100万部の大ベストセラー『일본은 없다(日本はない)』
20年ほど前のことである。韓国で『일본은 없다(日本はない)』という本がベストセラーになった。
韓国放送公社の田麗玉(전여옥)氏(女性、1959年生まれ)が書いたものである。
日本でも『悲しい日本人』『続・悲しい日本人』『新・悲しい日本人』と3冊も発売されている。(ちなみに韓国語版・日本語版とも購入し持っています)
内容は特派員時代(2年半ほど)の日本滞在経験をもとに、日本のネガティブな面をかき集めてまとめ上げた画期的な「日本こきおろし文化論」と言うべきものだった。
発行部数は100万部ともいわれ、続編も出版された。事実上、著者・田麗玉(전여옥)氏の出世作ともなった。
田麗玉(전여옥)氏は余勢を駆って国会議員選挙に出馬し、当選したあとは野党(当時)・ハンナラ党の重鎮議員として、同党のスポークスマンを務めたこともある。
この本の内容を要約すると、日本人はさもしくて、卑しくて、不道徳で、無反省で、無知蒙昧で、傲慢不遜なので、「学ぶことなどなく」「韓国は日本のようになってはいけない」「日本から学ばなければ、21世紀は韓国の正規になる」というものであった。
取り上げられている問題もイジメ、猥雑な風俗、外国人差別、教育問題、拝金主義、熟年離婚、ワーカホリックから従軍慰安婦問題まで幅広いが、いずれも日本の否定的部分である。
著者自身も、客観的な事実を分析するよりは感情的な判断に傾いた記述になっていることを認めており、かつ、それになんの疑問を感じていない。
ネット上で思う存分日本を罵倒できる現在と異なり、「反日」の捌け口が少なかった当時、この本は読者に喝采を持って迎えられ、左派系有力日刊紙「ハンギョレ新聞」が選定する「94年10大文化商品」のも選ばれた。
同紙に掲載された「韓国人の自尊心がつくったベストセラー、田麗玉(전여옥)氏の『일본은 없다(日本はない)』」という記事をいんようすると次のとおりである。
厳然と存在する国、それも世界で2番目という経済大国日本を、学ぶべき点が一つもない国だと辛辣に批判した本が今年爆発的な人気を集めた。(中略)30代半ばの若い女性女性記者が2何8ヶ月の東京特派員体験を土台にこの本を出版したときから、読者の反応は「やりすぎじゃないか」「一方的だ」という否定的な評価がなくはなかったが、読書界ではあらから「すっきりした」という反応が普遍的だ。
誤解を招かないように言っておくと、決して『일본은 없다(日本はない)』の内容はデタラメではない。
書かれている内容は、当時の日本では社会問題になっていた事象を対象にしており、記述はおおむね正確である。
ただし、日本で日本で語られていた誤った言説を無批判に引用した部分はある。一例として「白人を無条件に好む日本人女性は、欧米でイエローキャブと呼ばれている」という記述が見られるが、日本のノンフィクション作家・家田荘子氏の広めた俗説であり、根拠に乏しい。
『일본은 없다(日本はない)』がベストセラーになった背景には、当時の韓国で「日本に学ぶべきことは学ぶべきだ」という一種の「日本肯定論」が唱えられており、それに反発する風潮もあったことが挙げられる。
田麗玉(전여옥)氏の本はそのような需要を巧みにすくい取ったと言えよう。
『일본은 없다(日本はない)』の続編だけでなく、ほかの著者によって数多くの類書も書かれた。
盗作でも楽しけりゃそれでいい
さて、出版当初から『일본은 없다(日本はない)』は他人の著作を盗用したものであるという疑惑が提起されていた。
「原作」を書いたとされるのはルポライターの柳在順(유재순)氏(女性、1958年生まれ)。
原稿を盗用されたと主張する柳在順(유재순)は、2004年にネット新聞「オーマイニュース」とのインタビューで「田麗玉(전여옥)氏の『일본은 없다(日本はない)』は剽窃だ」と発言した。
田麗玉(전여옥)氏はこれに反発し、「オーマイニュース」と柳氏を名誉毀損で告訴した。結果的に、剽窃の被害を訴えたはずの柳氏があべこべに被告として法廷に立つことになってしまった。
そころが、田麗玉(전여옥)氏は、一審、二審でいずれも敗訴。
2012年5月の大法院(最高裁判所)の判決が下ったが、内容は柳氏の主張を全面的に認め、田麗玉(전여옥)氏の主張を退けるものだった。
つまり、裁判所が『일본은 없다(日本はない)』は他人の著作の盗用であると認めたのである。
著者自身が他人様の不道徳を云々出来る立場ではないことが明らかになったわけだが、大多数の韓国人は気にもかけぬ風であった。
「あのときは読んで楽しかったから、それでいい」のだそうだ。
結局、この本、『일본은 없다(日本はない)』は韓国人にとって「癒し」にすぎなかったのである。
だから、内容の妥当性や、執筆過程には関心がないのだろう。