TAOコンサル『市民派アートコレクターズクラブ』

「注目の現代作家と画廊散歩」
「我がルオー・サロン」
「心に響いた名画・名品」
「アート市民たち(コレクター他)」

阿部清子展@ギャラリー広岡美術

2013年12月06日 | 気になる展覧会探訪


 和紙に墨を主体として描かれている女性たちは、みな美しくて、そして、ものうげに見えます。どの女性もこちら側、正面をきりりと見据えてはいなくて、視線はどこか宙を細かく震えながらさまよっているよう。彼女たちはいったい、「なに」を見つめ、「なに」を頭の中に浮かべ、「なに」に思いを馳せているのか。「発芽」「望郷」「脱帽のすすめ」「陣痛」……。作品たちに添えられたタイトルはどれも意味深だけれども、「なに」を限定することはありません。見る側を拘束せずに、彼女たちの眼差しの理由はどこかを静かに漂ったまま。背景になにも描かれていないところが、またいっそう、見る側の想像する「なに」を広げさせてくれます。
 墨というのは単に黒い色を指すのではないことにも気付かされます。墨はたった1つの色彩を表現するものではなく、柔らかい色彩も、なだらかな色彩も、繊細な色彩も、やさしい色彩も、不安定な色彩も、深い色彩も、重厚な色彩も、持っている。そして、それらの墨が描く、線や境界や領域のそれぞれが、表現し伝えうる幅や力の豊かさ。墨が持っている豊饒さのようなものに感じ入らずにはいられません。この豊饒は、描かれている女性たちの姿にもそのまま重なっている気がします。
 1点だけ、背景の描かれている「禊(みそぎ)」と名付けられた作品があります。このタイトルは、阿部さんがこれまでにも何度か選んできたテーマだとか。この作品だけは、女性の眼差しが見えません。水の中を、向こう側へ、向こう側へと、微かな水音をたてながらゆっくり静かに泳いでいっている、女性の後ろ姿なのです。ただ、水の向こう、行く先に、「なに」かが必ずある。それだけは確かだということが伝わってきます。(山本理絵)
(東京都千代田区神田駿河台3-1-7烏山お茶の水ビル2F)