田中雄二の「映画の王様」

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『キネマの神様 ディレクターズ・カット』(原田マハ)

2021-05-11 09:17:30 | ブックレビュー

 原田マハの『キネマの神様』を基に、山田洋次監督らが映画化のために書いた脚本を、原田自らが小説化。ちょいとややこしい。

 原作の設定は、大手企業を辞めた39歳独身の歩が、映画雑誌「映友」の編集部に採用され、ひょんなことから、映画狂の父ゴウのブログをスタートさせると、それが評判となって…というもの。

 ところが、映画の方は、ゴウを松竹撮影所の元助監督とし、過去と現在を交錯させながら描くという、全く別の話になっている。

 これについて、原作者はどう思っているのだろう。ここまで話を変えられても納得しているのだろうか、小説と映画は別物だと心得ているということなのか、などと考えていた。

 ところが、原田自身は「映画化されるなら、山田洋次監督に」と念願し、「自分が書いたのは、映画を受けとめる映画愛好家としての目線から映画を追い掛けたものだが、映画の方は、映画をクリエイトする人たちの姿が描かれている」として、すっかり納得している様子。原作者がそう思っているのなら、こちらが要らぬ心配をする必要はない。

 で、このアナザーストーリーを読んでみると、映画愛と家族愛という、原作の重要な二つのエッセンスを違った形で表現しながら、そこに山田監督が、自らの撮影所へのノスタルジーを巧みに絡ませていると感じた。

 ただ、正直なところ、どちらが胸に迫るかと言えば、圧倒的に原作の『キネマの神様』の方だった。やはり完成した映画は“別物”として見ることになりそうだ。

 また、一つ不満を述べれば、映画内映画のアイデアの件で、『キートンの探偵学入門』(24)についての言及はあるが、もっと似ているウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』(85)について全く触れていないのは、いかがなものかと思った。

『キネマの神様』(原田マハ)を再読
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/8028269b0cf5e5baa9d099d34fda3589

『キネマの神様』映画化
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/be04af1e41136f3c6139284693fb5e85

志村けん、新型コロナウイルスによる肺炎で死去
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/82386d337eb858f3091093ce5878f3ed

山田洋次監督最新作『キネマの神様』 志村けんの代役に沢田研二
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/35da813b280bbadb38a56767f893d79e


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