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TAOコンサル『市民派アートコレクターズクラブ』

「注目の現代作家と画廊散歩」
「我がルオー・サロン」
「心に響いた名画・名品」
「アート市民たち(コレクター他)」

木村繁之展・・ギャラリー椿

2017年06月30日 | 気になる展覧会探訪

我がアート遍歴の初期のほぼ10年はアメリカ現代美術を中心としたミュージアムピース探索であった。フランク・ステラやマックス・ノイマン、ジャン・シャルル・ブレ、ハワード・ホジキンなどを購入することもあったが、銀座の画廊を出入りすることはなかった。初めて覗いた画廊がギャラリー椿で、ちょうど木村繁之展をやっていた。木版画やテラコッタを得意とするやさしい画風の作家だ。



先日、ビジネスパートナーのSさんとギャラリー椿の木村繁之展に出かけた。
星空の木版画などどれも深みのある作品であったが、木彫の作品に魅かれた。冬枯れの木立の中で男が一人思索しているような構図だ。木彫だが、人物のまわりには白い磁器を削って溶いた絵の具が塗ってある。木の肌触りと石の触感が混じり合っていい雰囲気の作品である。


右側のお二人・・作家木村繁之氏とギャラリーオーナー椿原氏


       中央:作家の木村繁之氏 ・・・・ 右端:我がビジネスパートナーのSさん


西荻窪「数寄和」・・NYのマコト・フジムラ氏、手漉き和紙に新たなる挑戦

2016年11月15日 | 気になる展覧会探訪
西荻窪に「数寄和」なる表具額装を専門に扱う画廊がある。オーナーは温和そうな紳士岸田憲和氏、画廊の本拠地は近江にあるとのこと。
この画廊でNY在住のマコト・フジムラ氏の作品展が開催される旨の案内をいただき、出かけて来た。作家は若い頃米国より東京芸大日本画科に留学、その後NYで作家活動を続けている。私も若い頃の作品を数点持っているが、ここ暫くお会いする機会がなく、この日は作品のことやNYでの作家活動のことなど伺いながら、旧交を温めた。

左から2人目マコト・フジムラ氏、3人目立島氏

今回は数寄和が提供した伝統的製法で漉いた和紙に作家が花を描くという企画で、マコトフジムラ氏の現代美術的作品が表装され、掛軸の形で展示されるという面白い試みの展覧会であった。オープニングには、日本画家谷中武彦氏や作家支援を続ける原田俊一氏、佐藤美術館の立島学芸員などが参集、和やかなパーティとなった。



後列右画廊オーナー岸田氏

奥田良悦展、蟻の愛は人間の愛より深い・・ギャラリー惣

2016年10月14日 | 気になる展覧会探訪
銀座のギャラリー惣で、友人でもある奥田良悦さんの展覧会を開催中である。
奥田さんは一貫して蟻をテーマに描き続けている。顕微鏡で覗いたかのような蟻を拡大した作品であるが、擬人化された蟻の動きが面白い。しかし最近は蟻が2匹ないし集団で登場、巣のなかで語り合っているかのような作品が増えて来た。その語らいは愛であると作家は言うのである。そうか、❝蟻の愛は人間の愛より深い❞のか。いや、それほど奥田さんの蟻への思いが深いのだ。




作品鑑賞のあと作家の横田海さん・奥田さんを囲んで、やはり作家の横島庄司氏や美術愛好家Mさんと居酒屋へ。こうして時々画家や美術愛好家と一献交わすのだが、楽しいものだ。我々酔っ払いは「絵のテーマとして蟻は難しいよなー」等と勝手なことを言いながら、蟻の愛について語り合う。楽しき秋の夕べであった。
横田海氏  横島庄司氏

90人の作家達が立ち上げた椿原さんの古稀のお祝い会、素晴らしい!

2016年06月21日 | 気になる展覧会探訪
椿原弘也さんの古希のお祝い会のご案内をいただいた。90人の画家の皆さんが企画した展覧会とのこと。素晴らしいではないか。ということで、僕らもと、友人のTさんを誘い、小さなワインとお菓子をぶら下げて訪ねたら、皆さんもう盛り上がっている。壁には作品が一面に展示され、テーブルには高級なお寿司や山盛りのオードブル、色んな種類のワインが並んでいる。

司会はこの展覧会を中心になって準備した金井訓志氏。主賓の椿原さんは、健康を快復された奥様やお孫さんに囲まれ嬉しそうだ。私が初めてギャラリー椿を覘いたのはもう30年以上前のことだが、椿原さんのような良識を供えた気品あるギャラリストはなかなか居ないと思う。金井さんが、今回の図録に
椿原さんとの思い出を語り、「・・そういう人です。多くの人に寄り添って居られるのでしょう」と、とてもいい文章を載せておられるが、その通りであると思う。
椿原さん、古稀、おめでとうございます。益々のご活躍をお祈りいたします。


王建揚氏の作品・・見てよ、椿原さんのこの嬉しそうな顔、風呂に浸かりながら笑ってる。周りに椿の花を散らせて・・。河口湖辺りの別荘での写真であろうか。


椿原さんご夫妻とお孫さん、右端が金井訓志氏。


椿原さんを囲んで、画家の横田尚さんと銀座で整体施術の店を構える鈴木さん。


アートコレクター木村ご夫妻と

倉知弘行氏写真展「川がある」、軽井沢の水が美しい・・ギャラリーモナ

2015年04月17日 | 気になる展覧会探訪
倉知弘行氏は同じ損保業界の出身であるが、会社をリタイアした後、毎年テーマを決めて写真を撮り続け、発表している。私も二度お訪ねしたことがあるが、旧軽井沢に立派な山荘があり、ここを起点に撮影した作品が中心になっている。
今年のテーマは「川がある」である。「白糸の滝」など軽井沢の名所や軽井沢の追分を流れる「濁川」のいいスポットを探索して撮影した写真が並んでいる。いい作品は何点もあったが、友人と遊びにお寄りした折り、ドライブで連れて行っていただいた「竜返しの滝」の作品が気に入った。望遠レンズは使わないとのことなので、水に入り、相当近くまで行って撮った写真と思われるが、迫力がある。倉知さん、「滝の水しぶきは凄いんですよ。カメラのレンズにも飛び散って大変でした」と嬉しそうに語る。


 私が特に気に入った「竜返しの滝」

私は山荘に一泊させていただいたこともあり、ワインを飲みながら写真にまつわる薀蓄など伺ったが、楽しい思い出である。今回も短い時間ではあったが、撮影技術や杉本博司や上田義彦、植田正治など写真家のことなど立ち話したが、写真撮影への愛着や拘り、その研究姿勢を伺っていると、多分現役時代は仕事のできる男であったろうことを彷彿とさせる。奥様もいい方で、夫唱婦随のその人生にエールを送りたくなる。

元々倉知さんをご紹介いただいたのはやはり同じ業界の先輩T氏、今年も一緒に作品鑑賞。写真中央が倉知氏。




軽井沢の濁川

枝香庵SummerFesta・・小品だが、作家の思いが伝わるいい展覧会だ

2014年08月11日 | 気になる展覧会探訪
銀座の枝香庵のサマーフェスタ展を覘いて来た。小品の展示ではあるが、作家が本気で、時には遊び心を持って制作した作品たちが並ぶ。平澤重信のいつもと違う画風の作品や横田尚の心を込めた金魚、その他佐藤温、オーガフミヒロ、コペンナナなどいい作品がたくさんあったが、特に心に残ったのは、野澤義宣の二点だ。一点は人物、これもいいが、もう一点の「青天」がいい。
画像が悪いが作品「青雲」

「青雲」は男が二人、深山の大きな空の下の岩の上で酒酌み交わしている絵だ。多分、画題は寒山拾得であろう。となると、描かれているのは貧しき僧侶か。酒酌み交わしながら堕落した世を笑っているのであろうか。かんらかんらと語り合う声が聞こえてきそうだ。
タイトルの「青雲」もいい。空は晴れあがっていないのに・・。二人とも青雲の志を捨てていないのだ。作家の思いが伝わって来る。


 横田尚作品

三浦康栄展・・ジャコメッティー風の細い裸婦が印象的

2014年06月17日 | 気になる展覧会探訪
三浦康栄氏は米国大手IT企業時代から絵画制作を趣味としてきた。静物画や人物像を得意としており、元々日曜画家の領域を超えたものであった。その彼が会社をリタイアしてから制作に熱が入り、数年前独立して画家デビューしてしまった。



今回はモデルを使った女性像に力を入れており、特にジャコメッティー風に細く描かれた裸婦がいい。清楚な雰囲気を漂わせ、一輪の花でも見ているようだ。
その他、自画像は昨年以上にいい出来であり、又、力強く一気に線が引かれたクロッキーにも感心してしまった。



上野明美展 @ギャラリーゴトウ

2014年05月19日 | 気になる展覧会探訪


昨年の上野明美さんの個展で目にしたのは、どっしり重厚感に満ちた人間を描いた作品でした。ブロンズ像のような色彩とゴツゴツ感。ご本人の持つほんわか雰囲気と作品とはまるで大違い。そのイメージが強烈にあったので、今回の個展会場に入った途端、他の作家の方と勘違いしたかと思ったほどです。黒、茶系の色の作品はほとんどなく、緑や青や赤や黄色。まあるくやさしい印象の作品が並びます。ご本人いわく「自分の中で何かがつかめたように思います」。その言葉が今回の個展に表れていたというわけです。この変化のきっかけとなる何かがあったのでしょうか。たとえば何かに感動したとか、何かに興味を持つようになったとか、何か環境が変わったとか。気になってご本人に尋ねてみました。「うーん……。いつの間にか洋服の好みが変わっていたようなものでしょうか」。これといったものはないそうです。答えが見つからなくてよかった。作風が変わった理由なんて、分かってしまっては、確かにつまんない。左脳で分析できないところがいいなと思います。(山本理絵)


(東京都中央区銀座1丁目7-5 銀座中央通りビル 7F)

阿部清子展@ギャラリー広岡美術

2013年12月06日 | 気になる展覧会探訪


 和紙に墨を主体として描かれている女性たちは、みな美しくて、そして、ものうげに見えます。どの女性もこちら側、正面をきりりと見据えてはいなくて、視線はどこか宙を細かく震えながらさまよっているよう。彼女たちはいったい、「なに」を見つめ、「なに」を頭の中に浮かべ、「なに」に思いを馳せているのか。「発芽」「望郷」「脱帽のすすめ」「陣痛」……。作品たちに添えられたタイトルはどれも意味深だけれども、「なに」を限定することはありません。見る側を拘束せずに、彼女たちの眼差しの理由はどこかを静かに漂ったまま。背景になにも描かれていないところが、またいっそう、見る側の想像する「なに」を広げさせてくれます。
 墨というのは単に黒い色を指すのではないことにも気付かされます。墨はたった1つの色彩を表現するものではなく、柔らかい色彩も、なだらかな色彩も、繊細な色彩も、やさしい色彩も、不安定な色彩も、深い色彩も、重厚な色彩も、持っている。そして、それらの墨が描く、線や境界や領域のそれぞれが、表現し伝えうる幅や力の豊かさ。墨が持っている豊饒さのようなものに感じ入らずにはいられません。この豊饒は、描かれている女性たちの姿にもそのまま重なっている気がします。
 1点だけ、背景の描かれている「禊(みそぎ)」と名付けられた作品があります。このタイトルは、阿部さんがこれまでにも何度か選んできたテーマだとか。この作品だけは、女性の眼差しが見えません。水の中を、向こう側へ、向こう側へと、微かな水音をたてながらゆっくり静かに泳いでいっている、女性の後ろ姿なのです。ただ、水の向こう、行く先に、「なに」かが必ずある。それだけは確かだということが伝わってきます。(山本理絵)
(東京都千代田区神田駿河台3-1-7烏山お茶の水ビル2F)


日立ハイテク美術会展 @ギャラリーくぼた

2013年08月29日 | 気になる展覧会探訪
 春陽会に属している奥田良悦さんが、ずっと描き続けていらっしゃるというアリの「ド」アップの絵が見たい! という思いを晴らすことは、今回のグループ展では叶いませんでした。奥田さんは今回、アリを封印。抽象画ばかり4点を発表されたのでした。
 箔を貼って化学反応による変色を試みた奥田さんの作品からは、勢いや重厚感がずっしり。会場の中でも堂々とした風格を放っていました。眺め続けているとちょっとずつ動き出しそうな、静かな生命力の気配も感じます。色合いには思わずじーっと見つめてしまう味わいが。
 その色は、箔の化学反応によって創り出されたものだそうです。狙ったところで色を固定させるため、化学反応がそれ以上進まないように止めさせる薬品の調整は、奥田さんの奥義だとか。さすが元・技術者です。
 とはいえ、やっぱり奥田さんが追求してきた従来のアリ作品を見たくてたまりません。でも、この抽象画に感じられる生命力の気配に、ふと思ったのでした。もしかしたら、これは一見抽象画、そのじつ、アリの細胞の「ド」アップ具象画なのではないでしょうか。次回は、細胞レベルまでアップにはしないアリの表情が分かる作品が展示されることを、楽しみにしています。(山本理絵)

                       (真ん中が奥田良悦さん)

小林まどか展@もみの木画廊

2013年07月12日 | 気になる展覧会探訪




「或る日の夢」と題した小林まどかさんの個展が開催されている自由が丘のもみの木画廊へ。
 銀箔や金箔を貼り巡らせた背景に、朽ちかけた向日葵のモノクロームの連作は、中でも目を引く作品でした。向日葵の背景を無機質へと傾かせたこと、モノクロームで向日葵を描いたことが、朽ちかけ、残された時間が短くなっている植物の生命力を、逆に際立たせている気がしました。長らえてきた生命の力強さ、時間を経験した者だけが持ち得る生命の重厚感が静かに伝わってきます。
 会場の奥の壁には、大海を進む魚の群れを、海の中に潜ってスケッチしたかのような作品が展示されていました。今回の個展の中で、いちばん大きなキャンバスに描かれたものです。作品タイトルからすると、白雨の中を魚群が泳いでいるという絵のようです。下から見たときに魚の腹が白いのは、海面から差し込む光の白に紛れて、敵から身を守るためだと聞いたことがあります。白い腹を見せながら群れる魚たちは、波の中で縦横無尽に揺らぐ光線と戯れて、白い光線の雨と同化しながら海洋のどこかへと向かって旅しているよう。
 大気の中を通過する雨は「液体」ですが、海水の中を通過する雨は「光」。恵みの雨もあれば、ありがたくない雨もありますが、この作品の白い雨は、魚たちを守る雨であってほしいものです。(山本理絵)

(もみの木画廊 東京都世田谷区奥沢6-33-14 もみの木ビル2階)

抽象絵画は感性と論理のせめぎ合い

2013年06月20日 | 気になる展覧会探訪
 及川伸一氏の個展。あいにくの雨ではあったが、ご案内を頂戴しながら失礼することが多いので、思い切って出かけた。会場は日本橋のギャラリー砂翁。展覧会名はAndante、アンダンテとは?ふと中学時代に勉強した音楽の速度、“ラルゴ・アダージョ・アンダンテ”を思い出した(笑)。そう、“ゆるやかに”の意味。及川さんは穏やかなお人柄、作品もゆっくり、楽しみながら描いているに違いない。

 出品作品はリーウーハン作品を彷彿とさせるいい絵である。及川さん、一皮剥けたのではないだろうか。・・という訳で、暫し美術談義。

 最近アメリカのアーティストはコンセプトを明確にし、プレゼンテーションにも力を入れるらしい。いささか行き過ぎな気はするが、及川さんにも作品への思いを文章にすることを薦める。私が好きな絵のジャンルは現代美術。とりわけ何か考えさせる絵だ。抽象作品は、まさに感性と論理のせめぎ合いの世界だが、私を思索の世界に引きずり込むような作品が好きだ。 

 そんなことを語り合う楽しきひとときであった。益々のご活躍を祈りたい。(TAO・TY)

作家及川伸一氏と出品作品

新潟絵屋での平田達哉個展のこと

2013年04月23日 | 気になる展覧会探訪
 久しぶりの新潟である。新潟絵屋の大倉宏さんのお世話で開催した砂丘館でのコレクション展からもう3年になる。実は半年前、東京で活躍する作家平田達哉氏を大倉さんにご紹介したところ、気に入っていただきその個展が実現した次第である。大倉さんから企画担当を仰せつかったが、新潟絵屋の会報『絵屋便』に作家の紹介文を書く程度のことしかできなかったので、せめて展覧会初日には訪問しようと、このコーナーに展覧会記事を書いている山本理絵さんと駆けつけた。大倉さんは相変わらずお忙しそうであったが、楽しい再会であった。

平田達哉氏と展覧会取材の山本理絵さん


・・絵屋便に書いた平田達哉さんの紹介文・・

『構成力ある抽象を得意とする作家である。プリミティブな形にこだわりながら、センシティビティーある世界を追求する姿勢から生まれる作品は、見る者を異次元に引きずり込む。
作家は、この数年、家をテーマにした立体にも取り組んでいる。きっかけは大震災で崩壊して行く家、跡継ぎのない故郷の父母の家への思いだ。家族が集う場としての“家”、その記憶を未来に繋がんと、蝋燭の炎で鉛の素材に明かりを灯そうとする。ここにあるのは作家の祈りだ。(山下透)』

  
平田達哉展風景

倉知弘行写真展@ギャラリーモナ

2013年04月19日 | 気になる展覧会探訪
「なだらかな稜線の山の絵だ」「鮮やかな色彩の空だ」「やさしい目をした人だ」「ユニークな構図だ」などなど。絵画も写真も一目見た時に、まず何かしらの、分かりやすく言葉に変換しやすい第一印象を、見る側に与えてくれるものではないでしょうか。そういった第一印象が作品の扉のドアとなって、見る側を扉の前に立ち止まらせ、ドアノブにすっと手をかけさせ、作品の世界へと誘ってくれる。
 ところが、エスコート役を担ってくれる第一印象というものが見あたらない。倉知さんの写真はそんな作品だと思いました。ボーッと歩いていては、扉の在り処にさえ気づかず通り過ぎてしまう。ですから、見る側には、意思を持って、感受性を開放させて、何かを求めることが必要とされる。作品に対して能動的な意識を投げかけて来る人にだけ、心を開いてくれるように感じられるのです。


 写真展のタイトルは「森を抜ける道」。軽井沢の森で、さまざまな季節、さまざまな時間に撮影されたカラー写真の空間には、木々の枝が無造作に伸び、葉が生い茂り、光が差し、日陰が身を潜めています。道はどこを通っているのか、ぼんやり不明瞭。倉知さんの意図は深い森の向こう側。こちらに向かってはっきりと主張してくることも導いてくれることもありません。けれども、森に向かって目をじっと据えてみたり、耳を静かにそばだててみたり、肌の表面を研ぎ澄ませてみると、やおら目の前の写真が語りかけてきてくれる。その主題も、内容も、人それぞれ。対峙の仕方次第なのです。見る側の意識が存在して初めて、作品としての顔をのぞかせてくれる。そんな森であり、道であるような気がします。
 そして、作品がこちらに心を垣間見せてくれた瞬間、気づくのです。いかに私たちが、周囲に何気なく息づいている自然やモノの驚異を見過ごしてしまっているかということに。その昔、陶器の包み紙として海外に何気なく流出していた浮世絵が、国外で初めて芸術として評価されるようになった事象が思い出されます。(山本理絵)


(ギャラリーモナ 東京都港区麻布十番2-11-3)

第66回 示現会展@国立新美術館

2013年04月10日 | 気になる展覧会探訪


 古明地勝昭さんは、市民派アートコレクター・Yさんの高校時代のご友人。幼少期から絵が好きな少年だったそうです。本当は美術学校で絵を学びたいと思っていたものの、甲府の進学校へ。けれども、その後もずっと絵心を温めてきて、現在は示現会に所属して作品を創作し続けています。そんな古明地さんの絵が展示されている示現会展を観に国立新美術館へ。

 会場は、30もの小部屋からなるという規模の大きさ。各小部屋にある四面の高い壁を、会に属している方たちの絵がきれいに埋め尽くしていました。油絵あり、水彩画あり、風景画あり、人物画あり、抽象画あり。数の多さにもテーマの多さにも圧倒されました。でも、いちばん圧倒されたのは、これほどまでにたくさんの人たちが筆を握ってキャンバスに日々向かっているということ。創作意欲を胸に表現する人たちが全国にこんなにいるだなんて。展示された絵は1000枚以上にものぼっているようです。他にも数知れない会や団体の存在を考えると、日本の絵描き人口なるもの、いったいぜんたい。そう考えると、ギャラリーという場に展示される作品の希少をあらためて感じずにはいられません。
 このあと、この会の展示は青森から熊本まで14の会場を12月まで巡回するそうです。1000枚もの1メートル以上のサイズの絵たちが、これからこぞって日本列島を長旅していくのですね。なんて壮観な大移動。

 古明地さんの絵は、遺跡の石の灰色と対照的な草の鮮やかな色が印象的な作品でした。古跡の風景ですが、いつの時代のどこの町に残されている廃都なのでしょう。地名を敢えて伏せた作品のタイトルもいいなと思いました。長年、たくさんの絵を見てきたYさんによると、「遠近法による構図が心地よく、色彩感覚もいい。日曜画家のレベルを超えてますね」とのこと。これからのご活躍を期待したいと思います。(山本理絵)

(※国立新美術館 東京港区六本木)