難病で寝たきりの社長が、難病で寝たきりの男性を雇った。初めて雇われ、男性は思った。「自分にも働ける力が残っている」。わずかに動く両手の親指を使い、週3時間、インターネット上で働いている。

 愛知県東海市のウェブサイト・名刺制作「仙拓(せんたく)」社長の佐藤仙務(ひさむ)さん(22)と、雇われた大阪府東大阪市の宗本(むねもと)智之さん(35)は、昨年5月にフェイスブックで知り合った。

 自称「寝たきり社長」の佐藤さんは、筋肉が衰える「脊髄(せきずい)性筋萎縮症」を抱えながら、2011年に同じ病気の幼なじみと起業。両手の親指を使い、パソコンで経理と顧客対応をこなす。比較的障害の軽い幼なじみが名刺などのデザインを担当。全国から受注し、今期の売り上げは設立当初の4倍の300万円だ。

 宗本さんは、筋肉が萎縮する「筋ジストロフィー」と3歳で診断され、小学校3年生で車いすの生活になった。近畿大理工学部へ進んで数学を専攻。病気が進んで寝たきりになった後も自宅で教授の指導を受け、07年に博士号を取った。

 今は人工呼吸器をつける。動くのは両手の親指だけだが、特別な装置を使ってパソコンを操り、絵を描いたり、新聞に俳句を投稿したりしている。

 宗本さんの経歴や、似た境遇ながら仕事がないことを、佐藤さんはフェイスブックで知った。昨夏、メッセージを送ってみた。「一緒に働いてみませんか」

 返信があった。「なんなりと指示してみて下さい。PC(パソコン)だけでできることなら、不可能なことはないと思います」。そして、「いつも介助してくれる母に、自分で稼いだお金で美味(おい)しいケーキを買ってあげたいですね」。

 今年の元日に契約を結んだ。時給は780円。勤務は週3日、1日1時間。宗本さんから「僕はいつ死んでしまうか分からない身」と申し出があり、契約は3カ月更新にした。