TAOコンサル『市民派アートコレクターズクラブ』

「注目の現代作家と画廊散歩」
「我がルオー・サロン」
「心に響いた名画・名品」
「アート市民たち(コレクター他)」

篠沢潤子展@Oギャラリー

2012年10月22日 | 気になる展覧会探訪

                                    篠沢潤子さん

 篠沢潤子さんは、いつもニコニコしていてキュート。作品を前に「これはね、」と笑顔で語ってくれます。長年ずうっと書道を続けてこられてきて、今は油彩へ。作品のところどころに、平仮名やアラビア文字のようなさらさらっなめらかに流れる筆運びが感じられるのはそのためでしょうか。心のリズムもそこにのっかっている気配。実際、書道の筆を使って描いてある部分があるとのこと。普通の筆とはかすれ具合も違うのだそうです。かすれの競演、見てみたい! それにしても、和紙の上ではなくて、キャンバスの上までをも書道の筆が走ることがあるだなんて。書道の筆の活動範囲を限定させていた思い込みを戒めておかなくては。
 もうひとつ、色は塗るもの、重ねていくものだというシロウトの思い込みからも、篠沢さんは解き放ってくれました。塗って、硬めて、それから削る、そうして導かれる色の引き算もあるんですね。しかも篠沢さんの引き算は、引いて、引いて、引いて……。ついにキャンバスまでほんのり削ってしまうというマイナスの世界に突入する引き算。「ここなの」と、マイナス世界を教えていただきました。わわわわわ!と感激。次に引き算をすることは決まっているのに、敢えてわざわざプラスの足し算を重ねる経緯を経てからの引き算というのは、単純な引き算とは大違い。「数字」の足し算引き算と「色」の足し算引き算では、結果も、目的も、込められた意味も全く別のものなのです。
 今回、黄の背景色を持つ作品が特に印象に残りました。朗らかで温かみのある黄色です。篠沢さんは、眼を患われて手術も経験されたそうで、黄色い絵の具がグレーに見えたこともあったとお話くださいました。黄色をもういちど見つめずにはいられません。

※Oギャラリー(東京都中央区銀座1-4-9代一タムラビル3階)

池本洋二郎展@ギャラリーf分の1

2012年10月17日 | 気になる展覧会探訪
 濃い色調を背景に、伸びやかな線が遊んでいる。その遊びの軌跡は伸びやかだけれども、わきまえを知っている。ーー池本洋二郎展の会場には、謹みを感じる絵たちが佇んでいるように思いました。濃い背景の色の原料は、なんと土なのだそう。ニカワを混ぜて塗ったとのことです。池本さんが作品を指差しながら明かしてくださいました。「これはロシアの土」「この色はボヘミアの土」「ここはイタリアの土」……!? 黒や茶色だけではなく、ターコイズグリーンのような色を放つ土があるだなんて! 作品を眺めていると新種の海外旅行ができるわけなのです。
 土の色を発色させる紙は、和紙。福井県で漉かれたとーっても厚い和紙に描いた作品もあるそうで、指先でちょいと触って鑑賞したくなってしまいます。土の発色を引き立てている和紙に対する池本さんのこだわりも、とてもとても尽きなさそうです。
 初日はジャズのミニライブがありました。ヴォーカルは池本さんの愛娘。1曲目は「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン」。「紙でできたお月様だけれども、愛があればただの紙じゃなくなる……」という意味の歌詞だと理解していますが、池本さんの作品もそう。池本さんの思いがあるから、だたの紙でも、ただの土でも、なくなっている。なーんて当たり前のコトですね、すみません。けれども、娘さんがこの歌を口にすると、当たり前のコトかもしれないけど本当は当たり前では片付かないコトなんだ、とあらためて作品を見つめさせてくれる。そんな息吹を歌詞、歌声に感じたひとときでした。(山本理絵)
Say, its only a paper moon
Sailing over a cardboard sea
But it wouldn’t be make-believe
If you believed in me
(“It’s Only A Paper Moon”の歌詞より)




※ギャラリーf分の1(東京都千代田区神田駿河台1ー5-6 コトー駿河台 休廊=月曜)

金井訓志展@ギャラリー椿

2012年10月17日 | 注目の現代美術作家と画廊散歩
 「当世若衆之図」と題された個展だけに、若者たちの人物アップの絵がズラリ。鮮やかな色にすっきりした線というは若者にぴったりです。線が金色に描かれている作品もあってピカピカパワフル。そんな金井さんの作品をパッとだけ見て浮かんだ言葉は、アメコミ、ポップアート。ところがよーく見ると、作品の中の若者たちの目からは、軽くこちらを一瞥しているようでありながらも、なんだか見透かされているような、達観したような、寛大さのようなものを感じずにいられません。不思議な魅力。
 30年前にギャラリー椿がスタートした時から、金井さんの個展は何度も開かれているそう。というわけで、昔からの作品が収まっているファイルが置いてありました。それをパラパラめくってみて驚いたのなんの。全く作風が違うんですもん。昔のほうが、色が複雑で線も繊細、構図も難しそうな雰囲気。とても同じ作家さんの絵とは思えません。それが、年を経るにつれ、色も線も構図もどんどんシンプルな方向へと進化しているようにみえます(あくまでシロウト感想)。強引に女性の顔でたとえるのなら、シワやシミやくすみというものが、作品から年々消え去って、若返っているような印象を受けるのです。うらやましいったらありゃしない。けれども若々しさは表面的なもの。見えるシワはなくとも、見えない向こう側どこかに年輪がギュッとひそんでいる。そんな進化の途を感じます。
 金井さんの作風の流れに、井上ひさしさんのエッセーだったかの一節をふと思い出したのでした。
「難しいことをわかりやすく、わかりやすいことを深く、深いことをおもしろく」 (山本理絵)    





※ギャラリー椿(東京都中央区京橋3丁目3-10 第1下村ビル1F 休廊=日曜・祭日)

北崎洋子展@ポルトリブレ

2012年10月05日 | 気になる展覧会探訪
 新宿の大通りを少し入った小さなビル。そこの細長い階段をトントントンと登ったところにあるポルトリブレ。まるで隠れ家。初日に訪れたところ、隠れ家は満員。北崎さんの作品も壁に満員状態。壁に収まりきらない作品のファイルを、北崎さんは見せてくださいました。貴重なナマ画集を見ちゃいました! このファイルもあふれんばかりの満員。きっと、北崎さんの創作ゴコロそのものが表れているのではないでしょうか。
 ポルトリブレのちょっと暗めに抑えた暖色の照明の光に、抽象画たちは気持ち良さそうに馴染んでいるように見えました。優しい曲線をたずさえた深みのあるたくさんの赤や黒が、印象的に浮かび上がってきます。作品のサイズは縦横の比率はもちろん、形はさまざま。何ものにも囚われない自由なココロが表れている気がしました。和紙や段ボール素材に描かれているのですが、紙と色の出会いの妙を感じずにはいられません。これらの組み合わせが、目に映る色や肌ざわりのようなものとして、それぞれに個性を産み出しているかのよう。
 思わず聞き入ってしまったのが、その紙のこと。和紙は、韓国やタイなどから、直接ご自分の足と目と手を使って日本に連れて来たのだとか。日本のものではないない「和」紙というものがあるとは知りませんでした。創作のために紙を求めて彷徨う旅って、いいですね。(山本理絵)



向かっていちばん左が北崎さん



左からオープニングでキーボードを演奏した山口夏実さん

※ポルトリブレ(東京都新宿区新宿2-12-9広洋舎ビル3階 休廊=水曜)

フジタミズホ展@アスクエア神田ギャラリー

2012年10月05日 | 気になる展覧会探訪
 この展覧会を案内するリーフレットが素敵なんです。小さな二つ折りには7枚の絵の写真。それぞれの作品には、二度と出会えないような微妙なニュアンスを持った複数の色たちが、何気なく上品に隣り合っているんです。私が勝手に思うに、この色たちとその組み合わせって、世の中の女性たち、特にニッポンの女子たちが目を輝かせるものであるに違いありません。絵の下に添えられた作品名は、さらにその輝きを高めてくれるはず。「マロン色のとき」「うすぐもりの朝」「初冬のころ」「夏のむこうに」「秋のよる」……。この平仮名の使い方、なんて女性好み、かつ、女性的なのでしょう。作品に向き合ったとき、見る側の想像力をそおっと後押ししてくれる言葉だと思います。



 この色合いにこの言葉づかい。フジタミズホさんが女性であることは言うまでもない。と、私は少しも男性である可能性すら抱きませんでした。ところが、ところが。なんの、なんの。アスクエア神田ギャラリーでびっくり。フジタミズホさんは男性、しかもカッコいいおじさまではありませんか。人は見かけによりませんと言いますが、絵も見かけによりません!……というより私はシロウトですから見方が平坦なだけ。余談ながら、イタリア旅行に一緒に出かけても、奥様がイタリア人男性に少しも目をくれなかった、という裏話にも大きく納得したのでした。
 フジタミズホさんの作品は、「本の街」という神田界隈の文化情報誌で毎月身近に手にすることができます。表紙を飾る作品をファイルし続けているファンもいるとのこと。絵だけじゃないんです。ご本人の文章も毎号掲載されています。いい味わい。今回のリーフレットにもそこから一部抜粋されています。全文掲載はムリですから、最後の2文だけご紹介。(山本理絵)

「孤独はけっしてつらいことでもなく、悲しいことでもない。心を休ませ、遊ばせるところなのだ。」



真ん中が藤田さん


※アスクエア神田ギャラリー(東京都千代田区神田錦町1-8伊藤ビルB1 休廊=月曜)

森本秀樹展@ギャラリーゴトウ

2012年10月01日 | 気になる展覧会探訪
 「森本秀樹展」の初日におじゃま。短い時間でしたが、ご本人と平塚市美術館副館長の土方明司さんの簡単なトークイベントがありました。こんなお二人の会話を間近に聴くことができるなんて、オープニングならではの特権バンザイ。土方さんの文章は案内状にも掲載されています。そこにはこんな一節が。「森本さんの作品もまた『記憶の絵画』といって良いだろう。子どものころ目にした宇和島の情景が、記憶のフィルターを通して浮かび上がる」。おっしゃっていること、私にも少しは分かるような気がします。
 海辺に山々に川べりにお祭りなど。森本さんの作品からは、ノスタルジックでやさしく包み込みかけてくるような表情を感じました。同時にタイムスリップした少年・森本さんの姿も浮かんできます。故郷・宇和島の風景の中ににすうっと溶け込んで、純粋で素直な眼差しで描いている、そんな姿。
 ギャラリーゴトウは、忙しいサラリーマンやOLが行き交う場所にありますが、そんな人たちにこそ立ち寄っていただきたい個展だと思いました。なぜなら、森本さんの絵には、オトナのココロをじんわりほぐしてくれる力を感じるから。原画を会社に飾ることは適わないでしょうが、カレンダーなら問題ありません。会社のデスクに森本さんの絵のカレンダーを置くというのは、とってもよさそう。(山本理絵)


機関車や気動車が収められていた倉庫の絵。黒っぽい色彩なのに温かい。


左が作家の森本さん、右が平塚市美術館副館長の土方さん

※ギャラリーゴトウ(東京都中央区銀座1-7-5 銀座中央通ビル7階)