TAOコンサル『市民派アートコレクターズクラブ』

「注目の現代作家と画廊散歩」
「我がルオー・サロン」
「心に響いた名画・名品」
「アート市民たち(コレクター他)」

現代美術作家山田正亮氏のアトリエ訪問と美術談義

2006年11月17日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 『市民派アートコレクタークラブ』のブログにも掲載したが、山岸勝博氏と作家山田正亮氏宅及びアトリエを訪問した。10月に我々が企画した展覧会『市民派コレクターによる山田正亮展』のお礼を兼ねてのことであったが、とても歓迎していただき、楽しい1日であった。山田正亮氏については語るまでもないが、現代美術の代表的作家であり、《静物》から、《Work》、《Color》へと抽象絵画の本質に迫る作品を発表しつづけている。昨年、府中市美術館の本江邦夫館長が企画した展覧会が話題を呼んだが、もっと評価されていい作家だと思っている。
 しかしその作品の全体を見る機会は少なく、この日はアトリエに並べられた大作を鑑賞したり、過去の展覧会の新聞記事や図録を拝見しながら、先生から直接お話を伺うことになった。初期の静物シリーズや60年頃のストライプなど、それぞれの時代の作品はそれだけで一つの世界を築きあげているが、アトリエにあった80年代以降或いは最近の作品も素晴らしいものばかりであった。山田正亮作品の存在感にあらためて圧倒された次第である。
 この日は奥様手作りのオードブルをおつまみにワインを頂戴したのであるが、先生はアート以外のことにも造詣が深く、知的な会話の贅沢な時を過ごすことになった。タルコフスキーの「惑星ソラリス」やヴィスコンティー、アンゲロブロスなど格調高い映画の話もでて、映画も好きな小生には嬉しい一日であった。(山下透)

 
(寛ぐ山田正亮氏)  (山田先生のアトリエにて)

感慨深いギャラリー池田美術移転と池田一朗氏のこと

2006年11月14日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 池田一朗氏が画廊をやめるとの噂を耳にし、ちょっと驚いた。何かひと時代が終わったような感慨を憶えた。バブル崩壊以降撤退した画廊は多く、この数年銀座の一等地は海外ブランドに占領され、移転した画廊も多い。しかし、池田さんの画廊がなくなるというのは寂しいものがある。やめてほしくない画廊の一つだ。そう思って訪ねてみて、噂が間違いであることを知った。銀座から撤退するが、他の地域で再スタートするとのこと。それでは・・・ということで、送別会と進発式をかねて一献傾けることになった。
 小生が絵の収集を始めたのは30代半ばのこと、はじめて入った銀座の画廊がギャラリー池田美術であった。コレクションの初期に、ルオーの版画が欲しくてのぞいたのであるが、この時ミゼレーレの『キリスト』を購入した。その後ブラックやハワード・ホジキン、山口啓介のような作品を頂戴し、お付き合いがつづいている。
 小生、2003年に某美術雑誌から美術界で活躍する人々とのインタビュー特集を依頼されたが、その最後の対談相手をお願いしたのが池田一朗氏であった。絵を商うこと以上に、企画画廊としていい仕事を続ける見識ある画廊主として尊敬していたからだ。池田さんは現代美術作家の版画作品にこだわってきたが、それこそ普通の人々への絵画普及であり、我々アートNPOの理念にも通じる。
 ともかく一杯やろうということになり、京橋にある福井の魚を食べさせる店『松した』で酌み交わす。酒は福井の地酒、魚も福井のしめ鯖。そんなわけで、この夜は送別会ではなく、池田さんの新しい門出を祝う酒になった。池田さんの新しい出発とご成功を祈りたい。(山下透)


 (写真は池田一朗氏と荒川修作作品)

ボナノッテのダンテ神曲展オープニングパーティー

2006年11月09日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 チェッコ・ボナノッテはイタリアの彫刻家である。ローマ美術学校卒業後ローマで制作活動を続けているが、2000年にはヴァチカン美術館新正面入口にブロンズの大扉を完成させた。その後も、パリのリュクサンブール美術館の大扉の制作をてがける他、ドローイング『ダンテの神曲シリーズ』を制作。この作品はウフィッツィー美術館に収蔵されたが、日本では3点のうちの1点を久光製薬が所蔵しているとのことである。
 今回、この『ダンテ神曲シリーズ』がイタリア文化会館で開催されることになり、ヒロ画廊代表藤井公博氏から11月9日のオープニングパーティーにご招待いただいた。オープニングには作家本人も出席、イタリア大使、或いは彫刻展を企画したことのある奈良薬師寺の松久保秀胤氏の挨拶もあり、盛大なものであった。展示作品は神曲の地獄・煉獄・天国の3編をテーマにしたドローイング103点とブロンズ3点であった。     
 セレモニーの後、帝京大学の藤谷道夫氏によるダンテの神曲のレクチャーやヴィットリオ・ガスマンによる神曲の朗読映像鑑賞などのイベントもあり、ダンテの神曲の奥の深さを知るいい機会でもあった。勿論、イタリアワインやイタリア料理も豪勢かつ美味で、なかなかのパーティであった。藤井社長に感謝。
 なお、展覧会の企画協力はヒロ画廊であったが、若い頃からこのボナノッテ一筋に画廊経営を続けてきたという藤井氏に敬服するとともにエールを送りたい。この12月に、箱根の森美術館でいよいよその彫刻展が開催されるとのこと、楽しみである。(山下透)


  作品ブロンズレリーフ     作家ボナノッテ氏

MACAギャラリーと静謐な『河口龍夫地下時間』展のこと

2006年11月05日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 下北沢にあるMAKAギャラリーはギャラリーというより私設美術館である。オーナーの増井常吉氏が凝って拵えた建築空間には現代美術がよく似合う。地下フロアには大きな特注スピーカーも設置され、カーブのある壁は音響効果を計算した設計になっているのだそうだ。もう10年ぐらい以前になるが、バロックチェリスト鈴木秀美によるバッハの無伴奏チェロ組曲演奏会を聴きにいったことがあるが、実に贅沢なひとときであった。
 今回の河口龍夫展も、増井さんから頂戴したご案内の最終日にやっとお寄りできたのであるが、素晴らしい展覧会であった。建物は地下3階までの設計となっているが、その一階から中二階、地下のそれぞれの空間を生かした作品展示となっていて、見応えある。玄関のある一階スペースは宇宙のイメージなのか、星座の生誕年が書き込まれた写真作品「オリオン座」などが並び、中二階の階段の壁には色んな花の種子を蜜蝋に閉じ込めた作品群が展示されている。そして、地下フロアの壁には古代の化石の表面を写し取った紙の作品、床には水を張った蜜蝋の容器が北斗七星の形に並んでいて、実に静寂な空間になっている。地下にいる筈なのに宇宙空間にいるかのような不思議な感覚に漂う。
 作家の独特な感性が見る者を引きずり込むのであるが、こういう空間でこそ実現した展覧会なのだろう。他ではなかなか見ることのできない企画であった。(山下透)

O氏コレクション展『長谷川利行と長谷川りん二郎の世界』

2006年11月04日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 O氏とは小倉敬一氏のことである。アートNPO推進ネットワークの会員として「コレクターの見る視点展」の企画にもご参加いただいているが、木版画の清宮質文などコレクター暦は長い。その小倉さんが銀座8丁目のミウラ・アーツにおいてご自身のコレクション展を開催している。
 今回は長谷川利行と長谷川りん太郎のコレクション展である。特に長谷川りん二郎は、つつましくひっそり生きた作家で、一般に余り知られていない。作品も宮城県立美術館に洲の内コレクションとして数点収蔵されているだけだが、昨年テレビ番組「美の巨人たち」に取り上げられて以来、美術業界での関心が高まっているとのこと。
 確かに、その作品は写実的だが詩情性に溢れて品がいい。こういう余り有名ではない作家を発掘するのがコレクターの醍醐味なのだと思う。そういう意味で見応えあるコレクション展であった。小倉さんにエールを送りたい。
(山下透)