
戸越銀座商店街を少しそれたところに「ぐるり屋」という古道具屋さんがあります。時々立ち寄るちっちゃなお店。食器、棚、レコード、バッヂ、置物、本、楽器、などが、店内にぎゅぎゅっと詰め込まれています。そこで一目惚れしたのがこの真鍮製の人形。「メヴレヴィーのセマー人形。回ること、それは神との合一!ルミー(トルコ)」という手書きメモが添えてあります。さっぱり意味不明。けれども気になる。どうやら回転する人形であることは分かります。そっと指で押してみると、スムースにくるくる。手のひらサイズですけれども、安定感ある回転ぶり。
この人形は、首の傾け方、腕のラインの伸び方、手のひらと指の角度の作り方、それぞれのバランスと全体のバランスが絶妙。角度をいろいろ変えて見ても、黄金律ならぬ黄金角度をつくっているようで美しい。回転した時にもそれは感じさせてくれます。顔は美男というよりユーモラス。丸い鼻に口ひげにおちょぼ口。朴訥とした表情をしているくせに、シャンと完璧な角度を振付けているように見えるというバランス。思わずクスッとしてしまう。
これは気になる。レジ台で何やら作業中の、おそらく店長さんに、この人形の正体の解説を請いました。
メヴレヴィーのセマー人形とは……
メヴレヴィーとは、イスラム教の神秘主義の教団の一つ。13世紀にルーミーが創始。20世紀初頭のトルコ革命で異端扱いされ解散させられた。セマーとは、スカートをはいた信者(男性)が音楽にあわせて、くるくると回転をし踊ることで祈りを捧げる宗教行為。回転は宇宙の運行を表し、回転により神との一体を図る。現在、古都コンヤにある霊廟は博物館として開放されており、旋舞はルーミーの命日(12月17日)から1週間ほど披露されている。YouTubeなどに動画もあり。
ルーミーという人物は、著書も何冊かあり、「詩作が素晴らしい」と店長さんは語ります。古道具屋を営む人は詳しい。さすが。すると店長さんは明かしました。
じつは、古道具をいろいろ仕入れる時に元の持ち主にいろいろ訊くそうなのですが、分からないことも多いのだとか。なので、持ち帰ってから、一生懸命インターネットなどで検索して調査。小さなキーワードや形の手がかりから、少しずつ正体に近づいていく。それでもハテナマークの残ってしまうモノはどうしてもある。けれども、別のモノについていろいろ調査をしていくうちに、ある日、ふと以前分からなかったモノとの接点が表れて、スパーンと世界が結びつく。思いがけないところから、正体が明らかになることがあるそうです。「そこがこの仕事の面白いところでもあるんですよね」。
この人形、即持ち帰りたかったのですが、持ち物を増やさない主義でいこうと決断したばかりだった私は、ひとまずお別れ。店に来てはこの人形を回転させて楽しむ人もいるとのこと。次回来た時にはなくなっている可能性が高いといえます。けれども、数週間後に立ち寄った時、私はこのセマー人形と再会できたのでした。
というわけで、テレビの横でセマー人形はくるくる我が家で踊っています。(山本理絵)