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『インテリジェンス 武器なき戦争』 手嶋龍一 佐藤優

2007年03月19日 | 政治・経済・外交


インテリジェンス 武器なき戦争.jpg


手嶋龍一氏はNHKから独立したあとに書いた、インテリジェンス(スパイ)小説 『ウルトラダラー』 が話題になりました。私は未読ですが…。

本書の対談の相手、佐藤氏の見立てによると、うそっぽく書かれているところが本当の話しで、まことしやかな部分は虚構だそうですよ。情報源など突っ込まれて、手嶋氏が困っていました(笑)。


佐藤優氏の著作はこのブログでも、すでに三冊取り上げております。『自壊する帝国』 『国家の罠』 『国家の自縛』 です。どれも大変印象深いものでした。よろしければレビューをご覧下さい。


“インテリジェンス” とは、真贋含めたさまざまな情報、つまり“インフォメーション”をあらゆる手段を使って徹底的に拾い集め、その中から、本当に役立つものだけを拾い出し、結び付け、相手国の意図や実体を推し測り、外交や他の政策に活かすための活動、とでも定義するのでしょうか。

印象的だったのは、裏の情報というより、誰もが手に入れることのできる表の情報を綿密に分析するだけで、必要なことの90%近くは入手できるのだという佐藤氏の指摘です。私は“あっ、田中宇氏がやっていることだ” と感じましたが、どうでしょうか。


アメリカのCIA=Central Intelligence Agency 【中央情報局】 ですね。

CIAは何をしていた』 にも生々しく描かれていますが、佐藤氏の“自壊する帝国” を読まれた方は、氏の活動ですぐにイメージできるでしょう。ありとあらゆる人脈や方法を駆使して、情報収集、分析する仕事ですが、時には相手国の国家機密に近い部分にまで迫るわけです。


そのためにはどういう形であれ、エージェント(情報提供者)と接触しなければなりません。変装することもありますし、怪しいと思われれば、尾行はもちろんのこと、電話の盗聴など日常茶飯事で、スパイ活動の証拠をつかまれれば逮捕、状況や活動する国によっては命さえ危険にさらすわけです。


今、なんと世界中でアメリカ以外、ほとんどの要人の電話は盗聴されているそうです。アメリカだけは盗聴を仕掛けると危ないと、二人とも指摘します。しかし、アメリカの現在のCIAを中心としたインテリジェンスは非常に弱体化してしまい、イラク戦争などを引き合いに出して説明しています。


その点、イギリスは伝統的にインテリジェンスに強く、イスラエルは常に狡猾だし、佐藤氏の専門、ロシアはプーチン自身がKGB出身ですね。今、ロシアは日本の知力と、アメリカとの連携が弱まっていることを見て取って、領土問題でも何でも日本を小ばかにしているそうですよ!

日本はスパイ天国と言われますが、何も北朝鮮の工作員だけでなく、世界の二十数カ国が諜報員を東京に置いているのだそうです。東京はそれだけ世界中の良質のインテリジェンスを集めるだけの価値がある場所だと。

東京に一人インテリジェンス要員を置くだけで、少なくとも年間5千万円の経費がかかるそうです。一流マンションに住み、豪華なパーティーも開きますからね。それを補ってあまりまるほどの諜報活動をしているというのに、日本政府はどうも気付いていないらしい。


なぜ二人はそれを指摘できるかというと、そういう人たちが二人に接触を図ってくるからだというわけです。インテリジェンスは当然、裏の活動ですが、一方で独特のネットワークやおきてのようなものもできており、そこで信頼をされれば、情報交換ができるようですね。

情報を得るため、あるいはその確証を得るために、危険を冒して、けもの道を分け入っていくと、同じ人物に出くわすことが多いようで、お二人はけもの道で知り合ったような間柄のようです。おもしろいですね。


日本のインテリジェンスの問題点は、ここでもやはり縦割りの行政システムなんです。警察と防衛庁が不仲であったり、官邸と外務省とか、外務省のロシアスクールと○○派などといった具合ですね。情報がバラバラのまま活かされず、そのことに強い懸念を二人とも繰り返し表明しています。


ただし、日本が情報大国になることが無理かと言えば、そんなことはない。日本の情報収集能力自体は非常に高いし、歴史で何度もそれが証明されているという意見です。情報を統合するようなシステムや、人材育成の不備が問題だそうです。


目次は以下の通りです。


序章
 インテリジェンス・オフィサーの誕生(インテリジェンスは獣道にあり;情報のプロは「知っていた」と言わない ほか)

第1章
 インテリジェンス大国の条件(イスラエルにおける佐藤ラスプーチン;外務省の禁じ手リーク発端となった「国策捜査」 ほか)

第2章
 ニッポン・インテリジェンスその三大事件(TOKYOは魅惑のインテリジェンス都市;七通のモスクワ発緊急電 ほか)

第3章
 日本は外交大国たりえるか(チェチェン紛争―ラスプーチン事件の発端;すたれゆく「官僚道」 ほか)

第4章
 ニッポン・インテリジェンス大国への道(情報評価スタッフ―情報機関の要;イスラエルで生まれた「悪魔の弁護人」 ほか)



スパイというと良いイメージはわきませんが、インテリジェンス活動で満足のいく仕事をやり遂げるには、並外れた知力と体力に度胸、それに国家に対する忠誠心がなければとても勤まりそうにありません。自分の家族にすら明かせないようなものを扱うわけですからね。

イラク戦争は石油が目的ではない、ロシアはイスラエルとドイツに接近している、アメリカのキリスト教右派とイスラエルが繋がっているなどなど、他にも興味深い意見が聞かれました。

現実に今も、慰安婦問題や北朝鮮に対するアメリカの出方など、情報を見誤ると、確かに大きく国益を損ねる気がします。




P.S. 日本ではあまり大きく報道されませんが、アメリカの議会の公聴会で、元CIA工作員(スパイ)の女性が証言しました(ysbeeさんのブログ に詳報されています。ご覧下さい)。インテリジェンスの世界の複雑さを垣間見る思いがします。


インテリジェンス 武器なき戦争

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『インテリジェンス 武器なき戦争』 手嶋龍一 佐藤優
幻冬舎:230P:777円