広い駅の構内では、地方の産品を期限付き販売している出店を時々見かけます。とあるJRの駅構内の通路にて、帰宅途中の私の足を止めたのが「久米絣」。さまざまな色調の作務衣やモンペに姿を変えた「久留米絣」たちが並んでいました。先染めの木綿糸で織ってあるため、風合いや色合いに深みを感じさせてくれます。特に単調ではない微妙な色の深みがなんともいえません。質感もしっかり。触り心地もしっとり。「これは、いいな!」。
あれやこれやと見ているうちに、ダントツで気に入ったのが、モンペのようなブカブカパンツ。赤茶というかエンジ色とくすんだ若草色の糸で織られています。赤と緑という反対色の混ざり具合と馴染み具合に惚れ惚れ。ところどころに糸が毛玉のようにボコッと丸くかたまっている、という表面の小さな凹凸たちも気に入りました。(写真はだいぶ光で色がとんでしまってますが、実際はもっと落ち着いた色です。)
レジへと向かいかけた私に、60歳ぐらいの女性の店員が寄ってきました。もちろんモンペ姿。「お姉さんが履くの? うれしいわ。東京の若い人がこれ履いてくれるのね。じゃああなた、1000円引いときます」。一方的なディスカウント成立。本当にうれしそうな笑顔で白いビニール袋に入れて、手渡してくれました。
モンペというと足首の部分にゴムが入っているイメージですが、これは違います。見た目ではモンペと誰も思わない裾の形状。おばさんはモンペと言っていましたけれども、モンペには見えないから普通に外で履けるところがいいではありませんか。
さあ、おばさんの笑顔に応えるべく、このモンペを履いて街へ出かけようではあるまいか。ところが、だったのです。上着に何を合わせてみても、なんだかしっくりきません。問題は、モンペのラインにありました。お尻のあたりも太もものあたりもダボっとして、裾にかけて曲線的にならだかに細まっていく。おそらく思うに、80年代半ばあたりのラインなのではないでしょうか。
ううむ、このままでは引き下がれぬ。実家のミシンでこのラインをスリム化させようという構想がにわかに膨らんだのでありました。が、あっけなく断念。全部一旦ほどいて大改造を施さなければ無理。そう母と妹に一蹴されては涙をのむしかありません。モンペのおばさん、ごめんなさい。せめて近所のスーパーへの買い出しが限度。その代わり部屋着として大活躍して、現在に至ります。
けれども、やっぱり大改造に挑戦してみてもよかったと少し後悔。室内と近所圏内に活躍の場をとどめておくのには、とってもとっても惜しい素材だとつくづく思うのです。久留米のおばさんたち、モンペや作務衣にこだわらない新しいデザインの久留米絣をつくっていただけないものでしょうか。絶対に売れると思うのですけれども。ニーズは絶対あるのにな。と思いつつ履き続けて、早10年。いまだに丈夫、丈夫。重宝しています。さすがに色あせてきてしまいましたが、それもまた味わい。(山本理絵)