レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

DV アイスランド大衆紙の行方

2015-01-11 05:00:00 | 日記
今まで何度かDVというアイスランドの新聞について触れたことがあります。昨秋くらいからこのDV内にちょっとした内乱が起こっておりニュースネタになっています。実は私個人にとっては残念な方向に向かっているニュースなのですが。今回はこのDVについてです。

DVについて触れる度に注付けしてきましたがこのDVは家庭内暴力とは関係ありません。(^-^; 私自身も「もとは何なんだろう?」と疑問に思いながらもそのまんまにしてきました。調べてみるともとの言葉はDagbladid Visirターグブラージズ ヴィーシルというものでした。ターグブラージズは「日刊紙」ヴィーシルは「(時計の)針」のことです。

何となく噛み合わない感じがするタイトルなのですが、それもそのはずでこのDVはもともとヴィーシル、ダーグブラージズというふたつの新聞だったものが1981年に合併してできた新聞なのです。

ヴィーシルの方は1910年の創刊ということですから、かなり老舗紙だったんですね。ダーブラージズの方は1975年の創刊です。

私がアイスランドに移った時にはもうDVになっていましたので、合併によって何がどう変わったのかはまったく分かりません。ただ昔から(つまり私が覚えている頃からということです)相当な「大衆紙」でした。つまりどぎついタイトルと大きな写真を掲げて、無からスキャンダルを作り出す、という手合いの新聞でした。

教会関係者からもよく犠牲者?が出て、覚えているのは「牧師、フェルミング(献信礼志願)の子供を殴る」だとか「牧師、フェルミングの授業で自慰を奨励」とかです。前者の方は詳しく知りませんが、後者の方は「性的な関心を持つことを罪悪とは考えないように」という今日では非常に普通のことを言っていただけ、と「犠牲者」から聞きました。

ここは小さい社会ですので、誰でも新聞の取材対象に容易になり得ます。私も何度もDVと話しをしたことがあります。言葉尻を取られないように気を使いましたが、なぜか私には好意的に接してくれて、昔からあまり迷惑を被ったことはありません。

そのDVは2006年の始めに事件を起こします。ウェストフィヨルドの町の小学校の男性教諭が、教え子の男の子二人に性的ないたずらをした、と一面記事で報じたのです。この教諭はその日のうちに自殺してしまいました。家庭のあった人でした。さらにいうと、いたずらの事実はなかったようです。

この事件に起こった一般市民が三万人の署名を集めて、DVに紙面作りのポリシーの再考を求めました。さすがに当時の編集者たちは職をさることになりました。

少し時が経って経済恐慌の後、2010年にレイニル・トロイスタソンという人がDVの新しい筆頭オーナーになり、同時に編集長も勤めるようになりました。
この人の下でDVはかなりそれまでとは異なる新聞になっていきます。

何人かの若い記者たちは、誰か専門家に話を聞くだけ(ここでは非常に一般的な取材の仕方)ではなく、自分たちで調べて学んで書く、ということを精力的に実施し始めました。

そういう風な仕事をする人材というのは、当然ものの考え方もしっかりしているものなのでしょうか、取材視点がいつの間にかすっかり異なったものになっていました。

私は何度も取材協力してきましたが、特にそれまでは「嘘つき、犯罪者」の同列に並べられてきた感のある難民申請者の問題について、非常に親身に、かつ詳細に報道してくれるようになりました。これは社会的な力も発言の機会もない難民申請者にはとても大きな支えとなりました。




内務大臣ハンナ・ビルトナの辞任を報じるDVネット版


その関連で一年あまり前に、ある難民申請者の個人的な情報がマスコミに流れる、という事件がおこりました。ある難民申請者が国外退去させられることになり、それに反対するための集会が予定されていたのですが、「その人物はヒューマントラフィックの容疑がかけられている」という情報が各マスコミに「タレコミ」されたのです。

この情報が報道されたのは反対集会予定日の朝で、当然集まってくる人は激減してしまいました。私はその反対集会を持った側のひとりだったのですが、「容疑」を「有罪」と断定するようなタレコミに頭にきたのは事実です。

そしてその後、この暴露は個人機密の暴露以外の何物でもないことに人々が気付き始め、今度はそのことの方が「漏洩事件」としてニュースネタになりました。漏洩元はどう考えても難民申請を扱っていた内務省か警察関係でしかあり得ない気がしたのですが、それをDVのふたりの若い記者、ヨハンとヨウンが執拗に追い回しました。

「やっとプロのジャーナリストがアイスランドにも生まれたか」と思いましたが、このふたり、昨年の取材ジャーナリズム大賞を受賞しました。当然だと思います。

そして昨年秋に内務大臣の個人的秘書が個人情報を漏洩したことを認め、続いて内務大臣も辞任せざるを得なくなりました。ジャーナリズの勝利です。

ところが、です。

同じ頃からDVの親会社の売買が進行し、進歩党(という名前の保守党)に関係のある人物が筆頭オーナーになってしまいました。直後に編集長の据え換えがなされ、進歩党の面々が新たに編集デスクに座るようになりました。

この新しい経営及び編集陣のポリシーは目に見えて「進歩党権益の保護優先」のものになっています。これはヨハンやヨウンのように前編集長の下で育ってきた記者たちには受け入れがたいものでした。そしてもはや時間の問題だたのですが、先週になってまずはヨハンが、ついでヨウンが辞表を突きつけてしまいました。

残念ですが、DVの「本物マスコミ時代」は終わってしまったようです。

先に書きましたが、私の仕事の上でも良いバックアップであったので、私にも痛いことです。ヨハンとヨウンの二人には、若いし才能とやる気があるのだから、なんとかこれまでのように社会正義を求める職が与えられること、あるいは創り出してくれることを願います。

グッドラック! 運よりは努力を示した彼らにはふさわしくないでしょうが。

DVを読んでみたい方はこちら


応援します、若い力。Meet Iceland


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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コメント (1)
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