レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

裸婦は女性の敵?自由の味方?

2019-02-03 03:00:00 | 日記
ここ一週間ほど、レイキャビクでは寒いけれどもとても良い天気の日々が続いています。先の水曜日、また昨日の土曜日には久しぶりにマイナス10度とかになりましたが、大体そのように寒くなるときは風もなく、静かで良い天気のことが多いのです。

「良い天気」と今書きましたが、ちょっと言葉に詰まりました。アイスランド語ではfallegt vedur とかfallegur dagur、「美しい天気」「美しい日」という言い方をよくします。今現在は雪が積もっていますので、キラキラとした陽光(二月になると日の光が蘇ってくるのです)が白い雪面に反射し、まさに「美しい日」という感じがします。

さて、今回は一月の下旬にこちらの社会でとても話題になったトピックです。女性の裸体を扱った絵画にまつわるトピックです。

といっても、世のおじさんたちが好きそうな猥褻な絵画ではありません。芸術性の高いきちんとした?美術絵画をめぐる出来事です。




撤去されてむしろ話題となったグンロイグル・ブランダルさんによる絵画
Myndin er ur Visir.is


この出来事がニュースになり話題になったのは、この一月の下旬になってのことですが、そもそもの発端は昨年の夏にまで遡ります。2017年の秋あたりから起こり始めたMee-tooムーブメント。ご承知のように、女性がセクハラに泣き寝入りすることをやめて、正面から告発に立ち上がった運動ですが、この波はアメリカからヨーロッパにも渡り、アイスランドにまで届きました。

昨年の夏頃には一応穏やかになってはいましたが、それでもそういう気運は残っています。そういう背景の中で、アイスランドの中央銀行を舞台にしてこの出来事は起こりました。

中央銀行は、日本で言えば日銀のようなもので、格の高いインスティチュートです。そしてその構内のロビーだか会議室だかに裸婦の絵画が飾られていました。ちょっとはっきりしないのは、この絵画が一枚なのか二枚なのかです。すみません。

すると、幾人かの女性行員が「このような裸体を毎日見させられるのは心外だ」というようなクレームをつけたらしいのです。正確にどのようなクレームだったのかまでは調べていません。

新聞の記事の具合から察すると、このクレームを支援する外部の団体等もあったようです。

中央銀行は、このクレームを受け、これもいろいろ外部のアドヴァイスも求めたらしいのですが、とにかく半年経ったこの一月に、問題の絵画を撤去し地下のガレージに移したのでした。

この絵画はアイスランドの画家グンロイグル・ブランダルという方の筆によるもので、きちんと評価された、それなりに価値のある作品だそうです。

この顛末がニュースになって報道されると、思いの外大きな反応が寄せられました。アイスランドのネット新聞には、それぞれの記事に直接コメントを送ることができるシステムになっており、読者の関心があるか否かはわりと容易く知ることができます。

(*それでも断っておきますが、このコメントシステム、こちらでも言いたい放題の悪口雑言を書き込む人が過半数で、私は普段はまったく無視していますし、こんなシステムやめるべきだと考えています)

で、全部に目を通したわけではないのですが、意見の大方はこの「撤去処分」を芸術における表現の自由に対する著しい侵害と見るもののようです。

私は始めはこのニュースに関心がなかったというか、何の話しなのか気がつかないで過ごしていたのですが、Facebookとかで、やたらにミケランジェロの裸体の彫像だとか、ミロのヴィーナス像だとかがアップされていたので、「何なんだ、これは?」と訝っていました。そういうことだったのか、と分かったのは実を言うと、かなり日が経ってからのことだったのでした。(^-^; (恥)




今回SNSでよく使われていたミケランジェロのダビデ像
Myndin er ur Jp.wikipedia.org


アイスランド芸術家連盟の会長エルリングル・ヨハネスソンさんは「中央銀行のこの行いは、芸術に対しての『ピューリタニズム』に陥っている」と批判し、公式に連盟から抗議文を送ったと報道されています。

さらにアルシンキ、アイスランド国会でもこの問題が論じられました。無所属の議員オーラブル・イースレイフスソンさんが、行政上は中央銀行のトップであるカトリーン首相の考えを質問したのです。

カトリーン首相は一昨日の金曜日に43歳になったばかりで、有能なばかりでなく、相当可愛い女性でもあります。(てなこと言うと、それもセクハラとか女性蔑視とか糾弾されかねないですが) ちなみに彼女はもともとは文学の専門家。

カトリーン首相は答弁に立って:「ふたつあるいは三つのポイントがあります。まず第一に、私は芸術における表現の自由を絶対に擁護します。これが大原則。

しかしながら、報道されていることを見る限りでは、問題の絵画の陳列は、銀行の特定のスタッフに不快な思いをさせていたということです。もしそのようなことがあったのであれば、銀行がそのような状態を改善し、誰もが気持ちよく仕事をできる環境を提供しようとするのは正しいことだと言えます。

いずれにしても、この問題が「裸体をモチーフにした芸術作品」を陳列するのを禁止するとか、そのように謝って政治的に利用されることがあってはいけません」

というわけで、カトリーン首相はまことに正論を吐いたのでありました。




おととい誕生日だったカトリーン首相
Myndin er ur Vg.is


まあ、ワタシ的には「特定のスタッフが不快に感じた」というのは、かなり政治的解釈だとは思いますが。その「不快に感じた」のがすでに「政治的反応」であるように思えてしまうので。

アイスランドは「表現の自由」を愛する国です。だから検閲とかにアレルギーを起こします。おかげで、「言いたいことはおよそ何でも言っていい」度でも世界のトップ水準を保っています。

いつだったか、そういうリサーチがあったんです、「何でも言っていい国順位」みたいなのが。アイスランドはベスト5には入っていたと記憶しています。

そういう気風があるからこそ、今回の出来事が議論の的になったのでしょう。しかし面白いのは、絵画撤去の原因になった「女性スタッフの不快」もアイスランドで強いフェミニズムの気風によるものだということです。

小さな社会の中で、ふたつの異なった精神性がぶつかっちゃったということでしょうね。それにしては議論は多勢に無勢感がありましたが。

皆さんはどう思われますか?お勤めの場所のホールとかに、かような裸婦や裸夫の絵画が飾ってあり、毎日ご対面しないといけない状況であったとしたら?

自分ならどうだろう?と考えると、意外にビミョーですね、どう反応すれば良いのやら...


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com

Home Page: www.toma.is

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする