資格合格率でもってある程度評価できる、あるいは第三者から評価されるということでしょう。国家資格合格が学士の質のすべてではありませんが、合格していただかないとどうしようもないので、最低限満たさなければならない質保証であると思います。

 幸い、鈴鹿医療科学大の国家資格合格率は、全国平均をかなり上回っていますが、安心はできません。絶え間ない教育指導の改善改革努力が求められています。

 ただし、第一の大学のステークホルダーは学生なのですが、学生を受け入れる社会もステークホルダーなんですね。したがって、国家資格に合格するための医療・福祉の専門的な知識・技能だけではなく、患者さんの気持ちを汲める人間性や高い倫理観、そして各病院や医療福祉施設が進めようとしているチーム医療にスムースに参画できるコミュニケーション力を身につけることも大切です。

 地域再生の核となることや、産学連携および大学間連携については、三重県が10年以上も前から推し進めている医療・福祉産業の振興にテーマを絞った「みえメディカルバレープロジェクト」という産学官連携プロジェクトの中で、三重大学と連携して中心的役割を果たすことが考えられます。三重県はライフイノベーションの特区に認定されたんです。

 実は、鈴鹿医療科学大学のキャンパスには、筑波大学の山海教授がやっておられるサイバーダイン社のロボット・スーツが展示してあるんです。この分野で鈴鹿は東海・近畿地域の拠点となることが考えられます。国が成長戦略の柱としてライフインべーションを掲げているわけですから、鈴鹿医療科学大学は、国の政策にも貢献できる地方私立大学と言えます。

 こんなことで、赴任一番に、鈴鹿医療科学大の幹部の皆さんには、国の厳しい大学行政の方針をお伝えすることになりましたが、そのような厳しい中でも、鈴鹿医療科学大は大学改革実行プランで私学について求められている点については、すべて実現できる可能性が高いと感じられ、医療系大学として国民から選ばれる大学になる可能性が十分にあるので、力を合わせていっしょに頑張りましょうと檄を飛ばしました。

 ただし、地方私立大学にとって懸念されることは、大学改革実行プランでもって、果たして、ほんとうに国がきちんと地方大学としての優れた取り組みを評価してくれるかどうか、ということですね。平成25年度予算に見られるように、一握りの上位大学(大規模大学)に莫大な予算が集中し、地域再生の核となるCOCプロジェクトに対する予算があまりにも少ないということであれば、地方大学がいくら地域や国に貢献しようと努力しても報われない。

 地方私立大学は、市場による厳しい競争の中で自然淘汰される中で、国による「選択と集中」によって、人為的に淘汰が加速されようとしているわけです。助成金を配賦している国が大学の評価をすることは当然のことであると思いますが、地方大学が努力して積み上げてきた、地域や国にとっても大きな意義のあるせっかくの素晴らしい取り組みをつぶしてしまう愚は、避けていただきたいと思います。

 

 

 

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