ベルリンの壁が崩壊(89年)からはや17年。かつては、深い溝の象徴として、例えば、『あの二人の間にはベルリンの壁がある』 などと言いました。(今なら、“38度線”が引かれている、でしょうか)
隔世の感がありますが、今なお、ドイツ経済は決して好調とは言えず、著しい学力低下も叫ばれています。日本でもそうだったように、W杯が経済の起爆剤と期待されているのでしょう。
この、ドイツ社会低迷の原因のひとつはまちがいなく、壁の崩壊によってもたらされた東ドイツとの融合です。経済的に疲弊した東ドイツ社会の再建や融合は、そう簡単ではありません。
さて、今の北朝鮮、中国においても想像されるように、当時の東ドイツには政治的な自由も当然ありません。そして本書で描かれる、秘密警察(シュタージ)の実態が徐々に明らかになってきています。
社会主義国の優等生だった東ドイツはどう国民を管理していたのか、わずか人口1千7百万の国に、シュタージの職員だけで約10万人、密告者は17万、パート的なものまで含めると、国民の7人に一人がシュタージにかかわっていた。つまり隣人には、いや家族の中にさえ、自分を見張る人が含まれているという異常管理社会でした。
ジョージオウェルの『1984年』 で描かれていた恐怖社会が、存在していたわけです。体制への批判には、逮捕、処刑の恐怖が訪れます。西ドイツへ逃れようとして壁の近くで射殺された人々も実際に数多くいます。
第二次大戦後、西ドイツでも、管理ファイルが暴かれ、ナチスの協力者、通報者達はことごとく社会から葬られました。今、旧東ドイツでも、国民は自分がそのファイルにどう書かれているのか戦々恐々としているというわけです。
壁崩壊と同時に関係者が、追及を恐れて大規模にファイルを処分したのですが、それの修復作業とファイルの分析を進めています。ところがそのファイルの量たるや、今のスピードで進めても終えるのに300年以上かかるというほど膨大なのです。
このような事実や、少しずつ過去を語り始めた、関係者、迫害した側と監視された側への取材をもとに本書は書かれています。
独裁政治、秘密警察によって情け容赦なく引き裂かれた人々の絆、裏切り、密告、相互監視などが常在する社会が描かれています。小説ではないのです。ノンフィクションとしてイギリスのサミュエルジョンソン賞というのを受賞しているそうです。
最後に船橋洋一氏が述べているように、やがて北朝鮮の平壌ファイルが暴かれたら…、毛沢東ファイルが暴かれたら、その国内の協力者たち、それに…、日本の政治家や協力者たちは…、と考えますと、現在のドイツの緊張感が想像できるのではないでしょうか。『1984年』 に比べてもずっと読みやすくなっています。お薦めします。
ドイツ関連としては、これまで、『ニッポンの公文、ドイツの教育に出会う』 フックス真理子、 『ベートーヴェンの遺髪』 ラッセルマーティン、 『ユダヤ人とローマ帝国』 大沢武男 などをご紹介させていただきました。よろしければご覧下さい。
また読売の記事があります:ネオナチの影
http://tokkun.net/jump.htm
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