TAOコンサル『市民派アートコレクターズクラブ』

「注目の現代作家と画廊散歩」
「我がルオー・サロン」
「心に響いた名画・名品」
「アート市民たち(コレクター他)」

緑川俊一展・・独学とは思えない類い稀れな人物表現 

2014年05月25日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 ギャラリー川船はいい展覧会を企画する画廊として評価が高い。今回、ずーっと気になっていた緑川俊一の個展があると聞き、作家からもDMを頂戴したので、喜んで出かけて来た。なかなか見る機会がない回顧展であったが、想像した以上にいい展覧会であった。

 緑川俊一の作品のテーマは一貫して人物と顔である。どれも見応えあるものであるが、1975年の紙に油彩で描いた顔の作品が特に素晴らしかった。一見、抽象に見える画面の中に目が描かれ、口が描かれている。好きな色であろうか、黄色を基調とした色彩もとてもいい。こういう作品を作る作家が他にいるだろうか。存在感ある作品である。この他、黒インクを使った木版画も伸び伸びとした作品で、若い頃からの才能を感じさせる。


 作品がとてもいいので、二日続けて見に行ったところ、作家も在廊。いつもは立ち話であったが、絵について暫し語り合った。小学生の頃はカメラが好きで5台も持っていたとのこと、恵まれた少年時代であったようだ。その後、小笠原や小樽、そしてニューヨークに移り住み、働きながら作品を制作してきた。つまり絵は独学だという。にも関わらず、こういう見る人を感動させる作品が描けるのは、技術だけではない何かがあるということ。生来の確かな才能と、放浪の人生で培ってきた人生観が、こういう絵を可能にしているのであろう。・・楽しい会話であった。

作家本人

初期の木版画

三浦逸雄展 @東邦画廊

2014年05月23日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
    

 オーナーの中岡ご夫婦の御厚意で、何枚もの三浦さんの作品を次々と並べて見せていただきました。どの作品も大半を占めているのが、人も動物もモノも何もない空間。穏やかで静かな色で筆が重ねられたこの空間には、何もないようで何かが潜んでいる不思議な気配を感じます。そしてこの気配は、ゆったりとズーン、ズーン、とこちらに迫ってきます。さらに、キャンバスを飛び出したところにある、見る側と作品との間にある空間へと、ズーンと控えめに伸び出してきて、周囲の空気まで緩やかに巻き込んで何かのスイッチを促してくる。作品の奥に描かれて佇んでいる人と作品を見る者の間に、何かを生じさせるのです。じっと見れば見るほどに、ズーン、ズーンと打ち寄せてくるやわらかな小波。それを自分の中でどう受け止めるのか。一見「静的」な作品に「動的」なものが潜んでいるように思うのです。
 ある作品には、物理的には不自然な丸い影が描かれていました。米寿も間近な中岡さんが「一度、影を取り去ってからできた影。影のようで影ではない」と嬉しそうにおっしゃいました。意味がほんの少しだけ、分かったような。(山本理絵)

緑川俊一回顧展 @ギャラリー川船

2014年05月23日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩


 東京に生まれ、その後、沖縄、小笠原の父島、母島、小樽、ニューヨーク、そして千葉。緑川さんの移住距離は半端ではありません。なかでも、返還前の沖縄、返還直後の小笠原で生活し創作していたという経歴は気になります。自国なのか異国なのか、ヒトもモノも入り交じった土地から受けた影響は少なからずあったはず。なにより、そういった環境へと自ら踏み入った行動に惹かれずにはいられません。版画作品は、小笠原時代につくられたものが並びます。どれも、はちきれんばかりの自由が充満していて、エデンの園よう。
 モノクロームの版画コーナーとは異なり、油彩コーナーには、色彩のパラダイス感がいっぱい。キャンバスいっぱいに描かれた顔が7枚ほど、横一列に掛けられていました。すべて、同じサイズのキャンバスに、同じ構図、同じ角度、同じ人(だと思います)。でも、もちろん、それぞれが全く違う個性を持ち備えています。まるで七変化。筆運びのせいなのか、色使いのせいなのか、塗り方のせいなのか。というより、緑川さんのその時の心の流れや過ごした土地のせいなのでしょうか。さらに、1枚1枚距離を変えて近づいたり離れたりすると、見えてくるものもまた違ってきます。すると、もう七変化どころではなくなってしまう。7枚の間を左右に行ったり来たり、前後に行ったり来たり。とても得難い体験ができました。(山本理絵)


横田尚展・・目が印象的な少女、自画像に違いない

2014年05月22日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 ギャラリー椿の横田尚展、期待にたがわない、いい展覧会である。
かつてはシュールな描写が中心であったが、ここ数年、明るくちょっと艶やかな雰囲気の作品に変化して来ている。だが、テーマは変わることなく少女
である。幼い少女もいれば色気を感じさせる年頃の少女もいるが、そのデフォルメされた人物像が見る者を惹きつける。そして、どの作品にも金魚が描かれている。


 これらの少女と金魚の絵、作家は何を描こうとしているのだろう。少女の大きな目はしっかりこちらを見ている。何かを求め、何かを探している目だ。少女のまわりには金魚が泳いでいるが、これは少女が求めている象徴なのではなかろうか。それは幸せかも知れない、夢かも知れない。


 そのように見てみると、横田尚の作品はただ可愛い少女が描かれただけのものではなく、そこには少女の内面世界が見える気がするのである。
・・そういえば、このきりりとした大きく印象的な目、ちょっと作家の目に似ているではないか。

斉藤眞紀展・・ポルトガルの空気が描かれた作品たち

2014年05月22日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 会期は終了してしまったが、先日斉藤眞紀展を覗いてきた。ポルトガルを旅しながら描いた風景画である。かつては立体や抽象を中心に制作して来た作家であるが、ここしばらく具象作品に取り組んでいる。ポルトガルへの旅がきっかけなのか・・。


 どの作品も余白が多く、一気呵成に描かれている。作家の思いは、目に見えるものをそのまま描くというのではなさそうだ。まさにポルトガルの空気を描いているのだろう。かつての緊張感ある抽象作品に比べると力が抜けていい感じである。多分、ポルトガルの街に触れている内に、何か吹っ切れるものがあったのだろう。いずれ、その辺りの心境を聞いてみたいものだ。


 今も、時々ポルトガルにでかけているらしい。どうぞ、良き旅と良き作品を!、GoodLuck!
前回の発表作品

上野明美展 @ギャラリーゴトウ

2014年05月19日 | 気になる展覧会探訪


昨年の上野明美さんの個展で目にしたのは、どっしり重厚感に満ちた人間を描いた作品でした。ブロンズ像のような色彩とゴツゴツ感。ご本人の持つほんわか雰囲気と作品とはまるで大違い。そのイメージが強烈にあったので、今回の個展会場に入った途端、他の作家の方と勘違いしたかと思ったほどです。黒、茶系の色の作品はほとんどなく、緑や青や赤や黄色。まあるくやさしい印象の作品が並びます。ご本人いわく「自分の中で何かがつかめたように思います」。その言葉が今回の個展に表れていたというわけです。この変化のきっかけとなる何かがあったのでしょうか。たとえば何かに感動したとか、何かに興味を持つようになったとか、何か環境が変わったとか。気になってご本人に尋ねてみました。「うーん……。いつの間にか洋服の好みが変わっていたようなものでしょうか」。これといったものはないそうです。答えが見つからなくてよかった。作風が変わった理由なんて、分かってしまっては、確かにつまんない。左脳で分析できないところがいいなと思います。(山本理絵)


(東京都中央区銀座1丁目7-5 銀座中央通りビル 7F)

松田正平展  @瞬生画廊

2014年05月19日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 
※写真はいずれも今回の展示作品ではありません。

鷲がほくそ笑んでいたり、犬が恥じらっていたり、イカがいたずらしそうにしていたり、メバルが不思議そうに見つめていたり、カマキリがズッコケていたり。作品からは、生きるものへの好奇いっぱいに向けられた松田正平さんの眼差しが伝わってきます。こんなにも生きものだちに喜怒哀楽があっただなんて。さささささと描いた線のように見えますけど、それは見た目だけ。松田さんは、じーっくりじーっと筆を動かしていらっしゃったということを画集も見せていただきながら、画廊の方が教えてくださいました。見た目の印象と実際に培われた時間の差のなかに、こめられた心持ちの深さを感じてなりません。愛犬たちにまつわる絵とお話もよかった。(山本理絵)
(東京都中央区銀座6-7-19 空也ビル2F)